竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第二十九話 錬金術の戦闘「解析」&二人

 クセルクセス。

 大昔、砂漠のど真ん中だというのに栄えに栄え、しかし一夜にして滅びたという御伽噺のある国。現在でもその遺跡は大砂漠に存在し、本当にそこに人が住んでいたことが窺える形跡が多数見つかる。

 

「なるほど、この崩れた壁画……」

「うん。賢者の石の錬成陣だね」

「つまるところ、彼らはクセルクセス出身であると?」

「名の通り人造人間。生まれはクセルクセスじゃないと思うよ。ここにいて、ここを一夜で滅ぼした何者かが作り出した存在」

「ふむ。……やれ愚かな人間、やれ道化たる人間とあまりに人間を見下した発言を取るものですから、もう少し超常的な存在なのかと思っていましたが……案外歴史は浅いんですね」

 

 確かにそうだ。

 クセルクセス崩壊の年が正確にはわかっていないからお父様及びホーエンハイムの年齢自体は微妙だけど、ホムンクルスたちは実はまだ500歳未満。勿論僕らにとっては物凄い年上だけど、アメストリスの平均寿命が60歳前後とこの年代、且つ戦争国家にしては高めであることを加味しても、見上げるほどの超常存在じゃない。

 その特異さ、その能力故に恐れ戦かれるホムンクルスも、未だ創造物の域を出ず、想像上には足を掛けない存在であるということだ。

 

「彼らがどんな存在でも特に気にしないでしょ?」

「無論ですが、私にも知的好奇心はありますよ」

「僕も特に制限するつもりはないよ」

 

 さて。

 いるわいるわ、である。

 

「キンブリー。考古学……というか、由緒あるものの破損について君はどう思う?」

「それが私にとって価値のあるものであれば」

「うん、じゃあ」

 

 ガチャン、と音がする。

 それとほぼ同時、地面から突き出たスパイクが大波のようになって僕らへ襲い掛かって来た。

 

 粉砕は眼前。大きく舞う土埃が視界を塞ぐ。

 

 その中を、低い姿勢で走って来た虎──と見紛う大男が、鬼神が如き形相でその腕を揮う。前蹴り。ハイキック。キンブリーはそれを受けることなく、避ける。ギリギリだとかテクニカルに、とかじゃなく、余裕をもって逃げる。

 見える。見えた。僕の動体視力でギリギリ見えた。

 両腕に入れ墨がある。──やっぱりそうだよね、とか思いながら、乾湿の錬成陣で時間稼ぎ用の鉄壁を錬成。破壊された。

 

 ぐい、と持ち上げられる感覚がして、そのままぶん投げられるのがわかった。

 

「素晴らしい! 聞いてはいましたが、人間兵器──国家錬金術師に、軍に、たかだか一民族の身で抗い続けた武の頂点が一つ!」

「ッ──」

「それではこちらも存分に揮わせていただきましょう──まずはそう、一万人分でどうですか?」

 

 直後爆発が起きる。

 クセルクセス遺跡、その四分の一程を巻き込む大爆発だ。あーあー、僕の作りかけのサンチェゴまで吹っ飛んじゃったよ。これ……キンブリー、周辺の砂を全部錬成したな。砂漠をあんまり掘り過ぎると流砂で大変なことに……と。

 

 鎖の一本を竜頭剣で叩き落す。

 なに、意趣返しって感じ?

 

「……竜頭の錬金術師、だな」

「そういう君は、今あっちで戦っている猛獣の兄だね」

「なんだ……私達を知っているのか? 竜頭の錬金術師に目をつけられるような行いをした覚えはないが」

「イシュヴァール人であるにも関わらず錬金術と──そして錬丹術まで学ぶ存在。それに目をつけない僕じゃあないよ」

 

 竜頭剣をそのまま地面に刺して、錬成を始める。

 必要な錬金術をピックアップして……いや。錬成中のサンチェゴを一旦放置して、バックステップと共に距離を取る。地面を何度か触って、相手をしっかり目に収める。

 

 傷の男(スカー)の兄。あっちにいる猛獣が傷の男(スカー)なのだろうことも間違いない。傷が無いからこの呼称は間違いだけど、どうせ呼びかけることも無いからいいだろう。

 爆発と破壊。両者クセルクセス遺跡のことなんか欠片も考えないまま、方や両腕に分解と再構築を刻んだ猛獣、方や賢者の石をたっぷりと手にした紅蓮が、破壊のあらんかぎりを尽くし続ける。アレに巻き込まれたら生き残れないだろう。たとえホムンクルスでも巻き添え気味に死ぬんじゃないかな。

 

「ッ!?」

「あぁ、案外目が良い。耳も良い。武僧じゃないからいけると思ったんだけどね、流石に警戒してるか」

「……遅延錬成か。いつの間に仕込んだ、なんて聞くまでもないが」

 

 おや、戦闘中によそ見とは余裕だね、パターンの裏を突いた不意打ち錬成は失敗に終わった。砂とかいう錬成しやすいことこの上ない素材の上だ、いくらでも「整形」の錬金術が使える。……ものの、相手だってそれは同じ。

 というか多分錬成速度ではこちらが完全に劣り、砂漠という地の理解もあちらが上。

 クセルクセス遺跡諸共キンブリーに爆破してもらうつもりだったんだけどなぁ。僕は拠点防衛型の錬金術師であって、タイマン張るタイプじゃないって何度言ったらわかるんだって話。

 

「お前の遅延錬成がどういう仕組みなのかは把握している。上手く考えたものだが、性質がわかれば然程留意するものでもない」

「へぇ、すごい。今アメストリスの、というか軍の錬金術師が必死になって調べている僕の遅延錬成を、ロクな研究施設も持っていない君が解いてしまうんだ」

「だから、こういうこともできる」

 

 錬成反応。

 ──真下からだ。

 

 思わず切り札の一つを切る。

 

「……何? いや、今のは……もしや錬丹術か?」

「うわぁ、君程手の内を目の前で見せたくない相手はいないね。まぁいいや、そうだよ、錬丹術だ。何をしたのかは解析できるかい?」

「恐らくだが、分解だろう。"錬成物の分解"を流れに流したか?」

「そこまで高度なことは僕にはできないよ。僕がやったのは"錬成直後の霧散"。錬成自体を止める、あるいは介入するには至らないから、リバウンドが僕に流れてくる心配もない」

「成程、高度な技術より自身の安全を取るタイプか」

「自身の安全あってこその高度な技術だよ」

「違いないな」

 

 錬成物の分解。

 傷の男(スカー)のよくやるそれ。vsお母さんの時とかにもやった、錬丹術込みでのそれの、最速版。「ノイズ」と名付けているものを一発で看破された。

 あと僕の性格も。本当に嫌になるね。

 

 ──ひと際大きな爆発が起きる。

 砂埃が周囲を包み込み、僕と傷の男(スカー)の兄の間にまで来る。

 

「ただ、僕の性質を理解するには遅かったね。竜頭の錬金術師が相手だとわかっているなら、お喋りの時間は禁物だよ」

「だろうな。それがわかっていなければ私はこうも前に出てくることをしなかっただろう」

 

 ガチャン、と。

 音が鳴った。

 

 ──彼の足元から。

 

「っ!」

 

 鎖を錬成する。数多の鎖。普段放出しない量の鎖を砂から突き出す。

 

 その全てが、彼が錬成してきた同量の鎖によって叩き落とされた。

 

「仕組みさえわかればお前の錬金術は大したことが無い。──その大したことが無い錬金術に負けたのが私達だが──二度も同じ結末を招くつもりはない」

 

 僕の鎖は砕け散ったけれど。

 彼の鎖は依然、彼の周囲に浮いている。再構築の強度もあちらが上。

 

「複雑な機構の重なりあいによって、欲しい錬成陣を即座に出すための機械を錬成する錬金術。だがそれは、お前が自らの欲す錬成陣を自前で即座に用意できないことを示している」

「……嫌になる、と何度言えばいいかな」

「私も驕るつもりはない。だが、恨みを込めて敢えて言わせてもらう。──子供騙しも良い所だな、錬金術師」

 

 さて──どうしようね、コレ。

 

 

 *

 

 

 熱が込み上げてくる感覚があった。

 爆発。爆発。爆発。賢者の石も用いたソレで、けれど悲鳴が聞こえることはない。苦痛を堪える声すら聞こえない。つまり、完全に回避されているということだ。

 アエルゴは楽しい場所だったが、手応えというものは無かった。木人形に対して錬金術を使っているかのような、「賢者の石を用いた錬成の試し撃ち」にも似た薄さ。良い音はなっても、充実感は満ち溢れるほどではない──そんな感覚。

 

 ああ、これが必要だったのかと納得する。

 

 怨嗟だ。

 目の前の猛獣が如き男とは何の因縁もないにも関わらず、男から発される怨恨のなんたる深いことか。アメストリス人を心から怨み、憎み、憤り、殺したいと願っている。自らを、自らの大切なもの達を害したアメストリス人が許せないと──心の底から忿懣を滾らせている。

 これだ。

 これが足りなかった。これがスパイスだった。

 

 ただの悲鳴、結構。ただの断末魔、大いに結構。

 ──だが、この音は……良い音だと耳が喜んでいる。

 

「そうですね、良いことを一つ教えてあげましょう、名も知らぬイシュヴァール人」

 

 会話などもう成り立たない。

 目の前の猛獣は獣でしかない。こちらを餌とし、殺しにかかるだけの猛獣。否、食べることさえしないのだろう。縄張りを荒らされたから殺す。仲間を害されたから殺す。ただそれだけの獣だ。

 

 それでも、この起爆剤を注ぐことに好奇心が止められない。

 

「イシュヴァール内乱の発端となった誤射事件。あの事件の当時から彼、竜頭の錬金術師は現場にいましたね」

 

 人間離れした格闘術も、爆発を避ける以上はある程度誘導ができる。自らの耐久性能が人間を超え切らないことは理解しているのだろう、しっかりと直撃の爆発は避けるから、誘導もしやすい。賢者の石のおかげで錬成に困ることもありませんし、なんて嘯くのは彼の前だけでいいかもしれないが。

 

「あの誤射をした軍将校は投獄されました。本人は最後まで無罪を主張していましたが、当然ですね。ですが──」

 

 危険な賭けはしない。危なそうな攻撃は必ず余裕をもって避ける。慢心はしない。

 それでも危険ならば自らを吹き飛ばしてでも避けるし、傷を負おうものなら賢者の石を惜しげもなく使う。生体錬成は専門外だが、軽傷を治癒できる程度の知識は持っている。

 必要なことだ。むしろできる能力(ちから)があるのに覚えない錬金術師の方がどうかしている。彼のように先天性の欠点を持っているわけでもないにもかかわらず、だ。

 

「実は彼、本当に何もしていないのです。何故ならこれは全て冤罪で、彼に成り代わっていた者が起こした事件なのですから」

 

 獣の動きが少し止まる。

 おやおや、理性を残していますか。理性なき猛獣であれたらどんなに楽だったか、なんて考えるまでもありませんが。

 

「さて、この成り代わり事件。その成り代わった将校に連れられてあの場にやって来た竜頭の錬金術師は、果たして知っていたのでしょうか」

「──知らずとも、関係はないだろう」

 

 おお、会話が成立するとは。

 それでは成立しないようにしてみましょうか。

 

「勿論知っていたのですよ。──なんせ、その誤射は誤射などではなく、貴方達の内乱を引き起こすためのトリガー。そして彼は、罪無きイシュヴァール人という民族を殺すためだけにあの地へ来ていた錬金術師なのですから」

「──」

「棄てられたのですよ、貴方達は。無理矢理に併合吸収をしておいて、けれど邪魔になった──それ故に」

 

 瞬間、彼のもとに向かおうとした獣の眼前で爆発を起こす。

 怨嗟が濃くなりましたね。私に向かうものが減ったのはミスですが──殺意。殺意が、溢れ出て見えるかのようだ。

 

「良いですよ、イシュヴァール人。もっと怒りなさい。もっと恨みなさい。──そして嘆きなさい。アナタの怒りはここで潰えます。あちらにいるイシュヴァール人も、アナタの背後にいる、彼から逃げ果せたイシュヴァール人も──全て」

 

 一時休止はここで終わり。

 さぁ、ここまで仕込んだのですから、良い音を期待しますよ。

 

 私としては、早くこの場を終わらせて、困り果てているだろう上司を助けに行かないといけませんので。

 

 

 *

 

 

 まぁ、どうするもこうするも、である。

 

「できるだけ節約したかったんだけどね。人類屈指の天才を前にそう余裕ぶってもいられない」

 

 赤い錬成反応を以て、鎖の量を増やし、再度射出。

 傷の男(スカー)の兄は少し目を見開いたものの、あちらは少ない鎖でこちらの全てを叩き落す。

 

「……強度が上がった。それに数も」

「そういうの、見抜かないでおくのが様式美だと思うんだけどね」

 

 言いながら砂を握って固めた砂岩をぶん投げる。

 子供の肩だ。然程遠くには飛ばないけれど、それで問題ない。

 

 砂岩がパァンと爆ぜる。爆ぜた後にもう一度爆ぜて、さらに爆ぜる。

 いつかやったネズミ花火だ。遅延連鎖錬成反応閃光弾……連鎖反応爆竹って言った方がいいのだろうか。爆竹とは原理が違い過ぎるけど。

 

「……」

 

 これこそ子供騙し。

 打つ手なしで自棄になったか──とかって思うのは普通の相手限定。彼は絶対にそうじゃない。僕をちゃんと脅威と認定して、ちゃんと殺す気でいる。

 

「っ、成程そういうことか!」

「わかるの早いって!」

 

 再構築の腕が砂を殴り、起き上がったスパイクがパチパチ爆ぜていたそれを壊す。

 三十二分の一、くらいか。これをあと五回……は現実味がないな。それより先に殺されちゃいそうだ。

 

 計画変更。鉛玉を五つ取り出して、彼の方へ投げつける。

 けれどそれらは砂よりせり出した岩壁に阻まれた。ちょいちょい、警戒しすぎでしょ……仕込みもさせてもらえないと僕何にもできないんだけど!

 

 さらに計画変更。賢者の石を用い、僕を中心として周囲の地面に射流を起こす。

 ボフッなんて音を立てて構築されるは砂の円。

 

「──」

 

 瞬間、今まで手を当ててきた地面、鉛玉の衝突した岩壁、さっきまで僕がサンチェゴ作ってた場所エトセトラに線が浮かび上がる。

 線は複雑怪奇。流石の傷の男(スカー)兄といえど、一瞬で読み解けるものではない。

 あちらのサンチェゴで妨害するか、それとも逃げるかの賭けは──後者。

 

「君が優秀で良かったよ」

「……成程、無反応の錬成陣か。小手先の技だが、特に私のような手合いには効果的だな」

「そして筋道も立った。君を殺す筋道が」

「そうか。私も気付いたさ。お前を殺す術を」

 

 互いの足元で、金属音が鳴った。

 滲みだす青と赤。錬成速度はあちらが上で、錬成規模はこちらが上。上、のはずだった。

 

 物量──。

 物量だ。もう、それは、筆舌に尽くし難い程。錬成物、錬成物、錬成物が砂上に楼閣を築き上げる。

 

 錬金術は想像力がモノを言う。仮に頭の中だけで地形やら何やらを全て計算し尽くし、その上で国土錬成陣並みの錬成陣を思い描ける者がいれば、立っている地点から錬成陣を描き起こすことだって不可能ではないだろう。

 では、この天才は。

 

 今──賢者の石の錬成と対等に張り合っているこの男の脳内は。

 

「……讃えるよ、イシュヴァール人。錬金術についてロクに学んだわけでもない、弾圧さえされてきた君が、そこに立っている事実を」

「私は悍ましく思う。お前のような子供が錬金術で行って来た所業を。その思想を」

 

 尚も編まれていく錬成物。賢者の石は再構築時のブーストはしてくれるけど、術者の想像力を助けるようなものではない。

 僕が思いつかないものまでは、思い描けない範囲まではサポートしない。サンチェゴも同じだ。僕の技術を盗み、同じサンチェゴの考えに至ったとしても、その脳が僕を上回っているのなら、優れているのなら、より優れたものを、より多いものを、より早く、より大規模に作り得る。

 上回られる。

 僕を。僕の作り出したあらゆるものを──彼が。

 

 その波が──。

 

「……?」

 

 浮かんだのは疑念だった。

 僕に、じゃない。

 

 彼にだ。

 

「な……に、を?」

 

 突然、大量の血を吐いた彼。

 さらに体中のあらゆるところから出血が。細身な彼が崩れ落ちるのにそう時間はかからない。

 

「……遅延錬成のリスク、って奴だよ。サンチェゴのリスクでもいい。これは僕にとっての真理だ。──ゆえに、上手く扱わなきゃ代償を取られる」

 

 本物みたいに。

 代償を取らせたのは僕なんだけどね。

 

「さて、説明会は殺した後で、だ。考える時間も、苦し紛れの余力も与えない。──さようなら、イシュヴァール人」

 

 彼が倒れた砂地から、幾本もの鎖が突き出る。

 かつてあった鎖の墓標事件を思わせるその光景は。

 

 

「──兄者!!」

 

 

 彼の弟の悲痛な声と、直後に起きた耳をつんざく程の大爆発に諸共吹き飛ばされたのだった。

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