勇者に焦がれて 作:勇者万歳!
神樹のお告げまで未だ日数があるということで、真を引き連れ三人娘はイネスへと赴いた。
「ふっふ~ん、やっぱイネスっていいな!」
「銀が、凄い元気に……」
何時もパワフルな銀だが、イネスに向かう段階で既にウキウキして、入るや否やテンションは一気にマックスになったようだった。
こうなることが予想できていたらしい須美と園子は笑顔でその様子を見ていた。
「ミノさんは本当にイネスが好きだよね~」
「そうね。さ、まずはフードコートに行きましょ?」
須美が先頭に立って引き連れ歩く。
こういう時はまとめ役を買ってくれる彼女には助けられる。
銀は勢いでどんどん進んでいくし、園子は天然とまったりペースでどこに向かっても気付けば横道にそれてしまう。
そして、真はそう言うことに向かないと思っているし、何よりイネスには余り来たことが無かった。
「イネス、余り来たことない」
「そうなの?」
「おぉ~、私と一緒だ~」
「へぇ。園子みたいに家柄がーとか?」
「ううん、別にそんなことはないけど……なんとなく、来てなかったというか」
家は瀬戸大橋の近くだし、イネスだって遠くはない。
でも買い出しは気付けば母か父が行ってくれるし、そもそも家族で出かけて遊ぶということはした覚えがなかった。
(というか、家族で出かけたこととか無いんだよなぁ)
それを自覚しても、特に悲しくなったり寂しくなったりはしなかった。
真にとってそれが普通だったし、なによりそんな発想すら出ない程、人助けに勤しんでいたからだ。
「そして、これが!アタシおすすめの醤油ジェラート!」
「しょうゆ、なんて?」
「ジェラート!」
一瞬聞き間違えかと思ったのだが、氷菓子で間違えないらしい。
チョコより若干色が薄い茶色のそれをスプーンで少し掬い、口に含む……。
「ん?意外と、おいしい」
「だろー!」
「おぉ、よかったねミノさん」
「味覚が違うのねきっと」
「須美、それはどういう意味さ」
わんやわんやと一気に騒がしくなる女子三人。
渡されたジェラートを黙々と食べながら、流石に毎回食べるほど好きというわけではないが、暑い時にしょっぱいものを食べる時は良いだろう。
味も別に不味いわけじゃないし、そもそも醤油自体嫌いではない為、予想外にイケル。
「ん、ご馳走さま」
「お~、本当に食べきったよ~」
「へへ、やったぜ!さっすがマイフレンド!」
なにやら銀の調子がおかしなことに……二人には不評だったのだろうか?
「いや、別に食べられないわけじゃないのよ?ただ、何と言うか、ね?」
「おとなのおあじ~という感じかな~って」
「ふぅん……」
ペロッと手に付いたジェラートの残りを舐める。
特にいやではないし、これはこれで美味しいと思うのだが……。
「まぁ美味しかったよ。ありがと銀」
「なんのなんの~。さ、イネス観光続けよっか!」
その後も観光は続いた。
洋服を見だしたり、甘いものに園子がつられていったり、戦艦という意外なものに須美が熱狂的だったり。
更に何故か銀が少し離れる度に厄介事に巻き込まれたり……何故あぁも都合よく迷子や老人、落し物に出逢うのか……。
「ミノさんって、昔からそういう体質なの?」
「あ、あはは、まぁね。人といる時は、そんなことないんだけどねぇ」
「不思議ね。所謂不幸体質っていうのかしら?」
「……不謹慎だけど、少し羨ましい」
ボソッと呟いた言葉に、三人の視線が真へと集まった。
「それってどういう――ッ!」
銀の言葉が途中で止まり、真剣な表情へと切り替わった。
愉しくも忙しい時間が過ぎていき……その時がやってきたのだ。
――唐突に、辺りが静かになる。
人々の営みの証である、生活音がしなくなった。
見てみれば、歩いていた人が止まり、うどんを食べていた人が啜っている途中で静止し、犬猫は鳴いていたのか口をぽかんと開けたままになっている。
「来たな」
「えぇ」
「頑張ろ~」
気合を入れる三人とは違い、真は少し肩の力を抜いた。
訓練を想いだし、カバーし合う大切さを知った真。
今までの自分のやり方は確かに強かったかもしれない。でも、がむしゃらすぎたとも感じていた。
何かが
「……変身」
自分の姿が白い装束へと変わる。
その手に持つのは黒い刀。仲間である三人の姿も視界に入れ、身体の調子は十分。
「来い……」
そう、力を合わせれば勝てる……そうだ。勝って、ぜったい、かって――
――殺―て――る―
* * *
現れたバーテックスは巨大な四本の牙の様なモノを地面に向けた、これまた凶悪そうな化物だった。
上空に浮かんでおり、跳躍しなければ届きそうにない。
さてどうするか?そう考える間もなく、敵は行動を起こした。
「うわ!?」
「きゃ!」
「おぉ~」
「……」
勇者たちに向けてその四本の牙を飛ばしてきたのだ。
驚くように三人が避ける中、やけに冷めた頭と視線を真は向けていた。
飛んできたそれは太い縄の様なモノで繋がっており、きっと回収される。なら、今この瞬間に飛び乗ってしまえば……ほら、こんな簡単に近寄れた。
「死ね」
冷徹な、きっと氷よりも冷たい殺意を込めた一刀は見事敵を断った。
だが少し勢いが付きすぎたらしく、致命打とはならなかった。
ならばもう一撃、と小刀を足場にしようとして――バーテックスが急速回転を始めた。
「チッ」
もう足場から跳びだしていた。急速回転しているバーテックスに体当たりしてしまう。
黒刀をクロスしてガードするが、思い切り弾き飛んでしまう。
きりもみ回転しながら地面にぶつかり、着地……激突した。
「……いってぇ」
あちこちの骨に罅が入ったのが分かる。
割れたり折れたりはしていないようだったが、回復しながら無理やり動かす。
小刀を足場にすれば跳躍し続けることで、バーテックスの元に辿りつける。
今度こそ、下手は打たない。距離感を間違えない様に慎重に――
「こーら!」
「……ぅ」
園子にポコン、と軽く頭を叩かれた。
瞬間、冷徹だった頭に少し熱が戻ったように感じた。
同時に身体に痛みが戻ってくる。忘れていた熱がじくじくと蝕み、思わず膝を付いてしまった。
今まで自分はこんな状態で動いていたのか……呆れると同時に不気味な感覚を覚えた。
「ぁ、だ、だいじょうぶ?」
「……ん、もう治った」
違和感が若干あるが、既に動けるようになった。
ゆっくり立ち上がり、改めて心配そうにこちらを見つめる園子を……須美と銀たちを見る。
「ごめん、また勝手に……」
「分かってるならいいけど、あんま無茶すんなよ?」
「そうよ。連携しなきゃ」
「ちゃんと指示に従ってね~」
「ん」
頷き考察に移る。バーテックスはさらに上空へ上がり、一度や二度の跳躍では辿りつけない場所に移動していた。須美の矢も届かないほどの距離だ。
「どうする?何してくるかわかんないけど、時間は無いぜ?」
「ん~~~……! ピッカーンと閃いた!」
「お、何だせつめ―!」
銀は言葉を途中で区切り、全力で駆けだした。
見れば拙いことに四本の牙を束ね、ドリルのように回転させて勢いよく下ろしてきたのだ。
「こ、んじょぉおおおおおおおおお!!!!!」
銀は二本の斧剣で真っ向から受け止めるが、アレは長くは持たない。
「銀ッ!」
「一分は持つ!何とか、ぐっ」
ガクンと膝を付きそうになるが、根性で堪える。
強烈な衝撃が高速で伝わって銀の身体を襲っていた。
「ぁ、ぅ」
須美は何とかしなければと思いつつも、銀から目を逸らせないでいた。
心配で仕方がないという感じだ。
「園子」
「……ん、そっちはお願い。こっちは任せて!いくよワッシー!」
「え……?」
園子を見つめると、直ぐに頷いて行動を許してくれた。
真は走って銀の元へと向かう。
「し、ん?」
「……――」
バーテックスは二人が何とかしてくれる。
自分は銀が苦しまない様に――あのドリルを止める。
ドリルには四本分の縄が絡まっている状態で繋がっており、束なっている分頑丈だろう。
だが、ドリルを断ち斬るよりはこっちを斬る方が現実的だった。
(落ち着け……大丈夫、斬れる)
一度深呼吸をする。
縄を注視し、刀に指を添えた。
勢いをつけすぎては弾かれる。力を込めても回転で逸れてしまう。
だから、やることは簡単。
「――!」
回転方向とは逆向きになる様に刀を抜刀する。
添えるように、そして軽く押すようにするだけで、後は切れ味だけで縄が切れていく。
一番集中しなければいけないのは、回転の威力に負けて刀を持って行かれないようにすることと、何より刀を数ミリすらもずらさないようにすること。
少しでもずれてしまえば、そこが引っ掛かりになり刀は高速回転する縄に持って行かれ、吹き飛んで行ってしまう。
「――疾ッ」
「南無八幡――大菩薩!」
縄を断ち斬った直後、園子が出した刃の階段を駆け上がった須美の矢が敵へと命中、爆裂した。
バーテックスは一気にバランスを崩し、上空から落ちかけていた。
一気に重しから解放された銀はそれを見ると、ニヤッと笑って一声上げた。
「シン!足場!!」
「ッ!」
真が創造した小刀の足場を駆け上がり、最後に思いきり跳躍。
その横には丁度園子も同じように、自分の刃を足場にして跳躍してきていた。
「「ここから―でていけぇええええ!!!」」
二人の猛攻は敵をバラバラに砕いていった。
最後は一番固く、恐らく核でもあるらしき頭部のような場所を弾くと、二人は弾いた勢いで地へと落ちてきた。
「銀、そのっち!!」
「っ」
須美と真が駆けて二人をキャッチする。急ぎ過ぎたせいで尻もちをついたが、二人が無事なのを見てホッとした。
そして、敵は……。
「……きえ、た」
「勝った?」
「やったぁ~~!」
喜ぶ三人の声に合わせるように、樹海化が解けていく。
真も皆が無事でホッとしたし、敵を無事退かせたのは嬉しい。
見たところ大きなけがもなかったし、最初の自分の特攻以外は完璧じゃないか?
結果は上々。だから、嬉しい、はずなのだ――。
(なんで、僕は、こんなことを想っているんだろう)
あぁ、殺せなかった……なんて殺意に満ちた後悔が真の中で渦巻いていた。
もしかしたら自分は……勇者と、言える存在ではないのかもしれない。
すぐ隣で一緒に喜びを分かち合っているはずの彼女達と自身を比べて、そんな不安を感じていた。