竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第十三話 母と子の会話「願望への階梯」&二つ名

 国家資格試験前日。

 アルドクラウドからセントラルまでは半日以上かかるため、前日入りして翌日に試験を受ける感じになる。

 お母さんが国家錬金術師であるため公共施設は使いたい放題。軍の宿泊施設の一つに僕も泊まらせてもらう、という形になった。

 

「がんばれよ、レミー!」

「うん。お父さん、一人で本当に大丈夫?」

「レミー? お父さんは子供ではありませんよ?」

「僕もお母さんもいなくなったら、ジョギングやめそうだなって」

「そんな怠け者じゃないぞ俺は!」

 

 駅で、そんなことを話して──お父さんとは別れた。

 

 ……僕の心配はホムンクルスの話だけど。

 まぁ、件のトラバサミをいろんなところに仕込んである。それ以外の、二日三日は余裕で保つほど遅延をかけたトラップ類も。ただ遅延錬成は当然最初に込めた僕の思念エネルギーを使っているから、長く保たせれば保たせるほど効果が落ちる。

 永続するトラップにするならもっといろいろ考えないといけない。思念の電池とか作れないのかなぁ。あ、それが賢者の石か。

 

 一応、錬金術関係ない普通のトラップも死ぬほど仕込んでおいた。人間が引っかかったら?

 ウチに近づく人間って、お母さんとお父さんの研究を盗みに来る悪人だけだから大丈夫だよ。

 

 

「セントラル、か」

「ふふふ、レミーにとっては初めての遠出ですからね。緊張していますか?」

「緊張もそうだけど、楽しみでもあるかも。僕、ウェストシティにも行ったことないから……都会、っていうのが想像つかなくて」

「ああ確かに、そうでしたね。あなたが生まれたのはウェストシティの病院ですけど、流石に記憶はないでしょうし」

「え、そうなんだ。知らなかった」

「今度……国家資格試験に合格したら、ウェストシティに家族で行ってみるのもいいでしょう。ただし、合格しなかったら」

「一生アルドクラウドから出さない、だよね。忘れてないよ」

 

 ちゃんと覚えている。

 そして、ちゃんと受かる気でいる。

 

 ただ、ウェストシティには行けないかもしれない。

 ──僕はもう、国家錬金術師になった後の道筋を決めているから。それはもしかしたら、お母さん達を悲しませる結果になるかもしれないけれど。

 

「……ねえ、レミー」

「なに?」

「何故、そんなにも生き急ぐのですか?」

 

 ガタン、と汽車が揺れた。

 そのままガタンゴトンと音が続く。悪路だから、線路の一個一個が短いんだろう。

 

「そう見える?」

「はい。……私達が、そうさせてしまいましたか?」

「ううん。これは僕の決定。別に何か失敗した経験があるとかじゃないけど、ただ、決めたから」

 

 決めた。

 守ると決めた。だから、それ以外は良い。

 ──二度目の人生だ。そして自在に操れる力まであると来た。

 

 だったら好きに生きたい。

 あるいは、他人から見れば生き急いでいるように、縛り付けられているように見えるのかもしれないけれど──これが僕の「好き」だから。

 

「お母さんは、僕に止まってほしい?」

「その問いはズルいですね。子が前に進むのを止める母がいると思いますか?」

「いるんじゃないかな。世界は広いよ、お母さん」

「では質問を変えます。私がそんな母親だと思いますか?」

「ううん。お母さんは、ちゃんと背中を押してくれるお母さん」

 

 そしてお父さんもそうだ。

 背を押して、肩車をしてくれて。

 

 返せるものとか、貰ったものとか、そういうことは考えない。親子にそういう概念は要らないって思ってる。

 なら僕はただ単純に、二人の子供として──奔放に生きる。

 

「軍人として、戦地に赴くつもりでしょう」

「……びっくりした。今まで一回も漏らしたこと無かったのに、なんでわかったの?」

 

 本気で驚いた。

 唐突だったのもあるし、考えの中ですら形にしていなかった──顔に出ないように努めていたことだったのに。

 

「母親ですから。わかりますよ、それくらいは」

「そっか。……そうだよ。そのつもりで、国家錬金術師になろうとしてる」

「命を奪うのは苦しいですよ」

「お母さんも苦しかった?」

「はい。ちゃんと。……今でも苦しいですよ」

「そっか」

 

 じゃあ、お母さんは兵器じゃないみたいだ。

 リス、もといエンヴィー。見誤ったね。

 

「ね、お母さん」

「はい」

「これ、持っててくれない?」

 

 出すのは、あの指輪。

 賢者の石のついた指輪。

 

「……意図を」

「あんまりね、使っちゃダメだよ。使用回数に制限がある。数十回で壊れちゃう代物だ。だけど、それまでは普通じゃ考えられない程の錬成が行える」

「意図を聞いていますよ、レミー」

 

 決まっている。

 

「僕は戦場に行きたい。……その間、お父さんとお母さんを守る人がいない」

「私は国家錬金術師です」

「うん。だから、要らなかったらお父さんに渡して」

「……お父さんも、今は育児休暇中ですが、軍人ですよ」

「だからだよ。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃ心配が過ぎる」

 

 強い。強い言葉を使った。

 目を見開くお母さん。……ごめんね。こんなことを言うのは嫌なんだけど。

 

 でも──そう遠くない内にお父さんは駆り出される。 

 東部の戦役は瞬く間に広がるだろう。殲滅戦は国家錬金術師が一斉に駆り出された大総統令であって、それ以前にも軍人の多くが彼の地へ投入されている。

 アルドクラウドのある位置は、ペンドルトンよりセントラルにほど近い。極論「銃を撃てる兵士」なら誰でも良いんだ。だってこの戦役を起こす奴らにとっては、死傷者が増えれば増えるほど嬉しいんだから。

 

 だったらこの石を使ってでも身を守ってほしい。

 僕もすぐに行く予定だし、そのための国家資格だけど……間に合わない可能性も大きい。加えて言うと、お父さんの錬金術にはあまり攻撃力が無いから、心配で心配だ。

 この石の材料はよく知っている。

 どういう経緯で作られたのかも大体わかっている。コレに込められているのが誰か、まではわからないけど、わかる。

 

「何を、知りましたか?」

「新しく知ったことは何もないよ」

「この石をあなたに渡した者がいるはずです。あなたは賢者の石の研究をしたいと私達に言ってきた。……賢者の石の作成方法を知る者に、何か吹き込まれましたか」

「そう思いたい?」

 

 恩を仇で返すとはまさにこのことだ。

 さっき貸し借りは家族に無い概念だと言ったけれど……それでもね。

 

 まったく、まだ行きの汽車だっていうのに、こんなに空気を重くしてどうする気だというのか。

 宿泊施設での空気を考えると心が痛くてたまらないよ。

 

「辿り着いたのですか。……一人で、独学で……この石を作る術に」

「うん。そしてそれは、とても危険なものだった。お母さんにもお父さんにも教えてあげられない程危険で──冒涜的な」

 

 本当にそうだとしたら、天才を通り越して傑物だけど。

 まぁ、十分に信じられる功績は残しているはずだ。だって僕錬金術習い始めてからまだ一か月だし。

 

「そうですか。……では一つ、あなたに良いことを教えてあげましょう。あの戦いのとき、良い言葉を教えてもらったお礼です」

「うん?」

「──レミー、私たちは、あなたが死んだら……()()()()()()()()()()

 

 笑ってしまいそうになる。

 いやお母さん。

 それは、どこまでわかってての脅しなんだろう。

 

 お母さんは国家錬金術師だけあって、頭が良い。頭の回転も早ければ想像力も豊かだ。ハンマーを作る速度が0.2秒程だったのを見れば自明だろう。

 その頭脳で、どこまで辿り着いたのか。

 その言葉を吐くということは、それが僕にとっての脅しになるとわかっていてのことだろうか。

 

 ああ。

 

「人体錬成は成功しないよ

 

 すれ違う。

 ……対向列車と。だから、僕の言葉はかき消されてしまった。

 サンチェゴの名を借りるなら──これは、言わない方がいい、ってことかな。

 

 そういえばいつの間にか線路が一本ではなくなっている。

 遠くに見えていたはずのセントラルは、もうすぐそこまで来ていて。

 

「別に住んでいるというわけではありませんが、一応先達として」

 

 お母さんは、手の先でその街を指して言う。

 

「ようこそセントラルシティへ。どのような用向きでしょうか?」

 

 結局、似た者同士ではあるのだろう。

 僕はちゃんと、お母さんにもお父さんにも似ているんだ。

 

 僕の……なんていうか、虚勢を張っていないときの、あんまり上手じゃない演技は。

 

 

「国家錬金術師になるために。夢を叶えるための、足掛けに」

 

 

 *

 

 

 無論。

 恙なく、そして何の詰まりもなく、僕は国家資格に合格した。

 

 最初こそ年齢に驚かれたものの、その言動と知識に驚かれ、国家錬金術師たるお母さんの推薦ということもあってするすると事が運んだ。

 普通、こういう所に身内を送り込むのは贔屓目だと見られることも多いんだけど、国家錬金術師に関しては軍属だ。それも侵略国家……隣国と紛争を繰り返すような国で、幼いとさえ言える我が子を軍へと推薦することに、贔屓などどこにあろうか、って話で。

 

 筆記試験。満点。

 精神鑑定。問題なし。

 

 そして実技試験も──最初こそ錬成速度の遅さに眉を顰められたものの、それを用いた様々なアレンジ錬成を見せ、その実用性を説いて──合格。また、床を破壊する、という理由で披露しないつもりだったサンチェゴも、練兵場に場を移すことで実践。その有用性は非常に高い評価を得た。

 僕はチャレンジャーじゃないので軍の高官に槍を向けたりしなかったし、キング・ブラッドレイ大総統が見に来ることもなかったけれど、軍の覚えは上々だと思う。

 ……気のせいでなければ。本当に気のせいでなければ、リス……もとい、それがよく変身している姿の軍人と終始すれ違いまくったような気もするけれど、まぁ気のせいだろう。そんな暇ないだろうし。

 

 軍の人たちとの会話も弾んだ。精神鑑定も含まれているんだろうけど、いつから国家錬金術師を志したのかとか、その幼さでどれほどの勉強したのかとか。ペラペラと口をついて出るのは嘘ばかり。いや、一か月前からです、なんて言ったらそっちの方が嘘っぽいし。あとそれだと軍への忠誠部分が曖昧になりかねないから、それはもうでっち上げの連鎖連鎖。

 

 にしても、普通これほどの数の大人の男の人たちに囲まれたら子供は委縮すると思うんだけど、相手が僕だからなのか、それとも本気でわかっていないのか、どんどんどんどん、次から次へと挨拶しに来る軍人たち。

 幼いから大人の言葉で丸め込める、とも思われたっぽいのは大きい。まぁそれはすぐに覆させてもらうつもりだけど。

 

 軍人の挨拶車輪陣は、冷たい目をしたお母さんが割って入ってくるまで続いた。僕としてはまだまだいけたけど、耐えられなかったのはお母さんの方だったっぽい。

 

 抱きあげられて、抱きしめられて──少しだけ悲しそうな声で、「おめでとうございます」と言われて。僕も「ありがとう」と返した。

 

 

 全ての手続きと処理が終わった後、軍から貰った二つ名は、当然──。

 

 

竜頭(リューズ)の錬金術師」 / 第一章 完

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