竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第二話 錬金術の基礎「図形とエネルギー」

 さて円はとりあえずクリアした。お父さんに見せたら「……まぁ、良い。それも個性だろう!」って褒められた。褒められてはない気がするけど大丈夫!

 次は線である。

 

 ……そう、線だ。各図形を描くには線が必要だ。まっすぐな線、もしくは美しい曲線が。

 

 定規なしで!?

 え、アレじゃだめ? 手の側面使って引く奴。

 

「かっこいいか、それは」

「う、ぐ……ッ!?」

 

 お父さんは僕の弱点を把握してしまったらしい。

 僕が妥協案を何か出すたびに聞いてくるのだ。かっこいいか、と。

 

 かっこ……よく、ないです。

 かっこよくない……円に沿って掌合わせて線引いてる奴かっこよくない!

 

 ただまぁ、チョーク三本で描いた円はとても小さい。

 だから、ピッって。ピシッって。

 曲がる暇もないくらいの、傷みたいな線を引いてもまっすぐにはなる。

 

 これで、まずは正三角形を描いている。

 

「……びーくーる。そう、正三角形の書き方はいろいろあるんだ。そう……たとえば円を四等分するとか!」

「おお、賢いな」

「でしょ!?」

「でもどうやって正確に四等分するんだ?」

 

 ──どう、やって……?

 え、だから指をこう……あ!

 

 円が小さいから……ムズい。

 うわ、うわー!

 折り紙ならできるのに! 地面に描くのむっずい! 三平方の定理で重ねていくやつはできなくもないけど、それだと余計な線が大量生産されちゃうし……。

 普通に三平方の定理でがっしゃんこした正三角形で……でも結局目測になっちゃうんだよなぁ。それがなぁ。

 

 ……いや、いいんじゃないか。

 僕、完璧主義過ぎたんじゃないか。

 割と適当でいいんじゃないか。

 

「レミー」

「ひっ」

「──適当に描いて、発動しなかった時……」

「カッコ悪い!!」

 

 カッコ悪いんだわ。

 

「ただ、一つアドバイスをするならな、レミー」

「うん」

「別に円から描いて、線を描かなきゃいけない、って決まりはないんだ」

「……?」

「この意味を少しだけ考えてみなさい。さっきの円の描き方で行くつもりなら、良い答えが見つかるはずだから」

 

 というということは、お父さんは答えがわかっているのか。

 

 別に円から描く必要はない。

 ……まぁ、そうか。最終的に錬成陣になっていればいいんだし。

 普通の錬金術師が円から描くのはバランスを考えて……って、僕普通の錬金術師が錬成陣描いてる姿ほとんど見たこと無くない? 作中のエドワードとアルフォンスくらい……だし、あれ? 彼らもなんか描き終わりが円であること結構あったような。

 あー……あ、そっか?

 要は中身の構成物がしっかりしていた方が、円は安定しやすいわけだ。

 最初から緻密に交点が敷かれていたらそれを頼りにすればいいわけだし。

 

 ……それ目測と変わんなくない?

 

 いや、じゃあさ、それするくらいならさ。

 こう……例えばね?

 さっきのチョーク戦法で円を描く。で、描き終わったら、中指と薬指の間に向けて親指を曲げて、チョークを弾く。今度は中指を曲げて、親指の内側へチョークを弾く。

 そうして出来上がった白い線分二本を繋げて──出来上がり。

 

「お父さん! できた!」

「おお、どれどれ……。……あー」

「これじゃダメ?」

「いや……良い。俺の想定解とは違うけど、これでもいい!」

 

 よーし!

 正三角形クリア!

 

 

 *

 

 

 正方形は簡単だった。90度はかなり取りやすいから。

 ということで、僕は円の中に正三角形と正方形を描けるようになったわけだ。

 

 そこまでできたらとりあえずはいいらしい。

 え、本気で? って思ったけど、マルコーさんとかめちゃくちゃ簡易な陣でズドンしてたしそういうものなのだろう。

 

「よし、レミー。じゃあコレ……コップの水を凍らせてみろ」

「……凍らせる」

「そうだ。どんな手段を使ってもいい。あ、錬金術でな? それで、凍らせてみるんだ」

 

 お父さんが普通のコップに入った水を地面に置く。

 これを、凍らせる。

 

 ……いやまだ錬成陣の構成要素とか聞いてないんだけど。

 

「円と正方形と正三角形があればできる。氷の状態を維持する必要はない。一瞬だけ凍らせることができたら合格だ」

「……わかった」

 

 そんな簡単なことでいいんだ……。

 あれ、氷結の錬金術師さんは……あれは空気中とか人体の中の水分だから、また話が違うか。

 

 とりあえず僕が最初の、つまりお父さんの本で聞きかじった知識と、教本に書いてあることを組み合わせて考えてみる。

 錬金術師における錬成陣っていうのは、所謂化学反応や状態変化、相転移といった「変化を伴う現象」を違うエネルギー使って無理矢理起こしますよ、みたいなものだ。

 地殻エネルギー……という名の賢者の石エネルギーだっけ? それを汲み上げて行う化学反応。だから例えば、鉄を溶かして整形するなら当然のように必要な熱を、この地殻エネルギーで代替できる。

 水素と酸素を混ぜて火に近づけると燃焼で水ができるよ、を地殻エネルギーで代替して、水素と酸素から直接水を作り出す、みたいな。そんな感じ。

 

 で、今何をやりたいかって言うと、水を冷やして氷にする、っていう状態変化をしたいんだ。

 

 やり方は結構ある。

 まず普通に温度を下げる……周囲の気温を下げて凍らせる。ただこれはどーかんがえてもエネルギー効率が悪い。なんせ周囲の大気をまず理解して、みたいなトコから始めないといけないから。

 不純物の混ざっていない水、というものを理解しているんだから、水に直接働きかけた方が早い。

 

 円の中に線分を引いて作り上げることのできる図形の中で、最小のものが三角形だ。普通に考えたら水に対し、水分子を無理矢理結合させて凍らせる、が手っ取り早い。円の中に一本線か二本線を引いてそれができたら多分超優秀なんだろう。

 ただ、お父さんは今回正三角形と正方形と正円で、と言った。

 多分まだ僕にはできないか、違う反応が起きてしまうが故の課題と見ている。

 

 ……まぁ考えるより先にやってみよう。

 

 まず円を描き、中に正三角形を描く。

 その底辺、右側の頂点に正方形、左側に正円の小さいver.を描いて、頂点に正三角形を置く。

 

 これの上にコップをおいて──思念を送る。

 

 はいここ授業に出ます。

 錬金術は思念で発動する。発動しろ! って思ったら発動するのだ。やっぱり魔法では……?

 

 まぁとりあえず。

 

 これで……うん?

 

 赤い錬成反応は出た。アメストリス式は賢者の石のエネルギーを使っているからこの色になるんだけど、つまり錬金術は発動している。

 のに、水に変化はない。コップにもだ。

 

「上手くいかないか?」

「うん……うーん?」

「どれ、ちょっと父さんに説明してみなさい。レミーはこの錬成陣に、どんな意味を込めたんだ?」

「えっと」

 

 まず、円。

 円は循環していることを指し、またここに流されるエネルギーが錬成陣の構成要素を通って中心へ向かうため、円周上と正三角形の交点に三態を描いた。正方形が固体、つまり氷で、正三角形が水蒸気、正円が水だ。これら記号をどう取るか、というのは術者に委ねられる部分が大きく、正解というものはないらしい。

 ただ硬いものには四角形とか鋭角とかを、柔らかいものには曲線を、みたいな想像しやすいものであればあるほどいいのだとか。

 うん。魔法では……?

 おっと。

 

「だから、三態に対して、描かれた正三角形が……あれ?」

「いいぞ、レミー。考えると良い」

 

 何度も言うけど、円は循環させるためのファクターだ。

 この円の中で地殻エネルギーが循環し、それが中心へ向かうことで錬金術は発動する。渦、竜巻。そういうものだ。外側が循環して、次第に内側に行くから、内側の中心点で作用が発動する。その間に置かれた線分や図形、紋様が作用する工程に色々な要素をつけ足して、錬金術は三者三様の姿を見せる。

 そして今、僕が描いた錬成陣は。

 

「だから……こうやって描くと、全部が全部相殺しちゃうんだ。氷は水と水蒸気になろうとする、水は氷と水蒸気になろうとする、水蒸気は水と氷になろうとする。……これだとコップの水に作用する前に、エネルギーが相殺しあって……"何も起こらない"が起こる」

「うん、よくできました。レミー、これは失敗だけど、学びはあっただろ?」

「ん……うん。"余計なものを描いてはいけない"、かな?」

「お、おお。一気にそこまで行くか。父さんはレミーと同じ失敗をした時、"欲しい力だけを取り出す"という結論を出した。意味は似ているが、少し違うのがわかるか?」

「うん……お父さんのだと、違う要素がいてもいいことになっちゃうんだね」

「そうだ。そしてそれだとダメだった。だが、レミーのその結論は……80点くらいだ。かなり、良い」

「100点じゃないの?」

「100点じゃないな」

 

 そうなのか。

 ……奥深いな。

 

「もう一回やってみて良い? 今、違うの思いついたんだ」

「おお、やってみなさい」

 

 当然ではあった。

 欲しい反応を引き出すために実験してると考えて、そこに別の物質が置いてあったら別の反応が出てしまう。錬成陣は作業机とか試験管とか……フラスコとかと一緒なんだ。円にするのは循環の意味もあるけど、中の反応を取り溢さない、という意味もありそう。

 となると……。

 

 基本の形は一緒だ。

 正円に正三角形。そして今度は、交点ではなく正三角形の全辺と円周の間に正方形を描いていく。

 

 余計な要素は入れない。

 必要なことはただ一つ。液体の凝固。水分子がどうこう、とかさえ考えない。見えていないものより見えているものを優先した方が想像も固まりやすい。僕の知ってる水分子って、理科の教科書とかに載ってたイメージ図だし。

 

 僕の中での硬い、固まる、は正方形のイメージ。

 円を循環する力は正三角形の中を通りながら、凝固のためのエネルギーとして中心へ向かう。

 

 その中心に水の入ったコップがあるのだから──発動!

 

「お」

「おー!」

 

 凍った。

 無理矢理凍らされた、が正しいんだろう。だって温度の操作とかしてないし。

 

 だからか、凍ったのは本当に一瞬で、すぐに解けてしまった。……溶ける時にもエネルギーは動いてるはずだけど。

 

「筋が良いな、レミー。普通はこんなに早く結果に表れないぞ」

「ホント?」

「ああ。ちなみに父さんの時は、水が凍るよりもコップが割れる方が早かった」

「あ……それって、"欲しい力だけを取り出す"って思ってやったから?」

「多分な。あの頃は何故失敗したのか、っていう検証もあまりしなかったから……と、レミーはこんな錬金術師になっちゃだめだぞ。失敗も糧になるんだ、失敗したらなんで失敗したかを考えような」

「うん。それに、これも完全に成功したってわけじゃないよね。多分氷の状態を維持させる要素が無いから一瞬しか保たなかったんだ」

 

 氷は凍ったら氷のまま、っていう安易なイメージがあったのも原因かもしれない。

 だって氷は解けるものだ。イメージが常識によって塗りつぶされた、という感覚がある。

 

「維持させる、については教えてなかったしなぁ。でも、そこまでわかったら、自分で維持させるための記号を作ってみると良い。あ、ただし」

「身に余るような錬金術は使わない……だよね? 想像が追いつかないような、結果だけを求めた錬金術は、エネルギーが上手くまとまり切らないで術者にリバウンドが来る」

「そう。それで大怪我をする錬金術師も後を絶たないからな。いいか、レミー。座学をするのはどれくらいやってくれても構わんが、実践は父さんの前だけでやりなさい。母さんが帰ってきたら母さんの前でもいいが」

「うん。わかった」

 

 実際、錬金術はかなり危ない技術だ。

 学問であると同時に技術だから、誤った使い方をすれば大怪我をする。世界中のあらゆる技術と同じだね。

 

「ちなみに、レミー」

「なに?」

「どうして三角形にしようと思ったんだ? 正方形も使えただろ?」

「ああ、それは」

 

 余計なものを描かない。

 つまり、余計な工程を省く、ということでもあると見た。

 

 だから。

 

「正三角形は最小工程で行けるから……正方形だと、もう一工程余計な何かが挟まるでしょ?」

「……それは正しい。が、こう考えることも出来る」

 

 言いながら、お父さんはシュァラッと正円を描き、そこに正方形を描く。

 それだけだ。

 

 それだけの錬成陣に、その中心にコップを置いて──錬金術を発動させる。

 

 結果。

 

「え、凍った? ……あ、解けた」

 

 ……あ、そっか。

 お父さんの中で、正方形のイメージが完全に固めるソレなんだ。

 だから他の図形でエネルギーに要素をつけ足さなくても、この錬成陣の中をエネルギーが通るだけで凝固の要素足り得る、と。

 

「答えはわかったみたいだな」

「うん。……でも、僕は僕のやり方が好きかも。アレンジもしやすそうだし」

「ああ、それでいい。さっきも言ったけど、そっちも正解なんだ。やり方は無限にある。シンプルな陣で複雑な工程を行える術者は優秀だが、だからといって複雑な陣を描いてはいけない、なんてこともない。国家錬金術師の扱う錬成陣は大抵が複雑な陣であったりするからな」

「つまり──好きにやって、好きに伸ばして、自分だけの特徴を手に入れろ、ってことだよね」

「そうだ! レミーは本当に賢いなぁ!」

 

 抱き上げられて、ぐるぐるまわされる。

 あ、お父さん。足元コップ──あ。

 

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