勇者に焦がれて   作:勇者万歳!

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彼の謎とあだ名

「それでは!初勝利を祝って、かんぱーい!」

「乾杯」

「かんぱーい!」

 

 元気にジュースを掲げる三人の少女。

ついさっきまでバーテックスと呼ばれる化物と戦っていた彼女達は、祝勝会としてイネスのフードコートでささやかな祝杯を挙げていた。

 

「っつっても、大金星の可夢偉くんがいないけどね」

「四人目、それも男の勇者なんて聞いてなかったわ。二人は?」

「うんにゃ、何も聞いてない」

「おなじく~。でもすごかったねースパパパーって感じだった~」

 

 そう、四人目の勇者である彼は確かに凄まじかった。

 水球に攻撃を阻まれ、水のレーザーによる遠距離攻撃。さらに水球による拘束と三人を翻弄したバーテックス。

弓矢は威力が足りず、槍と斧剣は近寄る事すらままならなかった。

再生力も半端ではなく、傷を付けても直ぐに治る始末だったのだが、彼は治る前にさらに傷をつけるという力技で両断して見せたのだ。

 

「でも、何か怖かったよなぁ」

「えぇ……」

 

 教室であった時、彼は何も知らないようだった。何も知らされず、何も出来ない。

そのはずだったのに、彼は変身し、手古摺っていた敵を退けて見せた。

だが、その闘う姿は異常と言っていいほどの熱意を感じた。

その熱が何なのか分からない彼女達には、彼は少し不気味だという印象が根付いていた。

 

「でもでも、スミスケやミノさんもすごかったよ~。狙いは精密だったし、ブォンって威力高そうだったし!」

「あ、ありがとう……スミスケ?」

「あー、もしかしてミノさんはアタシか?」

「?………ハッ!渾名で呼んでしまった!」

 

 どうやら脳内で考えていた渾名が自然と出たらしく、園子は自分でびっくりしていた。

 

「スミスケは、止めてもらえないかしら…」

「えー。ん~、じゃぁワッシーナ!アイドルっぽくてかわいいよ?」

「それも止めて。乃木さんもソノコリンとか呼ばれたくないでしょ?」

「素敵!」

「ごめんなさい忘れて頂戴」

 

 どうやら須美と園子のセンスは大分違うらしい。

須美が疲れた様子を見せ、その子は嬉しそうに次の渾名を考え、その様子を銀が笑いながら見ていた。

 

「えっとえと……ひらめいた!ワッシー!どう?」

「ん~……まぁこれ以上変になるよりはいいかな」

「じゃぁ決定~!」

「おめっとさん」

「もぉ、三ノ輪さんも笑ってないで如何にかしてほしかったわ」

「……んー、その三ノ輪さんってなーんか他人行儀だよなー。なぁ園子(・・)?」

「ねーミノさん?」

「え?……え?」

 

 今度は銀まで混ざり、須美に顔を近づけた。

 

「銀でいいよ、アタシも須美って呼ぶからさ」

「わたしもわたしも~そのっちって呼んで?」

「え、ぇっと……」

「「じぃーー」」

「ぅ…。わ、わかったわ、銀、そ、その…っち」

「おっしゃー!」

「わーい!」

 

 二人の視線に圧し負けた須美は名前と渾名を呟いた。

彼女にそのっち呼びは少しハードルが高いようで、呼び慣れるまで少し時間がかかることになった。

如何にかこうにか呼び慣れつつ、締めにジェラートをそれぞれ買った。

 

「……銀、それは?」

「ん?しょうゆ味!美味いぞ~?」

「ほぇー聴いたことないよそんなジェラート」

「食べてみる?食べてみるぅ?」

 

 ジェラートを一口分掬い、ほれほれと二人に催促してみる。

 

「えっと、じゃぁいただきまーす」

 

 内心はしたなくないか、なんて考えていた須美を置いて、園子がまず一口行った。

 

「どうどう?ぴっかーんときた?」

「んー…難しいお味かなぁ」

「あれぇ?須美はどうよ?」

「えっと……いただきます」

 

 ぱくっと一口同じように食べ……そして、一言。

 

「大人向けかもしれないわね」

「あんれぇ~?」 

 

 どうやら自信があったらしいしょうゆ味に向けられた評価に首を傾げる銀。

今度は園子から催促という名のおねだりが須美に向けられた。

 

「ねぇねぇ、次はワッシーのが食べたいなぁ~」

「え!? えっと……」

「あ~ん♪」

「あ、狡いぞアタシにもくれ!」

「え、ちょ、ちょっとまって、順番に」

「「はやくぅ~♪」」

 

 どう見ても須美をからかって遊んでいる二人。

たった一日で仲良くなった三人は、その後も食べ合いっこを続けたのだった。

 

「そういえば、明日から合同訓練かなぁ?」

「彼も、来るんでしょうね」

「おっし、そんじゃ明日から色々話してみないとな!」

「だねー。よーし、むいむいとも仲良くなるぞぉ~!」

「「む、むいむい……」」

 

 一番やる気があるのはいいが、園子の天然がどんなふうに転がるのか少し不安に思う須美と銀だった。

出来れば、彼があまり細かいことを気にしないでくれるといいが……。明日からのことが今から気がかりである。

 

*

 

「ただいまー…」

 

 ガランとした家に響く自分だけの声。

可夢偉家は基本忙しい人ばかりだ。両親共働きであり、彼自身も人助けを求め忙しい日々を送っている。

本当に時折帰ってくるくらいで、碌に話すこともない。残念なことだが、真はそれを気にしたことは無い。

 

「ふぅ」

 

 とはいえ、今日は一人と言うのは都合がよかった。

この日だけでどれだけのことが起きたのだろう……少なかったかもしれないが、凄まじい変化を彼にもたらした日だった。

 結界に巻き込まれ、勇者に変身し、加勢して敵を退けた……大赦にも呼ばれ、さっきまで色々質疑を交わし終えたところだ。正直、少し一人で心と頭の整理をする時間が欲しかった。

 

(……なんだったんだろ、ほんと)

 

 消えていた焦燥感はまた湧き起こっている。

無くなったと思えば、今は一段と酷くなっているようにすら思えた。

同時に胸に疼いて仕方ない……殺意。ドロドロと、ふつふつと湧いては溜まっていく黒いモノ。

 思わず手が携帯へと伸びた。

理解しているのだ、これを解消するには変身し、戦うしかない。

だが同時にこうも思っている。

 

(今のままじゃ、ダメだ)

 

 何がダメなのかは定かではない。

でも今のままでは足りないと感じていた。

オカシイと思っている。遭ったばかりの相手にこんな想いを抱くなんて、絶対何かがおかしい。

 

(……大赦も、オカシカッタなぁ)

 

 驚きつつも、いつもの彼ららしい静かで厳かな態度を取られた。

お告げとやらに入らなかった謎の勇者だが、神樹様が選んだのならと納得しているのだろう。

 訊かれたことの大半は、神樹様に関することだった。

巫女や巫覡の素質を持っているなら、神樹様に会っているはずだ、と。

勿論、真は出会ったことが無い。お告げのことなんてチンプンカンプンだった。

 

 次点で多かったのはアプリに関して……そして、これも知るはずがない。物心ついたときには既に携帯に在ったと答えるしかなかった。

調べたいと言われたので手渡したら、アプリが消えてしまった。そして改めて真が手に取ると、アプリが復活するという謎現象が起きた。調べようもないということが分かっただけだった。

 そして結局、神樹様の大いなる意思だと判断された。少なくとも害する者ではなく、これから勇者として共に国防に励んでくれないか、と。

 

「………気持ち悪」

 

 失礼だと思っている。とてもとても酷いことを呟いたことは自覚している。

だが、それでも全ては神樹様の意思で、それに従って子供に戦ってくれと言う大人たちが真には酷く歪に見えて仕方なかった。

生きるために仕方ないとはいえ、何だかそれでは神樹様の奴隷の様だと……反感を覚えながらも頷きはした。放ってはおけないし、焦燥感からしてどうせ自分は勝手に首を突っ込むだろうと自覚もあった。

 

 あと思い出すことは、他三人の勇者のこと。

自分はあの戦闘の後に大赦に赴いたが、確か三人は祝勝会をしにイネス……確かデカいショッピングモールへと向かったらしい。

自分が退屈で気味の悪い応答をしている間、女子三人で仲良く美味しいものでもつつき合っていたことだろう。

 

 

 次の日、何時も通り人助けをしながら遅めに登校していると、真を呼び止める者が居た。

真は他人とあまり接したりせず、友達作りにも積極的ではない。当たり前だが、一瞬誰の事だかわからなかった。

 

「むいむいー!」

「……」

「って、おーい!むいむいぃ~!!」

「……僕?」

「そうそう、むいむい!」

 

 まぁ、分からなかったのは変な渾名を知らないうちに付けられたせいでもあるが。

ビシッとこちらに指さす少女、乃木園子。ゆっくりしたマイペースな子だと思っていたが、こんな渾名まで付けるなんて。

 

「変なの」

「え、気にいらなかった?じゃぁかむむんは?」

「……さっきのでいいよ」

「そう?じゃ、むいむいあのね、昨日のことなんだけど~」

「話なら後でね。もうホームルーム始まっちゃうよ」

「あ、そうだった。じゃ、後でね~」

 

 あんな戦いがあったのに、何だか肩の力が抜ける子だった。

真と違って事前に敵の存在を知っていたからだろうか?それとも、祝勝会が効いたとか?

 

(まぁ、落ち込んでいられるよりはいいか)

 

 そう、大変な戦いの後は何時も泣いていたあの子みたいな――。

 

「……?」

 

 今、自分は誰を思い出しかけたのだろう、と彼は首を傾げた。

少女の幻は何時もの日常に掻き消えていく。

見覚えなんてないはずのその幻は、見ていて酷く悲しい思いにさせられた。

何かを言いかけ、やはりそれも幻と共に失せてしまう。

 

 ――一体、僕は何なんだろうか。

 

 一日経って初めて彼は自分の異常を知りたいと願った。

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