竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第二十話 錬丹術の応用「局所洗掘錬成」&二人

 万事休す、とはこのことを言うのだろう。

 目の前に二人。後続の装甲車を壊したのだろう武僧がもう一人か二人。つまり最低三人。

 

 対し、護衛が何人生きているかは──わからない。メグネン大佐とアーリッヂ大尉もだ。全然、普通に殺されている可能性もある。戦場とはそういうものだ。

 

「こんな子供が、か」

「ああ……竜頭の錬金術師、レムノス・クラクトハイト」

 

 装甲車の上げる炎で彼らの顔が見える。

 表情は、憐みか。怒りや憎しみではないのは、僕が「そうあるようにと育てられた子供」にでも見えているんだろうな。

 

「殺す……のか?」

「当然だ。コイツを殺さなければ、また幾人もの仲間が死ぬ。同胞が消える。コイツが諸悪の根源だ」

「だが子供だぞ。……ちゃんとした倫理を教えてやれば」

「子供だからなんだ。コイツは子供も殺している。非戦闘員も多く殺している」

 

 今更雑談とは、随分甘い。

 覚悟くらい出立前に決めておけ。敵を前に悩むから──こうなるんだ。

 

 迸るのは青い錬成反応。賢者の石は鬼札だけど、鬼札過ぎていつまでも頼っているわけにはいかないから。

 

「ッ、コイツ、何かして──」

「死ね!」

 

 蹴り。武僧の蹴りだ、さぞかし威力があるのだろう。

 それを、腕を交差させることで()()()()()

 

「なんだと!?」

 

 そりゃなんだと、だろう。

 体格差も技量も天と地ほどの差がある二つが拮抗したんだ。けど驚いてちゃあいけない。それは隙だ。

 

 防いだ足に、触れる。

 直後。

 

「ウ!?」

 

 バックステップ。そのまま、注意深くこっちを見る。

 ……噓でしょ。なんでそんなに動けるの。今──激痛に苛まれているはずだけど。

 

「大丈夫か、タッファ!?」

「妙な……錬金術を、施された。シチグ。俺に近づくな。件の肉塊の錬金術かもしれん」

 

 嫌になるな……何が武僧だ。厳しい修行程度でそんな強さになられて堪るか。

 今さっき僕が彼の蹴りを防いだのは、軍服の内側に鋼鉄と石を仕込んでいたためだ。仕込んでいたっていうかさっき作ったっていうか。簡易版グリードの全身硬化だね。間に合わなかったら貫通してたかもしれない。

 蹴りの角度的に飛ばされる心配のないものだったし、低い姿勢だったから衝撃を逃がせたのも大きい。

 ただ結構足腰にキた。もう一度受けるのはヤバそう。

 

「っ……」

「タッファ、ならば下がれ、あとは俺が……」

「お前には、任せられん。──お前は懇願されたのなら、子供だからと見逃しかねん」

「……ぅ」

 

 雑談はありがたい。地面に円を描いてサンチェゴの作成を開始。

 そろそろ彼の足に施した錬成が終わる頃なので、次の策を構築する。

 

 ああ、彼に施したのは残留連鎖生体錬成、ではない。アレはちゃんと描かないと無理。

 やったのはただの生体錬成だ。それも指先の当たった範囲内のみを錬成する、僕は「局所錬成」と呼んでいる技術。

 当然だけど、指の当たっている範囲内だけが15秒間作り変わり続けたら、それだけで激しい痛みを引き起こす。僕がバリバリの戦闘者だったら使いやすいこの技術だけど、残念ながらひ弱な子供である。あんまし使いどころはない。

 

「シチグ、タッファ! こっちは終わったぞ!」

「ああ、こちらも……すぐ、終わらせる」

 

 後続の装甲車の方にいたイシュヴァール人がそう声を発した。

 終わった、か。

 

 メグネン大佐とアーリッヂ大尉は死んだのかな。

 まぁ。ちゃんと悲しむ心は残っているようで何よりだ。今はそれどころじゃないから涙も出ないけど。

 

「……仲間の死を聞いても、動揺の一つもしないか。哀れな子供だ。……せめてイシュヴァラの(かいな)に抱かれるがいい」

「遠慮するよ」

 

 青い光が地を走る。

 身構える武僧。──けれど光は、彼らの手前でぐにゃりと曲がり、先ほど僕が撒いた鉛の方へと走り去っていった。

 

「……失敗、か?」

「みたいだな……やっぱり、落ち着いての錬成じゃなきゃ、この程度の精度なのか……」

「油断するな。コイツがどれほどの同胞を殺したか忘れたのか」

 

 シチグという武僧と後続車を潰してきた武僧はお喋りが大好きみたいだけど、タッファという武僧は僕を殺すのに固執している。油断も隙も無い、って程じゃないのが救いだけど、だからといって彼らの手足は銃や戦車に匹敵する。

 ……一人で相手していい存在じゃないって。しかも一対三。

 

「終わりだ」

「あっは──それを言って終わらせられなかったのは君で二人目だ!」

「なに!?」

 

 踏み込んできたタッファのその足元に、巨大な穴が開く。

 けれど、直後シチグが手を伸ばし、タッファを引き上げた。タッファは空中で体勢を整えて着地。

 

 もしかして雑技団の方々?

 

「……光を出さずに錬金術が使えるのか」

「いや、予め穴を掘っておいたんじゃないか?」

「先ほどの曲がったものが失敗ではないとしたら」

 

 そう、失敗じゃない。

 アレはちゃんと意図があってやった錬丹術だ。

 

 そして──同じことを、全方位に向かってやる。

 ここら周辺にある「流れ」。その全てに錬丹術を流す。噴出口は作っていないから、力だけが「流れ」を通り、消えていく。

 

「……撤退だ。撤退しろ!」

「アレ、随分と弱腰じゃないか、イシュヴァールの武僧。全員でかかればこんな幼子、簡単に殺せるんじゃないの?」

「崩れるぞ!!」

 

 僕の挑発なんか聞きやしない。

 タッファの言葉に必死の形相で二つが続くも、もう遅い。

 

 轟音は暗闇を揺るがし、恐ろしい顎をぽっかりと開く。

 ここなるは荒れ地。砂地。砂漠に面した荒野。

 

 ダメだよ、僕に時間をあげたら。

 穴を作る、なんて──錬金術師にとっては御茶の子さいさいなんだから。

 

 罅割れ、崩れ、地下に飲み込まれていく地面。

 砂と化し、ジャンプするほどの強度を持たない地は彼らを飲み込む。一度砂に捕まったら終わりだ。そのまま掴むものも何もなく、落ちて、落ちて、落ちていく。

 地上に残るのは、月に照らされ銀に輝く機械時計と、その上の地を竜頭の分だけ残して、そこへ座る子供が一人。

 

 武僧も──そして死体を乗せた炎上する装甲車も。

 すべてが砂に飲み込まれていった。

 

 

 *

 

 

 一人、歩く。

 夜の荒れ地を。

 

 隣に、一匹の鹿が来た。

 

「センチメンタルな気分、ってヤツか? なぁレムノス」

「まぁね。こういう時、ちゃんと悲しいようで安心したよ。これで悲しくなかったら、人間っぽくないでしょ」

「ハハッ、この俺を前にしてそういうこと言うかよ」

 

 エンヴィーだ。

 結構久しぶりな感じあるなぁ、彼も。

 

「で、お前一人でどこ向かってるワケ? 自殺志願者でもなければ、この先はアエルゴって国だからやめた方が良い、とは言っておくぜ」

「ああ、国境線だから止めに来たのか。大丈夫大丈夫、大総統からの許可は貰っているよ」

「だとしても一人で行く意味ないだろ。部下はどうしたんだよ。つかアンタ、大佐になったんだな」

 

 ホムンクルス内で共有が為される前なのか、僕の軍服の肩部に付いた階級章を物珍しげに見てくるエンヴィー。

 大佐になった。

 ……から、メグネン大佐もアーリッヂ大尉も要らなくなった、ってこと? だとしたら、酷い運命だ。鋼の錬金術師らしい。

 

「部下は死んだよ。さっき確認してきた。心臓を掌底で突かれて死亡とか、よくわかんないよね」

「あー、イシュヴァールの武僧の奴らか。ありゃ俺から見ても化け物集団だよ。ゴミみたいな一般兵が負けるのは摂理だろ」

「僕勝ったけど」

「ハン? 珍しいじゃんか、アンタ、そういう自慢とかするタイプだっけ?」

「いやいや。だから、僕は普通の人間だからね。僕に負ける程度の奴らが化け物なワケが無いって話」

 

 言えば、エンヴィーは鹿の顔のままできょとんとする。

 ……僕なんで鹿の表情わかるんだろう。ああでもリスの表情もわかるから、エンヴィーが顔に出やすいだけか。

 

「アンタが普通の人間? よしてくれよ、アンタの最近の呼ばれ方知ってるか?」

「なに、新しいのが出たの?」

「"悪魔"だよ。子が消えたんだ。悪魔そのものだとサ」

「それは嬉しいね。悪魔の子だと、お母さんが悪魔って言われているみたいで若干引っかかりはあったんだ。お母さんが関係なくなったのならありがたい」

「……まぁアンタがいいならいいけどさ」

 

 辿り着く。

 アエルゴの兵士は……まぁ、流石にいるか。

 

「サービスしてやろうか?」

「いいの?」

「このエンヴィー様がサービスするなんて滅多に無いことだってわかってるよな、お前なら」

「うん。どういう風の吹き回しだろうって思ってる」

「同情」

 

 鹿の首がぎゅん、と伸びて、巨大な暗緑色の腕になって、それがアエルゴの兵士を根こそぎ掴んで──自分に吸収して。

 ちゃんと化け物だよね、エンヴィーも。

 

「ふぅ」

「同情って、何に?」

「……ま、予言してやるよ、レムノス」

 

 僕の質問に答えることはなく。

 彼は、ニヤリと笑ってその言葉を紡ぐ。

 

「お前、両親が死んでも──泣けないよ。絶対にね」

「……」

 

 そうかもね。

 なんて、口には出さないまま。

 

 

 

「ああ、ついたよ。ここ」

「ここ……って、特に何かがあるわけでも……ん?」

「地中に埋めてあるからね。──さて、エンヴィー。あんまりそっちにいない方が良い。僕の後ろにいて」

 

 取り出すのは賢者の石。

 流石にね、使う。自分の命の危険には使わなかったこれだけど、ここまでの大規模錬成は僕の身一つじゃできないから、使う。

 

 地面に手を当てて──想像する。

 錬成地雷と同じ錬成陣で自ら地に潜ったとある装置の場所を。装置といっても特にこれと言った機能はない。あるのは、その地面に潜る機能と、五芒星──錬丹術の噴出口となるための陣が刻まれているという事実だけ。

 

 故。

 ここ──東の大砂漠とアエルゴ皇国の境と、アメストリスの国境の重なるこの地点から、アエルゴの国境をなぞるようにして、無理矢理作られた「流れ」が完成する。

 本来こんなところに流れはできない。けど無理矢理つなげられているのだから仕方がない。隣り合う五芒星は互いを対応させるため、それぞれの頂点にそれぞれの素材が用いられている。だから混ざることもない。

 

 赤い光が走る。

 赤い錬成反応。錬成エネルギーがバチバチと音を立てて広がりはじめ──しかし他へ飛ぶのではなく、規則正しく前へ前へと進んでいく。

 

 ──その周囲に、激しい傷跡を残して。

 

「……何やってんの、コレ」

「局所洗掘錬成。切り札の一つではあるけれど、使いどころの難しい錬成だ」

「お前さぁ、そろそろ学べよ。誰かになんかを説明するとき、錬成陣の名前言っただけで全部を理解させられるって本気で思ってんの?」

「そこそこ詳しいんじゃないの?」

「詳しいさ。そりゃあな。長く生きてる。……けど、アンタのはなんつーか……今まで見てきたモンとは違うんだよ」

 

 まぁコレ錬丹術だからね。

 感覚でなんか違うとわかるだけ大したものだろう。

 

「説明が難しいんだけどね。すごく簡単に言うと、無理矢理曲げた所に大ダメージを与える錬成、って感じ」

「……まぁ、詳しく聞いてもわかんねーからいいけどサ」

 

 錬丹術で使う「流れ」。

 これは非常に強い力を持っている。術師が錬丹術としての思念エネルギーを流さずとも、そもそもが龍脈のエネルギーを持って流動している。

 それを無理矢理捻じ曲げたらどうなるか。

 当然、曲がった部分……そのカーブの外側に、流れがぶち当たってダメージが入る。これはそのダメージを増幅させている感じの錬丹術。

 

 今まで使って来た自然に優しいクリーンでエコな錬成兵器とは真逆。

 死ぬほど自然に悪影響を及ぼす錬丹術。人の身で龍脈に手を加える愚かなる所業。

 

 ちなみにさっきやった大穴も同じ。

 サンチェゴで地下に巨大な空洞を作り出して、地表の全てに局所洗掘錬成でダメージを与えて崩壊させ、崩落させた。人工的なシンクホールって感じだね。深さは確実に人間が死ぬレベルにしたし、その後砂で埋めた。あ、スロウスが掘ってるだろう穴には欠片も掠らない位置だから大丈夫。

 

 全部が終わってから部下と武僧の死亡も確認した。……メグネン大佐とアーリッヂ大尉もね。

 

「これが何になるんだ?」

「今はただ──」

 

 ボフッと砂が噴き出る。

 そして、次々と砂が巻き上がり、そこに浅めな谷が出来上がっていく。

 

「こうやって谷ができるだけだけど」

 

 流れの堰き止められたこの土地は、やがて自然を失っていくことだろう。

 砂漠化だけで済めばいいけどね。

 

 土地として死ぬんじゃないかな、このあたりは。

 何をしても、どうやっても回復しない死んだ土地。……アメストリスが世界征服を果たし、超大国になったら、ここの流れは戻そう。植物には悪いことをしたなぁ。

 

「それじゃあ、帰ろうか。……と思ったけど、そういえばなんでエンヴィーはここに?」

「今かよ。……別に、大した話じゃないぜ? ほら、そろそろ一年だろ? で、軍が研究施設を設置したいらしくてさ」

「あー、賢者の石?」

「……お前さぁ、少しでも長く生きたいなら、その察し癖やめた方が良いぞ」

「いや、中央軍が戦場でやりたがることなんてそれくらいしかないじゃん」

「ハハッ、よくわかってんな」

 

 そうか。

 来るのか、中央軍。……余計な事口出して来たら、暗殺も視野に入れよう。

 

「あと一年で終わらせる。エンヴィー、君達に不都合はある?」

「ないよー。別にいつ終わってくれても構わない。予定じゃ……あと六年くらい続ける感じだったけど、別に続かなくても問題ないくらいの成果が出てるからな。アンタ、良い働きだよ」

「良かった。……ちなみにアエルゴって興味ある?」

「無いけど、なんでだ?」

「うーん。まぁそうだよね」

 

 僕が早く終わらせたら、殲滅戦が起きない可能性がある。

 そうしたら──マスタング大佐もホークアイ中尉もヒューズ中佐も再会せずに、ロアがキメラにもならず、キンブリーが捕まらず、アームストロング少佐がトラウマを持たず、ロックベル夫妻が死なない、とかになるのかな。

 

 ……別にいいか。

 彼らがいようといまいと、どうせエドは扉を開ける。トリシャの死は流行り病でイシュヴァール関係ないし、ホーエンハイムがどっか行くのも同じく関係ない。だから人柱は二人確定で、イズミも既に開けているだろうことはわかる。

 あと一人は……マスタング大佐がまた無理矢理開けさせられるのか、あるいは僕になるのかな。

 

 そうなったら、というかなる前に。 

 最大限の事はするつもりだけど。

 

「ちなみにこの賢者の石ってあとどれくらい使えるの?」

「アンタ節約し過ぎ。まだまだ使えるよ」

「ああそうなんだ」

 

 じゃあもう少し、来年は激しめで行こうか。

 

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