勇者に焦がれて 作:勇者万歳!
学校に戻り、全員制服に着替えて後は帰宅するだけになった。
銀は弟にお土産を持って帰るんだ、そう言ってウキウキしていたが……こういう楽しい日に限って横やりとは入るものだ。
草木の騒めきが止まり、空に飛ぶ鳥ですら停止する。
響くのは、携帯のアラームと勇者たちの息遣いだけ。
「も~、折角楽しい遠足だったのにぃ~」
「まぁ、遠足終わった後だから、まだマシだよ」
「なぁんか、この感覚にも慣れてきたよなぁ」
「銀、気を引き締めて。そういう時が、一番危ないんだから」
「分かってますって」
街が樹海に包まれ、全員が勇者の服を身に纏った。
奥から現れたバーテックスは……二体。
「二体……!?」
「そう来たか……」
「落ち着いて、力を合わせれば二体だろうと、大丈夫よ」
「そうだね、きっと何とかなるよ」
落ち着いた様子で三人に告げると、意外なモノを見る目で見つめられた。
それはそうだろう、今まで真っ先に狂気的な特攻をしてきた彼がこんなことを言うなんて……。
「へぇ~。なんだなんだ、急に良いこと言うじゃんか」
「えへへ~~、うれしいな、うれしいなぁ~~♪」
「もう、気持ちはわかるけど、そのっち落ち着いて」
「………」
気恥ずかしくなって、プイっとそっぽを向く。
ふと、向いた先に視えた巫女の幻影が、微笑んでいるような気がして――。
「真?」
「ん、あぁ、ごめん。大丈夫」
ぼーっとしている時間はない。
銀の掛け声で我に返り、揃って変身する。
初の複数戦、気を引き締めなければいけない。
「来るよっ」
片方は盾のようなモノを複数周囲に展開し、頑丈そうだ。
もう片方は分かりやすく痛そうな棘が先端についた、球体が連なったサソリの尾のようなモノをぶら下げていた。
相手は化物、どういう攻撃をしてくるかわかったものじゃないが、こうも見え見えだと分かりやすい。
「ミノさんと右のやつをお願い!わっしーはちょっと下がって援護よろしくね!いこ、むいむい!」
「りょーかい!」
「ん、須美、援護よろしく」
「任せて!」
四人の中で一番頑丈で持久戦向きな銀に一体を任せ、速度と攻撃力をもった真と中距離援護が出来る園子が片方を迎撃する。
須美は重点的に銀を援護してもらい、なるべく速く敵を斬り刻むことに専念する。
「疾ッ」
ただ尾に斬りつけるのではなく、狙い目を関節部分に絞ることで斬り落とす。
だがどこまで伸びてくるのか、ヴンッと振り下ろされる尾は棘があろうとなかろうと、十二分な暴力となる。
「うひゃ~、当たると痛そう~~」
しっかり槍を傘状に展開し、防いだ園子の腕がびりびりとした衝撃を訴えていた。
どうやら重量もかなりあるらしい。
だが、この調子なら―――ッ?!
「わわっ!?」
何かが空気を切り裂く音がして、とっさに園子が傘を上へ向けた。
三人も急遽、園子の下へ集い
「うそ、三体目!?」
「そんな……」
「ハハ、マジかッ」
三人が呆然としつつあったその時、真は他のバーテックスの動きを見ていた。
固まって身動きが取れない自分たちを狙うには、これ以上ないチャンス。
抜け目なく、横薙ぎに振るわれる巨大な尾に反応できたのは、真だけだった。
「危ないッ」
「しまっ――!」
とっさに三人の前に出て、巨大化した刃を複数盾代わりに展開する。
だが、元々切り裂くことに特化したそれはあっけなく砕かれ、四人仲良く吹き飛ばされる。
一番前に出て守ろうとした真は勿論、防御力の低い須美、園子も戦闘不能に陥る一撃。
だから、一番頑丈な彼女がそう動くのは当たり前だったのだ。
「ぐっ須美!園子!っ真!!」
立ち位置が悪かった、もしくはよかったのだろうか。一番頑丈な銀が最後尾にいた為、唯一彼女だけ立ち上がることが出来た。
自分自身以上に傷だらけな三人を見て、心配で必死に名を呼びかける。
特に真は口から血をだらだらと溢しており、重傷だというのが見ずともわかった。
「こん、じょぉ!」
銀はどうにか真を背負い、須美と園子を両脇に抱えて安全な場所へ移動する。
走り、跳び、敵から離れて見つからない様に陰のある場所に三人を寝かせたところで、須美の目が醒めた。
「銀…?」
「須美! よかった……」
意識が戻って安心するが、動ける状態ではない。
勇者の能力で暫くすれば回復するだろうが、それを待っているほど敵も馬鹿じゃない。
「……ここなら安全だから、後は任せて休んどいてよ」
「ぎ、ん……」
「――っ」
一人で行くのだと告げる彼女に手を伸ばす。
その手は届かず、緊張や恐怖を感じているだろう銀は――。
「またね!」
いつも通りの笑顔を浮かべて、走り去っていった。
動かなければいけないのに、須美の意識は薄れていく。
* * *
どんな時もマイペースで皆を明るく引っ張ってくれる園子。
冷静で真面目、頼れる援護役の須美。
もはや斬り込み隊長の様な無茶を押し通す、心配ながらも頼れる真。
「すぅ……はぁ」
いつも傍にいる三人が居ないだけでどこか心細くなってしまう。
深呼吸をしても心が落ち着くことなんてない。
回復を待っているわけにはいかない。このままだと、四国はバーテックスに蹂躙されてしまう。
気を抜けば震える程に怖くても、何処からか不安が湧いても、立ち止まっているわけにはいかない。
「戦えるのは私一人。なら、此処は踏ん張りどころだろ」
バーテックス三体の前に立つのは、真紅の少女。
恐怖を押し殺し、護国の為にその魂を燃やそうとしている、未だ幼い少女。
「随分と好き勝手やってくれたけどな、ここから先は――一歩も通さない!!!」
四人でも倒せなかった三体の化け物。
ただでは済まないだろう。最悪が脳裏をよぎる。
でも、ここで折れたら全部が無くなってしまう。壊されてしまう。
学校も、家も、友達も、家族も――未来が楽しみな弟たちも。
だから、彼女は必死で二双の斧剣を握りしめ、根性を以って己の勇気を、魂を震わせた。
「あぁああああ!!!!!」
さっきの短い攻防で覚えた相手の攻撃手段を見切り、逆にこっちの攻撃を当てる。
銀には遠距離攻撃は無い。恐怖を捻じ伏せ、相手に噛みつくつもりでゼロ距離戦闘を挑み続ける。
「かえ、るんだ。護るんだぁあああああ!!!」
銀には防御のための盾は無い。一撃死を逃れるために、急所以外に傷がついても仕方がないと傷を許容し必死に挑む。
両手の斧剣が頑丈なのが唯一の救いか、盾代わりに乱暴に使ってもすぐに壊れたりはしない。
「化け物にはわからないだろ!この力!!」
銀にはすぐに傷が治るような回復能力はない。時間が経つことにボロボロになっていくのに、彼女の猛攻は弱まっていく気配が無い。
一人だというのに、今まで以上の『力』を発揮し、彼女は果敢に三体のバーテックスへ傷を与えていく。
何故って、そんなのは決まっている。
「これこそが人間様の……魂ってやつよぉぉおおお!!!」
三ノ輪銀という勇者の、決死の覚悟は徐々に三体のバーテックスを後退させていった。
少しずつ傷を増やしながら、少女の叫びは樹海に轟いた。