竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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※作中の「錬金術史」は誤字ではなく「錬金術の歴史」という意味で使っています。


第十八話 錬金術の小技「チャタリング錬成」&量産

 セントラルは大総統府──。

 大総統キング・ブラッドレイ。そしてその大総統補佐の、誰に知られることもなかったとある会話。

 

「大総統、これを。……東方司令部より、イシュヴァール周辺地域に軍需工場を建設したい、との要望が」

「そろそろ来る頃だとは思ってはいたが、予想より早かったな。ふっふっふ、やはり経験に欠ける。便利なものを目にした人間が、どれほど欲望に忠実になるか。死の恐怖を避けんとする心は推し量れんか」

 

 それは報告書。

 軍需工場──竜頭の錬金術師、レムノス・クラクトハイトが開発した錬成兵器。それの量産体制を整えるための工場を作りたい、という話だ。

 三日という有効期限こそあれど、これなる錬成兵器は安全且つ確実。環境に悪影響を及ぼすこともなく、また三日経てば必ず発動してくれる、というのは味方が誤って足を踏み入れる可能性を減らす。誰でもが扱えて、錬成陣さえあれば作成に必要な素材も銃や戦車より軽く済む。

 こんなものを前に、これをたくさん使いたいと思わない兵士はいなかったし、また竜頭の錬金術師だけに生産を押し付けていては無理があると──これは勿論可哀想という意見もあるが、大多数は消費に対して生産が追いつかないからという理由である──の声も多数上がっている。

 

「許可は出してもいいのだがな。竜頭の錬金術師はその錬成兵器の錬成陣を公開しているのかね?」

「いえ、錬成兵器とその活用方法についての報告は上がっていますが、錬成陣については何も。ただ、軍の錬金術師が九割まで解読を終わらせています」

「残りの一割は?」

「……それが、未だ()()()()()()()とのことで」

「ほう?」

 

 まだ年端も行かぬ子供。

 錬金術師としての歴など考えるまでもなく浅い。両親二人が錬金術師であり、片方は国家錬金術師である──ということを加味しても、無理がある。

 

 軍の錬金術師とて無能ではない。

 それが全く解読できない錬成陣を使う、というのはどうあっても、どうやっても作りようがない。

 あの錬金術師が、アメストリス建国より培われた錬金術史を全て超える存在であるとでも考えなければ。

 

「ならばそれが最後の砦か。ふっふっふ、では許可は出さん。錬成兵器とやらの中身が全てわかった時、国中に錬成兵器の軍需工場を建設する許可を出そう。東部にも、そして各国境から要求が来ても同じことを返せ」

「はい」

 

 もし。

 もしも、錬成兵器の軍需工場が出来たのなら。

 

 

 *

 

 

 お父さんが戦場に近い場所に駆り出される可能性が高くなる、ってわけね……。

 図らずも僕のせいで違う危険に晒す可能性が出始めたわけだ。

 

 そんなことを、わざわざキング・ブラッドレイ大総統直々の書筒、とやらの形で届けられた内容から知る。

 錬成兵器の軍需工場。確かに必要だ。僕一人じゃ追いつかないこの生産体制では、いつか無理が来る。堰が切れる日は、多分そう遠くはない。

 加えてイシュヴァールの内乱は激しくなる一方だ。僕のやった「見せしめ」が功を奏した結果ではあるけれど、功を奏し過ぎたな、と感じてもいる。

 

 毎日聞こえる爆発音。昼夜問わず聞こえてくるソレは、単なる爆発物ではなく──明らかに兵器によるもの。銃を持っているイシュヴァール人も少なくはなく、こちらも基地を改造し、壁を作って守りを固めている。

 アエルゴだ。

 想像以上に接触が早かった。イシュヴァール人の中にアエルゴと繋がっている者がいたのか、たまたまアエルゴのスパイがイシュヴァールの地に来ていたのか。

 

 とかく、史実よりも早い段階で支援を受け始めたイシュヴァール人は勢いを増し、アメストリス軍の疲弊……犠牲も大きくなって行っている。

 既に銃火器、爆薬などの入手経路を断つようにとは指示を出してあるけれど、如何せんイシュヴァールの東側は荒れ地と砂漠しかない場所。兵士を常駐させるわけにもいかず、手をこまねているのが現状。

 

 それに。

 

「……」

「クラクトハイト殿、こっちもです」

「こちらもです! 数が合いません」

「うん、そろそろだとは思っていたから大丈夫」

 

 鹵獲されている。

 僕が渡している錬成兵器は一度発動したら壊れる。だから、故意に発動させて、それを掘り出して盗む、ということも出来なくはない。他の方法……それこそ錬金術などで凍結させる、でも掘り出せるか。

 いくつかは勿論書筒にあった通り中央軍に盗まれたものだろうけれど、それだけでは説明できない量が消えている。

 

 そろそろアレの出番か。

 

「メグネン大佐、アーリッヂ大尉。イシュヴァールとアエルゴ、アメストリスの国境付近に埋めている錬成地雷をこっちのタイプに変えて欲しい。最初の方はα、こっちはβと呼称を区別して、決して混ぜないように」

「わかりました。……そういうということは、何か危険性が?」

「扱い方や危険性はαと同じだよ。ただ、こっちは()()()()()()ってだけ」

「発動しづらい?」

 

 そう、チャタリング錬成だ。

 発動するかしないかギリギリの思念を込めて行う錬成。一瞬錬成失敗を思わせるような錬成反応の明滅や、迸る錬成エネルギーがあまり出ない、など、錬金術師が見ても素人が見ても不安になる要素を詰め込んだ錬金術の小技。

 数秒間、一度発動しかけた錬金術が沈黙する、なんてこともあるくらい発動しづらいコレだけど、発動しなかったら僕にリバウンドが来るんだ。当然絶対に発動する。

 

 劣化品を掴まされたと思うか、僕に限界が来ていると思うか。

 まさかわざわざ兵器の質を悪くしている、なんて思いはしないだろう……と思いたい。僕は別に戦争の経験があるわけじゃないから、この辺りの想像力に関しては僕視点になってしまうのが痛い。

 

「勿論設置時はαとβを混ぜていいからね。ただ運搬の時とかに一緒にしないでほしい、ってだけ」

「承知いたしました」

「それと、こっちはまだ開発中だから、現地で戦ってる兵士さんの意見を聞きたいんだけど」

 

 渡すのは、一発の弾丸。

 二人とも机に置かれたソレに触れようとして、しかし手をひっこめた。

 ……まぁ、怖いよね。正しい判断だ。これは二人が僕を信頼していないとかじゃない。僕だって初めて見る兵器で、しかも見た目が普通、ってなったらこれでもかってくらい警戒する。

 

「残留連鎖生体錬成弾──あんまり錬金術に関する詳しい話をしても仕方がないと思うから簡潔に言うと、着弾後体内に留まって、遅延の切れたタイミングで周囲に錬成反応をバラ撒く弾丸だ。つまり──」

「殺すのではなく、巣穴に戻った奴らを根絶やしにするための兵器、ですか」

「そうだね」

 

 害虫駆除剤みたいなものだ。

 この弾丸には貫通力が無い。というか射撃時に外れる薬莢がトラバサミの原理で遅延錬成を早め、弾頭を内側から溶かして脆くする。着弾したが最後、体内に残留するこの弾丸は時間にして48時間以内に発動し、連鎖生体錬成を発動させる。

 

 生体錬成は治癒ではなく「粘土を作ってくっつける」ような技術だと前に述べた。

 それが体内で行われる。何の知識も無しに、部位への理解も無しに──着弾地点から半径30cm以内の組織を()()()()()()にする。おもちゃ箱をひっくり返したみたいにめちゃくちゃにする。

 先日イシュヴァール人に刺された腕から着想を得た錬金術だ。刺され折られると痛い。無理矢理くっつけても超痛い。軍医に診てもらったら、「これなら数週間安静にしていれば自然と元通りになりますよ」って言われたからよかったものの、人間の身体は脆く弱いということを再認識した事件だった。

 

 怪我人。どこぞかを撃たれた怪我人が、運ばれている最中か、治療施設にいる最中かに突然錬成反応を迸らせ──着弾箇所に、巨大な肉塊を作る。痛み、苦しみで暴れたが最後、特に癒着をしているわけでもない肉塊は周囲に飛び散り──連鎖錬成反応として、再度同じことを起こす。

 連鎖反応が起きるのは四回まで。言わずもがな、僕の限界という奴だ。

 

「えげつないものを作りますね……」

「ただ申し訳ないけど、こっちの弾丸は数が作れない。だから」

「はい。腕のいい奴に持たせますよ。……そうだ、これ、弾丸を狙撃弾に変更することは可能ですか?」

「あぁ、狙撃弾を渡してくれたら施せるよ。でも狙撃弾って貫通力が高いんじゃないの? これ、体内に残留しなかったら意味無いんだけど」

「勿論正面から撃てばそうなりますが、角度を考えれば問題ないですよ。こう、上から撃ちおろすようにやればいい。あるいは座っている者を狙うか」

「……そう。わかった。銃弾の扱いに関しては門外漢だから、これ以上口は出さない。そっちに任せるよ」

 

 狙撃と聞くとホークアイ中尉が出てくるけど、この時期だと彼女はまだ一般人……のはず。そう、だよね? 多分今10歳とかその辺だよね?

 いやね、流石にどのキャラがいつ何をしていたか、っていうのを完全に覚えているというのは無理な話で、ホムンクルス側ならともかく、軍人側はそもそもが不透明な部分も多い。……まぁ、僕が目を向けるべきは外であって内じゃないから、今はいいんだけど。

 

「あともう一つ」

「まだあるんですか?」

「うん。そろそろ僕一人の生産体制に口を出してくる人が現れる頃合いだからね、僕以外が生産に手を加えられるようなものを作ってみたんだ」

 

 言って取り出すのは、一枚の紙。

 描かれているのはやたらと螺旋の多い錬成陣。

 

「僕の錬成兵器の要、遅延錬成の陣。いつも通り三日間しか保たないコレだけど──新しい使い方、いくらでも思いつくでしょ、兵士さんたちなら」

「……つまり、これをトリガーに作った兵器は」

「そう、火薬も爆薬も燃料も無しに高威力を発揮する兵器になる。錬成陣に触れない限りは三日間絶対に発動しないし、三日以内に発動させたいならこの螺旋部分を断ち切ればいい」

 

 要は開示だ。

 コアを上げるから、生産工場は好きに作っていいよ、と。錬金術の使われている部分がこのペラ紙一枚だけなら、軍需工場に錬金術師が呼び込まれる心配もない。だって錬金術師より一般人労働者の方がコスパ良いから。

 

「新しい燃料だとでも思えばいい。そしてこれは、紙さえあればいくらでも生産できる。金属やら何やらに刻む必要もない。お金はかかるけど印刷してしまうのもテだね」

 

 鋼の錬金術師の舞台……というか参考にされているのは産業革命直後のイギリス。

 活版印刷が登場した頃合い。いやまぁ、だったら国立中央大図書館is何なんだけど。というか錬成陣描くの手間なんだから錬金術師がとっとと印刷機作りなよとかすごく思ったりしなくもないんだけど。

 だけど、なんで印刷技術はちゃんとあって、よくわからない所がめちゃくちゃ進んでいる世界なので、この遅延錬成の陣は量産ができる。

 

「ただし──他の錬金術師にこれを使わせるのはやめた方が良いね」

「それは、何故ですか?」

「他の錬金術師はそもそも遅延錬成の感覚が掴めないだろうから」

 

 そもそも、だ。

 僕の遅延錬成は、僕の錬成速度が人より遅い、という所から来ている技術。軍は求めるだろう。より高い、より良い技術を持つ錬金術師を。

 そして諦めるだろう。「何故これで遅くなるのかわからない」と。

 

 錬成速度というのは成果物を想像し終わるまでの想像力に直結する。

 より良い技術を持つ錬金術師は想像力に長け、遅延錬成の陣でさえも力業で突破して錬成が為せてしまう。そして言うはずだ。「これはもっと効率よくできます」と。しかし遅延はかけられない。より良さを求め続けた錬金術史に、「より悪い結果」を求めた痕跡は無かった。

 自身の想像力を補う、再構築のための文字列。真理を見た錬金術師も凄まじいまでの速さで錬成を行うし、他のどの国家錬金術師を見てもより早く、より多大な、という所を求めている。

 

 概念が無いのだ。

 マイナスへ向かう、という概念が、錬金術史にはまだ存在しない。

 ……強いて言うなら、あの焔の錬金術は減算の概念を持っていたけれど。

 

 僕の素の錬成速度は未だに15秒。どうにもこれ以上成長しないらしい。

 この欠点としか思えないものが転生チートだった、ってことだね、うん。……今役に立っているからいいけど、違うのが良かったかな。

 

「勿論、中央への手柄としてコレを差し出すのもアリだよ。僕は盗用を気にしない。自己責任だ。査定には別のものを出すつもりだし」

 

 言えば、メグネン大佐とアーリッヂ大尉は顔を見合わせて──ニヤりと笑う。

 ……悪い笑みだなぁ。この二人悪人でしょ絶対。

 

「何を言うかと思えば。どの道このイシュヴァールの内乱で貴方は出世するはず。私は決めました、というか決めていましたよ。この先も貴方の下で働く、ってね」

「私も同じです。中央へ預けるなんてとんでもない。それに、少しばかり残念です。私達は貴方にそこまで信用されていなかったとは。既にこのアーリッヂ、貴方に命を捧げたつもりでしたのに……」

「言葉が多いと嘘くさくなるよ。……まぁ、良いけどさ。言っておくけど」

「"僕の大事なものはお父さんとお母さんだけだから"……ですか?」

「……わかってるならいいけど」

 

 言葉を取られて、不承不承認めると、二人はクツクツと笑う。

 なんだこの二人。いつの間にそんなに仲良くなったんだ。

 

「断っておくけどさ」

「"君達が死にかけていても僕は助けないよ"、ですかい?」

「うわ面倒くさい」

 

 メグネン大佐もアーリッヂ大尉も、作中には出てこなかった人物だ。

 いや名前がわからなかっただけでイシュヴァール戦役にはいたのかもしれないけど、少なくとも僕の知らない二人。

 だからその人となりもわからない……ことは、ないか。

 裏側の全部がわからないのは全員そうだけど、流石にこれほど長く共に戦っていたら、結構なことはわかる。普段から気にしていなかったはずなのに、コーヒーの好みの苦さを知っているくらいにはわかっている。

 ……あんまり作りたくないんだけどね、情を持つ相手とか。

 死んだ時、感情が荒ぶるからさ。僕別に感情のないマシーンじゃないんだよ?

 

「まーまー、安心してくださいよ、クラクトハイト殿。この基地で、元々いた兵士に貴方をただの子供だと思ってるような奴はいないし、中央で囁かれているような誹謗中傷を言う奴もいない。──貴方のおかげで死ななかった命がたくさんあるんだ。なんならメグネン大佐より私のような下っ端の方がそれはわかっている。みんな貴方に感謝してるんですよ」

「オイ、何故そこで私を外す。私とて部下の声は聴いている」

「でも私より入ってくる声は少ないでしょう?」

 

 なんかじゃれつき始めた二人。

 おじさん二人がじゃれ合うのをこのまま眺めないといけないんだろうか。そろそろ他の話題に移りたいんだけど。

 

「っと、すみません。ふざけ過ぎました。──話を続けましょう」

「ですね。ええと、次は……あぁ、じゃあその遅延錬成の陣の印刷体制を整えましょうか。クラクトハイト殿、一日にどれほどの量を込めることができるんですか?」

「まだ試したことが無いから限界はわからないけど、体感五百かな」

「十分ですよ、それ。……わかりました、ではそれを念頭に兵器開発や機械鎧の心得のある奴らを集めてみます。ずっと貴方に任せていた開発を手伝えるっていうんだ、志願者は多いはずですよ」

「では私は情報規制の徹底と、クラクトハイト殿の"使わない方が良い"という言葉も添えておくとしましょう。誰の背後にどの糸があったとしてもおかしくはないですからね、その方々が怪我をしないように、と」

 

 ……仕事は、出来るんだろうなぁ。

 メグネン大佐は大佐だけあって権力がそこそこあるし、アーリッヂ大尉は横のつながりに長ける、か。

 良い部下を持てた、と喜ぶべきかな、これは。使える手が多いに越したことは無いんだし。

 

 後は彼らが、僕の弱点にならないよう立ち回るだけ、か。背中を預けて背中を刺される、なんてことがないようにしないと。

 

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