竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
第二十八話 錬金術の禁忌「連鎖賢石錬成」&標的
終戦宣言。
報復戦争、侵略戦争。
終わってしまった。なーにが四年はかかる計算、だ。何を計算していたんだ僕。
「流血のない、とはいきませんでしたが……こうして終わることができたことを嬉しく思います」
とはアームストロング少佐談。
彼らが殺したのはアエルゴの兵士だけだからね。アームストロング少佐は心優しい兵だけど、流石に軍人と一般人の境は認識している。命を奪い、奪われるのが軍人であると理解している。あるいは姉に叩きこまれたか、家のしきたりか。
軍人が戦い、その果てに死ぬことに対して憐みを覚えるのはむしろ無礼だと──彼はいつか語っていたか。
「……准将」
「何かな、マクドゥーガル少佐」
「……いえ。貴方と、そしてキンブリー少佐からは……少しばかりの」
「マクドゥーガル少佐。言わなくていいことを言う必要はありませんよ」
「っ! ……そう、だな」
というわけで、僕が自分から選んだ最後の国家錬金術師は氷結の錬金術師ことアイザック・マクドゥーガルだったりした。
何故って、彼は軍の闇を知って反体制派ゲリラになるような人間だ。裏の糸とか気にしなくていい代表だろう。
その背を叩き、振り向きもせずに手を振って去っていくのはキンブリー。
これから行うことを知っている彼だ。忠実な部下として、後の全てを僕に任せて出ていく。
「クラクトハイト准将、ここで何を?」
「何って言われてもね。錬成陣を描いている、としか」
「はぁ。……何故?」
そして最後の一人。中央司令部からの推薦で入って来た国家錬金術師。
……いやまぁ、原作知識には全くなかった人だったんだけど、火力は十二分だった。グラン大佐とか、あるいは若い頃のマスタング大佐とかが来るんじゃないかって身構えてたんだけどね。何も知らない人で逆に安心したというか、100%中央の糸が背中にくっついているのが見えて気が楽だったというか。
「帰投命令は出ているはずだけど」
「それは貴方も同じでしょう、クラクトハイト准将」
「いいや? 僕はやることがあってここに残ってる。君とは違うよ」
「そのやることとは?」
気が楽だった。
何の気兼ねもなく、彼を面倒くさいな、と感じることができたから。善人過ぎず、悪人過ぎず。キンブリーのような能力のあるビジネスパートナーでも、アームストロング少佐のような価値のある善人でも、マクドゥーガル少佐のような正義の心を持つ善人でもなく。
ただ僕の技術を盗まんとするためだけに付いてきた、至極どうでもいい存在。
「賢者の石の作成」
「……ッ、そんな夢物語で納得するとお思いですか!? たった一年の間でしたが、私は貴方の言う通りに動き、貴方の命に背かなかった──それは貴方が国のために動いているということを心から感じられたためです! それを、今になって反故にするなど」
「君に与えられていた任務は、遅延錬成の技術と、そしてホムンクルスから与えられた賢者の石の錬成陣──その完成形の奪取。そうだよね」
ホムンクルスたちは、中央軍にノウハウを渡しただけだ。
渡して、そこから賢者の石を確実なものとして生成できるようになるまでに、数多のイシュヴァール人を使用した。
つまるところ、彼らに渡されたのはこの錬成陣ではなく、もっと原本のような……あるいは知識だけとか、とかく抽象的なものだったのだろうことが窺える。
それでいて、イシュヴァール人を僕が全滅させてしまって、実験材料が足りな過ぎる。
じゃあアエルゴに、と目をつけて、ようやく実験ができるようになった──のだけど。
明らかに、もっと完璧な賢者の石を作っているっぽい奴が上司にいました、と。あるいはアレかな、キンブリーも彼の事を見抜いて、見せつけてからかいでもしたのかな。
だから、メディアに扮した中央軍の下っ端と定期的に会って報告を届けて、その追加任務が出されたのだろう。
「……知られているのなら、話が早いですね。──これは中将以上の権限による命令です。クラクトハイト准将、貴方の知っている技術の全てを私に明け渡してください」
「75秒だ」
「はい?」
「君が僕に話しかけてきてから、今やっと1分と15秒が経ったんだよ」
ガチャン、と。
大きな──金属同士が噛み合う音がする。
アメストリス国民。報復戦争に出てきていたすべての国民の退去は終了している。一般兵の一人も残っていない。
「サンチェゴの錬成に15秒。四つの錬成陣に思念エネルギーを込めるのに15が4つで60秒。計1分15秒。幼子でもできる計算だね」
「……准将に話す気が無い、というのはわかりました。では、手荒になりますが──この一年でさらなる進化を遂げた私の」
地面から突き出た鎖が彼の首に巻き付く。
そのまま引き摺り倒して、四肢をも新たな鎖で拘束する。
ダメだよ。僕がしゃがみ込んでいる時に悪意もって近づいてきたら。
サンチェゴ作ってるに決まってるじゃん。この一年で作る機会は一度もなかったとはいえ。
「ぐ、ぅ!?」
「人間ってさ、丁度いいよね。思念エネルギーを発生させる頭蓋と、腕が二本に足が二本。四つまでしか並列処理ができない僕のためにあるかのような生き物だ」
「……!?」
「なんて。こういう言い方すると、ホントに悪魔みたいだよね。安心して。僕も同じ人間だよ」
地面から抜き出すのは、お馴染みの竜頭。柄が円形で、螺旋を描く刀身の、けれどかなり短い剣。剣というか槍というか。まぁ実用性に欠けるものであるのは事実だ。
それを。
引き倒した、彼の脇腹に──刺す。
「──!?」
巻く。
ジリジリと音を立てさせて、竜頭を巻く。
感じるだろうか。その体内で組み上がる──生体の機械時計の存在を。
僕に生体錬成は使えない。
といっても、医学の心得が無いからの話であって、過畳生体錬成や遅延連鎖生体錬成弾のように、相手がどうなってもいいのであれば、生体錬成を行う知識はある。人間の組成は知っている。
「同じことをして拘束したアエルゴ人を、各地に三人配置してあってね。──君で最後だ」
ペラ、と見せるのは、賢者の石の錬成陣──そこに僕の遅延錬成を足した、とても簡易な陣*1。
「さしずめ、連鎖賢石錬成陣とでも名付けようか。賢者の石の錬成陣が僕の作ったものではないから、略すこと自体が少し憚られるけれど」
「ぅ──ぶ、ぐ」
「それじゃ、これが君の見たかった遅延錬成で、君の見たかった賢者の石の錬成だ。──さようなら。二階級特進おめでとう」
「──!!」
南西。南。西。そして目の前の順に、黒いウネウネが突き出てくる。
赤い光。地面より滲み出すそれは地を走り、中心点を支点とした円を描く。
「壮観ですね。私はこの殺し方をあまり好みませんが、たった一人の錬金術師がこの規模の錬成を起こしたと思うと、一錬金術師としての腕が疼きますよ」
「あれ、帰って来たんだ」
「アームストロング少佐とマクドゥーガル少佐を装甲車に乗せて、ですよ。ちゃんと外の見えない後部座席に座らせました」
「本当に仕事人だよね君」
「そういうところ、キッチリやらないと気が済まないので」
時間にしてみれば、十数秒でしかない。
そして今の時間、キング・ブラッドレイが演説を行っているので、アエルゴに目を向けている人間はほとんどいない。いたとしても少数で、そういうのが何かしらの噂を流してくれるだろうから、それはそういう都市伝説として生き残る。
構わないのだ。知られたところで解明できるわけでもなし。あるいはエドなら──とか。
赤い光が収まる。
静寂が訪れる。
「おや? 彼、殺したのですか?」
「人聞きが悪いな。僕は味方殺しをしないことで有名なんだ。裏切り者は味方にカウントしないけどね」
「ああ、最後の最期で欲を出しましたか。同じ"子飼い"同士、仲良くできると思っていたのですが」
「心にもないこと言うの得意だよね、キンブリーって」
「いえいえ、全て本心ですとも」
適当に車を見つけて、鍵を壊して乗る。
流石に全土を歩いて賢者の石を回収とかやってらんない。僕のところに自動で集まるでもなし、自動車使ってさっさと集めるのが楽だ。
厚底ブーツ的なものを適当に錬成して目線も高くなるように調整して。
「……」
「なに、せっかく帰って来たのに来ないの? もう行くけど」
「……免許はお持ちで?」
「持ってないけど、運転くらいできるよ」
勿論前世の普通車と違うのはわかってるし、普通にアエルゴに来てから何回も乗ってるし。
身長が足りないから色々工夫しないといけないんだけど、やっぱり便利だ、自動車。ちなみに大型バイクも乗れる。そんなもの無いけどね鋼の錬金術師世界。
「わかりました。信じましょう。ただし、もしもの事を考えて」
「いつもの聞き分けの良さはどこに行ったの? 大丈夫、安全だよ。安全運転で行くよ」
「ふむ。……これは私が間違っているわけではないと思うのですがね。いいでしょう」
そんなに怖いかな、子供が運転する車に乗るの。
……怖いか。
ともあれ、何の事故もなく、速度超過さえもなく普通に運転して普通に巨大な賢者の石を回収して元の場所に戻って来た頃には、日が暮れていた。まぁまぁ広いからね、アエルゴ。
そしてそこにいたのが。
「よぉ。四年かかるんじゃなかったのかよ」
「うん。国家錬金術師、ヤバいね。人間兵器っていうのにようやく納得が行ったよ」
「アンタもその一部なんだけどな」
エンヴィーである。
彼に後部座席の巨大な賢者の石四つを見せる。
「はー、こうなるのか。……大体何人くらいだっけ?」
「一個当たり750万人分くらい?」
「ハッ! そりゃすげえ!」
そうなのだ。
クセルクセスの人口が100万人くらいだったせいで、ホーエンハイムもフラスコの中の小人もその中に53万人しか入っていないとかいう少なさに対し、この巨大な賢者の石は一個当たり750万人分。
たかだか50万人ちょっとであそこまで生きてあんな色々できるって考えたら、確かにアメストリス国民を全員使った賢者の石でカミをも封じ込められると思うのは致し方のないことだろう。
そんでもっての、コレだ。
……もしコレ、お父様が取り込んだりしたら、普通に考えてパワーアップだよね、とか思ったり思わなかったり。
まぁエドがなんとかするでしょ。僕も色々仕込んではおくから。
「コレ、エンヴィー達の上司に?」
「上司……いやまぁ、上司……まぁ、そう、だな。そういうことになってる。……なんだ、欲しいのか?」
「いや、クレタとドラクマの侵略も現地調達で良いかなって思ってるよ」
「いいねぇ、本当に容赦がない。キンブリー、アンタも付き合ってて楽しいだろ、コイツ」
「楽しいかどうかは微妙ですが、充実した職場ですよ。賢者の石が使えて、錬金術を好きに使えて、良い音も聞けて、特に何を言われることもない。出来得るのであれば異動はしたくないですね」
僕もしてほしくない。
いやね、本当に強いんだよキンブリーって。頭も良いし。戦ってないときは普通に色々な事を教えてくれる。「そういうことは専門外なのですがね……」とか言いながら大体知ってる。
あらゆるものを爆発物に変える錬金術。故にあらゆるものについて知っていなければならず、爆発物、爆発性のある物質に変えるためならどんなことだって覚えるし勉強する──狂っているが故の勤勉。
狂人結構、狂っているなら調節するのが竜頭の仕事。
僕も彼とはそれなりに良い付き合い方ができていると思っているよ。
「んじゃ、その車ごと俺が貰ってくよ。仕事お疲れさん。クレタとの戦争はちっと準備に時間がかかるから、その間休みでいいぜ。整ったらブラッドレイから招集がかかるだろうからさ」
「……それなら少し、行きたい場所がある。大総統に出国許可を出してもらえるよう言っておいてくれる? 腹の探り合いしたくないんだ」
「そりゃいーけど、どこ行くんだ?」
「クセルクセス」
反応は二種類。
疑念と納得。
勿論、前者がエンヴィーで後者がキンブリーだ。
「何用で」
「成程、残党狩りですか。確かにあそこであればいい隠れ蓑になる。──イシュヴァール人。狩り損ねた者がいると踏んでいるのですね?」
「うん。僕が要注意人物として挙げていたイシュヴァール人が二人いるんだけどね。そのどちらもが見つからないまま、内乱鎮圧は終わってしまった。アメストリスへは完全に入らせないよう見張っていて、アエルゴにもいなかったから──最後の可能性はあそこしかない」
ホーエンハイムさえいれば兄の方の天才性は必要ないと言ったけれど、だからといって見逃すわけではない。あの二人こそ、最も危険。最も復讐者に近く、最も国家錬金術師を死に追いやりやすい二人。
僕が逃がしたままにしておくと思ったら大間違いだ。
復讐の芽は完全に摘む。摘み取る。──他に逃げているイシュヴァール人も、全員。
「オーケー、ブラッドレイに言っておくよ。キンブリー、アンタはどうす……って、聞くまでもないか」
「ええ、勿論ついていきますよ。私に休暇期間など不要なので」
右に同じ、だ。
休みなんて要らない。
世界征服を果たし、危険分子や不穏分子を全て排除しきったその暁にこそ、休息というものは与えられる。
「んじゃあな」
言って。
去っていくエンヴィー。
背後には静寂の国、アエルゴが息を絶え。
眼前に広がるアメストリスでは、かつてないほどの大景気に人々が浮かれている。
「サウスシティまで歩きますか? それともまたアエルゴから車を?」
「あー。……乗せていってもらえばよかったね」
「私は構いませんよ。とりあえずミィロまで歩きますか」
「うん」
夕焼け時、二人。
まだまだ、闘争は終わらない。