竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
第十四話 錬金術の応用「合成獣」&国境戦
1900年3月某日。
隣国クレタとの緩衝地帯たるペンドルトンに、竜頭の錬金術師が初投入された。
倫理の観点や戦闘訓練もロクに受けていない者を戦場に、などあり得ないとの批判も上がったが──竜頭の錬金術師本人が強く強く国防を……戦地への投入を希望していたことから、それは押し通された。
結果は。
*
「……上々、ではあるのかな」
「いや、流石は国家錬金術師です、という言葉を送ります……」
サンチェゴを使うまでもなかった……なんて言うと余裕に聞こえるかもしれないけれど、僕的には辛勝だった。
僕の錬金スタイルは軍に周知されている。そして投入される戦地にいる軍人にも、だ。
小さな錬金術師、なんて目で見られたのも束の間、特に禁止されていないトラップ類の様々──敵が解析して使ってくることを考えて、遅延錬成を用いてのもののみの使用を提案。塹壕作って銃で撃つのがメインだった戦争という形を様変わりさせる結果となった。
……のだけど。
いやぁ、銃。無理だね、避けるとかね。
奇跡的に当たらなかった。それだけだ。僕の遅延錬成の良い所は「誰にでも使える」という点だ。トラバサミも──そして今回出した遅延錬成地雷も。錬金術がエネルギー源だから暴発の危険性もなく、壊れたら錬成し直せば良いECOスタイル。
だから、これを前線で戦う軍人に渡して、設置してもらって、回収してもらって。
それだけでも良かったのに、僕は外に出た……戦場をこの目に焼き付けようとした。
ほんっとにギリギリだったよ。
狙ったのか苦し紛れだったのかはわからないけれど、銃弾は僕の頬を掠めた。別に痛みはそこまでじゃないし、それより怖い物使ってるから恐怖もそんなだったけど、うん、アレは無理。避けるとか反応して壁を張るとか、そういう段階にない。
どれほどの品質の物かは知らないけど、どれほどの品質の物でも無理だろう。
もしあれの軌道が少しでも逸れていたら、僕の頭はぱっかーんとなっていただろう。
人間は簡単に死ぬ。子供だから、身体のどこを撃たれてもマズかったかもしれない。血液量は大人より少ないんだ、大人より早く死ぬ。大人より簡単に死ぬ。
「しかし、圧巻でしたな……遅延錬成地雷と言いましたか。撒くだけで自ら地に潜り、隠れる。まるで生き物のようでいて、その効果は絶大。これを量産できればアメストリス国軍の死傷者はドンと減ります」
「うん。でもごめんね、まだ三日しか保たない。もっと長く保存したいのなら、巨大化させるか、あるいは」
「もっとたくさんの実験を、ですね?」
「あくまで戦闘経験を、だからね」
「ああ、はい。申し訳ありません。失言でした」
僕は誰かに守られて戦うべきだ。僕自身がなんとかしてサンチェゴを作る時間を稼ぐ、なんてのは横槍が入らない一対一、最悪一対二の状況でやるべきことであって、戦場に出てきてやることじゃない。
学び。学びだね。
「しかし、これでクレタの奴らもしばらくは大人しくすることでしょう。……クラクトハイト殿は、やはり南部へ?」
「うん。あそこも激しく戦いをしているから、応援しに行かなきゃ」
「その歳でそこまでの愛国心を……尊敬します」
「お父さんとお母さんに死んでほしくないから。それだけだよ」
竜頭の錬金術師、クラクトハイト。
マスタング大佐、ヒューズ中佐よろしくファミリーネームで呼ばれているから、少し慣れない。お母さんもお父さんもクラクトハイトだけど、お父さんには階級が、お母さんは「大槌殿」って呼ばれてるらしいので混同はされないと思うけど、うーん、中々変な気分。
人を殺した。
……という感覚は、無い。感触が無いからだろう。まぁ、銃も同じようなものだ。
これに対し、恐怖を覚えるだとか、罪悪感を覚えるだとか、あるいは自分を嫌悪するとかは、無い。真っ当な人として感じるべきなのか、軍人だからこれが正常なのか。ヒューズ中佐なんかは敵は死ねばいい、みたいな倫理観をしていたし、マスタング大佐も敵に容赦はない。
敵なら、だけど。
「そういえば、クラクトハイト殿。紅蓮の錬金術師とは面識があるのですか?」
「ないけど、どうして?」
ペンドルトンの司令官にそう問われて、クエスチョンマークを浮かべる。
紅蓮の錬金術師。ゾルフ・J・キンブリーと、僕。接点はないと思うけど。というかあの人って現時点でもう国家錬金術師なんだ。各国家錬金術師がいつ国家錬金術師になったのかあんまり知らないんだよね。士官学校組はある程度わかるけど……。
確か鋼の錬金術師の開始時点で200人くらいいるんだっけ。結構多いよね。
「いえ、地面を爆破する、という手法を扱う錬金術師が、紅蓮殿しか思い至らなかったもので……」
「ああ……。まぁ、いつか会って話してみたいな、という気はあるよ。どの道すぐに会えそうな気もしているけれど」
言外に「それだけ非人道的」って言っているようなものだけど。
子供の無邪気さ、と捉えられているのかな。無邪気は流石に無理か。邪気……いや邪気でもないような。
ともあれ、これで僕の初陣は終了。
1901年までに戦果を挙げ続けて、イシュヴァール戦役に初めから投入されてもおかしくないくらいの"愛国者"になる。
そうして。
──お母さんを殺す可能性のある
あの戦役で、なんなら被害を被った側であるはずのエドまで
作中でキンブリーは悪人だった。他人とはズレた価値観を持っているが故に狂人で、美学を名乗った殺戮で最期までエド達の敵だった。
でも彼の語った言葉まで悪だと、おかしいとは思わない。それは覚悟だ。覚悟だし、矜持だ。
というか僕からしても殲滅戦で殲滅し切らない理由がわからない。殲滅戦を謳うんだから、殺し切らないとダメだろう。憎悪は憎悪を呼ぶ。それを断ち切るためには、憎悪する全てを根絶しなければならない。
「クラクトハイト殿?」
「あ……あぁ、移動か。うん、よろしくお願いします」
「はい! 責任を持って護送いたします!」
原作通りに進める必要なんて無いんだ。
十分だろう。
まぁ杞憂するのなら、すべてを殺し尽くした後に研究日誌だけ発掘すればいい。焔も紅蓮もいなければ、燃え尽きることもないだろうから。
軍はイシュヴァール人の瀕死者さえいればいいんだろう。賢者の石作りたいだけだから。その殺し方に指定はない。
「クラクトハイト殿は、将来の夢などはあるんですか?」
「将来の夢?」
「はい。勿論このまま軍属になることもできますが、その年齢でしたら、他の選択肢も」
「……アメストリスが隣国を全部吸収したら、その時に考えるよ」
「そ……それは、壮大な」
「実現は不可?」
「……いえ、国家錬金術師の方々の力があれば……実現は、可能かと……!」
そうだ。できる。
なんなら隣国には賢者の石の蓋が無い。そこにこれほど錬金術の発達した国の国家錬金術師を送り込めば、殲滅なんか簡単だ。
そこまでやったら、ようやく別の事を考えられる、かな。
永遠の命が欲しいとは思わないし、寿命や──病気は、もう仕方がない。僕の知識でどうにかできる病気ならどうにかしたい意欲はあるけれど、異世界の病気が前世のものと全く同じか、なんてわからない。僕は医者じゃないし、医学の勉強はしていないから、多分どうしようもない。
僕にできるのは国防と、暗躍している彼らの計画の阻止。そして錬金術による非人道的兵器の開発。国際条約で縛られない内にアメストリスを超大国にする。ぶっちゃけ国家錬金術師がいるんだから兵器類が縛られることは無い気もしているけど。
化学薬品系の錬金術師ってなんでいないんだろうね。少年誌的にNGだったとかかな。それとも生体錬成の領域だから? ……いや、多分少年誌の倫理規定だろう。だって今の僕でもいくらでも思いつくし。
鋼の錬金術師本編が終わっても危機は去らないまま、じゃダメなんだ。
──全部。全部やる。全部やらなきゃ──。
「クラクトハイト殿は、ご両親が大好きなんですね」
「ん……僕今なんか言ってた?」
「いえ。ペンドルトンの司令官殿が、クラクトハイト殿が"お父さんとお母さんを守るために戦っていると言っていた"、と……その、号泣していましたので」
「ああ。……うん。好きだよ」
良い。
良い印象付けだ。僕が二人を好きなのは勿論だけど、お父さんとお母さんのために戦っている、という伝聞は印象がいいし、操りやすいという印象も与えられる。もし何かしらの謀略にあって裏切りが起きた場合、サンチェゴの作成に必要な時間を稼ぎやすいというのは良いことだ。
「クラクトハイト殿は──」
「ごめんね、そろそろ眠い。駅に着いたら起こしてほしい」
「あっ、も、申し訳ありません。……おやすみなさい」
体力は温存しないといけない。
僕はまだ、徹夜してずっと戦い続けるような体力は身に着けていない。
眠って──次の戦いに。
*
で、今日の座学である。
国家錬金術師になったから、と言って座学を欠かすことは無い。戦っていない間、錬金術の開発というか応用や基礎の土台作り、小技のアイデア出しをやっている。
例えばこれ。
「えーと、遅延連鎖錬成で、噴射機構で」
特に危険性のない錬金術だけど、一応周囲に人がいないことを確認して……ポイッと放る。
遅延連鎖錬成はアレね、お母さんと戦った時にやった閃光弾の奴ね。
それの錬成陣を火花の噴射をするものに変えて放ったのだ。
これで何が起こるかって。
「うわっと!?」
バチバチ、グルグルと回りながら眩い火花を散らす小石。
連続して火花を噴出するから小石がくるくる回転して、小石自体が軽いからどこに行くのか予測不可能な動きをする。
つまるところ、ネズミ花火だ。
ただの火花だから何のダメージもないんだけど、これ例えば酸とかにしたら超危ないよね。
とかー。
適当な錬成陣を描き、そこに思念を──送るか送らないかのギリギリな量を込める。
普通、術師は直感的に「これくらい必要だな、バン!」で込めるんだけど、たとえば想像力をわざと欠如させたり、理解の部分を甘くしたりすることで思念を不足させ、エネルギーを減らす、という手法を取ることができる。
ちょっと危なくはある。リバウンドがね。でもちゃんと理解した上でこれをやると。
「おお」
チカ……チカ……と、断続的に光る錬成陣。
青い錬成反応は弱弱しく、発動するのかしないのかよくわからない状態が数十秒続いて、ようやく錬成が始まった。
少しばかり意味合いは違うんだけど、僕はこれをチャタリング錬成と呼んでいる。何に使えるかは……まぁお楽しみかな。
他にも、円の中に上向き三角形、その周囲に手裏剣を背負う太陽、正円の中に黒点、サラマンダーのマークを描いて、錬成。
すると中心点からぼふん、と、物凄く火力の低い炎が立ち上がる。
これは重複記号。一つの錬成陣の中に同じ意味を持つ記号を複数いれて、増強ではなく弱体化させる方法。エネルギーが分散するんだよね。どこに行けばいいかわからなくなるというか。
用途は特に決まっていない。
で、今僕が研究開発しようと思っているのはトランジスタだ。
どうにかして思念エネルギーをコントロールするような記号、あるいは図形を作れないものかな、と。単純に電気回路で見られるようなトランジスタの記号を書いてもダメだった。僕が思念エネルギーの増幅やオンオフについての理解が浅いからか、思念エネルギーの増幅、なんてものができないからか。
ぶっちゃけオンオフは物理的に錬成陣を切り貼りすればできる。トラバサミや地雷と一緒だ。
だけど増幅は……うーん、減少ができるんだから増幅もできそうなのになぁ、とか、でも「思念」の増幅ってなんだ……? とか散々悩んで、今も悩み中。
「思念専用の半導体的なものが無いと無理かなぁ」
それってなんですか。
……電気を例えに出してみよう。半導体は導体と絶縁体の中間の材料だ。ざっくりと。
じゃあ思念を通しやすい「導体」とは何か。……錬成陣か。
思念を通さない「絶縁体」は何か。……賢者の石?
錬成陣と賢者の石の中間素材?
……錬金術で考えるから悪いのかな。錬丹術の方が流れ……電気感はあるから、どうだろう。
流れを通しやすいものは自然物だ。自然に出来上がったもの、また龍脈を形作るもの。
通し難いのは錬成物だ。錬成物は流れを阻害する。阻害するというか、ある意味で集めるというか。
自然物と錬成物の中間素材。それならば、錬丹術にとっての半導体になり得る、か?
「……
自然物でありながら錬成物であるもの。
キメラは……半導体になれる? いやでも生体……ふむ。ちょっと勉強意欲が出てきたな。
イシュヴァール戦役が早めに終われば、ティム・マルコーさんも手が空くはずだ。いやもっと悲惨な事になるのかもしれないけど、そうなったら別の人で。
……うん。やっぱりイシュヴァールは早めに殲滅した方が良い。
殺さなくても拘束して軍に引き渡せば、そのまま実験材料に……殺してくれるんだ。復讐の芽も生まれない。完璧だ。
イシュヴァール戦役。
それが始まる1901年まで、あと9か月──。