竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

15 / 98
第十五話 錬金術の応用「感圧式錬成」

 アエルゴとの国境線、ピットランドにいた時のことだ。

 中々に熾烈というか、クレタより激しい抵抗をしてくるアエルゴに、そろそろ別の錬成兵器も取り出そうかな、と思っていた頃合い。

 与えられた部屋で錬成陣の組み合わせについて頭を捻らせていた僕は、何やら騒がしくなった外に気が付いた。すわアエルゴ側がまた何かしかけてきたのかと身構えるも、中々呼び出しがかからない。僕は志願して戦地にいるものの、命令は司令部がするものだ。故に呼び出されない限りは行かないし、兵士だけで片付きそうなことには手を出さない。出せない、が正しいかな。

 この騒ぎもそういう兵士だけで片付いたことか、あるいは何か交渉事のために使者が来たとかそんなところかな、と思っていたのも束の間。

 

「こ、こちらです!」

「うむ。ご苦労」

 

 ──その渋い声に、思わず壁を捻る。

 

 開く扉。

 そこに現れたのは──。

 

「キング・ブラッドレイ大総統……」

「ほう、小さいのによく勉強しているな」

「……お初にお目にかかります。竜頭の錬金術師、レムノス・クラクトハイトです」

「ああ、そう畏まらなくても良い。今日は南部の視察ついでに、ここで大活躍中だという君を一目見に来ただけなのだから」

「南部の視察。大総統ともあろうものが、こんな危険地帯に、ですか」

「なに、私の護衛も、そして私も、流れ弾程度に殺されるような鍛え方はしておらんよ」

 

 キング・ブラッドレイ大総統。

 この国のトップで、独裁政権を敷く者。アメストリス自体が元々侵略国家だったからそれを引き継いだ形にはなるけれど、それ以前よりもさらに隣国への牙を研ぎ澄ませ、交渉においても一歩も譲らぬ姿勢を見せる──侵略、独裁、軍拡で辞書を引いたら名前が載っていそうな人。

 そして。 

 

「……」

「……」

「……はっはっは、そう警戒せずとも問題なかろう。()()()()()、竜頭の錬金術師君?」

「流石に警戒しますよ。国家錬金術師になってからまだ半年も経っていないような子供に直接会いに来る、なんて。──それも、護衛など一人もつけていないままに」

「ほう、わかるのかね?」

「いいえ。ただ、同じでしょう。護衛が部屋に入ってこなかった時点で、いてもいなくても変わりはない。──僕に害される可能性を考えるなら、入らない理由が無いから」

「害される、とは。中々異なことを言うものだな、竜頭の錬金術師。君は根っからの愛国者、アメストリスを守るために日夜身を粉にして戦っていると聞いているが、違ったのかね?」

「違いません。正確にはお父さんとお母さんを守るため、ですが。そして、その件と閣下を僕が害する可能性の件は何ら矛盾しません。閣下はこの国に戦火を呼び込む身。僕の故郷がその戦火に冒されるのならば、僕は戦火の全てを滅ぼし尽くした後、あなたに剣を向けるでしょうから」

「大言壮語は程々にしたまえ……と、一般兵相手にならば言うのだがな。()()()()()()()()。──だから今日、私はここに来た」

 

 ぶっちゃけ僕は別に舌戦に長けているとか腹の探り合いが得意とか、そういうことは一切ない。

 前世で外交官の仕事をしていたとかじゃないんだ。今生でもそれは同じ。腹の探り合いなんてエンヴィーとやったのが最後。

 国境線じゃ、僕から探る腹は無く、相手は僕を純粋な子供だと思っているから探るという概念すら持ち出さない。

 

 僕とこういう話し合いをしよう、としてきた時点で、僕がどういう人間なのかは見抜かれていると思った方が良い。

 このキング・ブラッドレイ大総統に。

 

「竜頭の錬金術師、レムノス・クラクトハイト。私は君に──否、我々は君に協力を申し出に来た」

 

 ──どっちか、だとは思っていた。

 正式に軍に入れ、か。

 こっち側に付け、か。そのどちらかだと。

 

 アタリだ。

 

「どこまで察してよいものですか、閣下」

「はっはっは──知り過ぎれば身を滅ぼすぞ?」

「なら、イシュヴァール──あたりで止めておきましょうか」

 

 金属音。反応できない。

 僕の眼には何も映っていない。何もだ。大総統の姿も──彼の振るう軍刀の煌めきも。

 

 だから、反応の出来ないままに首に添えられていた剣に、添えられてから気が付いたし。

 この部屋全体を覆いつくした赤い錬成反応を伴う錬成陣にも、それが光ってから気が付いた。

 

「……子供を殺すと、外聞が悪くなりますよ、閣下」

「子供とて不穏分子は不穏分子。外聞がどうなろうと知ったことではない。もみ消せばよい」

「成程、閣下の醜聞を聞かないわけですね」

 

 寸止め、ではない。

 薄皮一枚は斬れている。だからこそ錬成陣が発動したんだけど。

 

「それで、返事は?」

「この剣を降ろしていただけるのであれば」

「よろしい」

 

 剣が離される。

 同時、錬成陣も姿を消した。

 

 ……ふぅ。

 こっわ。

 

「それで、実際のところどこまで察したのか聞いても?」

「別に大したことじゃないですよ。最近イシュヴァール人の不満が閾値を越えつつある。東部軍が何度も彼らと衝突していると聞きました。隣国との紛争に忙しい身たる大総統、あるいは軍からすれば、アエルゴと繋がりかねないあの地は"邪魔"でしょう。早急に潰しておきたい、と考えるのは当然では?」

「潰しておきたい、か。同じアメストリス国民である、ということは理解しているな?」

「無論です。けれど同時に、同じアメストリス国民でしかない。さっき言った通り、僕の大事なものはあくまでお父さんとお母さんで、アメストリス国民じゃない。──二人を守るためなら、アメストリス国民であることに不満を持つアメストリス国民なんて消えても構わない」

 

 過激な言葉だ。

 果たしてそれを、幼さゆえの危うさと見るか──使える、と捉えるか。

 

「……ふっふっふ。よろしい。それでは君に、これを預けよう」

 

 そう言って大総統が懐から出してきたのは──あの指輪なんか目じゃない程の大きさの、赤い石。

 

「先ほどのように勝手に使われるとこちらも困る事情があるのでな。この小さな方で我慢してくれたまえ」

「コレで、イシュヴァール人の殲滅を?」

「言葉には気を付けることだ竜頭の錬金術師。あくまで鎮圧だ──これから起こる内乱の、な」

 

 起こってもいないのに。

 イシュヴァール人はまだ、内乱を起こしていないのに、そう言う。

 

「アメストリスを大国にしたいのだろう? 隣国どころか、大陸全土を飲み込むほどに」

「良く知っていますね。それを話した相手は一人だけなのですが」

「はっはっは、壁に耳あり装甲車に目あり、だ」

 

 ……そうか、盗聴系統についての対策はしていなかった。あの軍人が喋った可能性も無きにしも非ずだけど、あの車そのものにそういう類のものが仕掛けられていたとしてもおかしくはない。

 子供の国家錬金術師。それも莫大な力を持ち、且つ「誰もが扱える錬成兵器」を作り出すことのできる者など、どの勢力に狙われてもおかしくはないのだから。

 

「承りました。イシュヴァールでの内乱が開始次第、僕を投入してください。──老若男女、一人残らず鎮圧してみせます」

「うむ。期待しているぞ、竜頭の錬金術師。……と、難しい話はここまでにするとしようじゃないか」

 

 これで、まだ雇われではあるけれど、キンブリーと似た立ち位置についた、ってことでいいのかな。

 まぁ立ち位置なんかどうでもいいか。

 一つ目の目標、内乱が始まってすぐに投入される、を達成できることが確約されたんだから。

 

「竜頭の錬金術師……いや、レムノス・クラクトハイト君。──甘いものは好きかね?」

「好きです。というより、苦手な食べ物はないですね。食べられるものは大体好きですよ、僕」

「そうか。では、今日のデザートはローレルヴェイルで採れた大玉スイカだ。私はこれ以上の長居はできないから食べることはできないが、次会った時は是非感想を聞かせてくれたまえ」

「次会うのはいつになりそうですか?」

「君の働き次第だろうな」

 

 言って、キング・ブラッドレイ大総統は好々爺たる笑みを浮かべながら、そして快活に笑いながら、部屋を出て行った。

 

 ……。

 ……奇襲も無し。ただし、背後に変な流れあり。最近ね、ようやく、微妙にはわかるようになってきたよ。人が蠢く感じ、というのは全く分からないけど、地殻エネルギーを阻害する蓋と同じ気配だ、って考えたらわからないでもないな、って感じの気配。

 

「ふぅ……」

「ハッ! 流石のアンタもアレ相手には疲れるか」

「うん。久しぶりだね、リスさん……いや小鳥さん」

「もう名乗っただろ。エンヴィーって呼べよ、レムノス」

 

 可愛い可愛い小鳥の姿をしたエンヴィーが、そこに……ああヒトガタに戻っちゃった。あと窓割って開けるのやめようよ。直すの僕なんだよ。

 

「それで、どんな用向き? また僕を殺しに来たの?」

「いや? アンタはもう殺害対象じゃなくなったからな。余計なことはしないさ。それより、さっきの……見えてなかっただろ? アイツの剣。反応できてなかった。だってのに錬成陣は発動した。どういう仕組みだ?」

「……結構な切り札の一つなんだけど、まぁいいか。どうせバレるだろうし」

 

 さっきの。つまりキング・ブラッドレイの攻撃で発動した錬成陣のことだ。

 どこから見ていたのかは知らないけど、いや全く、油断も隙もない。僕の流れみたいなののわかる範囲もかなり狭いからなぁ。ちょっと遠くから狙われてたりしても気付けないんだよね。

 

「簡単に言えば感圧式錬成陣だよ」

「簡単に言ってないよーそれ」

「あー、じゃあ、そうだね。コレ、見える?」

「ん?」

 

 これ、と言って指を指すのは、自身の首。

 キング・ブラッドレイに斬られたそこは、けれど血液が出ていない。どころか、薄いゴム膜のようなものが破れ、本来の肌が奥の方に顔を覗かせていた。

 

「……なんだそりゃ。偽物の肌?」

「まぁ、似たようなもの。もう壊れちゃったから脱ぐけど……」

 

 背中側にある留め具を外し、首の周辺に巻いていたそれを剥がす。

 ふぅ、南部でコレはちょっと暑いね。他の通気性のある素材を探すべきかなぁ。とか考えながら、さらに一枚を剥がす。ちなみに本物の肌はその下にあるから、実は薄皮一枚じゃなくて薄皮二枚斬られていたんだよね。

 キング・ブラッドレイはそれを把握していたのか、あるいは斬っている最中に気付いてもう一枚分深くしたのか、そこまでしてから寸止めをしている。流石最強の眼。怖すぎね。

 

「ほら」

「……うわ。これ全部錬成陣か?」

「うん。書きかけの錬成陣。そして、もう一枚の方にも、書きかけの錬成陣」

「……で?」

「で、ほら、この前君が引っかかったトラバサミがあったでしょ? あれ、開いている時は遅延錬成が発動し続けて、最大三日くらいはそのままでいる代物なんだけど、獲物が引っかかって刃が閉じると遅延錬成が切れて、刃に描かれた通常の錬成陣が発動する、っていう仕組みなんだよね」

「あー。……で。ほら、早く答えを言えよ」

 

 つまり、と。

 思念を込めながら、二つの薄皮を重ね合わせる。

 瞬間、青い錬成反応が返って来た。

 

「感圧式……抵抗膜方式って言った方がいいかな。こっちの肌に近い方の膜には粗い目のやすりみたいな粒がたくさんあってさ。二枚の皮はその粒によって薄い薄い隙間が作られている。けれど、なんらかのアクシデントによって僕の首が斬られたり絞められたりした瞬間、二枚に描かれた錬成陣は重なり合い、仕込まれた錬金術が発動する」

 

 要はゾルフ・J・キンブリーの錬成陣と同じだ。

 重ね合わせることによって意味を発揮する錬成陣だから、通常状態では特に害はない。プラスして何か賢者の石的な電源があるわけでもないので、僕が思念を込めている時にしか発動しない。だから暴発の危険性も無し。

 問題点も同じで、結局これは「今敵対者が近くにいる」ってわかっている時の保険でしかない、という点だ。今アエルゴとの国境線にいて、もしかしたらアエルゴのスパイなりなんなりが僕を暗殺しに来るかもしれない。

 その時、多分というか必ず錬成兵器について聞き出してくるだろうから、僕には意識があるだろう。そこで殺される時、サンチェゴが間に合わないのなら──コレで道連れにする。そのつもりでこっちに来てからずっと巻いていたコレを、まさか自国の大総統相手に使うとは。

 

 あ、だから本当の暗殺……狙撃とか奇襲には抵抗できない。

 簡単にパァンとやられて死ぬだろう。そもそも頭蓋への狙撃には対応していないしね。……鎧とか被るのは手? いやいや、流石に。

 

「……相変わらず変なモン作ってんなぁ」

「自衛のためだからね。勿論アメストリスの国防にも多大な貢献をしている自覚があるよ」

「あー、そりゃ聞いてる聞いてる。西部でも南部でも、凄まじい戦果を残しているだのなんだの。ハッ、本当に杞憂だったワケだ。やる時はやるからさ、だっけ? いやぁ、何人殺すんだよってくらい殺してるな、お前」

「非国民に向ける愛情があると思うの?」

「おお、怖い怖い。なぁ知ってるか、レムノス。アンタの功績は目覚しいもので、多くに喜ばれている。けど反面、アンタを"悪魔の子"だの"子供の形をした悪夢"だの、"狂い堕ちた忌み子"だの……それなりの誹謗中傷が飛び交ってるって事実」

「知ってるよ。それでお父さんとお母さんが心を痛めていることまで知ってる」

「知ってんのかよ……。いやぁ、人間って愚かだよなぁ。自分たちを守る存在だってのに、何を怖がってんだか」

 

 この歳で人間兵器だ。

 倫理を問われたら、流石に「それはそう」としか返せない。同時に「それがなに?」でもある。

 僕より幼い国家錬金術師は確かにいないけど、僕より幼いスリや犯罪者はそれなりにいる。ラッシュバレーの周辺とかすごいよ。まだイシュヴァール戦役が起こっていないからね、需要が高まっていない状態のあそこはスラムと然程変わらない。

 それでいてイーストシティ周辺のスラムと違って緑が豊かではないし、気候も厳しいものだから、"食うに困れば人から奪え"が根付いている。子供も大人も、生きる為なら殺すことにだって容赦がない。

 

 それよりマシ、なんて言い訳をするつもりはないけれど、外側に目を向けている暇があったら内側をどうにかしてほしいものだな、なんて面倒な風刺をつらつらと。

 

「アンタさ、また賢者の石貰っただろ」

「ああ、うん。その言い方だと彼は君たちの仲間だって言っているようなものなんだけど」

「おいおい、また俺を欺こうってのか? わかってんだろ?」

「まぁ、そうだね。わかってる。というか、地下の蓋について言及してきたのが答えではあるか」

「ハハッ、確かにな。……で、だ。使うのか? アレ」

「アレって、石? それともサンチェゴ?」

「サンチェゴの方だよ。アレが人殺しの道具に変わる所をまだ見たことが無いからさぁ、使うなら近くで見たいんだよね。鎖なんて生温いもので終わらす気は無いんだろ?」

 

 ……まぁ。

 抵抗が弱い内は鎮圧として鎖による拘束を選択するつもりだった。

 

 けど。

 

「イシュヴァールの武僧って奴らは強いぜ。奴ら、一人でアメストリス軍人十人相当って話だ」

「はじめから全力で叩き潰したいのは山々なんだけどね。あくまで鎮圧だ、って釘を刺されちゃったから」

「そんな余裕が保てりゃいいけどな。なんだ、案外早く見られそうじゃん」

「どの道口火を切るのは君なんだから、僕をその隣に置いてくれたら楽なんだけどね」

「……」

「エンヴィー?」

 

 彼は──ニヤりと笑って。

 

 採用だ、と言ってくれた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。