勇者に焦がれて 作:勇者万歳!
バーテックスがあれから現れることもなく数日が経った。
訓練に遊びにイネスにと、あちこちを四人で行動するのにも大分慣れてきたある日。
学校行事の一つ、遠足の日程が近づいていた。
「遠足が不安?」
「不安というか、もし、遠足中にバーテックスが襲ってきたらって思ってしまって……」
須美はとても真面目な少女だ。遠足という楽しむための行事にすら、こうやって頭を悩ませている。
そして彼女の友人たちは、そんな悩みにもちゃんと応えてくれる優しい少女たちだった。
「まぁ確かにいつ来るかわかんない敵だけどさ、そうやって日頃から気にしてたら何もできないって。そもそもこうやって鍛錬の後に疲れてる今にも来る可能性はあるしさ、そうなると鍛錬出来なくなって戦力低下だぜ?」
「そーそー、夜寝ることも出来なくなっちゃうよ~」
それは嫌だ~と園子が言うが、彼女は昼夜関係なく寝ている。
まぁこの状況でそのツッコミもどうかと思い、誰も何も言わなかった。
「まぁ僕も同じ意見かな。……須美の好きなプラモ作りだって、出来なくなっちゃうよ?」
「うっ……それは、嫌ね」
真面目な彼女の以外な趣味、それは戦艦のプラモデルを作ること。
やけに和食を重視する料理のチョイスもそうだが、彼女の日本に対する愛国心はもはや常軌を逸している。
戦艦が好きというよりも、戦艦にある歴史、日本という国そのものを凄く愛しているのだ。
それはもう、帰来の真面目さが相まって本当に深く……たまーにちょっと怖いときすらある。
「ま、だからでーんと構えておけばいいんだよ。仮に現れたとしたって変身すればすぐ大橋にはたどり着くしさ」
「そーそー、遠足楽しもうよわっし~」
「……二人の精神力が眩しいわ」
「それは同意」
頼もしすぎる銀と園子、そして楽しむことにした須美。
彼女たち三人と同じ班になり、遠足……騒がしくなりそうだと思いながらも、どこかワクワクしている自分を見つけ、思わず笑みが零れた。
「ん~!?」
「? な、なに園子?」
急に顔を近づけてきた園子。
言っては何だが彼女たちはとても整った顔立ちをしている。端的に言って、可愛い。
思わず視線をそらしてしまうが、構わず園子はへにゃっと笑った。
「むいむいの笑顔は貴重だから、しっかり焼き付けておこうと思って~」
「は?」
「お!そのお顔もいただき~♪」
園子の言葉に思わず呆けてしまう真。
何を言っているんだろうかと思うが、銀と須美は分かると園子の言葉に同意し頷いていた。
「そうね、真くんはいつも真剣というか、難しい顔をしていることが多いわね」
「真は仏頂面とかが多いもんなぁ」
「むっ。そういう君たちだって、須美は真面目すぎて休みの日だって気を回してるし、銀は授業中でも鍛錬か家族のこと考えてるでしょ?表情とか目線が黒板に行かないこととかあるし」
「おぉ、そうなんだぁ」
「園子も」
「え、私?」
「うん。変な夢見てるか、そうでない時にたまに僕らのこと伺ってにこにことして……あれ、園子は基本寝てるかニヤついてる……?」
「ニヤついてるはひどいよ~」
園子からポコポコと全く痛くない拳を浴びながら、みんなのことを話す。
三人のことを思い出していると、何だか気分がふわふわと優しい感じになる。
この三人と一緒にいるのは凄く居心地がいいのだ。
「あ、むいむいまた笑った~」
「ふふ、今日はよく笑うわね?」
「珍しい日もあるもんだ」
微笑む真を見て、笑う三人。
バーテックスと戦うときも高揚するが、あれとは違ってとても暖かい気持ちが溢れる。
こういう日常がとても大切でこんなにも幸せだなんて、皮肉なことに勇者として戦うまでは本当に理解できていなかったんだと痛感する。
「にしても遠足かぁ。うどん屋とかアスレチックとか、全部制覇しないとな!」
「ミノさんやる気だなぁ」
「まぁ銀だし」
「……よし、私決めたわ。帰ったらみんなのしおりを作るわ!」
「須美までやる気に……」
「えへへ、楽しみだねぇ~」
* * *
そうして迎えた遠足当日。
数日前、須美が渡してくれた超分厚いしおりを携えてバスに乗り込んだ。
「アハハ、そのしおり私も持ってきたよ~」
「アタシも!」
「一応データを送ったのに……」
「そういう須美も持ってきてんじゃん!」
「まぁ作った本人なので」
しおりをきっかけにおしゃべりが進む三人。
揃えば姦しいとはよく言ったもので、真は頷きながら時折投げかけられる問いに答えるので精いっぱいだったりする。
そうこうしているうちにバスは目的地へ辿り着き、先生から予定を聞いた後自由行動となった。
アスレチックコーナーでは鍛えているだけあり、中学生やモノによっては大人用のコースにまで挑戦していく。
「おっしゃー!」
「ミノさんすごーい!」
「二着っと……銀、速い」
「さ、三着……そのっち、手」
「ありがとわっし~」
突き出た石を取っ手や足場にして登って行く場所では結構白熱した結果となった。
どんどん上って行く銀に、追いかける真。結果に悔しがる須美に、終始笑顔の園子。
全員ずっとはしゃいでいたように思える。
「昼は焼きそばに焼き肉かぁ。腕の見せ場だな!」
「銀、焼きそば作れるんだ」
「まぁね。真は作れないの?」
「作れるけど、あんまりしたことはないかな」
野菜を切って麺と炒めるだけとはいえ、毎食それでは飽きてしまう。
家族が忙しいから自然と自炊を覚えた真は、簡単だが少し面倒だとも感じていた。
「それに、いつも適当にしてるから。カップ麺とか……」
「真くん、ちゃんとした食事は重要よ?」
「い、一応自炊はしてるんで、怒らないで須美?」
ぷんすかという擬音が合いそうな表情で見つめてくる須美。
「全くもう。夏休みになったら真くんの食生活を改善しなきゃ」
「うわー、須美がマジだ。頑張れ、真」
「あ、アハハ……」
夏休みに何をするつもりだろうと苦笑する真。
そんな彼女たちを見て、園子が「ずーん」と態々擬音を口にして落ち込んだ。
「どうした園子?」
「そのっち?」
「具合でも、悪い?」
「ううん、みんなお料理できるのに、私だけできないなーって」
「あぁなるほど」
「アハハ、園子ならすぐ出来るようになるよ」
「出来るのと、美味しくなるかは別だよ~……そーだ!」
閃いた!と園子は目を輝かせた。
「今度みんなで私に料理教えて!」
「「「いいけど…」」」
口にして思わず黙った。
ハモったと驚きながら、それくらい仲良くなっていることを嬉しく感じた。
楽しく笑い合いながら、思えば、焦燥感はこの三人といるときはすっかり成りを潜めていることに気づく。
「ところで、先生?ピーマンどかしたらダメですよ?」
「ぎ、ギクぅ! た、食べるわよ?苦手だけど、ちゃんと食べるわよ!?」
「前世でピーマンに何かあったんすか?」
「ピーマンの精に会えると思えば、楽しいですよぉ~」
「園子、ピーマン嫌いの人にそれはむしろ追い打ちだと思う」
「あれ?」
先生とも一緒に戯れながら、午後も色々な場所に行った。
工芸品を体験制作したり、庭園を散歩したり……日本庭園では須美が暴走し、その素晴らしさについて語りだしたり。
時間はあっという間に過ぎていった。
「……むにゃ、えへへ、ミノさん……わっしー、むいむい~」
「うぅん……そのっち、そっちは……」
「ふたりとも…………むにゃ」
帰りのバスでは、彼女たちは一番後ろの席で仲良く眠ってしまった。
「……可夢偉くんは寝なくていいの?」
「えぇ……自分は大丈夫です」
彼女たちの寝顔を拝見しながら、今日のことを振り返る。
一緒に遊んで、一緒にはしゃいで、何時かの約束をして……普通に時間を過ごした。
そう、勇者だなんだと言われても、やっぱり彼女たちは平穏を愛する普通の女の子だった。
そして、自分はそんな彼女たちの影響を確かに受けていた。
ならば……きっと、大丈夫だろう。これから先、なにがあったとしても彼女たちとならなんとかなる。
「……きっと大丈夫、大抵なんとかなる」
「? 可夢偉くんにしては、ずいぶんとなんていうか……変わった考えね」
「えぇ。ちょっと、教えてもらったというか」
運転している安芸先生に説明しようにも、うまい言葉が出なかった。
あの結城友奈という少女だって、きっとうまく言えなかったからこんなふわふわした言葉になったのかもしれない。
……いや、案外うまく言えてもこんな感じだったかも。
「でも、前向きで素敵だと思うわよ」
「えぇ。ちょっとふわついてますけど」
「ふふ、そうね」
「ふぁ……」
眠る三人につられ、やがて真も寝てしまった。
彼らの優しい日々は、緩やかに過ぎていく。