竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第十六話 錬金術の考察「焔の錬金術」&子供射殺事件

 まず初めに言っておくことがある、とエンヴィーに先置きする。既に軍将校の姿となっているエンヴィーは、知ってるよ、と返してきた。

 

「アンタの錬金術は広範囲殲滅に向いてない──とかそんな所だろ?」

「ああうん、わかっているならいいや。イシュヴァールは広いからね、流石に全土というのは僕の手にも余る」

「ハハッ、そりゃお前だけにやらせたりはしないさ。つか、そうなったらただお前が発狂してイシュヴァールを潰したってだけになっちまう」

「ただ同時に、良いパフォーマンスはできると思ってるよ」

 

 イシュヴァールに置かれた軍駐屯地。

 そこを顔パスできる立ち位置の将校で、国家錬金術師の僕を引き連れていてもおかしくはない交友関係。その全てを僕がここへたどり着くまでに用意してあったというのだから、やはりエンヴィーの変身能力と軍そのものの支配というか腐敗はどこまでも進んでいるんだなぁ、と感慨深い思いで、そこへ足を踏み入れる。

 砂と岩。荒れ地。

 一瞬でわかる。ユースウェルから続く山岳地帯と東の大砂漠が入り混じったこの地。過酷にして劣悪。ここで育てば、武僧というのがあれだけ強くなるのも理解できる。

 

 当然だけどまだ内乱は起こっていないから、この軍駐屯地の近くにもイシュヴァール人は沢山いる。ああ、アメストリス軍内部にもね。

 だからなんというか、少しばかり慣れない感じはあった。まだほのぼのとしているここ。勿論宗教関係の対立があるから、時折向けられる彼らからのピリピリとした空気は抜けないんだけど、まだここは戦場じゃない。

 今まで僕が行ってきた場所は「すでに戦場になっていた場所」だった。

 それが──。

 

「んじゃ、アンタはここにいな。何もしゃべらなくていい。俺が朗々と高説垂れて、激昂してきた奴がいたら煽って、組みつかれたらいい感じにガキを撃ち抜く。俺は後退しながら"ソンナツモリハナカッタンダー"つって逃げる」

「それで、暴動が起きたら。たまたま一緒に来ていた国家錬金術師の登場か」

「そういうこと。ガキを撃ったのは勿論誤射だし、アンタが来ていた理由も南部の帰りに立ち寄っただけ。偶然だ。全部が全部偶然で──その偶然に不満が抑えきれなくなって、内乱が起きる」

 

 んじゃあな、と言って手を振りイシュヴァールの村落へ向かうエンヴィーを見送る。

 

 そんな簡単に行くものか、とも思うけれど、行かなかったら別にいいのだ。

 イシュヴァール人が内乱を起こさなかったら、また別の方法を試せばいい。ホムンクルス側に何の損失もない。僕も、暴動が起きなければ手を出さずに帰ればいい。

 

 ……まぁ。

 

 乾いた音。

 しゃがんで、地面に円を描く。他の地域と材質が違うけど、今の僕には賢者の石があるから、関係ない。

 等価交換を無視して……ではなく、賢者の石のエネルギーという等価を交換し、僕に出せる最大の速度でサンチェゴが形成されていく。……それにしたって遅いんだけどね。

 

 ざわめき、どよめき。 

 イシュヴァール側からもアメストリス軍側からも怒号が発せられ、さっきまでのエンヴィーとは似ても似つかない情けない声を上げるダレカが「そ、そんなつもりはなかった! あ、アイツが悪いんだ、アイツが脅してくるから! あんな剣幕で来られたら、身の危険を感じて撃ってしまうのは仕方がないことだろう!?」と……いやホント、見習うべき演技力。

 本当に焦っているような声で、本当に自分は悪くないと言いたげな声で、本当に──自分は許される、と思っているような声で。

 

 ──斯うして史実通りと言えばいいか、戦端は開かれる。その将校の様子に沸点をぶっちぎったイシュヴァールの善人たちが、軍将校へ──アメストリス軍へ群がり、こちらが悪いと思っていながらも、黙ってやられるわけには行かないアメストリス軍が抵抗する。

 暴動だ。

 これを内乱と呼ぶにはまだ火が小さすぎるけれど、とりあえずこの暴動は鎮火させなければならない。

 

 だから、出る。

 

 というか、出す。

 

 ズン、と音を立てて──ソレは出現する。

 

「なん……だ? 時計……?」

 

 いつも言っているように、出すのはあくまでパフォーマンス重視。壊される危険性を思えば地中に埋めておいた方が絶対安全なソレは、けれど視覚的には抜群の「それっぽさ」を出せる。

 

 文字盤に赤が走る。いくつもの円、いくつもの線に赤い錬成反応が滲みだし、同時に描かれた記号たちがそれぞれの円に対応するように抽出され、力が通る。

 賢者の石を使っている以上正直僕のやってきた基礎も応用も関係ないんだけど、一応乾湿の錬成陣の形を保って、出すのは鎖だ。

 

「いっ!?」

「ありゃ──まさか、国家錬金術師か!?」

「やべぇ、退け、退け! ──巻き添えくらうぞ!」

 

 酷い話である。

 僕はまだ、一度たりとも味方を巻き込んだことは無い。錬成兵器を貸し与えるにせよ、僕の錬金術でなんとかするにせよ、味方とされる存在を巻き込んでの大規模破壊なんか一回もやったことが無い。

 だけど噂というものは先行するものだ。

 エンヴィーに言われた通り、悪魔の子だの狂い堕ちた忌み子だのと言われている僕は、非国民を殺すためならどんな犠牲も厭わない愛国者──狂信者に思われているらしい。絶対ホムンクルス側の印象操作入ってると思うんだよね。だってペンドルトンの司令官もピットランドの司令官も僕が戦う理由を聞いて涙してくれていたし。

 

 無論、ホムンクルス側が流布しなくたって時間の問題ではあったのかもしれない。その仇名自体はセントラル市民の中から出てきたものらしいし。

 

 ああ、ちなみにだけど、鎖をこうも選択する理由は、()()()()()()()()()()()()だから、である。 

 鎖は拘束するためのもの、という印象が先行しやすい。人間、見るからに殺傷能力高そうなものに対しては本能で察知して緊急回避とかできちゃうものだからね。まぁ拘束されたら死んだも同然なんだけど、それは殺し殺されが当然の戦場における価値観だ。

 今はまだ暴動でしかないから──誰もがまだ油断している。

 

 絨毯爆撃たるや、といった具合に殺到した鎖。勿論味方は巻き込んでいない。普段の僕ならその辺の細かい操作できないんだけど、賢者の石は確かに凄い。再構築時のブースター……思ったものが思った通りに生成されるし、思った場所に思った通りに飛んでいく。

 そうして着弾した鎖は、大量の土埃の中で再整形される。絡みつき、持ち上げるだけでなく──悪趣味にも棺に入れてやるのだ。悪魔の子ネーミングをしてくれたのだから、最大限それっぽい錬金術を使ってみるという僕の寄り添い。

 

 何人かは逃がした。そうじゃないとこの事件がイシュヴァール全土に伝聞されないから。そうならないと内乱が起きないから、断腸の思いで逃がした。

 でも顔は覚えたから、この内乱中に必ず殺す。逃がしたままにすれば復讐が待っている。憎悪の芽は全て滅ぼし尽くす。

 

「お……終わった……のか?」

「うん。暴動を起こしたイシュヴァール人は全員あの棺の中に入っている。──殺してないよ。殺したかったら今殺すけど」

「あ、いや……殺さず、私達に引き渡してくれ……ください」

「国家錬金術師は少佐相当官。あなたは中佐。命令で良いと思うけれど」

「ぅ……あ、ああ。じゃあ引き渡してくれ」

「うん」

 

 じゃらり、と鎖が生き物のように動く。

 ……簡単にやっているように見えるだろう。でも実は、再構築したものを操るって別に錬金術の領域じゃないから、再整形と成形をいい具合に使ってやっているんだ。賢者の石がなかったらこんな面倒くさいことやんない。

 賢者の石を使っても……想像は僕の想像力が頼りなわけで。ううん、操作が難しい。ああ、少し乱暴に落としてしまった。中身、死んでないとありがたいけど。

 

「竜頭の錬金術師殿。暴動の鎮圧お疲れ様です」

「……ああ、うん」

 

 一瞬、なんて変わり身の早さだ、って引いてしまったけど、違う軍人だった。違う軍人だし、コイツエンヴィーだ。こっちこそなんて変わり身の早さだ。文字通りの変身で別人になって帰って来た。

 

 二、三。これからの流れを話す。

 彼も彼で、あんまり長く抜けてはいられないんだろう。またあの軍将校に化け直して、詰問を受けなければならない。手の内の人間のもとに行くか、本物とすり替わるまでは、だけど。

 

「それでは、手筈通りに」

「うん」

 

 サンチェゴはまだ稼働している。

 けど、ここからは少し緊張の走る場面だ。イシュヴァールの武僧の走力は鹿をも超えるとかなんとか。それに突然肉迫されたら避けられはしないだろう。

 さっきのエンヴィーが周囲に警戒をさせてはいるものの、暴動の鎮圧直後は皆気が緩み切っている。

 これで終わりだろうと、甘く、甘く。

 イシュヴァール人がどれほどの鬱憤を抱えているかも知らないで。

 

「軍人さん。これ、撒いておいて。踏むと発動する錬成トラップだから」

「え……」

 

 というやり取りも慣れたもの。

 使い方や暴発の危険性は無いということなどを伝えて、本当に撒くだけで大丈夫、というのも再三伝えて。

 アメストリスは一応兵器と共に育ってきた国だから、新たな兵器への理解は早い方だ。ただ錬金術についてわからない人が多いから、最初だけは恐る恐るで──けれど使い勝手の良さを理解したら、すぐに仲間に広めてくれる。

 新しい使い方、わからないところ、また僕の思いつかなかった使い方。

 一般兵でも使うことのできる錬成兵器は、銃に並ぶ携帯品として、イシュヴァールの駐屯地に属する軍人に配られることとなった。

 

 こんなのが、僕のイシュヴァール滞在生活一日目である。

 

 

 *

 

 

 ところで、アメストリス軍の実験体や捕虜の管理というのは果てしなく杜撰である。

 実験体には逃げられに逃げられまくっているし、捕虜にも犯罪者にも抜け出されまくっている。

 

 それでは困るのだ、僕が。

 殺さず捕獲するのは後で必ず殺してくれる、という信頼あってのもので、逃がされるくらいなら最初から殺す。じゃないとそいつが復讐の鬼になる。

 作中では傷の男(スカー)だけが復讐鬼だったけれど、ホントはもっといたんじゃないかって思ってる。いたはずだ。強い怨みを抱く、併合吸収されたアメストリス人──元敵対民族。

 

「君達みたいな」

「──ッ」

 

 地下道、だった。

 地下の水道なんだろう。イシュヴァールの地からアネーレンという東部の街へ抜けていく水道。この先には作中で師父と呼ばれるイシュヴァール人のいたスラムがある。

 スラムに住んでいた彼らは"芽"だ。そうなるかもしれなかった芽。

 誰もがあの師父という男性のように耐え忍べるわけではない。もし傷の男(スカー)が志半ばで死していたら、次の傷の男(スカー)が出てきていただけだ。彼があまりにも凄惨に国家錬金術師を殺して回るから、それで"芽"の鬱憤が晴らされていただけ。

 

 潰しても摘んでも消えないというのなら、根絶やしにするしかない。

 

「こ、子供……?」

「何度も言っているけれど、僕は表に出てくるべき錬金術師じゃない。裏方で、拠点で、味方が有利になるようにサポートに徹するべきタイプの錬金術師だ。一対一をすること自体がレアケース」

「錬金術師──竜頭の錬金術師か!?」

「それ以外の錬金術師がここにいたら、それは軍法違反者だろうね。僕以外の投入は未だ認められていないんだから」

 

 大人数人。子供もいる。

 イシュヴァラの地に固執する彼らだけど、こういう「先んじて逃げていた」という人たちもいたんだろう。じゃなかったらあんなに多くのイシュヴァール人がスラムに潜んでいるわけがない。

 殲滅戦に至る前までに、何人ものイシュヴァール人がこうやって逃げていたんだと思うと、本当に薄氷を履むような作戦だったんじゃないかなぁって思う。テロリストをこれでもかってくらい国に引き入れていたってことだもの。まぁキング・ブラッドレイに国民を愛する心なんて無かったんだろうけど。

 

「どけ、俺達がやる! その隙に皆を逃がせ!」

「──すまない、頼む」

「謝るな! そのための俺達だろう!」

 

 武僧。

 ……やっぱりいるか。いないことを願ってはいたけど、非戦闘員を逃がすにあたって護衛が一人もいない、なんてあり得ないか。

 

「死ね、錬金術師! 子供だろうと、容赦はし」

 

 一人目は錬金地雷で吹き飛んだ。まぁ待ち伏せしてたんだからトラップを敷く時間は死ぬほどあったよ。ここ以外も同じようにトラップを敷いてある。ホントは銃を構えた軍人を配備したかったんだけど、まだ内乱にさえなっていない状況じゃ動かすものも動かせない。

 だから、この集団も珍しくはあるのだろう。内乱になっていない状況で──だからこそ、これから内乱になると知っている逃亡者たち。即ちイシュヴァールの方向性を決められる立ち位置にいるローグ=ロウの周辺人物たちで、ともすれば家族。

 

「この辺りにある水路七つ。全部に今のトラップを仕込んである。敷き詰めてある、ともいえるね。これらトラップの有効期限は三日。三日も経てばこれらは機能しなくなる」

「それまでは通さない……とでもいうつもりか」

「そうだね。三日間耐え忍べば逃げられる。そのたった三日の中で、君たちの仲間が内乱を起こそうとしたりしなければ、君達は助かる」

「──その前に貴様を殺せば関係はあるまい!」

 

 二人目は、跳ねてきた。一人目の死んだ地点から、僕のいるところにまで。

 人間が跳んでいい距離じゃない。ギネス狙えるレベルだ。マスタング大佐はホムンクルスをビックリ人間と称していたけれど、イシュヴァール人にこそその称号は与えるべきだと思う。

 そして。

 

「う──ぐ、ぁ!?」

「酸素濃度の調整……これやっぱ僕向きじゃないな。見えているものでさえ想像が難しいのに、見えていない物を操る思考リソースは、天才と名高い彼と彼の師匠専用か」

 

 ビックリ人間は国家錬金術師たる彼の言っていい台詞じゃあない。

 

 焔の錬金術。錬成陣を解読したわけじゃないから詳しいことは何にも言えないけど、あの発火布の手袋に描かれた錬成陣自体は乾湿の錬成陣だ。上向き三角形に線を引いた「」と「」を二つずつ重ねたもの。それぞれ土と空気ね。

 中心の菱形は左右頂点二つに乾湿をつけて、四酸化オスミウム*1を表現、シンプルに火を表す上向き三角形を中に入れて、これを二重円で囲む。最後に上下に炎を表すシンボル。

 これらから炎に関する錬金術を引き算する。雑に考えるならこの炎の記号三つを抜けば問題はない。ただ酸素濃度の調整には火の記号も必要なので、真ん中の一番力の弱い火だけを残せばいい*2

 

 と、そんな感じで再現した酸素濃度の調整の錬金術だけど、僕の思考とは完全に違う。なんというか、この錬金術を考え出した人の脳内には、完成……完璧な世界、みたいなものが思い描かれているんだと思う。そこからいろんなものを減算した結果残った火に対し、それをどうこうする付け合わせ、みたいな錬成陣。

 僕の場合は全部加算だから、根本から違って少し面白い。

 

 ──とか、考えている内に。

 

「……ッ」

「三日だよ。たった三日でこのトラップは切れる。──ただまぁ、飛び越えようとしても無駄だから。ここからアネーレンまでの道のり全てにトラップは設置してある。イシュヴァールの地に戻った方が、まだ安全かもね」

 

 言って、去る。

 歩いたところから錬成反応を迸らせて、まるで「僕の歩いたところにもまた設置してますよ」感を出す。ちなみに決してそんなことは無くて、普通に抜け穴だ。だからあとで置き直しに来なくちゃいけない。もし彼らがこの場から動かないのなら、遠隔錬成と賢者の石でどうにかしないといけない。

 出口は塞いだから帰ってね、という意味をちゃんと察してくれると助かるんだけど……果たして。

*1
オスミウムは菱形で表される。これは教本などに記載されるもの

*2





※酸素濃度の調整錬成陣は主人公が雑に減算した結果です。多分四酸化オスミウムも抜いていい
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