勇者に焦がれて   作:勇者万歳!

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彼と彼女たちの合宿風景

彼の印象は特に良いものではなかった。

単独行動が酷くて、表情も簡素であまり変わり映えしなくて、内心何を考えているのかよく分からなかった。異性と言う事もあって、少し距離が出来るのは仕方ないことだけども、何時も自分達とはどこか違う場所を見ているような気がしていた。

 でも話してみると彼は優しくて、確かな温もりを感じさせる普通の男の子だった。

大丈夫、これから少しずつ近づいて行こう。きっと仲良くなれるはずだから。

 それは間違えじゃなくて、でもだからこそ私たちはもっと早く。なにより、もっともっと彼の近くに行くべきだったんだと……既に何もかもが手遅れだけれど。

 

      ――勇者御記298.■.■■

 

 * * *

 

 

 放課後になり、四人が集められた。

合同訓練を監督してくれるのは、担任である安芸先生だ。

先生は大赦に所属しており、微弱ながら巫女の素質も持っているとかなんとか。

ちなみに須美は勇者でありながら巫女の素質も持つスーパー少女らしい。

 

(巫女ねぇ……神樹様の声を聴いたりするんだっけ?あとは予知夢みたいなのとか、抽象的なイメージを送り付けられて……?)

 

 ――いやいやいや、だからなんでそんなこと知ってるんだ僕は。

 

 先日の戦闘に巻き込まれるまで一般人だった真の思考と記憶にノイズが奔る。

変身してからずっとこんな調子だった。彼ではない誰かの記憶が挿し込まれ、その度に頭を振って現実へと意識を戻す。

 

「--でね……きいてる?可夢偉真くん?」

「ぇ…あ、はい。全く聞いてませんでした」

「……ハァ。そんな淡々と言わないでくれるかしら」

 

 先生の問いに応えると、なにやら頭を抱えだした。

まぁ癖の多いメンバーだし、監督役の彼女は色々大変なのだろう。

 

「もう一度だけ説明するわね?今日の合同訓練として、まず行う大前提。各々の戦い方をそれぞれが把握してもらうわ」

「はぁ」

「……大丈夫かしら」

 

 戦い方、と言われてもピンと来ないというのが真の意識だ。

だって彼は戦いをろくに意識せず、只々殺意に身を任せて特攻しただけである。

正直、敵を退けたこと自体が奇跡のようなことだと思っていた。

 

(実際、今あの時を再現してって言われても出来ないだろうし……)

 

 剣を宙に出して跳躍……そんな人外染みた動きした記憶はあるが、ほとほとよくわからない。

理解できてるのは、只しっくりくる刀の感触と、こう振るえば斬れるだろうみたいな直感くらいだろうか。

 刀を複数本出せるし、大きさや幅も変えられるか試してみると、意外とうまくいった……で、大きさを変えてどう使うのだろうか?

 

(振る?危ないよね……)

 

 身の丈程度に刃を広く、そして握りやすいように柄も伸ばしてみたが……この大剣擬きをどう使えばいいかちっとも把握できないでいた。

いざという時の盾には使えるだろうが、これを振るうとなると周囲まで斬りかねない。

いや、敵を斬ればいいのだから斬りやすい方がいいのだろうか?

 そうやってぼーっと立ったまま考えていると、横で槍を傘の様にして盾に出来ることを須美と銀に教えていた園子が近づいてきた。

 

「おぉー、むいむいの刀おっきくなるんだね~」

「そうみたい」

「はー、アタシの斧剣みたいになるってこと?」

「三ノ輪さんの程威力は無いと思うよ?結局は刀だし、横の衝撃に弱いはず。多分、下手すると折れる」

 

 というか、自分の黒刀は確実に折れるだろう。斬れ味を求めすぎているのか、太さは一定以上にならなかった。盾にするにしても、数本纏めて出さないと意味がなさそうだ。

 

「でも緊急時の盾には出来そうよね……複数本出せて、大きさも変えられる。オールラウンダーなのね」

「鷲尾さんみたいに長距離には対応できないよ。刀を投げ飛ばすくらいは出来るけど、命中率は高くないだろうし」

 

 試しに的目掛けて投げてみると、ギリギリ掠って横の壁に突き刺さった。

やはり真は近づいて斬る方が確実みたいだ。

 

「タイプとしては園子に近い感じかねー?」

「銀みたいに近距離優先だけどね」

「私より速いけどね~、すぱぱーだよ!」

「………」

 

 つい女子三人組から少し身を離してしまう。

なんというか、自分だけ異性というのは何処となく萎縮してしまう様だ。

それに彼女達は褒めてくれるが、そんないいものじゃないと冷静に分析してしまう。

 須美のような遠距離攻撃や精密射撃は出来ず、園子の槍の変形した盾ほど刀は頑丈ではなく、銀ほど単純威力も防御力も劣る。

聞けば、銀はあの化物に何度か吹き飛ばされながらも軽症だったらしい。比べて真は特攻にカウンターされたとはいえ、骨がぽっきりだ。

 

(威力じゃなく斬れ味、速度重視の紙装甲……あぁでも回復能力は三人より上なんだっけ)

 

 骨がくっついてすぐ動けるようになるのは自分だけらしい。

とことん特攻向けの能力と言えるだろう。前に突き進み、ダメージを無視してそのまま敵を斬り殺す。

 

(となると、身軽さと速度を求めたほうがいいか)

 

 防御力はどうしようもないし、受け身や刀で攻撃をいなすことを重点的に鍛えたほうがいいだろう。防ぐのではなく、躱すことを意識していこう……と自分の身の振り方を考えていたら、今度は三人からジーッと視線を受けるのを感じた。

 

「……え、っと?」

「もぉ、話し合いに参加してくれないと困るわ」

「これから互いのこと知って行こうってのに、そっぽ向いてちゃなんにもならないぜ?」

「そーだよ~、作戦会議しよ~?」

「う、うん」

 

 三人に呼ばれて一歩近づく。

須美が中心となってあれこれと案をだし、それを持ち前の天然と勘で園子がOKサインをだし、銀が直情的な思考でダメ出しと改善案を出す。

正直、自分が居なくてもいいんではないだろうかと思う三人の良さである。

 そしてそれ以上に、誰かと一緒に戦うということに違和感しか感じない。

 

――そうだ、自分は何時も一人で闘っていたじゃないか。独りで闘う方法はいくらでも知っている。

 

 あの水球の敵もそうだ。少し攻撃が単調過ぎた。だから逃げられたのだ。逃がさない、今度はもっと速く、もっと――。

 

「むいむい?むーいむい!?」

「! ぇっと?」

「もー、ちゃんと話聞かないとダメだよー?」

「ご、ごめん乃木さん」

 

 ぷんぷんという描写が似合う園子に謝りつつ、今度はちゃんと話し合いを聞く。

案を出せないのだから、せめて聞く位はしなければ。

 

* * *

 

 そうやって合同訓練を繰り返すこと、半月。

二体目の化物、バーテックスがやってきた。姿形は天秤をモチーフにした20mはある化物。

少し観察していると、左右にある錘を振り回しだした。

 

「お?おぉ!?」

「ちょ、これ!」

「っ!」

 

 遠心力がそのまま波となり、まるで台風や竜巻の様な凄まじい風を巻き起こした。

相手は結界内に居座っているだけで浸食し、現実世界へ影響を及ぼす。

対するこちらは風圧に耐えるばかりで身動きすらできない。槍を突き立てた園子に須美と銀がしがみつき、真は黒刀を深く突き刺し観察をする。

 

「身動きとれねぇよ!!」

「くぅ……って、むいむい!?」

「なにを!?」

 

 真はタイミングを見計らい、風圧に負けない様に両手の刀を投げ、地面に突き刺し続けることで無理やり道を作った。

そして刺さった刀を伝ってバーテックスへと走り出す。その際驚く三人を無視し、意識を錘へ集中させる。

殺意は十分、いつも自分を落ち着かせないあの焦燥感はない。

錘が迫ってきたところで跳びこみ、刀を這わせる。

 

(――)

 

 全意識を身体全体へと集中させる。錘を弾かないよう、逆に弾かれない様に沿わせ、刀を絡ませる。

そして錘が生み出す遠心力に身を任せ、錘へとしがみ付いた。

そのまま本体の胴まで伝っていく。時折遠心力に負けて掌が擦れるが、どうせ治るからと無視して登っていく。

 

「ッ私も!」

「わっしー!?」

 

 須美が手を離し、風に身を任せ上空へ舞い上がる。

そして狙いをつけ、チャージした弓矢を放つ……が、若干威力が足りなかったのだろう届かず、そのまま須美も離れた場所へ飛ばされてしまう。

 

「わ?!」

 

 今度はバーテックスが移動しだした。巨大な錘が近づき、とっさに槍を変形させて防ぐ。

 

「チッ、大人しく、しろ!!」

 

 真はそれを見て登るのを諦め、脚で糸にしがみ付き、錘に繋がっているそれを断ち切る。

錘が一つ外れたことで体勢を崩すが、やはり化物。直ぐさま新たな錘を生み出そうとする。

 

「隙ありぃ!!」

 

 だが、その一瞬のスキを突いて銀が跳びこみ、強烈な一撃を叩き込んだ。

バーテックスは怯み、そこに風圧が無くなったことで狙いを付けられるようになった須美の矢が振り注いだ。

 

「てぇーい!」

 

 園子が穂先にエネルギーを集中させ、バーテックスに突き刺した。

だが、その間に錘を復活させたバーテックスがまた回転を始めようとしていた。

 

「こんのぉ!」

「疾ッ」

 

 そうはさせないと銀が怒涛の痛撃を喰らわせバーテックスを砕き、真が斬りこむ。

そうしてしばらくダメージを与えていると、バーテックスは諦め消えていった。

 

「……フラフラ、する」

「むいむい、無茶しすぎだよー」

「まぁおかげで助かったけどさ」

 

 暫く登るためにしがみ付いていた為、頭をフラフラさせる真を半ば呆れた目で見る銀と園子。

遠くに飛ばされた須美にも同じように言われ、更に報告によって先生にも怒られることになった。

 

「分かってる?命がいくつあっても足りないわよ?」

「はい」

「本当に分かってるのかしら……」

 

 呆れられるが、あの時はあれが最善だと思ったのだ。

出来るだけ早く登り、胴体を断ち斬ってしまえば後はどうとでもなると。

問題は近づく方法で、アレ以外自分に出来ることが思いつかなかっただけである。

 まぁ強引だったのは事実なので、反省はするが後悔はない。

 

「今後こういうことが無いように、纏める隊長を決めておきましょう……乃木さん、頼める?」

 

 のほほんとしている乃木園子だが、その天然とそこからくる度胸は中々目を見張る者がある。

日頃は須美が中心となっているし、士気は銀が向上させてくれる。真は勝手な行動が目立つが勝機に繋がっているのも事実。

この三人をいざという時纏めるのは、園子の天然と度胸に任せていいだろう。

 

「信託によると、次敵が来るまで時間があるわ。その間に、あなた達の連携を深めるために合宿をします」

「「「合宿?」」」

「……」

「今度の三連休を使って、合宿先は大赦が運営している旅館で行います」

 

 特訓にも連携にも納得はするのだが……その旅館に行くメンバーに男性は居ないのだろうか。正直、肩身の狭い真であった。

 

* * *

 

 合宿は一日目から散々な結果となった。

まずバレーボールを拘束射出する機械を使い勇者たちの邪魔をし、勇者たちは遠くに止めてある廃車を破壊するという訓練。

須美は後方の一定の場所から動かずにボールを狙い撃つことを命じられ、園子は前から飛んでくるボールを盾で防ぎ、銀はその盾に隠れつつ破壊できる距離まで近づいて破壊。真は銀の後方のカバーを担当することになったのだが……。

 

「――あ、ごめんなさい!」

 

 ボールが意外と多く、処理の順番や優先を間違えたり、外してしまうことがある須美。

少しずつ優先順位を定め、必要なボールとそうでないボールを見極めていくことが課題となる。

 

「これでぇ―痛ぁ!?」

 

 護られてるばかりは性に合わないのか、半ばまで辿り着くと無理やり行こうとしてボールに中りアウトになる銀。

彼女の威力は絶大で、一撃一撃が必殺となるが、武器の特徴から大降りになりやすく手数という意味ではそんなに多くは無い。必然と彼女だけで処理できるボールには限りが出来る。

強力だからこそ、慎重さが求められる立ち位置だ。

 

「………」

 

 無言で只管ボールを斬ったり、投擲で破壊する真。

確かに後方や側方からのボールを破壊しているが、銀や園子、須美との掛け合いが皆無で連携しているとは言い難い。これでは後方に盾があるだけである。

 彼に求められる後方支援はもっと声かけを心掛け、処理するボールを須美と分けたり、時には銀や園子と立ち位置を切り替えることが必要とされる難しいポジションなのだ。

 

「あはは、どんまいだよ~」

 

 のほほんと皆に声を掛ける園子は、実は四人の中で一番の好成績だった。

盾で順序良く防ぎ、仲間と声を掛けあった連携もしっかりしている。

後はもう少し広い視野を持ってくれればいいだろう。彼女と後方の須美が冷静になってくれるだけで、心強い司令塔が前後衛共にいることになり、とても心強くなる。

 

 そんなこんなと安芸先生に監督されながら午前の連携特訓が終わり、午後は座学になった。

四人テーブルに並び、先生から何時もの学校で教わる勉強と神樹様に関することを学んでいく。

優等生の須美はしっかり聞き、銀は退屈そうに授業を受け、真はやはり無言だった。

園子は居眠りをしながらもしっかり先生の話を聞いており、急な質問にも答えたりと、何だかよくわからない凄さを見せてくれた。

 

 

 そうして、日が落ち夕飯の時間となった。

今日の反省をしながら、和気藹々と食事をする。

大赦本部が事業しているだけあって、かなり豪勢なものとなっていた。

 

「うっまーい!」

「もぅ、銀はしたないわよ?」

「ん~、でもミノさんの気持ちわかるな~。やっぱり疲れた後のごはんはおいしいよ~」

「それは、まぁ分かるけど。もうちょっと落ち着いたほうがいいわよ?」

「いやー、だって家でも早々食べられないぞこんなご馳走。テンション上がるって!」

「………」

 

 さて、お気づきだろうか。

可夢偉真、此処に至るまで一言も喋っていない。

まぁ先生の質問には勿論答えてはいたが、彼が自発的に会話を始めたことは実は合宿中に限らず日常生活でもなかった。

 このままではいけないと彼も分かっているのだが、自分以外の勇者は女子。監督の先生は女性。思春期入りたての男子として、とてつもなくアウェー……疎外感を感じていた。

 

(なんというか……居づらいなぁ)

 

 何とか話題は無いかと探してみるも、見当たらないし思いつかない。

寧ろ女子三人はよくあんなに話せることがあるなと感心してしまう。いや、感心してる場合じゃないのだが。

 

「……ご馳走様」

「え、早!?」

「可夢偉くん、もういいの?」

「うん、大丈夫。……お風呂、行ってくる」

「いってらっしゃ~い」

 

 手早く着替えとタオルを取り出し、露天風呂へと向かった。

男性の方はやはりがらんとしていて、広々してるのも相まって贅沢感があった。

そしてそれ以上に、誰も近くに居なくなって、少しほっとしてしまった。

 

「……やっぱ緊張、してるなぁ」

 

 そもそも友人と呼べる存在が真にはいない。

記憶を掘り起こしても男子とすらあまり遊ばない。休み時間に誘われれば一緒になって遊ぶが、それ以外は人助けをしていた記憶しかなかった。

 

「ふぅ……」

 

 焦燥感に相まって内心穏やかでなかった彼が、ようやく一息ついた瞬間だった。

ふと、脳裏に人影が浮かんだ。金のショートヘア、明るい笑顔が印象的な巫女服。少し歳は上だろうか、中学生か高校生くらいだ。

会ったことが無いはずなのに、『友』だとはっきり想える。

 

(……そっか、あの時浮かんだのはこの子か)

 

 戦いの後には明るい笑顔で出迎えてくれた。それだけではなく傷ついた■■■を労わり、時に涙すら流してくれた心優しい巫女。

分かるのはそれだけで、他は何にも想い浮かぶことはないが。

 

「……そろそろ、あがろっと」

 

 ボーっとしているうちに大分体が温まった彼は、露天風呂から出て直ぐに部屋に――戻らなかった。

 

 

 * * *

 

 

「良いお湯だったね~」

「えぇ、最高だったわ」

「あぁ。そして凄かった……」

 

 女子三人も真が部屋から出て行って暫くしてから、露天へと向かった。

彼女達がはしゃいでいると、安芸先生もやって来て……いつもは服で隠されているその内側に驚愕した銀がしみじみと感想を溢していた。

 

「もぉ、銀?」

「アハハ、悪い悪い」

「たっだいま~ってあれ?むいむいまだ戻ってないんだ」

「長風呂なのかね?」

 

 部屋に戻ると、自分達よりさきに露天風呂に行ったはずの真がまだ戻っていなかった。

疑問符を浮かべ、何故なのかを考える少女達。

 

「………のぼせてたり、しないわよね?」

 

 ふと、嫌な予想がついた須美が溢した言葉に、二人も慌てだす。

 

「え、と、それってどうすりゃいいわけ?」

「先生に報告とか?」

「でも先生は未だお風呂かしら?たしか、あがったら資料を纏めるから自室にって」

 

 先生が借りている部屋と、勇者たちの部屋、そして露天風呂は少し距離がある。

報告してる間に手遅れなんてことになったら目も中てられない。

 

「んー、取りあえず探しに行ってみる?もしかしたらどこかで道草食べてるのかも~」

「そうだな、食後の運動だ。行こうぜ、須美、園子!」

「あ、ちょっと待ってよ!」

 

 さっさと荷物を部屋に放る二人を追いかけていく須美。

露天風呂へと再度向かう道中、人手を分ければよかったことに気付くがその前に件の人物を見つけた。

どうやら小鳥と戯れている……訳ではないようだ。

 

「……あれって」

「治療してるのかしら?」

「多分?」

 

 何故かつい隠れてしまった三人。

どうやら怪我をしてしまった小鳥に薬を付けているようだ。

 

「……悪ぃ、ホントはあんまりしちゃいけないんだけどな」

 

 野生動物に人間が手を貸すことは、本来あまり良い事ではない。

度合いにもよるが、人の手を借りることで野生で生き直すことが難しくなるケースもあるからだ。

 

「多分、これくらいならイイと思うけど……ま、達者でな」

 

 小鳥を地へ戻すと、彼はまた歩き出した……何故か、部屋とは真逆の方向へ。

そして須美たちもついつい隠れながらついて行ってしまう。

 

「何処へ行くのかしら?」

「ん~?美味しいものを探しに、とか?」

「さっき食べたばっかだぞ?」

 

 キョロキョロと何かを探し回るような仕草をする彼。

落し物?と思ったら、タタタと廊下を小走りで行ってしまった。

慌ててこちらも早足になり、曲がり角に隠れて様子を見る。

 

「大丈夫ですか?」

「え……ぁ、大丈夫です。ありがとうございます」

「暇なんで、手伝わせてください」

「そんな、勇者さまの御手を煩わせるわけには」

「食後の軽い運動がてらですから」

 

 大きなゴミ袋を三つ持っていた宿の女性。

そのゴミ袋を二つ両手に持つと、場所を聞きながらスタスタと歩いて行ってしまった。

 

「……人助け?」

「そう、みたいね」

「はー、良い子だね~」

 

 その後暫くキョロキョロと歩き回った後、彼は部屋へと戻って行った。

彼が部屋に戻ろうとする前に、自分たちも早く戻ろうと焦って三人は小走りになって部屋へと先に戻った。

 

「お、おかえり~むいむい~」

「お、お疲れ様」

「おつかれさん~」

「うん……?」

 

 何故か少し息を切らせている三人に首を傾げる真は、自分が尾行()けられていたことなど微塵も自覚していなかった。

 合宿の目的は連携を深めることであるため、勇者は一つの部屋で寝食を共にすることになっている。

布団は自分たちで好きなように敷いて良いため、女子三人組とは少し離れた位置に敷こうとして……。

 

「むいむいもこっちおいでよ~」

「え…?」

「確かに、そんな隅っこに行かないでさ」

「合宿の内容を忘れたの?」

「………」

 

 ポカーンとした彼は、少し悩んだ後言葉に甘えて近寄って行った。

 

「……鷲尾さん、は」

「?」

「男女合同、嫌がってるかと、思ってた」

「へ!?」

「あー、たしかにワッシーははしたない!とか言いそうだよね~」

「わかる、アタシ的にも須美が誘ったの意外だった」

 

 そうなの!?と須美が驚きの表情を浮かべた。

そんな彼女にうんうんと頷く銀と園子。

 

「それは、確かにそうも思ってたわ。でも、国防の為に連携……仲を深めるのは重要なことだと思うし、今はそっちの方が重要だと思ったのよ」

「なるほどなー」

「ねぇねぇ、むいむい!」

「ん……なに、乃木さん?」

 

 なにやらぐいぐい来る園子に圧されながら、何だろうと首を傾げて見せた。

 

「それそれ!」

「それ?どれ??」

「乃木さんじゃなくて、そのっちって呼んで?」

「は、え?」

 

 前述にも記したが、真に友人と呼べる存在は極少数である。

名前呼びなど、皆無と言っていい。

 

「お、いいね。アタシも実は気になってたんだ。銀でいいよ」

「そうね、戦友なんだもの。私も須美って呼んでくれないかしら?」

「ワッシーでも可!」

「そ、それはちょっと」

「えー」

 

 流石に異性に渾名呼びは恥ずかしいのか、それとも単純にワッシー呼びが恥ずかしいのか分からないが、どのみち流石にワッシーとは呼べない。

名前呼びと言う真にとっては高いハードルが叩き付けられた瞬間だった。

 

「そ、その……」

「うんうん!その?」

「その、こ…さん」

「わー!もういっかい、もう一回スムーズに呼んで!さん付けもなくていいよ!」

「ぅ……園子」

「わー…よろしくね、むいむい~!」

 

 流石にそのっち呼びもはずかしいため、普通に名前で呼ぶとそれはそれで彼女は大袈裟に喜んだ。

慣れたらそのっちでもいいよ!などと言うが、流石にその呼び方はしないだろう。彼に渾名呼びはハードルが高すぎる。

 

「銀」

「おう、よろしくな真!」

「……須美」

「えぇ。よろしくね、真くん」

「……よろしく」

 

 色々限界になった彼は、三人からスッと目を逸らした。

 

「よーし、それじゃぁ何話そっか!」

「え、今から?」

「ふっふっふ、須美さんや、そうそう簡単に寝れると思ってたのかい?」

 

 何故かプラネタリウムを取り出す園子と、不敵に笑いかける銀。

名前呼びでテンションが上がったのか、どうやら落ち着くまでは寝れそうにない。

 

「……諦めよ、今の二人には勝てそうにない」

「う、大丈夫かしら……?」

「多分?」

「よーし、それじゃぁ好きなこととか言い合おうよ。特に真!」

「僕?」

「そーだよ~、私もむいむいのこと知りたいな~」

「イネスにも一緒に行けてない分、今日はとことん語り合おうな!」

「いいけど、面白いかはわかんないよ?」

「「どーんとこい!」」

「もう、本当におかしなテンションね二人とも……」

 

 そうして、0時を回るまで話し込んだ彼女達。次の日になって眠そうに四人が朝ご飯を食べるのは、仕方がない事だった。

 

 * * *

 

 そうして、少しだけ近づいた彼女達は次の日から劇的な変化を遂げることとなる。

 

「それじゃ、はじめ!」

 

 先生の掛け声とともに走る三人。

その直前、須美へ言葉を掛ける真。

 

「須美、側面はやるから、背後お願い」

「! えぇ、任せて頂戴!」

 

 両手の指の間に計八本の小刀を出現させた彼は、それらをばら撒くことによって左右を完全にカバーする。

走って行くにつれ、射出口に360度囲まれる時間が造られる。必然とがら空きになった背後は、須美がカバーしていく。彼女の矢はボール以上の速さで目標物を射抜いていった。

 

「よっし、」「未だダメ」

 

 先走ろうとした銀の襟首を軽く引くことで止める。うぐっと一瞬銀が苦しそうにしたが、そんなに強く引いたわけではないので問題ないと判断する。

 

「園子に合わせて」

「そだったな……ラジャ!」

 

 朝訓練について話していた時、眠そうだったからもしかしたら聞き逃していたりするものと思っていたが、どうやらその通りだったようだ。

今度は思い出したらしく、園子にピッタリついていく。

 

「……ミノさん、お願い!」

「応!」

 

 傘盾から一瞬衝撃波を放ち、広範囲のボールを止める。

直後バッと跳び出す銀の背後に着いて行くように真も跳ぶ。

正面を見据える銀の側面と背後を、真と須美がカバーし、あっという間に廃車へと辿りついた銀が文字通り粉々に破壊した。

 

「オッシャァーー!!」

「やったぁ~!」

「お疲れ様ー!」

 

 各々が喜ぶ中、ふぅっと一息つく真。

想定通りの展開になったのと、初めて達成したことによる安堵の溜息だった。

 

「おめでとう。それじゃ、次行くわよ~」

「「「「はい!」」」」

 

 ボールの数を多くしたり、廃車や的を増やしたり、場所を少し移動たりしながらも訓練は続いた。

数度の失敗はあったが、残りの時間で無事各々の課題をクリアした、実のある合宿となった。

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