竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第二十六話 錬丹術の応用「跳水錬成」&成功

 国土錬成陣を敷くのに穴を掘るのは悪手だと思う。

 いきなりなんだ、って話だけど、お父様とスロウスの話ね。

 崩れたら直さないといけない、綺麗な円を描かないといけない、何が埋まってるかわからない。理由はいくらでもあげられるけど、まぁまぁ面倒で、まぁまぁ迂遠だ。

 あと一気にやろうとするのも悪手。面倒くさがりが過ぎるんだよね。それだけの人数の賢者の石作ったら基本敵なしなんだから、少しずつやっていっても問題なかっただろうに。

 それを、賢者の石作成と「カミ」を引きずり下ろすことを一気にやろうとして、結果1914年に事件が過集中する結果となった。もっと計画的にできたんじゃないか、って。うん。

 まぁ七つの大罪に「慢心」はないからね。プライドはあくまで傲慢であって慢心じゃない。慢心を切り離せていたらもっと保険を用意するとかしてたんじゃないかなぁお父様は。

 

「どこに向かわれるので?」

「ああ、起こしちゃったか。ごめんね」

「いえいえ。それよりも、クラクトハイト准将が真夜中にコソコソと何をしているのか、の方が気になりますよ」

「うーん、まぁ、デモンストレーション?」

「ほう?」

 

 アエルゴは無理矢理円形に作られたアメストリスと違って、しいて言えば平行四辺形みたいな形をしている。だからコレ全体を円で包む、というのは難しい。よって、四つに分けるべきだと考えた。連鎖錬成陣だ。丁度、四回までなら僕が可能な錬成範囲だから。

 でもどうしたって余りが出る。そう考えると勿体ない精神的にはお父様のやり方はあっていたのかもしれないな、なんて掌をギュルギュル回転させつつ、とある石をポケットから取り出す。取り出して、キンブリーに見せた。

 

「これは?」

「鉛。錬成陣が刻まれているのは見える?」

「ふむ。……貸していただくことは可能ですか?」

「いいよ。好きに解析してみて」

 

 なので、作戦に際して国土錬成陣に入りきらない場所にある街は、都度都度賢者の石化して消して行こう、という算段。

 タッチして綺麗に化石を掘っていくみたいなアレだね、うん。

 

「……解析しろ、と言われましても。これはただの五芒星では? 円に五芒星……ふむ、意味を取ることは難しくないですが、解析するとなると……お手上げですね」

「これが、もう一つある」

 

 一つを地面に置く。

 そしてもう一つ、キンブリーに返してもらった方を、それの直上に持ってくる。

 

 握っている方にある鉛に思念エネルギーを込めて──錬丹術を使う。

 すると、青い錬成反応はまるで本物の雷のように空気中を伝い、地面の鉛へと流れ込み──。

 

「うん、いいね」

「ほう……」

 

 ボコッ、と。

 僕らの周囲へ円形の盛り上がりを作り出した。

 

「今、何を?」

「さっき見せたコレに思念エネルギーを送っただけだよ」

「……教える気はない、と。確かにそうですね。他の錬金術師の秘密を暴こうとするのはマナー違反でしたか」

「まぁ、盗みたかったら自分で考えることだね」

「反論はありません。……しかし、何故円ができたのかはわかりました。跳水ですね?」

「あぁ、そうだよ。正解」

 

 大地には流れがある。

 それを常流と見做し、ならば上から下へ向かう強めの流れによって射流を生み出して跳水を引き起こせば簡単に円が描けるのではないか。

 そう考えたのがこの「跳水錬成」だ。

 

 あとは賢者の石の錬成陣に従って陣を描けばいい。

 この錬成で重要なのは、その場所の中心にさえいれば円が描ける、というメリット。

 陣を描くのに線が要らないのはお父様が証明済みなので、地図から計算して必要な場所に意識を奪ったアエルゴ人を置いていけばいいだけ。心配なら土でも被せておけばいい。

 

「それじゃあ今から行くけど、キンブリー少佐、君って音の出ない爆発とか起こせる?」

「美学に反しますが、命令とあらばやりましょう」

「みんなを起こしちゃうと悪いからね。静かに終わらせよう。ああ、安心して。ストレス溜まるなら、相応の場は用意するから」

「ええ、信頼していますよ」

 

 さて。

 では、初めての賢者の石錬成だ。

 

 

 

 そこはアハレタという街だった。

 人口32,775人。アエルゴの中でもアメストリスに程近いせいか、治安悪めな街。路地裏にはゴロツキが多く存在し、中にはマフィアなどのホンモノも存在する──そんな街。

 そして、イシュヴァール人に武器を卸していたマフィア、フィオーリ一家のアジトがある街でもある……らしい。僕が調べたわけじゃないので知らない。あんまり興味もない。

 

 ただ、スパイを拷問し尽くして情報を引き出した軍が言うには、そのフィオーリ一家さえ消してしまえばアエルゴ側に言い訳の材料が無くなり、この侵略にも大義ができる……とかなんとか。中央軍側から送られてきた国家錬金術師がそんなことを言っていた。

 ので、デモンストレーションにはもってこいだな、と。

 

「この辺だね。それじゃあ、行くよ」

 

 周辺で一番高いビルの上。

 そこから、その真下に埋め込んだ鉛に向かって、思念エネルギーを送り込む。

 目立ちたくはなかったけれど、どうしても出てしまう錬成反応の雷が鉛から鉛へと伝い──ドゴッと大きな音を立てて、アハレタの周囲に円を描いた。

 

「結局大きな音が出てしまっていますが」

「ううん、この辺は要改良だなぁ。あと高さが範囲に影響するのか、思念エネルギーの量が影響するのかも検証したいところ……」

「それで? 騒ぎが起きているようですが」

「大丈夫大丈夫。すぐ収まるから。それじゃ、街から出ようか」

 

 雷が落ちたとなれば、誰もがその堕ちた地点に野次馬をしにいくか、あるいは家に籠るだろう。それくらいの気象学はある。

 

 騒ぎを逆流して、「流れ」の跳水が起きている盛り上がりを見つけて、そこを飛び越えて。

 

「キンブリー。これが彼ら……エンヴィー達がやってることだよ」

「はあ」

 

 17歳だと言った。彼は今。

 まだ知らされていないのか、知っていてこの反応なのかはわからないけれど。

 

 ──青ではなく、赤い錬成反応が迸る。

 出現するのは黒い手。幼子のような、海藻のような、触腕のようなソレが──赤い光と共にアハレタを覆いつくす。

 

「これは……」

「赤きティンクトゥラ。哲学者の石。大エリクシル。天上の石。第五実体──」

「まさか、賢者の石?」

「うん。エンヴィー達から貰ってない?」

「……貰っていません。ですが、貴方から頂ける、とは聞きました。……現地調達だとは思いませんでしたが」

 

 ああ、そう。

 そういうとこちゃんと説明してほしいな。

 

 ざわめき、どよめき。

 その光景に驚くのは束の間に、アハレタの人間は誰もが皆首を押さえ、息が出来ない、違う、生命活動ができないと──喘ぎ、苦しみ、絶えていく。

 時間は数十秒だ。これが僕の錬成速度の遅さなのか、賢者の石錬成にこれくらいかかるのか、もっと早くできるのかは定かではない。

 

 けれど──成功はしたらしい。

 

 静かになった。

 ゴーストタウンかのように、静かに。

 

 盛り上がった円の一部を破壊して、アハレタを歩く。

 周囲、幾人もの人間が倒れている。外傷はなく、体内を調べても毒素の類は見つからないだろう。あ、賢者の石にするって完全殺人なんだ。名探偵がいても証拠不十分で検挙されないねコレは。

 

 二人、歩いて。

 

「うん、無事上手く行ったようだね」

「……あまり美しい光景ではありませんでしたね。断末魔も悲鳴もないとは」

「何事も準備は地味なものだよ。──ホラ、あげる」

 

 キンブリーに投げ渡す。

 丸い、飴玉サイズというには大きすぎるソレ。僕が貰ったものと同程度の大きさの、妖しく光る赤い石。

 

「これが」

「そう、それが賢者の石。人間の魂を抽出して得られる実体化したエネルギーだ」

 

 確かにこれ、楽だな、って思った。

 イシュヴァールだと交点にイシュヴァール人を置くのが大変だから難しかったけど、アエルゴはイシュヴァール人程の結束力がない。他者にそこまで興味のないこの国なら、行ける。

 

「明日、早速使ってみても?」

「良いけど、他の人にバレないようにね。テンション上がって"素晴らしい、素晴らしいぞ賢者の石!"とか言わないように」

「……言いませんが、何故そのような指摘を?」

「言いそうだったから」

 

 言ってたから。

 

 ま、明日はアエルゴ軍と正面衝突が予想されている。こっちの戦力を見せつけるには十分な場面で、こっちの最大火力たるキンブリーが出るんだ。相手が軍人でこっちを殺さんとしている者ならば、アームストロング少佐もあんまり傷つかないだろう。

 ……ただ彼は、僕が戦地にいる、ということそのものに傷ついているみたいなんだよね。僕の意思なのに。

 

「戻るよ、ゾルフ少佐」

「キンブリー少佐とお呼びください、と言ったはずですが」

「ゾルフの方が短くて良くない?」

「呼ばれ慣れていませんので。それを言うのなら貴方だってそうでしょう」

「確かに」

 

 なんて。

 雑談をしながら、僕らは隊へと戻るのだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 当然の話をする。

 外でドンパチやってる中、僕が何故このテントで一人跳水錬成についての実験を行っていられるかについての話だ。

 

 ──正直言って、僕の錬金術は、錬金術師としての腕は、部下四人の誰もに劣る。というかこの侵略に参加したほぼすべての国家錬金術師に劣る。

 無論技術の優劣とはなんであるか、という議論について、僕のように自らの特性、得意分野を生かして創意工夫することこそが優れている、というのであれば、僕は中くらいにまで行けるだろう。けど一点特化してその道を究める、みたいな錬金術師の物差しで考えたら僕は最下位だ。

 そして僕の完全上位互換にアームストロング少佐がいる。彼は特化したものが無いにもかかわらず、特化連中と肩を並べて張り合い続けられる超万能型筋肉錬金術師。錬成速度も錬成規模も申し分なく、何より素の肉体が強いので隙がない──まさに上位互換。

 

 なので。

 僕は要らない子なのだ。准将という立場もあって、命令をするだけして、外に出ることは滅多に無い。

 イシュヴァールであれほど凄惨な行いをした錬金術師というから初めはビクビクと震えていた軍人らも、いつの間にか僕を見なくなっていった。勿論目が合ったら会釈はするけど、それだけだ。そしてそれが良い。監視されて護衛されて、が四六時中続いていたら困っていたからね。

 

 ちなみにアハレタに関しては、アメストリスの最新の化学兵器だとか錬金術だとか様々な噂が立ったけれど、その全てが今日のアエルゴ正規軍とのぶつかり合いに流されている。

 殲滅戦ではないからね、と何度も釘を刺しただけあって、死者は少ない……とは決して言わないけれど、無理だと判断して投降する兵士は少なくない。

 

 そうして投降してきた兵士は捕虜として拘束し、どんどん国力を削っていく。

 

 なんでこういう手法を取っているかというと、今回はイシュヴァールと違ってアメストリス側のメディアが入り込んでいるからだ。戦場カメラマンというか、なんというか。

 こちらの快勝を国へ持ち帰るためのカメラマン達は、一応中央軍の検閲のもと情報を持ち帰ると言えど、数が数。何か不祥事を……卑劣で外道で邪悪な行いをしていた場合、それをすっぱ抜かれては困る。ということで、真正面から国家錬金術師でぶちのめして、はい、おしまい、にする。

 それが中央司令部の考え。

 

 ──その後アエルゴの民が全員死んだって、それはアメストリスに関係のないことだ。終戦宣言までして、軍を退かせた後の話になるのだから。

 

「クラクトハイト准将、ちょいと良いですかい?」

「うん? ……名前は?」

「ああすんませんね、マース・ヒューズであります」

 

 実験道具を片付ける。

 まだ大尉どころか階級すらついていない彼。というのも。

 

「士官学校生徒全員揃いました、って報告です」

 

 士官学校生。まだ十七歳な彼は、これから軍人になるのだ。

 

「了解。といっても、何もしなくていいからね。今国家錬金術師が暴れてるから、巻き込まれたら危ないし」

「……俺達がここに呼ばれたのって、つまり"戦場の空気を味わってこい"って奴ですよね」

「だろうね」

「ただ……」

「国家錬金術師のビックリショーばかりで現実味が無いというのなら、実銃を握ってアエルゴ人を撃ち殺してみる?」

「……いえ、すんません。余計なことを口走りました。……遠慮しておきますよ。そんな実験みたいな感覚で人の命を奪う気は無いんで」

 

 ……。

 まぁ、それが普通か。

 

「どんな気になったら人の命を奪えるの?」

「いや……まぁ、死にたくねぇって時だと思います。自分が死にたくないって思ったら、銃でもナイフでも取って──人の命を奪うんだろう」

「そう。参考にするよ。じゃあ、下がって。ああでも、ピクニック気分で来てる生徒がいたら、流石にぶっ叩いて目を覚まさせてあげてね」

「へっ? あ、あぁ、そりゃ勿論ですが。……あー、じゃあ、失礼します」

 

 これだけの侵略戦争、これだけの紛争を繰り返しているアメストリスで、マスタング大佐を始めとした反戦軍縮の気風が途絶えない理由。まぁ彼はきっかけが殲滅戦だから事情は違うんだけど、こうも平和主義が多い理由をちょっと考えていたことがあったんだ。

 ホラ、作中でもヒューズ中佐が殺された時、みんな血気盛んになったように、やっぱり身近な人間が殺される、という恐怖に接していないからなんだと思う。テロリストが如何に怖いかを知らないからなんだと。

 

 良いことを聞いた。

 アエルゴ人を有効利用して、アメストリスから反戦軍縮の空気を減らして行こう作戦、だ。

 ホムンクルスたちの企みを阻止して、けれど僕や僕の思想の近しい人が大総統の座に就けなかった場合に、隣国へは決して気を許してはいけない、という空気を植え付けるために。

 

 意識改革──という奴である。

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