竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第三話 錬金術の基礎「記号(マーク)」&お買い物

 さて──次のステップである。

 といっても最初の基礎三つ。正円とまっすぐな線とエネルギーの理解が終わった時点で、後の発展は僕次第なのだという。放り出された、と思えなくもないけど、実際教本とか見ても「あとは自分の想像を固定しやすいマークを考えておこう!」で終わるから驚きである。

 じゃあお父さんが持っていた古めかしい分厚い本がなんなのかっていうと、あれは古書の類で、お父さんが研究している錬金術の先駆者が書いた本らしい。本当はその先駆者たる錬金術師に会いたかったそうだけど、老衰で死んじゃったとか。

 だから遺族に頭を下げてその本を買って、それをずっと解読しているんだって。まぁ遺族も理解の出来ない本持ってても仕方ないだろうし。錬金術って案外「小難しいこと言う学者の使う奇怪な技術」みたいに思われている節がまだ抜けきっていないので、もしかしたら焚火代わりにでもされていた可能性がある。

 そう考えるとよかった……のかもしれない。わかんないね、その辺は。

 

「というわけで、in街」

 

 である。

 アルドクラウドの中心部、商店街……というとちょっと当てはまらないけど、ブティックとかカフェとかがそこそこある場所。ごめん嘘吐いた。それぞれ三店くらいしかない。いや田舎だからっていうか、セントラルシティ程密集してないだけ。

 そこの本屋に来て。

 

「すみません、錬金術の本ってありますか?」

「錬金術ゥ? ……ボウヤ、錬金術に興味があんのかい?」

「あ、一応見習いで……」

「……やめときな。あんな悪魔の技術……ロクなことにならないよ。そんで、だからここには錬金術の本なんてない! ほらとっとと帰りな!」

 

 ──なんて風に追い出された。三店とも。

 えぐえぐ。なんでこんな錬金術師嫌われてるんだアルドクラウド。

 

 ……もう普通に食材だけ買って帰ろうかなぁ。

 あ、お父さんには錬金術の本を買いに行く、なんて話はしていない。内緒にしたいとかじゃなくて、パっと思いついてパッと行動してるだけだから。僕の行動に理由なんてない!

 

「ん?」

 

 何か。

 側溝に何か、光るものが落ちている。

 

 西部の気候は乾いた感じだ。南部程熱くはないし、北部程寒くない。そして東部程風が強くない……まあ、あんまり特徴のない気候。

 だからというわけじゃないけど、側溝も乾いていて、ばっちくなかった。

 

 その光るものを取る。

 

「……え゛」

 

 そりゃえ゛も出る。

 雄の竜が、一筆書きの六芒星に絡めとられている図。の、描かれた……えー、意匠の施された、銀色の……パカッ。

 

「銀時計だ」

 

 銀時計である。

 一応開く。開ける。つまり鋼の錬金術師主人公にして国家錬金術師エドワード・エルリックの、それじゃない。あ、っていうかそうか、まだエド生まれたばっかだから国家錬金術師なんてなってるわけないんだった。

 だとしても、銀時計だ。

 

 だ……誰の?

 というか落とし物……これどこに届ければいいんだ?

 

 警察、は多分困るだろうし……ウェストシティの西方司令部とか? いや遠い遠い。

 え。

 えっ、どうしようこれ。

 

「落とし物を拾った場合の鉄則は二つ……一つはその場に置いておく。つまりみなかったことにする。二つ目は持っていく……つまり半ば盗んだ形にもなる……」

「もう一つは、近くに落とした人がいるかもしれないから探してみる、です」

「うぇ」

 

 顔を上げる。

 そこには……。

 

「あ、お母さん。お帰りなさい」

「はいただいま。でもごめんねレミー、またすぐに行かなきゃなの。だからそれ、返してくれる?」

「え……あ、もしかしてお母さんがいなくなってたのって査定?」

「あら、良く知っていましたね。でもそろそろ汽車が出てしまうので、レミー」

「あ、はい。……もう落とさないでね?」

「大丈夫です。それじゃ、また一週間後。お父さんに毎日のジョギング欠かしてないか聞いておいてくださいね」

「え、そんなのしてるの見たこと無いけど」

「──わかりました」

 

 そう言って、ニッコリ笑顔で去っていくお母さん。

 

 お母さん。

 誰に対しても丁寧な喋り方をする人だな、とは思っていたけど、まさか国家錬金術師だとは思っていなかった。家で錬金術使うトコ見たこと無いし。あ、でも入っちゃダメな部屋あるな。もしかしてあそこが研究室?

 というか結構しっかり者って印象だったけど、査定の前まで銀時計落としたの気付かないのはこれ……結構かな? 結構な結構かな?

 

 そしてお父さん。

 ジョギングなんてしてるの一回も見たこと無いけど。

 

 ……えーと。

 今日はもう帰ろう。それで、お父さんになんでこんなに錬金術師嫌いの本屋さんが多いのかも聞こう。

 

 

 

 *

 

 

 

「母さんにあった? 銀時計を……落としてて? はぁ……アイツの落とし物癖はいつになったら治るんだ」

「そんなに落とし物するんだ、お母さん」

「昔からな……。父さんと母さんが出会ったきっかけも、母さんが落とし物をしたからで」

「それで、お母さんがちゃんと毎日ジョギングしてるか、って」

「──……シテルシテル」

 

 言われてみれば、である。

 言われてみれば、お父さんのお腹はぽっこりしている。今ぼよんと触れば。

 

 そういえばアメストリス人ってあんまり太ってる人いないよね。あのカエルのキメラの人とかくらいじゃない?

 

「は……話を変えようか、レミー」

「あ、じゃあ聞きたいことがあるんだけど」

「おう! どんとこい!」

 

 聞くのは、街での嫌われっぷりの話。

 話をすると、お父さんの顔は……次第に曇っていく。あ、これ聞いちゃいけないことだったかな?

 

「話したくないなら話さなくても」

「ああいや、母さんの話だからな。聞いておく必要はあるだろう」

「お母さんの?」

「ああ。母さんが国家錬金術師なのはこの前話しただろう? というか銀時計の一件があったんだからわかってると思うが」

「うん」

 

 ……あ、そっか。

 錬金術って普通は世のため人のために使うもの。だけど国家錬金術師はそれを軍のために使うから、嫌われている……んだっけ?

 軍だって国民のためのものだから、その理論よくわかんないんだけどね。今はキング・ブラッドレイの侵略政権だからー、とか何とか言ってたけど、結果的に国防してるのは変わんないんだから、嫌う理由が一個もないと思うんだけど。

 ……あーでもどうだろう。キンブリーも国家錬金術師か。ああいうのばっかだって思われてたら、確かにそう、なの、かも?

 

「レミー?」

「あ、うん。聞いてるよ。お母さんが国家錬金術師だから嫌われてるんだよね?」

「いや、それもあるが……いや、今はそれだけの理解で良い。だから、というわけじゃないが、別に国家資格を取らなくても錬金術は使えるんだ。この言い方はよくない、か。レミー。お前は」

「国家錬金術師にはなりたくないよ。絶対!」

「お……おう。そうか。それはそれで……まぁいいが」

 

 国家錬金術師になる、ということは。

 ホムンクルスに目をつけられる、ということである。絶対なってたまるか。

 

 あ、っていうか、じゃあお母さんはもう目をつけられている可能性があ……る?

 

「ねえ、お父さん」

「なんだ?」

「お母さんって、錬成陣なしで錬金術使えたりする?」

「……それは、既に描いてあるもの、とかではなくか?」

「うん。何にもなしで」

「無理だろうな……無理、だと思う。俺も母さんの錬金術の全てを知っているわけじゃないからなんとも言えないが、錬成陣無しの錬金術など聞いたことが無い。まずできる奴がいないんじゃないか?」

 

 そっか。

 ならよかった。そんで、真理を見た錬金術師はやっぱり知られてないんだ。

 

「それで、お母さんの錬金術ってどういうのなの?」

「あー。ま、それはお楽しみにしておこうか」

 

 お楽しみらしい。

 サプライズか。わかった。

 

「それじゃあ僕、本読みに上戻るね」

「ああ。手は洗えよー?」

「洗ったよー」

 

 よし。

 今日から毎朝、お父さんに「ジョギング……」って言おう。

 

 

 *

 

 

 それで、今日のお勉強内容である。

 

 錬金術師の扱うマークは錬金術師の想像次第、というのは前読んだ内容だけど、例外も存在する。

 例えば太陽。これは魂を意味するマーク。だから、これに似ている正円にトゲトゲした三角がついたマークも太陽として扱われるし、大きな火球やぐるぐる渦巻、四重の正円とかも太陽扱いだ。

 他にも海とか川とか、とにかく巨大な自然物には決まったマークがあって、それを簡略したものがそこそこに溢れている、という感じ。

 

 でも、たとえば作中のロイ・マスタング大佐の使う焔の錬金術。アレのサラマンダーのマークとか。アレックス・ルイ・アームストロング少佐の、アームストロング家に代々受け継がれてきたらしい錬成陣に描かれた地を進む衝角。

 こんな感じで、昔から存在するマークの派生、ではなく新しく作り出した強い意味を持つマーク、というのもかなりの意味を持つ。らしい。本人が理解していればいいこととはいえ、僕にはよくわからないので詳しい話はできない。

 

 と、こういう風に自由度は高いんだけどなんでもいいわけじゃない、というのが鋼の錬金術師世界の錬金術記号だ。

 

 だから僕も何か作るのはアリ……なんだけど。

 なんだけど、まだまだ初心者の僕がそれをするのはレベルが高すぎるらしい。あとそういうマークってすぐには描けないからマスタング大佐みたいに手袋に刻むとか、アームストロング少佐みたいに手甲に刻むとか。

 というか強い錬金術師って全員衣服か肌に刻んでる気がする。真理見た錬金術師以外。

 

 これのメリットデメリットは、当然それしか使えなくなることだ。

 あ、いや、普通に錬成陣を描けばそれ以外も使えるんだけど、基本的に使う錬金術がそれだけに絞られる、っていうべきかな。万能の技術から一芸特化になる、っていうか。

 長所が伸ばされる代わりに汎用性が減るのは確かに微妙ではある。だからこそ真理を見た錬金術師は強い。早い錬成速度でなんでも創れる、というのは……対策もしづらければ作戦もいくらだって練られる。ズルい。

 

 ……ま、それ相応の代償を支払っているから、なんだけど。

 

「僕だったらどういうマークに……というかどういう錬金術を使いたいか、だよなぁ」

 

 錬金術は技術であり学問。

 最終的に錬金術師は何かの「完成形」を目指すものだ。それで、僕が目指す錬金術師とはどういうものか。

 

 イシュヴァール戦役までに自分と両親を守れる錬金術師。

 ……となると、やっぱり盾を作るとかになるのかな? そーなってくると近接格闘技能も覚えたいところだけど……エドのアレって、アルとの組手で培った技術だよね。

 僕に兄弟はいないからなぁ。

 お父さんは……ぽっちゃりだし。

 

 ふむぅ。

 とりあえず明日、剣……は怖いしまだレベル高いから、棒とかを錬金術で作って……いや。

 それだと結局剣を練習したほうがよくなるんだよね。

 僕の想像している戦闘スタイル。戦闘……戦闘……。

 

 痛そう……。

 ハッ。

 

 痛いのが嫌なら小手とか鎧とか作る?

 ……それを他の物に錬成されて終わりじゃない?

 いやそんなこと言ったらどんな武器作ったってそうだし……。じゃあいろんな素材混ぜる? それに思考速度が追いつくかなぁ。やってみないことにはわからないんじゃない? それはそうだけどまだ技術レベルが。

 

 うーん。

 

「そもそも僕の錬成陣描画スタイル的に、大きいものは作れないんだよな」

 

 そう。

 僕が習得した正円の描き方では、あんまり巨大なものは作れない。作用もさせられない。

 うーん。うーん。

 

 ……というか僕、まだ再構築の錬金術やってなくない?

 

 危ない。

 そうだ、錬金術と言えば再構築で、今僕が考えてたことって全て再構築に関する錬金術だ。

 もし……もし僕が再構築を全く理解できなかったら、今まで考えてきたことは全部パァ。

 

 ヨシ、明日やろう。明日の朝すぐやろう。あ、朝はお父さんがジョギングに行くから、お昼にやろう。

 

「簡単なものなら今でも……いや、ダメだぞ僕。お父さんの前でしか練習はしないって約束したんだから」

 

 頬を叩いて。

 よし。今日は寝よう。買い物行ってきて疲れたし。

 

 それで、明日からまた練習だ。

 

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