竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第二十三話 錬金術の基礎「分解」&二人

 イシュヴァール人の疲弊が火を見るよりも明らかになってきた。

 やっぱり遅延連鎖生体錬成弾が非常に高い効果を発揮しているらしい。銃で撃たれたイシュヴァール人の治療──それを封じる遅延連鎖生体錬成弾。急所を外して撃たれた弾丸は、けれど俊敏さを奪い、そして「肉塊の錬金術」なんて呼ばれ方をしている遅延連鎖生体錬成弾の発動を恐れ、仲間に近づけない。

 逆に気付かずに巣穴に戻ってしまった負傷者は──まぁ、そこを根こそぎ阿鼻叫喚に包み込む。

 

 もうそろ、大詰めだ。

 中央軍から「もう少し慎重に動け」みたいな指令が一瞬来てたけど、一切従わなかったらその内来なくなった。

 

 そんな折、である。

 

「お初にお目にかかる。国軍大佐、鉄血の錬金術師バスク・グランである」

「初めまして。国軍大佐、竜頭の錬金術師レムノス・クラクトハイトです」

 

 中央からの増員として、もう一人。 

 僕以来の、もう一人の国家錬金術師。その投入が決定された。……勝手に。

 

 握手をする。

 物凄い身長差だったけど、グラン大佐は膝を突き、視線を合わせてまで握手をしてくれたので、好印象……を与えるためなのかなぁ、とか。子供に対してはコレは大きく効くはずだ。普通の子供なら。

 まぁでもこの人は作中においても誠実な人っぽそうだったしあんまり疑わなくて大丈夫かなぁ、とか。うーん、前情報があるせいで変に疑ってるな僕。一旦リセットしよう。

 

「さて、早速だが戦況を聞こう」

「まずこれを記憶して」

「ふむ……これは、周辺域の地図か。この緑色の点は?」

「僕の錬成兵器が埋めてある場所。錬成兵器に敵味方の識別はないから、ここを踏まれると陣地が崩れる」

「承知した。儂の錬金術に理解はあるか?」

「物質に対し発動させる、瞬時に兵器類を作り出す鉄血の錬金術」

「うむ! 良い理解だ。そして、儂がここに送り込まれた意味を理解しているか?」

「最後の大詰め。そして、グラン大佐の錬金術で僕の錬成兵器を作れないかのテスト、かな」

 

 言えば左瞼を吊り上げるグラン大佐。

 そしてフ、と口角を上げ──その大きな手で、僕の頭を掴んだ。

 

 掴んで、撫でた。

 

「その通りだ。国軍に対し技術を秘匿する竜頭の錬金術師。その技術の全てを明け渡すよう要求して来いと言われていた。だが! 今考えが変わった!」

「そう。別に盗めるのなら盗んでくれていいけどね。無理だと思うけど」

「いいや。──貴様、"愛する者"だな?」

「……? あぁ、アメストリスへの忠誠のこと?」

 

 言われた意味を考えて。

 

「いいや。もっと大切なものがあるであろう」

「ああ、お父さんとお母さんのことか。うん、愛しているよ。二人のために戦ってる」

「良い目だ。この狂気の戦場において、一切の濁り無き目。何百、何千と殺した上で、輝かしい未来を信じて疑わないその瞳」

「それが良い目なの?」

「無論。貴様は愛する者のために戦い、その信念を一時たりとも揺らがしておらん。──出来ぬことだ。何よりも愛を優先せぬ者では、その目は出来ぬ」

 

 何が言いたいのかはよくわからないけれど、信用は得られたってことでいいのかな。

 

 ありがたいと素直に思っておこう。

 

「グラン大佐。一つだけ」

「なんだ」

「鏖滅だよ。子供も老人も関係ない。イシュヴァール人は全員殺す。一人でも逃せば」

「未来において、アメストリスの子らが死ぬ。心配無用だ、わかっている」

 

 地図に指を置く。

 たくさんのバツが描かれたその地図の最奥。東端。

 イシュヴァラの聖地とされたその奥地。

 

「ここに、イシュヴァラ教の最高責任者ローグ=ロウがいる。彼はあるいは、自らの命と引き換えにイシュヴァールの民の助命を、なんて要求してくるかもしれない」

「ふむ。誇り高き者であるのならば、あり得るな」

「けど飲まない。テロリストを大総統の前に差し出すことはあり得ないし、イシュヴァール人の中の地位なんて僕らには関係ない。食料にありつけずに餓死した幼子とこのローグ=ロウに差はない」

「容赦はするな、ということか。……何故そうも急ぐ? 貴様にとってのイシュヴァール人とはなんだ?」

「敵」

「……よかろう。誇りも矜持も、今この一時においては目を瞑る。指揮は貴様が執れ、クラクトハイト大佐」

「うん。──変な気は、起こさないでね」

「儂より幾回りも幼き子に言われるまでもないわ」

 

 そう。それならば。

 もう何も言うことは無い。

 

「行こうか。クラクトハイト隊、グラン隊。総員でイシュヴァラの聖地を攻め落とす。その間、誰が亡命を求めてこようが、何が特攻してこようが──全て迎撃し、全て殺すんだよ。わかったね?」

「ハッ!」

 

 懸念点は一つだけある。

 というかグラン大佐が来るに至るまでイシュヴァラの聖地に乗り込んでいなかったのはその懸念点が原因だ。

 

 傷の男(スカー)とその兄。

 死亡者リストも、実際に撃破した死体もちょくちょく見に行っているけれど──まだ見つかっていない。

 

 現時点においてまだ単なる武僧たる傷の男(スカー)ならまだしも、その兄の方が最悪僕の遅延錬成を理解している可能性がある。最大限警戒を払って向かうべきだろう。

 

 

 

 

 圧巻、だった。

 僕は隊の中心にいて、常に錬成物探査を行っている。その周囲で起こる破壊破壊破壊。

 その錬成速度もさることながら、複数の、全く形の違うものを並行で錬成し、しかも狙いを外さないとかいう国家錬金術師の名に相応しすぎるグラン大佐。これは人間兵器だよ。僕ってばパチモンだよこれ。

 

「……すげぇな」

「ね。僕とは大違い」

「いや大将、アンタはアンタですげぇがよ。……それでも、目を奪われる」

 

 准尉の言う通りだった。 

 人殺しの兵器を錬成する錬金術なのに、華がある。これこそが力だと見せつけてくれる。

 

 一応僕も仕事はしている。遅延錬成ではなく、鎖の墓標事件の時と同じ、家を砂に戻す分解の錬丹術で、ざあざあと。遮蔽物を無くすだけで十分に高い効果がある。アエルゴからの銃供給が無くなった今、ほとんどの場合においてこっちが一方的に撃てるからね。

 

 僕の隊員も結構頑張っている。増員二人もちゃんと優秀だし、ヴィアン准尉も射撃の精度がピカイチだ。

 それよりも気になるのは、キレイア中尉。どうやらヒューズ中佐なんかと同じような投擲武器を得意としているようだけど……武器がナイフなのは、まぁわかる。ナイフ投げ。効果的だろう。

 

 でもそれ今何本目?

 

「……」

「大佐? どうかされましたか?」

「……いや、なんでもないよ。それより」

 

 見えてくる。

 それは、巨大な岩場。赤岩の盤石な──堅牢の二文字がピッタリ合うだろう場所。

 

 アレこそが、イシュヴァラの聖地。地神イシュヴァラの坐す場所。

 

「むぅ……アレを崩すのは、少しばかり手間だな」

「僕がやるよ。錬成に時間がかかるから、僕を守ってほしい」

「承知した」

 

 岩の壁に手を押し合てる。

 指だけを折り──そのまま、180度回転させる。

 

 ガチャン、という音が鳴った。

 

「成程。竜頭とは、時計の竜頭であったか」

「ああ、知られてなかったんだ。竜みたいな頭の錬金術師だと思った?」

「少なくともセントラル市民はそう思っているようだな。竜……錬金術においては強い意味を持つ記号だが、特定宗教においては悪魔を意味する。貴様の忌み名と相俟って、広く広まっているぞ」

 

 それは中々、面白い話だ。

 成程確かに竜か。ドラゴン。でもそれって大総統のマークたるドラゴンも悪魔って言ってるようなも……の、だけど、侵略を繰り返して独裁政治を続けるキング・ブラッドレイは悪魔みたいなものか。

 

 足で円を描く。

 意図に気付いたのか、僕が錬成陣を描き切る前にグラン大佐が錬金術を発動してくれた。

 

 上だ。

 

「言えばよいものを」

「言ったら全員の気が上に逸れるからね。そうなったら」

「──こういうのに対処できねぇってな!!」

 

 胸骨に銃剣を刺して、そのまま三発撃ち込む、なんて荒業をやる准尉。機を窺っていたのだろう、聖地に近づいた僕たちに、武僧らが一斉に襲い掛かってくる。

 先ほど回した手はまだ岩につけている。その手を、今度は逆回りに90度回す。ジリジリという音。さらにもう一度回す。

 

「大将、あと何秒だ!」

「出来得るなら一撃で半分持っていきたい。──四分くらい稼げるかな、ヴィアン准尉」

「楽勝だ! もうヘマはこかねぇよ!」

「儂も続こう!」

 

 そして激戦となる。

 今まで周囲に放たれていたものが防衛に使われるのだ。必然、その火力は至近距離で放たれる。

 僕はここを動かない。

 

 そしてキレイア中尉も──その後ろ手で僕にナイフを突きつけたまま、動かない。

 騒音は轟音となり、僕らの声程度はかき消す程となった。

 

 だから、問う。

 

「キレイア中尉。君は錬金術師だね」

「っ! ……よく、お分かりで」

「国家錬金術師ではない錬金術師。まぁいるだろうとは思っていた。僕の遅延錬成が目当てかな」

「それならば、こうして刃を突き付ける、なんてことはしませんよ、大佐」

 

 ガチャン。ガシン。

 何かが組み合わさる音が響く。何かが噛み合う音が響く。

 

「君はアエルゴのスパイだね、キレイア中尉。いや、ヴィアン准尉も、かな」

「……いいえ」

「君はセントラル……どうかな、レイブン中将あたりの手駒じゃないかい?」

「いいえ、違いますよ、大佐」

「じゃあ、どっちもか。二重スパイ、多重スパイ。なんでもいいけど──」

 

 錬成が終了する。

 ジリジリと音を立てて引き抜かれるは、柄が円形で刀身が螺旋を描く、つまり竜頭というパーツの剣。

 

 それでナイフを跳ね飛ばす。

 当然僕の肌に傷がつくけれど、そんなものお構いなしだ。

 背中から左肩にかけてざっくりと斬られた上で問おう。

 

「今、敵か、味方か。目的もどうでもいいから、どちらかを答えて欲しい」

「……みか」

「たのワケないもんね」

 

 その、胸を。

 ──赤い岩から突き出た、赤い鎖が突き刺した。

 

「味方なら、この状況で僕に武器を突き付けるメリットがない。僕に何を求めているのだとしても、僕の動きを止めんとするということは、イシュヴァール人を援護せんとするものだけだ。ということは君はアエルゴの息がかかった人間。あるいは、イシュヴァール殲滅を遅れさせたい中央軍の手先。どちらかでしかない」

「む!? 何をしている!」

「──キレイア!?」

 

 事態に気付いた二人が叫ぶ。

 ゴボ、と零れたのは赤。血だ。キレイア中尉の血。それは彼女の身体を、腕を伝い──その最中で錬成反応を迸らせ、鉄のナイフと化す。

 成程、刺青タイプか。しかも軍服の内部で錬成反応を留めていた、と。中央の子飼いの錬金術師……けれどアレかな。嫌々従ってた系? ヴィアン准尉が何か言ってたもんね。子供を守るためとかなんとか。

 

「て、めェ!!」

「内通者だ、グラン大佐。彼も」

「……むぅ」

 

 振り被られた銃剣は僕に届かない。グラン大佐の錬金術に絡めとられ、拘束される。

 最後の力を振り絞って持ち上げられたナイフは竜頭剣で叩き落した。

 

 善人二人。

 何かを人質に使われていたのかな。まぁ、大切なものを作るということはそういうことだ。

 

「内乱……を、終わらせる……わけには」

「ああ、人体実験に死体が必要だからね。ふむ、それじゃあ君達の死体は中央軍に回して置こうか。おすすめはキメラルートだよ。運が良ければ生き残れる。──それで、まだ恨みが残っていたら、僕を殺しに来ると良い」

 

 もう一本。

 鎖で、中尉と、そして背後の准尉の頭蓋を貫く。

 反逆罪だ。あと、死んじゃったから賢者の石ルートもキメラルートもなくなったね。中央軍は瀕死者しか扱わないよ。残念。

 

「……何があった、クラクトハイト大佐」

「ナイフを突きつけられて、今すぐに錬成をやめろ、と脅された。だから殺した。殺したら彼が激昂して、見ての通りだよ」

「ふむ。内通者、か。いるとは思っていたが……中尉などと、そんな高官にまで上り詰めていたとはな」

「手を引いているのは多分上層部だね。困るんだよ、この内乱がこんな早期に終わっちゃ」

「内乱が早期に終わって困る? ……何か知っているようだな。あとで詳しく話せ、クラクトハイト大佐」

 

 あとで、だ。

 まだ終わっていない。ショッキングなことはあったけれど、まだ武僧の襲撃は終わっていない。

 

 そしてそれを終わらせるための錬成陣は、今完成した。

 

 もう一度竜頭剣を突き刺す。先ほど描いた、手のひら大の錬成陣の中心に、だ。

 瞬間──青い錬成反応が迸り、大気を幾度も叩き、周囲を照らし上げる。昼だというのにあまりにも明るいその錬成反応は、巨大錬成の証。

 

 

「──な」

 

 

 誰ぞかの驚嘆。

 あるいは──絶望か。

 

「あ、全員、こっちに集まって、固まって!」

「この、これだけは言わせてもらう──ここまでのことをするのならば、先に言え!」

「内通者がいたんだから言えなかったでしょ!」

「むぅぅ、ええい、錬成が遅い! どけ、儂が代わる!!」

 

 赤が消える。

 巨大な赤い壁が、岩壁が、険しい岩山が──全て砂塵へと変化する。

 そしてそれは風へと吹かれ、巻き上げられ、周囲にその全てが覆い被さってくるのだ。最中、べちょ、とか、ぶち、なんて音を立てながら落ちてくる人間と、幾らかの構造物。

 

 イシュヴァラの聖地。

 地神イシュヴァラの坐すその地は、一瞬にして。

 

 何者とも変わらぬ高さの、なんでもない赤い台地へと変貌を遂げたのだった──。

 

 さ。

 後は、お片づけの時間である。

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