勇者に焦がれて   作:勇者万歳!

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彼女との縁

 次の日、学校が休日ということもあり外に出た真は、行く当てもなくフラフラと彷徨っていた。

 

(………)

 

 思い出すのは戦いのこと。

どういうわけかは分からないが、自分はバーテックスを見るとどす黒い感情に呑まれてしまうらしい。

初戦も、次も、この間の戦いもそう。必ずと言っていいほど彼は単独先攻し、気付いた時には敵に斬りかかっている。

 須美、銀、園子はそんな自分を頼もしいと言ってくれるが、あの時園子に声を掛けられなかったら、きっと自分は只一人で特攻を繰り返していたはずだ。

ましてや、撃退成功しておいて残念がるなんて普通じゃない。

 

(勇者の使命は、四国を守護すること。敵を殺すことじゃ……ない)

 

 分かっている。そもそも神樹様の信託にはいなかった勇者……異端であるのが当たり前なのだろう。

だが、もし信託が勇者のカテゴリじゃないから反応しなかっただけならどうだろう。

勇者じゃないナニカが自分で――。

 

「って、流石に考え過ぎか」

 

 システムのそれは勇者と一緒なわけで、勇者じゃないならじゃぁこれは何なんだ?っていうことになる。システムが同じなのに勇者じゃないなんて、どういうなぞなぞなのだろうか。

それにそもそもの話、自分が勇者かどうかなんてそんなに重要なことなのだろうか……。

 

「……勇者、か」

 

 勇ある者。勇ましい者。その意味はきっと煌びやかで、尊くて、儚くも綺麗なモノのはずだ。

戦う時にあんなことを胸に抱いて斬りかかるなんてあり得ないだろう。

やっぱり自分は勇者とは呼べないのだろう。では、一体なんなのか……。

 思考がぐるぐる似たようなところを周っている彼は、夕暮れになっていることに気付いた。

歩き続けで気づかなかったが、そもそも市外にまで来ていたらしい。

 馬鹿みたいに歩いてたんだなぁと自分に呆れていると、何やら視線を感じた。

チラッと横に視線を向けると、見知らぬ少女がこちらを見つめていた。

 

「えっと、悩み事ですか?」

「……へ?」

「ずっと難しい顔して何か言ってたから……もしかして、違いました!?」

 

 どうやら独り言を全部ではないが、聞かれていたらしい。

赤毛の活発そうな女の子は、もしかして思い過ごしかとアタフタしだした。

一々反応がオーバーというか、可愛らしい子だ。

 

「いや、まぁ合ってるけど」

「あ、よかったぁ。何かあったんですか?」

「え、えっと」

「私で良かったら相談相手になりますよ!」

 

 何故か見知らぬ男子にグイグイ来る少女。

善意の塊というか、純粋な子なのだろう……初対面相手に近寄りすぎだし、距離感がどうやら普通の人よりずっと近いらしい。

 

「名前も知らないのに、なんで?」

「あ…私、結城友奈っていいます!11歳、小学六年生です!」

「そういう意味じゃ」

「?」

「あー、いや。……可夢偉真。同じく11、小六」

「え、同い年!?」

 

 年上かと思っちゃったーと見つめてくる友奈。

反応がオーバーというか、この元気具合は銀に通じるところがある。

 

「えと、そんなに難しい顔、してた?」

「うん。ずーっと」

「……ちなみに、何時から?」

「1時間くらい前から?」

「気づかなかった……」

 

 一時間もこの少女に観察されていたなんて、どれだけ考え込んでいたのだろうか。

ほとほと呆れかえっていると、友奈が遠慮そうに訊いて来た。

 

「それで、悩み事、あるんだよね?」

「ぇ、あー……あるけど、なんで?」

「え?」

 

 ぽかんとする友奈。

意味が分からなかったのだろうか?確かに真は表情が変化しずらく、口数も少ない方だ。

発せられる情報量が自然と他人より少なくなってしまうのは彼の欠点ともいえるだろう。

 

「……初対面になんで、そんな親切にするの?」

「? えっと、困っていたから?」

「………それは、両親に言われて?」

「んーん……あ、おとーさんやおかーさんも親切心は大事って言ってたよ!」

 

 大事大事と頷く友奈。

なるほど、ド天然で善意の塊。その上明るく天真爛漫ときた。

 

(ヤバい、凄く眩しい……)

 

 園子も天真爛漫で天然で無邪気だが、ここまで真っ直ぐではない。

いや、あれはあれで直接的なのだが……なんというか、種類が違う。

園子はほんわかぽわぽわと春みたいなやつだが、友奈はもっと直接的。元気溌剌で、季節で言えば夏だろうか?

 

(いや、そんなことはともかく)

 

 勇者のことを一般人に言うわけにもいかないし、適当にぼかすことにする。

何も言わないというのも手だが、距離感が近いこの子に対しだんまりをしてしまうと、拒絶されたという否定感がきっと普通の人より強く感じてしまうだろう。

こんな良い子を傷つけるのは忍びない。

 

「……ちょっと、大変なことが合って」

「大変なこと?それが悩み?私にも手伝えるかな?」

「あー、いや。特殊なことだから、結城さんには難しいかな」

「そっかぁ。あ、友奈でいいよ!」

「え、あーうん。じゃぁそっちも、好きに呼んで」

「わかった!」

 

 どうせ市外である此処にはそうそう来ないだろうし、適当に頷いておく。

 

「それで、その大変なことを解決してる…仲間、がいるんだ、けど」

「けど?」

「ちょっと、僕にも分からないんだけど。少しその仲間達と相いれない、というか……そう、疎外感が出来て」

「うん」

「……ちょっと、居づらいなって。それで、フラフラとしてたんだ」

「そっかぁ……真くんはお仲間さんたちのこと、嫌いなの?」

「嫌い、ではない…かな」

 

 明るくて、優しくて、凄く暖かな三人。

あの三人を嫌いになるなんて、よっぽど捻くれないと無理だと思う。

 

「じゃぁ好き?」

「……うん。優しくて、明るくて……ちょっと眩しいけど、心地いいと思う」

「なら大丈夫だよ!」

「?」

 

 何も知らないはずのその少女の言葉は、けれど何も知らないからこそ真の心に残ることになる。

 

「だって、そんな風に言えるくらい好きなんだもん!どんなに寂しいって感じても、きっと大丈夫だよ!」

「……ハハ、なにそれ」

「えと、えーっと、だってそんなに好きなんだから……きっと、その人たちも真くんのこと好きなはずだよ。お互い好きあってるんだから、何があっても絶対なんとかなるよ!」

「なんとかなる、ね」

 

 フワッとしてる考えで、絶対と言いながら何も確実性なんてなく、とても個人の感性と感情だけの言葉だ。

でも、うん……その前向きな考えは、真は持っていなくて。

 

「ありがと」

「ふぇ!?」

 

 ぽんっと、友奈の頭を軽く撫でて礼を言った。

気のせいか、少し肩の力が抜けた気がする。

 

「少しだけ、楽になった」

 

 どうせ分からないことだらけなのだから、悩んでも仕方ない。

何か起こってもきっと大丈夫だ、と自分と仲間を信じる方がまだ建設的だと思えた。

不安は尽きないけれど、友奈という少女の明るさが少しだけ真の心を照らしてくれた瞬間だった。

 

「だから、ありがと」

「ん、うん。ど、どういたしまして……」

 

 気付いていなかったが、表情が変わらない真が珍しく微笑んだ瞬間でもあった。

何時も凝り固まった彼の内心を現すような無表情が、暖かな何かによってほだされ崩れたそれは、少し大人びた彼の雰囲気に相まって優しさが滲み出ており、友奈が少し呆けてしまう程似合っていた。

 

「じゃ、さよなら。帰り、気を付けて」

「あ、うん!ありがと、またね!」

 

 もう会うことは無いだろうと別れを告げる真と、きっとまた会えると縁を信じ大切にする友奈の返事には差があった。

きっと本質的に真反対なんだろうな、と苦笑を浮かべた真は暗くなりはじめた道を小走りで帰宅した。

 

「可夢偉、真くんかー。綺麗な子だったなぁ」

 

 自分と同じくらいの身長だったけど、悩みに黄昏ながら歩いていた彼には妙に惹きつけられた。

話してみると同い年で驚いたし、最後の微笑なんてちょっと見惚れてしまった。

 

「また会えるといいな♪」

 

 新しい縁が出来、良いことをしたと自覚した友奈は、スキップをしながら帰っていった。

真と友奈。彼らが次に邂逅するのは、まだ先のこととなる。

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