竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第二十五話 親と子の会話「境界線」&開闢

 ──アルドクラウド。

 まだ、時間があるそうで。つまり、アエルゴに対し侵略宣言をするのには少しばかりの準備が必要なようで、暇を出された。永遠のお暇ではないよ。

 だから。

 だからまぁ、久しぶりに帰って来た。汽車に乗って、ウェストシティが手前、我が故郷アルドクラウドへ。

 竜頭の錬金術師。その名は既に広く知られていても、実態を知っている人は意外と少ない。

 まだ年端も行かない子供であること、竜頭という二つ名、そしてとんでもない外道であること──。

 たったそれだけだ。当然年端も行かない子供なんていくらでもいるし、竜頭の二つ名と外道かどうか、なんて外見からじゃわからない。

 ……とはいえ、たった二年離れていただけだ。顔見知りは相当いる。竜頭の錬金術師について知らないのは僕を知らない相手だけで、僕を……アルドクラウドから出た錬金術師だと知っている人は、当然すべてを知っていることだろう。

 あるいはあらぬ噂を流布している可能性だってある。

 だから安物のローブで顔を隠して、ちょっと汚れたお金まで使って、いろんなことを想像できるようなカムフラージュをして──けれど。

 

 その全てが、意味を失くした。

 意味が無かった。

 

「おかえりなさい、レミー」

「おかえり、レミー」

 

 出迎えてくれる二人がいたからだ。

 

 

 

 

 三人で岩の多い道を歩く。

 

「なんでわかったの? 僕が帰ってくるって」

「内乱が終わりましたから。レミーなら、これくらいに帰ってくるだろうな、という予想がありました」

「レミーなら早朝のこの時間に帰ってくるはずだ、って昨日も一昨日も」

「余計なことは言わなくていいです」

 

 それは……嬉しいな。

 嬉しいけど、申し訳なかった。択としては「帰らない」も全然あったのだ。

 結局帰ることを選んだけれど、そっちを選択していたら……もしかしたら、お母さんはずっと。

 

「再会が戦場ではなくて良かったです、レミー」

「……うん。僕も。ホントは家についてから言いたかったけど──今言うね。ただいま」

「おう。……しっかしレミーは小さいままだなぁ。ちゃんと食べてたか?」

「まだ二年だからね、そんなには伸びないよ」

「もう二年、ですよ。……錬金術を覚えてから二年、でもあります」

 

 ううん。

 まぁ、そっか。そうだったね。

 ここが鋼の錬金術師の世界だと気付いて、錬金術を学び始めて、一か月でお母さんを倒して国家資格を取って……そのすぐ後にイシュヴァール戦役に参加して。

 一年と数か月で戦役を終わらせての、今だ。

 ……まぁ、異常ではあるよ。わかってる。

 

 岩場。懐かしい。サンチェゴにしちゃったせいで消えたけれど、大きな大きな岩があった場所。

 

「笑わなくなりましたね、レミー」

「え?」

「ちょ、おい……」

 

 突然の言葉に驚き、声が出て、足が止まる。

 笑えてなかったかな、僕。ちゃんとできてたはずなんだけど。

 

「……何がありましたか、なんて聞きません。容易に想像が……いいえ、私達では想像も及びつかない程凄惨な事があったのでしょう。……見るものすべて、知るものすべてに輝かんばかりの目を向けていた貴方は──もう」

「そこまでだ。……今はおかえり、久しぶり、だけでいいだろう? なんでそんな……」

「……ごめんなさい」

 

 会話が途切れる。

 うーん。やっぱり僕は演技というものに向いていない。上手く笑えていたつもりだった。上手く再会を喜べていたつもりだった。

 

 ──見抜かれた、かな。

 

 そうだ。

 だって、言うことがあって帰って来たんだ。帰らないを選択しなかったのは、書面だと二人が乗り込んでくる可能性があったから。

 僕の口から面と向かって言わないと──言ったところで納得はしないだろうけど、言わないと決して伝わらないと思ったから。

 

 家について、食事をしてから、でもいいかなと思ったけれど。

 うん。

 

 欺瞞だらけのお祝いなんて、お母さんはヤだったんだね。

 

「もうすぐ、准将に昇進することが決定してる」

「……そうですか。おめでとうございます」

「准将……? お、おいおいレミー。俺軍曹だぞ? それがどんな地位か……」

「その地位を以て──国家錬金術師を率い、隣国アエルゴを攻め落とす。今度は二年じゃない。想定四年、最低六年はかかる計算をしてる」

 

 歩きながらだったから、ようやく家が見えてきた頃合いだった。

 言葉に。

 上手く呑み込めていない様子のお父さんと──想定していたのだろう、けれどこの後に続く言葉に……苛立って仕方がない、という様子の、お母さん。

 拗ねているのではない。怒っているのではない。

 イライラしている。

 

「何を……言って」

「これはもう決定した事。暑くなる前に、つまり今年の冬にはアエルゴに侵略宣言をする。──イシュヴァールに手を貸し、内乱を煽り、アメストリスを疲弊させんとした隣国への報復戦争だ。そして、僕は准将の立場として──二人に命令ができる」

「……国家資格を取ってから、散々と誹りを受けて来ましたが。……今日ほど後悔したことはありませんね」

「レミー、お前まさか……付いてくるな、とか言うんじゃないだろうな」

「そのまさかだよ、お父さん」

 

 多分だけど、二年の間に二人は強くなったんだろう。

 お母さんが一言一句伝えたかはわからないけれど、二人は僕に弱いと言われた。弱いと言われて──その後、僕があり得ない程の功績を打ち立ててしまった。

 焦りか、恐れか。

 子に抜かされることは別にそこまで気にしないと思う。だけど、僕を守れない立場にあるという事実は、仮にも錬金術師として力を持つ二人に耐えられるものではなかったはずだ。

 

 自分たちは安全地帯にいて、子供は戦場にいて。

 その子供から、弱いから来るな、と言われていたのなら──強くなる努力をしたんだろう。

 

 だから今、二人の努力を無視する。

 

「現国軍大佐レムノス・クラクトハイトからの命令だよ。実力不足で、足手纏いだから──二人は来ないで。もう、大総統にも話を付けてある。二人には従軍命令が来ないようになっている」

 

 直後、視界の隅にあった岩場の一部が()()()()

 轟音は──破砕音だ。お母さんの手に錬成されたハンマーが、崖のようになっているその先端部分をぶち飛ばした音。

 そしてもう一つ。

 奥歯を強く噛む音が隣から聞こえた。

 

「なぜ、ですか。レミー。何故私達を……戦場から離そうとするのですか」

「言った通り、弱いからだよ。この戦争につれていくのは国家錬金術師の中でもエリートだけだ。お母さんはそれに含まれず、お父さんは国家錬金術師ですらない一般軍人。それを邪魔に思うのは不思議じゃないでしょ」

「レミー……」

「信じられませんか、レミー。信用できませんか、レミー。私達が貴方の力になることを。私達が貴方を支えられる可能性を」

「……あぁ、怖いのか、レミー。……目の前で俺達が死ぬのが」

「うん。僕は二人を死なせたくない。僕は二人が殺されるところを見たくない。だから、あらゆる危険から二人を離す」

 

 それが原因で嫌われるのは構わないし、二人が傷つくことだって厭わない。二人に幸せになってもらいたいから守りたい、じゃない。

 僕が怖いから、嫌だから、守りたい。好きにやるってそういう意味だ。

 

「レミー」

「何、お母さん」

「再戦を望みます。私はもう貴方に……いいえ、誰にも負けないことを証明するために」

「受けないよ。上官命令だからね」

 

 あと、僕の錬金術は基本初見殺しだから、戦闘スタイルを知られているお母さんに次勝てるかどうかは怪しかったりする。

 僕が今まで戦場で通じてきたのは、敵対者を全員殺してきたから。僕の手の内を知る敵は全部殺した。だから、どれほど外聞で僕について知っていようと、大体の相手に対し初見殺しができる。

 

「よし!」

 

 重くなった空気。

 それは、突然発されたお父さんの──元気な声で、払拭された。元気な、明るい声だ。無理をしていない声。

 

「わかった! じゃあ早く帰って飯にしよう。今日はレミーが帰って来た記念日だからな、昼も夜も豪勢だぞ。食材はちゃんとため込んである!」

「……」

「いいかレミー。お前も、その話はもう終わりだ。ここで終わり。ここから先は家の敷地で、そこに入ったらレミーはクラクトハイト家のレミーになる。アルドクラウドに住む、ただのレムノス・クラクトハイトだ」

 

 刺さるな。

 揺らぐじゃないか。

 やめてほしかったよ、お父さん。僕演技下手なの知ってるでしょ。

 

 ほら、視界の隅で、お母さんが硬い顔を崩してる。

 

「つらいこと、悲しいこと。たくさんあっただろ。軍人だ、それも戦場にいた軍人だ、そりゃ沢山ある。だけど、というか、それを忘れろ、とは言わないが、だから……あー、その」

「……わかりました。私も、ここを跨いだ瞬間全てを忘れ、すべてを無視します。レミー」

 

 二人が、僕の両手を掴む。

 両手を掴んで、半ば無理矢理──僕を前へと引き出した。

 

「せめて、アルドクラウドでは。いいえ、私たちの家では、楽しい記憶だけを持っていてください。あなたには帰る家があり、私達はあなたを愛しているのだと、そう知っていてください」

「そういうことだ。ここを嫌な思い出にするなよ、レミー」

 

 ああ。

 本当に、僕は。

 

 

 

 *

 

 

 

 まぁ。

 日帰りは流石にしなかった。夕飯を食べて、それで──次の日。朝ごはんも食べて。

 

 それで、「いってらっしゃい」と見送られて、僕はまた家を出る。

 駅とは違う方面へと歩いていけば、どんどんひと気が無くなっていって──そこに。

 

「よぉ、もういいのかよ、家族との団欒」

 

 鹿がいた。

 ……そこは様式美にリスでいて欲しかったな。

 

「本当に心配になったら、命令違反をしてでも二人は来るよ。でも、ちゃんと送り出してくれたから」

「信頼されてる、って? ハッ、愛想尽かされただけじゃねぇの?」

「かもね。……それで、そっちのは?」

 

 複数人。

 鹿ンヴィーと、ラストと、そしてぷっくりとした体型の。

 

「コイツはグラトニー。俺達と同じだ。いいか、グラトニー。コイツの匂いを覚えろ」

「うん! 食べていいの?」

「あ? さっき説明しただろ……。コイツは一応俺達側の奴だから、食っちゃダメだ。つか、コイツがいるとこに近づくな、って意味で匂いを覚えろって言ったはずなんだが」

「エンヴィー、そんな複雑な説明をしても意味はないわ。……グラトニー。彼と、彼の匂いがついている人間は食べてはダメよ。必要な駒だから」

「食べちゃダメかー。うん、おでわかった!」

 

 グラトニー。

 暴食の名を持つホムンクルス。いつでもお腹が空いていて、なんでも食べる。そしてそれとはあんまり関係なくお腹に疑似・真理の扉とかいう一撃必殺の空気砲みたいなのを持ってる。

 ……吹くんじゃなくて吸う方だけど。

 

「アンタもこっちには攻撃してくんなよ。アエルゴに行くならあんまり関わらないと思うけど、一応な」

「他は? その名付け方なら、ラースとスロウス、プライド、グリードがいるんじゃないの?」

「全員他の仕事中で会うことはねーから安心しな。グリードは別だけど、アイツこそ遭わない……だろうし」

「会ったとしても、殺してくれて構わないわ。殺せるのなら、ね」

「あー、確かに」

 

 いいんだ。

 まぁ、いいのか。計画に関係なく、離反者で、まぁ一応賢者の石だからリソースではあっても制御の利かない感情であるのなら、切り離したままでもいいと考えるのは普通……かな?

 

「んで、もう一人」

 

 ザ、ザ、と。

 草木を掻き分けて歩いてきたのは、一人の青年だった。

 アメストリス国軍の軍服を着た青年。歳は……16歳とか17歳とか? 

 酷く既視感のある顔つきをしているけれど、同時に知らない顔だ。ということは、イシュヴァール戦役の基地にいた人?

 

「──お初にお目にかかります、竜頭の錬金術師レムノス・クラクトハイト。私は紅蓮の二つ名を拝命しています、ゾルフ・J・キンブリーと」

「え、()っか! あ、ごめん。続けて」

 

 思わず声が出てしまった。

 いや。

 いや出るでしょ。それは。そりゃそうか、彼だって人間。原作開始時点でそこそこ歳食ってたっぽいし、イシュヴァール戦役ではまだ若さ溢れる感じもあった。

 それよりも前である今なんだ、これくらい若くても、幼さ残る顔立ちでも特に違和感はない。

 

「……貴方にそんなことを言われるとは思っていませんでした。若いを通り越して幼い錬金術師たる貴方に」

「ソイツたまにジジ臭いから気にしなくていーよ」

「そうですか。やはり噂は噂ですね。無邪気に人を殺す狂気の忌み子と聞いていましたが……どころか、あまりに理性的だ。その瞳に野生が欠片もない」

 

 作中で彼は、軍から貰った賢者の石の力に酔いしれて、その返還を迫られた時に上官殺しをしてエンヴィーに目をつけられて……みたいな流れでホムンクルス側についたはずだけど。

 こんなに早い段階でホムンクルス側につくこともあるんだなぁ。

 

「コホン。改めて。お噂はかねがね──なんでも、ほとんど一人でイシュヴァール人を殺し尽くしたとか」

「ああうん、そうだね。錬成兵器の撃破数も含めたらほとんど僕一人だと思うよ。最後の大詰めでも殺し尽くしたし。錬成兵器抜いちゃうと半分くらいになるかな。遅延連鎖生体錬成弾の撃破数とかは数えてないから、誤差はさらに広がるかも」

「……成程。危うさは欠片もなく、自身の異常性についても理解した上で、けれど常識を持ち合わせている。いいでしょう、気に入りました。──これからよろしくお願いしますよ、クラクトハイト准将」

「よろしくするのはいいけど、まだ准将じゃないよ。というかよろしくって?」

「ふむ? もしかして説明を受けていない?」

 

 説明。よろしく。これから。

 ……なる、ほど?

 

「つまり、新しい部下か。何、エンヴィー。僕に決めさせてくれるんじゃなかったの?」

「俺達からの推薦って奴だよ。多分中央からの推薦の国家錬金術師も一人入ってくるはずだぜ。お前も、部下の中に一人くらい俺達の息がかかった奴がいた方が楽だろ、色々と」

「つまり余計なお世話ってことか」

「なんだよ、要らねえのか?」

「ううん。紅蓮の錬金術師。火力で言えば僕なんか足元にも及ばないからね。正直助かるよ」

「だろ?」

 

 つまり、僕が決められる部下は二人だけか。

 しかも国家錬金術師からしか選べない。マスタング大佐……今は大佐じゃないけど、彼はまだ国家錬金術師ではないし、グラン大佐は……あの人はあの人で動いた方が多分上手く動ける。一応、中央軍がやってるキメラ云々はゲロってあるので、何かしら動きはするだろう。アームストロング少佐は論外。侵略に向いてない性格過ぎ。

 コマンチ爺さんはちょっと制御が難しそうで、勘の良いガキ嫌いおじさんはまだなってない。

 僕としてはヒーラーたるマルコーさんに来てほしいんだけど、彼は多分戦争で出るアエルゴ人を使った実験の主導者に抜擢されるので無理でー。

 

 ……あと僕が知ってる国家錬金術師って、ゲーム版のいくつかに出てきた人たちと、氷結の錬金術師さんしか知らないんだよな。……後まぁ、お母さんだけど。

 でも国家錬金術師って全体で200人いるらしいし、適当に選べばよくない? とも思ってる。正直キンブリーいれば過剰戦力でしょ。賢者の石なくてもこの人強いし。

 

「アエルゴ侵略。クラクトハイト大佐、貴方は四年で終わらせる想定と聞きましたが、本気ですか?」

「え、うん。ああ、正面衝突とかはしないよ。してもいいけど、僕はやらない」

「やらずに四年で崩し落とせる、と」

「そうだね。上手くやればもう少し早められると思う。……ああでも、そう考えたら──アームストロング少佐はいいかもしれない」

 

 性格的に論外だと思っていたけれど。

 外道を隠れて行うのなら、彼には光を、表の道を、堂々と進軍して目立ってもらうのはアリだ。

 

「アームストロング家の彼ですか。確かに、造形に関する錬金術で彼の右に出る者は中々いないでしょう。おっと、大佐を除いて、ですが」

「そういうのいいよ。僕の錬金術はベクトルが少し違うし。うん、じゃあ、あと一人も決めた」

「ほう?」

 

 さぁて、お父さんとお母さん成分も充填したし。

 始めようか、アエルゴ侵略。

 

 

 *

 

 

 ──1902年11月某日。

 アメストリス内部で起きた、イシュヴァールという民族の起こした内乱事件。その真相が解明された。

 本来自らの肉体のみで戦うはずの武僧が銃を持っている姿は多くに目撃されていたし、その写真も撮られていて──その一つから、アエルゴで製造された銃が見つかったのだ。故意に消された国章も、数が多ければ雑になる。消し切れていなかったソレからアエルゴへの糸が繋がり、さらには国軍に入っていた少なくないスパイも検挙された。

 これを受け、大総統キング・ブラッドレイは隣国アエルゴに対し報復攻撃を宣言。

 実質的な侵略宣言は周辺諸国……クレタとドラクマに付け入る隙を与えるようなもの。

 

 けれど。

 

「レムノス・クラクトハイト准将。ご命令を」

「それじゃあ、進軍だ。ただ、これは殲滅戦ではないからね。あくまでこの後僕たちの子孫が住まう土地だと思って、壊し過ぎないように。それだけだよ」

 

 国民の不安も、不満も、すべてを吹き飛ばす快報に次ぐ快報は、両国の手を引かせ、アメストリスにかつてないほどの大景気を齎す結果に落ち着くのだった。

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