竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
さて、自己ヒール技術もとい錬丹術に成功したところで──基本に立ち返ろうと思う。
僕の錬金術についてと、錬金術でできることについての深堀りだ。
今のところ、僕の錬成速度は15秒フラット。物凄く遅い。
これを戦闘中に使うとか愚の骨頂もいいところなので、速くするべきだ。が、速くするには慣れるしかない。じゃあ慣れるためにガンガン使おう──とはならないのが僕。
妥協案を探る。既にいくつかの方法は思いついていて、そのために今実験を行おうとしている。
まず、二重の円。
これはよく見られる錬成陣だ。これらは考え方として「円の中に正円の記号がある」のではなく、「ファクターとなる円が内外に二つある」となる。錬金術師は錬成陣の発動時に思念を送って之を発動させるのだけど、別に何も円に対してちょぼちょぼ力を注ぎこんでいるわけじゃなくて、その全体に思念を送って、それを回転させて循環としている。
スタート地点が同じで半径の違う円を、同じ速度のエネルギーが進む。そう考えたら、どう考えたって内側の方が早く、外側の方が遅く進む。
これを利用して内側に描いてある構築式を先に発動させて、外側の構築式を後で発動させる、という手法を取ることができる。
「だから、例えば」
二重円を描く。
内側の円には六芒星。いつも通りの乾湿で、「整形」の押し出し錬成陣。内側の円は当然小さいからパワーが足りない。ので、簡易なことをさせる。
その外側に描くのは「成形」の錬成陣。描く記号は正円に正三角形を組み合わせたもの。まぁスチルだね。だから意味合いは「補強」。さらにその中心には「♂」のマーク。これは男性を示すものではなく火星、つまり鉄を表す記号になる。
そして外側の円全体を上向き三角形で囲み、その頂点に「益」という記号を。さらに下向き三角形を描いてできあがり。「益」は「溶解」を意味する記号で、それが「火」を意味する上向き三角形の周囲にある。下向き三角形は「水」だ。この辺はおさらいだね。
で、これを発動させると。
まず、5秒くらいをかけて僕の眼前に分厚い土壁が立ち上がる。ただの土壁だ。
そこへ遅れて、ドロドロに溶けた鉄が這い上がってくる。耐久力の低い土壁に纏わりついた鉄が、今度はジュッと冷えて固まる。急冷になっちゃうのは勘弁してほしい。まぁ実験だから。実用性を求めるのならもう少し考えないと。
とまぁこんな感じで、15秒の内、最初の5秒でその場しのぎの土壁で盾を、その間にそれが補強されて頑強な鉄壁に……って感じの錬成陣。
混戦状態とかで簡易の遮蔽物がたくさん欲しい時なんかは使えると思うし、改良すれば他にも様々な用途が見つかるだろう。
次。
複合錬成陣。
まぁさっきの錬成陣を僕は「重複錬成陣」と呼んでいるんだけど、これはそれに似ていて、けれど全く違う。
やり方自体は同じだ。錬成速度の差異を使う錬成。だけどこれは、何も関係のない二つの錬成陣を一度に発動する、という目的で組み合わせられた錬成陣。さっきのは最初に作った盾を補強する盾を作るものだったけど、今回は……ん-と。
さっき作った鉄壁に対し、まず円を描く。その中に上向き三角形、頂点には「益」と正円、さらに同じものを外側に描いて、頂点の記号だけ上向き三角に一本線の入った「衛」を描く。これは空気を意味するマークだけど、上向き三角形の頂点にあることで「熱された空気」になる。
で、これを発動。
ちょっと避けてー。
僕が離れてから数秒後、鉄壁がどろりと溶けだしたかと思えば、ぼふっと土埃が炸裂する。
まぁこういう風に、全く違う効果を一度の発動で行うことができるのが複合錬成陣の良い所。
その次。
連鎖錬成陣。
これは読んで字のごとくだ。二つ以上の錬成陣を連鎖的に発動させる手法で、錬成速度は三倍くらい遅くなる。
まず描くのがとても大変。線を二重螺旋状にするので正確さとかはもうほっぽって、これでもかってくらい時間をかけて描いたその二つの線が交じり合う正円の、それぞれのわっか部分にまた錬成陣を描いていく。
ただそう多くは描けない。何でかって僕の思考リソースの問題だ。同時に想像できるのは四つまで。しかも簡易なもの。なんで円形にするためにもう一つ分の円を描くけれど、空白の円にする。何も起こさずにそのままエネルギーを通過させる円だね。
正直これはあんまり実用的じゃない。思考リソースが持っていかれ過ぎるのだ。真理を見た錬金術師とかじゃないと多分無理。
「ふぅ」
で、描き終わって発動させれば、予想通りの結果。
ズズズズと錬成されていく豆腐……もとい真四角の物体。なんでもない直方体の押し出し錬成は、けれど一つに留まらず、二つ、三つ、四つと続いていく。
ま、まぁこれはアイデアだから。
実用はあとあと。
さて、これら錬成陣を用いて、更なる応用が見込める──んだけどその前に、もう一つ。
複合記号、というものがある。
これも読んで字のごとくなんだけど、一つの記号が複数の意味を持つ、みたいなことだ。「鉄と鉛」とか「血と傷」とか。相反するものを複合させるとそもそも発動しないとか、最悪リバウンドが来るとかになって危ないんだけど、似ているものを複合させる分には中々上手く行く。
これで何ができるって、やっぱり合金だよね。
前世……錬金術こそなかったと言えど、現代知識はやっぱりちゃんとチートだ。転生者らしいチートってそこだろう。
鋼の錬金術師世界はイギリス、産業革命のすぐ後くらいの文化レベルをしている。ただ錬金術があるから、機械鎧とかのオーパーツもとい超技術が発達しているのはあるけど、まだ見つかっていない物質なんかも多くある。
問題があるとすれば、僕も別に最先端の科学技術者だったわけじゃないってことかな!!!
……いいんだいいんだ。この世界、金属系に傾倒してるから、逆にプラスチックとかが全くと言っていいほど流通していなかったりする。そういうトコで無双していこうよ。プラスチックで機械鎧作ろうよ。
話を戻そう。
そう、で、えーと。
僕の武器は、この知識と、そして
冒頭と矛盾しているけれど、僕はこれを欠点ではなく長所だと捉えた。履歴書に嘘書くの上手だったからね。あ、嘘じゃなくて、「よく言えば」か。アブナイアブナイ。
……話を戻しておいてなんだけど、この辺は秘密にしておこうと思う。リスが見てるし。
どうせお母さんとの戦いでバレるとしても──隠し玉は多いに越したことは無い。
と、こんな感じで、現状の僕で戦うための手札は揃った。
お母さんは期限を設けなかった。それは「どれほどかかってもいいからもっと強くなりなさい」だと思う。だけどごめんね、僕は今すぐに国家錬金術師になる必要があるから今の僕で──錬金術師見習いの僕で、国家錬金術師に挑ませてもらう。
「なんか決心したみたいな表情してるけど、今の錬金術のバリエーション? で国家錬金術師に勝とうとしているんなら、やめた方が良いと思うよー」
「そうかな。結構できたと思うんだけど」
「いやいやいや。アンタ国家錬金術師を舐め過ぎだよ。流石に、このエン……リス様だって言わせてもらうけど、国家錬金術師はちゃんと兵器なんだって。確かにアンタに対しては父親も母親も優しく接してくれてるのかもしれないけど、本気になったアイツらは戦車なんか一人で潰せるんだぜ? それがお前の母親なんだ。わかってないわかってない、ホンットにわかってない」
すごく心配してくれている。
なんて良いリスさんなんだ……。
……人柱候補の僕に怪我されるのが嫌なだけなんだろうけど。
「大丈夫だよ。僕、これでも頭良いからさ」
「そういう奴は決まってバカなんだよ!」
「ま、見ててよ。僕がお母さんに勝つところをさ」
「ちょ、オイ、待てって!」
リスがぴょんと跳ねて、僕の靴を掴む。
む。
「……リスさん、力強いね」
「子供のお前が弱すぎるだけ。……考え直せ、レムノス。アンタの実力は全くと言っていいほどに足りてない。母親以外の国家錬金術師を見たことが無いから、チョーシに乗っちゃってるだけだ。悪いことは言わないからやめとけって」
「じゃあ聞くけど、僕がどうなったらお母さんに勝てると思う?」
「そりゃ……今より錬成速度を上げて、二つ名がつくくらいの、代名詞になるくらいの錬金術の開発をするくらいにならないと無理だろ。つか正直、今のアンタじゃ錬金術も使えないその辺のオッサンにだって負けるよ」
ふむ。
まぁ一理ある。子供だからね。錬成している間にお腹でも蹴っ飛ばされたらそのままタコ殴りもあり得る。良い戦力分析だ。流石リス。
「つまり、お母さんに挑戦するためにはまずリスさんを納得させないといけないってことだね」
「……しないけど、そーだよ」
「じゃあ一個、僕の隠し玉を見せてあげよう。リスさんも驚いてくれるはず」
「……まぁ見るだけなら見てやるよ。どうせくだらないものだろうけど」
仕方がないので切り札を一つ切る。
もしこのままお母さんに挑んだら、リスが横槍入れてくる可能性まであるからね。
リスに靴を離してもらって、よいしょ、なんて言ってしゃがみ込む。
ああそうそう、ここって僕がいつも修行に使っている岩場なんだけど、結構な数の岩があって、その中でもひときわ大きなものがコレ──僕が乗っているコレなんだよね。
それに手を当てて、ぐり、と捻る。
──ガチャン、という音がした。
カチカチ、という何かを刻む音も響く。
「相変わらずおっそい錬成……」
「これは想像力をかなり使うからね」
「あのさ、アンタ知らないだろ。大槌の錬金術師は、一瞬にして巨大質量、を……」
錬成反応は赤。ま、先日の錬丹術の一件でわかったよ。
なんでリスが僕たち……というか僕を監視していたのか。
反応が途中で青に変わる。
まぁ、言い訳としては──「そこにあったから使っていいと思った」、かなぁ。
「……こりゃ」
「どうかな。これでもダメ?」
ようやく終わった錬成。
手を引き抜けば、そこから珍妙なものがついてくる。
刀身より柄の方が大きい──ネジのようなもの。
「──勝手にしな。これでどうにかなるんなら、アンタは本物だったってことだ」
「うん、ありがとうね、リスさん」
よーし。
じゃあ、行こうか!
*
正気ですか、と。
開口一番言われた。
仕方のないことだろう。
だってお母さんに「自分に勝て」と言われてからまだ一週間くらいしか経っていない。お母さんの隣ではお父さんが心配そうな目で見ているし、お母さんは──目を細めて、僕を真剣に見つめている。
「本気だよ」
「……例の石を使う気ですか?」
「ああ、アレは使わないよ。アレ使って勝ったって意味無いし」
「そうですか。つまりレミー、あなたは、素の状態で──国家錬金術師たる私に勝てると、そう言っているのですね」
「うん。だから、さっきの質問にちゃんと答えるなら、"絶対に正気じゃないけど、本気だよ"、かな」
事実なのだ。
お母さんの問いも、お父さんの心配も、そんでもってリスの忠告も。
全部が全部、事実。だって勝てるわけがない。錬金術を習い始めてからまだ一か月も経っていないペーペーが、錬金術師らの極致が一つたる国家錬金術師に勝つ、なんて。
それもバリッバリの前衛な錬金術師に。
「そうですか。……では、外に出ましょう、レミー」
「お……おい、本当にやるのか? どう考えても大事故に繋がるとしか」
「レミーがやると言っているのですから、問題はないでしょう。大丈夫、レミーは自らを過信するような子ではありません。……秘策か、あるいは私の弱点を考えてきたのでしょう」
……そういえばお母さんの錬金術についてなーんにも調べてないな僕。
大槌だからシンプルパゥワー、で思考が停止していた。……うん、うん。
戦場で敵の能力の全てを知っている、ってことの方が少ないんだ。戦いの最中に成長していこう!
「はじめに言った通りです、レミー。私を完膚なきまでに負かすこと。これが唯一の勝利条件になります」
「うん。──全力で行くよ、お母さん」
「はい。ではあなた、開始の合図をお願いします」
お父さんに渡されたのは、木でできた笛。
へぇ、どっかの工芸品かな? ああいうの好き。旅先でついつい買って、一度も吹かずに終わるよね。
「……頼むから──お互い、無茶だけはしないでくれよ……特にレミー!」
笛が、吹かれる。
瞬間、僕はしゃがんで地面に向かって錬成を──。
「ごめんね、レミー」
黒い、壁が。