竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第十二話 錬金術の戦闘「加速錬成」&離別

 お勉強会はそれはもうみっちりと行われたけれど、まぁそこまでキツいものでもなかった。大体が化学の話で、その内の二割くらいが錬成陣に纏わる話。ようやく実感したよ、知識チート──そう、義務教育チート……!

 いや勿論その先の知識も知っているけれど、基礎知識として元素やら化学やらの知識が頭にあるっていうのは相当有利で凄いことらしい。ついでに言うと僕未就学児だからね。一か月前まで数字もロクにわかってなかった奴が数学できるの異常でしょ。化け物だよ化け物。

 

 というわけで、案外時間が余ったというか。

 今はお父さんが隣町まで教本を買いに行っているのを待っている最中。アルドクラウドの本屋には錬金術の本は置いていないから。

 

 なので、いつもの場所で、いつも通りいてくれたリスに声をかけた。……いつもの場所って言っても大岩は僕がサンチェゴにしちゃったからもう無いんだけどね。

 

「別に報告とか要らないよ。見てた見てた。ちゃんと戦えてたな。すごいすごい」

「いつにもまして心が籠ってないね、リスさん」

「実用性が微妙過ぎるからな。アンタの母親も言ってたけど、攻撃性の無い錬金術ばかり使いやがって。他人を傷つける勇気が無いなら、国家錬金術師はやめといた方がいーんじゃない?」

「軍属になるから?」

「そ」

 

 いつにもましてテキトーな塩対応リス。

 これは……お別れの時かな?

 

 まぁそうだよね。

 僕が国家錬金術師になれたら、晴れて全ホムンクルスからの監視対象だ。リス個人の監視対象じゃなくなる。

 

「大丈夫だよ。やる時はやるからさ」

「……じゃあさぁ」

 

 しゃがんで足元を捻る。ガシャン、という音が鳴ったのを確認してからバックステップ。適当な棒を作り出して──横に転がる。

 

 その真横。

 つい先ほどまで僕がいた場所を通り抜けていく、金属の刃──がついた、巨大な腕のようなもの。

 

「ハッ! 反応が良い! ()()()()()()予見してたかよ、レムノス!」

「予見していたというより、想定の範囲内だった、ってだけかな。このまま普通にお別れってパターンもあると思ってたし、僕が人を殺せるか、生き物を殺せるかチェックするために襲ってくる可能性も考えていた。あとはお父さんやお母さんのどちらかを殺して、僕に見せつけてくるとか、逆に僕を殺してお母さんたちに見せつけるとか」

「……成程ねぇ、はじめっから何も信じてなかったワケだ」

「話す分には友人だけど、それ以外のところでは敵だって言ったのは君の方じゃない?」

「俺は友人だ、なんて言った覚えは無え、よ!」

 

 伸びてきているのは尻尾。

 これでも手加減してくれている方だ。本体とまではいかずとも、人間の形になった方が戦いやすいだろうに。

 

 なら──存分に便乗させてもらう。

 

「勝利条件は何かな、リスさん」

「一回でも俺を殺してみな! お前にそれができるなら──」

「オーケー、なら簡単だ」

「──は?」

 

 先ほど作り出した棒から銛のような形をした金属が射出される。

 当然、作った時点で遅延錬成をかけておいたもの。銛そのものではないのは、僕が上手く想像できなかったから。銛なんて今生で一回も見たこと無いからね!

 

 射出された銛は……けれど避けられる。うーん、命中精度もそうだけど、射出速度も微妙だなぁ。まぁ燃料とか無しにやってるから当然ではある。僕のサンチェゴとか、あとエドとかが使う手合わせ錬成での押し出し速度での射出ならそこそこ飛ぶんだけど、遅延錬成だとそこまでパワーが保たない。

 やっぱり武器を射出するのはコスパが悪い。当たるだけで危ないもの……イガグリとかそういうものを射出したいところだけど、形状が複雑であればあるほど錬成速度は遅くなるし、何より僕の想像力が追いつかない。

 

「そんな攻撃じゃ百万年かかっても俺を殺すのは無理だぜレムノス」

「でも、気付いてはいるんでしょ? 地面の下で作られているものについては」

「あぁ、アンタの切り札だろ? けどコレさぁ──」

 

 リスのしっぽが鋭いモノになる。

 それは僕に向けられるのではなく──真下に向けて、どす、と。

 

「作ってる最中に壊されたら終わりだよねぇ?」

「勿論。そのリスクがわかってないのに自ら言及したんなら、それはちゃんとした馬鹿だよ」

「はぁ? ……(い゛)ッ!?」

 

 引き抜かれる尻尾。

 その先端には、深く、深く──トラバサミが食い込んでいる。

 

 形状も構造も簡単で、時計みたいにカチカチ音が鳴って、それでいてダメージの大きさと錬成のコストパフォーマンスに長ける罠。それがトラバサミ。前世は人への被害、及び残忍で猟奇的過ぎるとか様々な理由で禁止されるにまで至った罠だけど、こっちにそんな法律はない。

 どころか自然動物を狩る習慣が未だ根付いているためか、狩猟目的で売られていることも特に珍しくないこのトラバサミ。の、でっかいver.がリスの尻尾を嚙んで離さない。

 

「ク、ソが……フェイクかよ!」

 

 リスが、今度は自身の短い短いちっちゃな手をぐにゃりと伸ばし、そこに刃を作って尻尾の先端を斬り飛ばす。トカゲのしっぽ切りならぬリスの尻尾切り。

 斬り落とされた尻尾は塵となり、根元の方からはバチバチと音を立てて赤い錬成反応と共に再生が起きる。

 

「……今のじゃダメ?」

「あ? ……はぁ? もしかして今ので殺した、とか言うつもりか? だったらとんだ甘ちゃん──」

「ダメならいいや」

 

 ガチン、と音を響かせたのは、噛むものが無くなったトラバサミ。

 リスは目にするだろう。その歯の両側に半分ずつ描かれた無数の錬成陣を。そう、そもそもがフェイクで、噛み付いたらトラバサミ、外されたら別の錬成陣が発動する──そうなるように遅延錬成を無数に仕込んであるトラップ。

 トラバサミが閉じることで刃の内側に描かれた遅延錬成が意味を無くし、通常通りの錬成速度に戻ることで、まるで遠隔で錬成を行ったかのように見えるところもポイント。僕はまだピンポイントな遠隔錬成できないからね。

 

 トラバサミに描かれた四つの錬成陣は、トラバサミそのものを細い針状に錬成し、射出するという内容。簡単で殺傷能力が高く、さらに効率的だ。

 ……無論、これはあの一瞬で考えたものじゃあない。今日リスに会うと決めた時点でそういうことが起きそうだな、と考えていたから、サンチェゴの代わりに組んできた違う錬成陣によるものだ。そんなパカパカ切り替えられるなら、僕は多分真理見てる。

 

「チィ……」

「チェックメイトだ」

「──だったらお望み通り、手加減なしで行ってやるよ!」

 

 錬成途中のトラバサミが蹴っ飛ばされる。

 ──人間の足に。

 

 伴い、ボコボコと、決してお茶の間に見せることができない程に酷い絵となったリス。膨張した体表は更なる膨張を生み、水音と肉のぶつかり合う音を混ぜ合いながら、膨れ上がっていく。

 まず、手が生まれて。

 次に、顔が出てきて。

 胴体や腹部に肉が収まっていって──最後にもう片方の足が。

 

「ふぃ~……やっぱりこっちじゃないとね。んじゃ改めて、──初めましてだ、レムノス。そんで、じゃあな!!」

「エンヴィー」

 

 激昂しているのは変わっていなかったらしい。冷静な挨拶にこっちも挨拶を返そうとしたら、不意打ち気味に腕を伸ばして攻撃を仕掛けてきたから、それを避けようとしゃがもうとして、けれどその前に声がかかった。

 女性の声だ。

 

「……あ~。はいはい、すいませんでした。……珍しく気乗りしただけだ。他意はない。人柱候補を殺す気は無いよ」

「そう。ならいいけれど。……それで、その姿を見せた以上は、お別れでしょう? お別れの言葉は要らないのかしら、リスさん?」

 

 女性。

 茂みから出てきたのは、妖艶な……「出るとこ出た」という表現を使うに最もふさわしい女性。その胸元には、ウロボロスの刺青が入っている。

 

「いつから見てたんだよ趣味悪いなぁ……。……おい、レムノス」

「うん。何かな、リスさん」

「テメッ、わかってて言ってるだろ!」

「僕の名前は、レムノス・クラクトハイト。改めて、リスさん。君の名前を教えて欲しい」

 

 クラクトハイト。お父さん曰く、古い言葉で「設計者」を意味するらしい。

 聞いた時、ぴったり過ぎて流石に神様転生を疑ったね。神様会ってないけどこれ記憶消してるパターンなんじゃないかって。だったらなんだったって話なんだけど。あとそれだったらもっとわかりやすいチート頂戴よ。

 

「……エンヴィー」

「じゃあ、そっちはラストかな?」

「あら、頭の回転が速いのね。そうね、言い当てられたのなら名乗りましょう。私はラスト。正解よ」

 

 お別れだ。

 一か月間という短い間だったけど、なんなら三週間くらいだったけれど。

 それでも、気兼ねなく話すことのできる存在は少しばかりありがたかったかもしれない。その相手が敵でも、これから先、僕の大事なものを奪っていく可能性のある相手でも。

 

「言っとくけど、アンタは生かされてただけだからな。変な気起こすんじゃねえぞ。アンタなんか俺達にかかりゃ一瞬で」

「僕は人体錬成しないよ」

 

 顔の右を巨大質量の石柱が、心臓を突き刺そうとした最強の矛が、それぞれ地面から押し出し錬成された角柱に跳ね上げられる。

 ……間に合った。カチ、コチと音が響く。

 未だ余裕そうなラストとは反対に、エンヴィーは物凄い形相で地面を見た。

 

「じゃあ要らない。ってことだよね」

「そうねえ。それならアナタは、あっちの家の中にいる二人のための材料に──」

「──言ったよなぁ! 次に俺を欺いたらどうなるか!」

「うん。だから次欺くとしたら、お別れの時だって決めていたんだ。──カチカチとかガシャンとか、そんなわかりやすい音出すわけないじゃないか。そもそもなんで()()()()()()()()()()()()()()()()()、ってね」

 

 鎖を射出する。ラストに弾かれる。

 エンヴィー、君はこれを「攻撃性のない錬金術」だと言った。

 そうだとも。

 

 攻撃性があったら、殺傷能力があったら──ホムンクルスたる君達は再生できてしまう。

 拘束する方が有効だというのは、ダブリスにいる彼が証明してくれたからね。わざわざあんな場所に地獄の窯を設置しているのは、その全てのホムンクルスに有効だから、だろうし。

 

 エンヴィーの姿が鹿に変わる。

 

「ラスト、乗れ! 撤退だ!」

「あら珍しい。アナタがそんなに冷静な判断を下すなんて、余程あの子を買っているのね」

「茶化すのは後にしろ! ──来るぞ!」

 

 赤い錬成反応。

 たとえサンチェゴを使ったとしても、あり得ない──あり得てはならない量の鎖が二人に襲い掛かる。地面から、岩々から、木々から、本当にあらゆるところから、だ。

 

 ガチン、と音が鳴る。

 今度こそ本当の音。今までのフェイクのために鳴らしていたそれではない。サンチェゴの中の針が動き、違う錬成陣に切り替わった音だ。

 ポケットから──お父さんの部屋から拝借してきたライター*1を出して、その火を出せば。

 

 ()()()()()

 

 サンチェゴで作り出した酸素濃度を操る錬成陣、そして空気中の塵を導火線に走っていった火種は──。

 

 ぱん、なんて軽い音を立てて破裂するに終わった。

 

 ……いやね、僕は山火事の主犯にはなりたくないんだよ。流石にサンチェゴといえど、雨を降らせるとかそういう所にまで手が届くわけじゃない。なんでかって僕がそういう錬成陣を組み込んでいないから。

 天候を操る錬金術か。……うーん、曇りを晴れにするとか、そのくらいじゃない? それ以外は使用するエネルギーが比じゃないと思う。

 

 角柱を崩す。

 エンヴィーとラストの姿はない。足跡だけが続いている。

 ちゃんと撤退してくれた、ってことかな。

 

 さて。

 人体錬成をしない発言が、どこまで悟られている、と思わせられたのかはわからないけれど。

 これで僕側からも敵対宣言をしたわけだ。

 

 敵対宣言……というか、非協力宣言?

 

 うん、時間を使い過ぎた。お母さんはカンカンだろう。

 そろそろ家に戻ろう、と踵を返して──。

 

 背後に、鋼鉄の壁を出現させる。

 

「……こういうの杞憂って言うんだよね」

 

 そこに何かが当たることはなかった。ラストの最強の矛とかが超遠距離から飛んでくる可能性を読んだんだけどな。

 

 さようなら、リスさん。

 そしてこんにちは、いばらの道。

 

 

 

 ──国家錬金術師試験はもうすぐだ。

*1
父親は喫煙者ではないが、錬金術において火を扱うことはままあるため携帯式ライターを所持しているのはおかしなことではない





注:サブタイトルの「加速錬成」は実際に加速しているわけではなく、遅延錬成を切ることで通常の錬成速度になる時、見た目的には加速しているように見えるが故の加速錬成である。錬成速度を上げる技術ではない。
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