竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第三十話 錬金術の小技「割込錬成」&帰路

 砂の中で描いた錬成陣で自分を押し上げて、ようやくの生還を果たす。

 

「いや死ぬって。生き埋めは普通に死ぬよ」

「死んでいないじゃないですか。お互いに」

 

 そんなことを言いながらこちらに手を差し伸べてくる彼の手を取り、起き上がる。

 全身砂だらけだ。口の中も鼻や耳の中も。

 

「二人は?」

「あちらに。ああしかし、私と戦っていた方は半身を吹き飛ばしましたので、原形はほとんどありませんよ」

「こっちも串刺しだから大丈夫」

 

 暑い日差しにぐいと伸びをして、そこを見に行けば──しっかりと絶命した二人。

 オーケーだ。ようやく肩の荷が下りた。まだ残党はいるけれど、一番危険なものを排除できたことは喜ぶべきだろう。

 

「賢者の石。大体何人分つかった?」

「五万はくだらないですね。使った賢者の石の内、一つは砕け散りました」

「笑えないね……。こっちは二万程度だけど、それでも、だ」

「よくこんな民族と戦っていられましたね。それも賢者の石を使わずに。私は貴方の評価を改めましたよ」

 

 本当に。

 超人集団が過ぎるよ。

 

「参考までに、どのようにして勝利したのか聞いても?」

「……まぁ、簡単な話だよ。僕の錬金術には明確な弱点があるんだ」

「錬成速度が遅いこと、以外にですか?」

「いや、それ。そのこと」

「はあ。それは大体の人間が知っている事実だと思いますが。いえ、そういう意味では確かに明確な弱点ですね」

「そういう意味じゃないよ……まぁ、僕から君に、っていうのも変な話だけど、少し錬金術の話をしようか」

 

 死体の横で。

 ああ勿論僕とキンブリーは油断していない。まだクセルクセス遺跡に残っているだろうイシュヴァール人を殺すつもりだし、逃げ出す様子があったら雑談なんか切り上げてすぐにでも殲滅しに行く。

 その前の、ただの余韻だ。

 知られて困ることではあるけれど、初見殺しでしかないし、そのリスクは僕が知っていれば関係のないものでもあるから。

 

「錬成速度が遅い、という事実には、果たしてどんな弱点があるだろうか」

「……ふむ。一般的なものを挙げるのであれば、錬成速度の勝る相手に先手を取られることですね。貴方はそれを見事克服しているようですが」

「他には?」

「他ですか。……勘の良い術師であれば、何を作っているのか理解できるかもしれません。錬金術が他の兵器より優れた火力を持つ理由の一端に、対策され難いことが挙げられるでしょうから」

 

 そうだ。

 僕が初見殺し特化なのも同じ理由。

 対策され難い状態で相手を殺し切ることができる。錬成されるまで何が錬成されるかわからない。どこにどう、どのような形状で、どのような効果で。

 どれほど名前が知れ渡っていたところでそれは同じだ。

 けれど、たとえばキンブリーだったら空中にいる相手には為す術もないとか、マクドゥーガル少佐だったら水が無ければどうしようもないとか、錬金術の内容を深く知ってさえいれば対策は不可能じゃない。

 

 そして、もう一つ上がある。

 

「たとえば、君の錬成陣。陰陽と乾湿を基軸とした、万物に干渉し得る良い錬成陣だ」

「はあ、錬成陣を褒められるとは思いませんでしたが、ありがとうございますとは言っておきましょう」

「もし君のその錬成陣を、初見で見抜き、君がどのような錬金術を使い、どのようなことが出来ないかを分析されたとしたら──それは明確な弱点といえるだろう」

「……目視のみでの錬成陣の解析、ですか」

 

 それはエドが、その場で、ではないにせよ行っていたように。

 見ただけで内容がわかる錬成陣というのは弱点だ。まぁ見ただけでわかる方がおかしいんだけど。

 

「成程。つまり貴方は、錬成速度が遅い故に何を錬成しているのか分析されてしまう、というリスクを抱えている、と」

「そう。だから僕は基本地中や構造物の中にしかサンチェゴを錬成しない。見られないようにね」

「ふむ。……それで、それが貴方の勝利した理由ですか? "何が錬成されるかわかったから勝てた"、では些か理由として弱いように思いますが」

「ちなみに言うとわからなかったよ。彼の方が圧倒的に錬成速度高かったし」

「はあ」

 

 彼がこうも結論を急く理由は──まぁ暑いから、も大きいんだろうな、とか思いつつ。

 ちゃんと好奇心はあるらしいし、この生返事ながらも知りたいという気持ちはあるんだろう。

 

「サンチェゴはそんな僕の弱点に合わせて作られる錬成物だ。遅延錬成もね。つまり、普通に錬成を行える錬金術師が僕のこれを模倣するということは」

「わざと錬成速度を遅くし、手の内を晒し続けることに他ならない、と」

「そう、そして──そうだな、キンブリー。賢者の石の錬成で爆発を起こす感覚で、賢者の石を使わずに錬金術を使ったらどうなると思う?」

「普通にリバウンドが起きますね。そぐわない錬成規模に対し、不足する思念エネルギー。賢者の石は増幅装置なのですから、それを外せばガス欠になることなど火を見るよりも明らかでしょう」

「そういうことだよ」

 

 そういうことだ。 

 だから、つまり。

 

「……相手がわざわざ錬成速度を遅くせざるを得ない錬金術を使ってきた。ゆえに貴方は、その錬成陣に細工をした、というわけですか。細工できるだけの時間は相手が稼いでくれる」

「うん」

 

 これを僕は「割込錬成」と呼んでいる。

 

 正直vs僕にしか使えない錬成方法だけど、こうやって相手が合わせてくれる場合とか、あと遅延錬成が模倣されて僕相手に使われたらやろうと思っていた技術の一つだ。

 錬成中の錬成陣に対し、余計な要素をつけ足して思念エネルギー不足を引き起こし、無理矢理リバウンドを起こさせて術者を害する技術。錬成、なんて名付けてはいるけれど、その実ただの妨害だ。あと遠隔で書き込む手段が無いと錬成に巻き込まれかねない危険性もあったり。

 

 ちなみになにで書き込んだかって、最初に投げた遅延連鎖錬成反応閃光弾だ。僕が位置とか見て、傷の男(スカー)の兄を無反応錬成で引かせたのはそのため。遠隔錬成はそこまで精度が出ないからね、細かいことは遅延錬成頼りになってしまう。

 

「よくもまぁ、こんな小技をポンポンと思いつきますね。しかも自分対策とは」

「小技については僕の性分だけど、自分の錬金術対策はするでしょ。それもサンチェゴはそこそこに万能な錬金術だ。模倣されたのなら破らなきゃならない。自分の錬金術に殺される錬金術師とか、笑い話にもならないでしょ」

「……確かに。私も私の錬金術対策は考えておきましょうか」

「対策を考えておくと弱点が新たに見つかったりするからね。いいシミュレーションだよ」

 

 さて、と。

 外套の袖を通し、立ち上がる。

 まだ口の中とかじゃりじゃりしてるけど、イシュヴァール人とクセルクセス遺跡吹き飛ばしたあとで適当な水場でゆすげばいいでしょ。

 

「ちなみにキンブリー。君の方はどう勝ったの?」

「……貴方の戦っていた方と血縁関係があったようで。そちらのイシュヴァール人が死んだ瞬間に動きから精彩が抜けましてね。隙を晒したのでそこをどかんと。それまでの戦いがそこそこ楽しかっただけに、あっさりとした幕引きでしたよ」

「ああ、邪魔しちゃった感じか」

「いえいえ、早く終わらせなかったこちらが悪い。──ただ、そうですね。もしよろしければ、あちらにいるイシュヴァール人の残党殲滅、全て私の手に任せてはくださいませんか? 些か消化不良でして」

「構わないけど、武僧には気を付けてね。まだいないとも限らないし」

「ええ、心してかかりますよ」

 

 クセルクセスという国が完全な御伽噺のものになる程にね。

 

 なんて。

 ……そう言って機嫌よくクセルクセスへ歩いていったキンブリー。

 クセルクセスから悲鳴と断末魔と「素晴らしい! 素晴らしいですよイシュヴァール人!!」という高笑いを伴う叫びが聞こえる数分前の話。

 ちなみに僕はアームストロング少佐よろしく誰も逃げられないようにクセルクセスを囲む壁を作ってましたとさ。

 

 

 *

 

 

 アメストリスへ帰ってきてすぐのことである。

 流石に国内で車を乗り回すわけにもいかず、汽車を捕まえるためにイーストシティまで行こうと……またキンブリーと二人で草原を歩いていた時。

 

 犬が一匹、僕らの前に来た。

 見覚えのあり過ぎる犬。まだ片足が機械鎧になっていない黒い犬。

 

「こら、デン! 勝手に行っちゃダメって言ってるで、しょ……」

 

 さて。

 一応今、プライベートモードな僕とキンブリー。軍服ではなく例の白いコートな彼と、一般的アメストリス人の子供な格好をしている僕。

 顔つきは全く違って、キンブリーは悪役面。

 

「ご、ごご、ごめんなさい! で、デン! 行くよ!」

 

 誘拐事件と思われるか、単純にキンブリーが怖がられるかのどっちかだと思ったんだけど、後者だったね。

 

「別に構いませんがね。そんなに怖いですか、私」

「目つき悪いからでしょ。それよりここ、リゼンブールだったんだね」

「私の人柄より田舎に興味がありますか。何です、リゼンブールに興味が?」

「とある医者夫婦とねー。イシュヴァール内乱の時にちょっと確執があって」

「ほう」

 

 見渡す限りの草原に、ポツポツと家がある。

 ド田舎。その表現はあまりに正確。だけど、作中で見たリゼンブールより些か賑わいがある。……確か鋼の錬金術師開始時点のリゼンブールは織物工場に火をつけられたりなんだりで結構疲弊してたんだっけか。エド達の通う学校も青空教室だったし、結構な戦火の手が伸びていたとかなんとか。

 

 というかさっきの女の子ウィンリィだよね。

 じゃあ近くにあるのかな、ロックベル家。

 

 ……行く意味はない。どうせ嫌われているだろうし。

 

「愛国心があるのは結構ですが、そろそろ黄昏るのをやめていただけませんか。汽車は定刻で来ますよ」

「ああ、ごめんごめん。この景色は僕が守ったものだからね。思う所があってさ」

「准将にそんなセンチメンタルな心があるとは思いませんでしたが」

「酷いな。僕だって部下が死んだら悲しむんだよ、ちゃんと」

「ちゃんと悲しめることを自慢してくる怪物、というように聞こえました」

 

 雑談。雑談だ。

 努めて何も見ていないフリをする。凝視されていることなんか一切気に留めていない感じで歩く。

 

「──何者ですか、アレは」

「説明は難しいけど……必要な駒で、立ちはだかる壁で、愛すべき希望の育み手、って感じ」

「珍しく抽象的な言葉を使いますね。……不思議です。ああいう家族を大切にしそうな手合い程私の食指は動くものなのですが、一切反応しない」

「まぁ、ホムンクルス達と似たようなものだよ」

「成程。こんな長閑な場所にいて良い存在ではなさそうですね。目くじらを立てられる前に退散しましょうか」

「賛成」

 

 ヴァン・ホーエンハイム。

 今はまだ──ただの父親。そして、いつか壁となり、いつか……いや、これは考えなくても良いことだろう。

 

 一応。

 戦利品として、貰って来たからね。赤い目の彼の、大事な大事な研究日誌。

 

 

 

 イーストシティについて、一旦解散になった。

 というのも、実は僕もキンブリーも査定期間に入っているのである。アエルゴ侵略の年は見逃されていたとはいえ、それはあくまで来年へ持ち越し、という形だった。

 だから二年分の発表、提出をしなければならない。今すぐに差し出せる技術はいくつかあるけれど、それを書面に纏める作業に時間がかかる。だから、一旦解散だ。

 というか別に一緒に行動する必要はないので、ここで解散という意味でもある。次に顔を合わせるのは招集命令が来た時か、クレタ侵略で現地集合する時、あるいは国家錬金術師チームとしてセントラルに司令室を置かれた時になるだろう。

 

「隣、良いかしら」

「え、あ、はい」

 

 爆速で査定用提出書類を書き終え、それを提出。受理されるまでの間の暇な時間を適当な公園のベンチに座ってだらーっとしていた時の事だった。

 

 声をかけてきたのは、珍妙な声の老婦人。

 

「何用ですか、グラマン中将」

「……ホホホ。可愛げのない子だこと。けれどこの場では私のことはご婦人と呼ぶように。いいわね、准将?」

「まぁ、命令なら」

 

 グラマン中将。この人について語ると長くなるから割愛すると、狸だ。

 いやホントに、何用? 探られて痛い腹しかないからやめてほしいんだけど。

 

「イーストシティの南に、少し大きなスラムができつつあることはご存じかしらオホホ」

「……東部の内乱はあの地に押し留めたはずですが」

「噂ですけれどね、オホホ……なんでも動物の鳴き声を聞いたとか、うめき声を聞いたとか、──褐色の肌を見た、とか」

「……貴方は穏健派だったはずでは? 強硬派の僕にそんな情報流していいんですか?」

「さぁて、私はどこにでもいる謎に満ち溢れたミステリアスな貴婦人。難しいことはわからないわ~」

 

 動物。褐色。

 だから杜撰だって何度も言ったんだ。……褐色の肌は、アレか、内乱が起こる前から国内にいた存在か。

 

「言っておきますけど、僕は殺しに行きますよ。復讐者の芽は全て摘み取ります」

「穏健派だからといって犯罪者に目を瞑る、というわけではない……のですよ、オホホホ」

「既に実害が出ているってことですか。東方司令部は何故動かないので?」

「どちらもスラムの出来事……守るべき国民しか守れないのが軍人ですことよオホホ」

 

 ふむ。

 額面通りに受け取るのもいいけど、まぁ良い。可能性があるなら復讐者の芽は摘ませてもらう。

 

「それと、これは老婆心だけれど」

「はあ」

「気を付けることね。アナタの身を、座を、付け入る隙を狙っている者は、案外沢山いるわよオホホ」

 

 とりあえずオホホってつけておけば貴婦人になるとか思ってない?

 オホホっていう貴婦人見たこと無いけど。

 

「恨まれる行いをしている自覚はありますよ。羨まれる出世街道を歩んでいる自覚もね」

「……ホント、可愛げのないコねぇ」

 

 それじゃあ、と立ち上がる。

 行くべき場所ができたのだ。行かない理由はない。どうせ受理には今しばらくの時間がかかる。空き時間にやる仕事としては最適だ。

 

 一応目礼だけして、その場を去る。

 ……別にグラマン中将として接してきても良かったんじゃないかなぁ、イーストシティ内部なら僕と密会してても特に問題なかったと思うし。

 それとも何か裏の意図が……?

 

 やめよやめよ。

 ただの趣味だった、が一番しっくりくるし。

 

 

 *

 

 

「あれが、ブラッドレイの懐刀……。なんというか、ブラッドレイとは別軸の冷酷さ、ってカンジねぇ」

 

 なんて。

 そんな呟きがあったとか、なんとか。

 

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