竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第三十一話 錬丹術の小技「追跡」&デート

 

 スラム。

 鋼の錬金術師作中でのここは、もっと……なんていうのかな、バザールみたいな。立場の弱い者、弱者同士が寄り添いあって集まって、必要な物資とかを分け合って細々と生きる、みたいな感じだった。

 だけどそういうスラムに住んでいる人って大半が東部の内乱で家を失った人々だった。此度においては僕がそれを完封しているので、ここもはかなり閑散としているはず──と思って来たんだけどな。

 

「閑散としている、というより」

 

 ──まるでゴーストタウンだった。

 いや、そもそもが街じゃないからタウンではないんだけど。布と木で作られた簡易住居らしきものはある、のに、人がいない。

 人がいないだけじゃない。

 まぁ流石にわかるようになった臭い。血の臭いがする。

 

 殺されている、と見るべきか。

 

「……こういうのは門外漢なんだけど」

 

 ルミノールと過酸化水素錬成してルミノール反応を、みたいな探偵ごっこもいいんだけど、ぶっちゃけそれはあんまり必要ない。 

 

 流れだ。

 土壌に染み込んだ血液は、同じく血液に対して流れをつくる。

 僕は流れを感じられるわけじゃないけど、流れに対して錬丹術を作用させることはできる。だから例えばこういう風に──「整形」を発動する。

 と。

 

「と、とと……あっぶな。万が一を考えて断面を丸くして正解だった……」

 

 固めて上方向に突き出させる、っていう簡単な錬成。

 遠隔錬成の練習でもある。まだ僕はメイ・チャンみたいな高度な再生はできないからね。こういう「整形」の錬金術を流してどうこうする、くらいしかまだ無理だ。

 で、万が一血痕がもっとたくさんあった場合、僕の立っているところまで針の筵になる可能性があったから、あんまり細くし過ぎずに丸い断面にしてやったのが功を奏した。自分の錬金術で足が蜂の巣とか笑えない。

 

 という感じで、血液を物理的に可視化したので、あとはこれを辿るだけ。

 

 ……大きく分けて、三又……複数犯なのか、ダミーなのか。ダミーなんか残してる余裕無いだろうから普通に複数犯か。

 武僧である可能性、キメラである可能性、大穴でホムンクルス……つまりグラトニー。ただ今グラトニーはアエルゴでお掃除中のはずなので違う。

 

 うーん、僕一人で行って大丈夫かなこれ。

 復讐者の芽は完璧に摘むつもりだけど、だからといって僕がキメラだの武僧だのにタイマン張って勝てるかって言われたら微妙だ。前に一対三で勝ったのは正直奇跡に近い。相手がお喋りで、覚悟が決まり切っていなかったからこそできたこと。

 ……万一を考えたら、ちょっと無理だな。可能性というか割合的に六割くらい死ぬ。いやキメラって強いんだよね普通に。武僧は言わずもがな。

 

 応援を呼ぶか。僕は准将なんだ、その辺の憲兵にでも……って、あれ、この詰まる感じの流れは。

 

「あら……こんなところで会うなんて、中々に面白い縁だと思わない?」

「……ラスト?」

「ええ。久しぶりね」

 

 いつの間にか、ってほどいつの間にかじゃないんだけど。

 何故かこのスラムに、ホムンクルス・ラストが来ていた。

 

 

 

 歩く。

 案の定地下水道に繋がっていた血痕を辿り、ぴちゃぴちゃ音を立てながら歩いていく。

 

「レディとのデート場所に選ぶには少しばかりじめじめし過ぎていると思わない?」

「デートも何も、さっき会ったばかりだから君の好みは知らないよ。加えていうなら、じめじめし過ぎているところが好きな女性もいるんじゃないかな」

「一民族を滅ぼしておいて、多様性を許容するのね」

「別に僕は滅ぼしたいとは思ってなかったよ。滅ぼすことになったから、手を抜かなかっただけ」

「詭弁ね。果たしてそれでイシュヴァール人が納得してくれるかしら?」

「納得してもらう必要は無いよ。殺すんだ、感情なんてどうでもいい」

 

 過剰戦力も良い所だ。

 何か、人語を解さない実験動物らしきものが出てくるたび、ラストはその爪でサックサク動物を切り裂いて切り裂いて。

 僕が何かしようとした瞬間には終わっている。

 うんうん、ラストの爪の伸縮速度はそれくらいか。成程成程。

 

 反応とか無理だねコレ。

 

「君はどんな用であそこにいたの?」

「軍人から情報を引き出すのなら、そのまま聞く方が盗聴なり潜入させるなりをするより楽なのよ」

「あー」

「ふふふ、歳の割にそういうことにも詳しいのね」

「結構いるからね。僕を親や上官の意思で操られているだけの子供だと思って近づいてくる人。男女どちらもいるから一概にそうというつもりはないけれど、優しそうなお姉さんは大体美人局だったよ」

「秘密を抱えた人間は大変ねぇ」

「全然秘密にしてないんだけどね。盗めるなら盗んでみろって錬成陣の開示までしているのに、手持ちの錬金術師で解読できてないってだけで僕に詰めてくるのはおかしいと思うんだ」

 

 ラスト。色欲の人造人間。

 ただ彼女はその色欲って感じを発揮する前に死んじゃったから、その実態がわかっているわけじゃない。警戒は必要だけど、一応今の僕はホムンクルスにとって必要な駒になっているはずだから、殺しては来ない……と思うんだよなぁ。

 

「これは別に答えなくてもいい話なんだけどさ」

「ええ、どうぞ」

「アエルゴで作った賢者の石って、その後の行方とか教えてくれたりするの? ああいや、欲しいとかじゃなくて」

「管理が気になる、ということでしょう?」

「うん。ほら、軍の管理って杜撰じゃん。君達は割と正体ちゃんと隠す方だって知ってるから信用してるけど、万一あの規模の賢者の石が国家錬金術師とかに盗まれたら」

「まぁ、最悪国家転覆もあり得ない話ではないでしょうねぇ」

 

 一個、というか一枚の石板くらいの大きさがある賢者の石だ。

 750万人分のエネルギーを秘めた賢者の石板は、正直お父様が取り込むのが一番安全だったりする。あんなものを一般人……たとえばコーネロみたいなのが使ってみなよ。大惨事の未来しか見えないよ。

 

「問題ないわ。この世で最も安全な場所に保管してあるから」

「そう。それならいいんだ」

「ふふふ……私の方からも、別に聞かなくてもいい話をするけれど」

「"あまり他人を信用し過ぎない方が良い"、みたいな話?」

「ええ、そう。私達は貴方とは根本から違う存在。分かり合えると思ったら大間違いよ」

「うん。リスさんでそれは痛感しているよ」

「……嘘が下手ねぇ。痛感しているも何も、エンヴィーと接触した時点から貴方は私達の存在について気付いていたでしょう」

 

 言われて舌を出す。

 そこまで知られていたのならもう言うことは無い。だから演技とか無理だって何度も言ってるんだ。

 

 曲がり角を──曲がる前に、ラストを制止する。

 血の臭いが濃い。流れをせき止める何かがいる。

 

「可能性は二つ。これはこれがただの逃亡キメラである可能性と、こう、適当に僕の元部下達の死体を生きているキメラに合成して、僕の動揺を誘う感じに改造されたキメラがいて、君が僕を始末するために通りすがった可能性」

「良い言葉を教えてあげるわボウヤ。それを深読みというのよ」

「杞憂であるならそれでいいんだ」

 

 だから、と手を壁に当てる。

 円を描いて、とりあえずとばかりに竜頭剣を抜き取った。

 

「二つ名を下準備の錬金術師に変えてもいいくらい、僕は下準備がないと弱いからね。これが罠ではないのなら、入念な準備をさせてもらう」

「構わないけれど、私は先に行かせてもらうわ。待っている程時間があるわけではないから」

「それならこの壁を使うと良いよ。この角度から76度の方向に対象がいる」

「……先手を打つなら、確かにそれが良さそうね。けれど」

 

 ビ、と。

 僕の眉間にその指を向けるラスト。

 

「レディの手の内をそう簡単に明かさないこと。考えついたのだとしても、思い至ったのだとしても、相手から披露されるまでは黙っているのが良い男よ」

「僕、サプライズ嫌いなんだよね。だってお返しが用意できないからさ」

 

 大きなため息。

 その後ラストは人差し指を壁面に置いて──ドスッと。

 

 何かが悲痛な声を上げる。痛みを訴える声。

 

「あら……完全に貫いたつもりだったのだけれど、案外頑丈ね」

「ちなみに何が狙いだったの?」

「トカゲのキメラよ。見てはいけないものを見た、ね。ただ、想像より足が速くて……」

「トカゲ? なんだ、先に言ってよ。僕のターゲットと全然違うじゃん」

「そのトカゲがイシュヴァール人との組み合わせで作られたキメラだ、と言ったら?」

「……まぁ良いけどさ」

 

 地下水道の水に触れる。

 水道の側面に描くは僕なりに解析したマクドゥーガル少佐の錬成陣。……の、氷結させる部分のみを抜き取った簡易錬成陣。

 手を自ら抜き去れば、15秒間をかけてゆっくりと水が凍結して……行かない。

 こんな小さい錬成陣で水道の水全部凍らせる、なんてできるわけがない。ただ、15秒間、錬成陣の水平方向にある水を冷やし続ける。凍らせる程に冷やし続けるけど、水が流動しているから冷え切らないって感じかな。

 

 そんなものがこの先にいるキメラへ流れて行けば──。

 

 ……こんな感じでおっけーかな?

 

「慎重になり過ぎじゃないかしら」

「あり得ないとは思うけど、武僧の可能性もあるからね」

「無いわ。イシュヴァール人の子供だもの」

「……ラスト。情報は簡潔に、そして必要な量をまとめて出す方が良いよ」

 

 身をさらす。

 そこには──褐色の蜥蜴が、手足や口に血をべたべたとつけながら、涙を流してこちらを見る──まあいいや。

 

 鎖を殺到させる。

 拘束ではなく、突き刺す奴。冷たい水で鈍っただろう身体をドスドスと刺していく。……ん?

 

「……心臓無くない?」

「そんなことがわかるのね。貴方は生体錬成に長けないと聞いていたのだけど」

 

 心臓が無い生物をあり得ないと言ってしまうと隣にいるお姉さんがあり得ない存在になってしまうので言わないけれど、少なくとも一キメラで心臓なしに動けるタイプはまだ開発されていないと思う。

 となると、あと考えられるのは。

 

「ああ、これか」

「……知っているのかしら、これを」

「君達が作ったんじゃないの?」

「そうよ。だから聞いているの。機密も機密なコレを知っているのかどうか」

 

 首筋。

 肉体へと直接刻まれたその錬成陣は、未だ不完全そうなものの、バリー・ザ・チョッパーのソレとよく似ている。

 

「知っているよ。魂定着の陣だ」

 

 眉間で、止まる。

 届かないギリギリで。

 

「……微塵も恐怖しないのね。殺されると思わなかったのかしら」

「思わなかった。僕はそれだけ価値のある駒になっていると自負している。そして」

 

 まっすぐラストを見る。

 

「君の攻撃、エンヴィーの攻撃。どっちも僕が見切れる速さじゃない。──誰も彼もが動体視力に優れていると思わないでほしい。全然、普通に、恐怖を感じる前に気付きもしなかったよ。君が攻撃してきていたこと」

「……自信満々に言うことじゃないでしょう、それは」

「ただまぁ、それだといつでも殺される準備ができていますよ、って言っているようなものだからね。こっちからも脅しを一つ置いておかせてもらいたいんだ」

「構わないわ。聞くかどうかは別として」

 

 うん、と。

 どうにか逃げようと隙を窺っていたキメラの魂定着の陣を鎖で突き刺して、それとはまったく別に自分の心臓を親指で示す。

 

「僕の心臓が止まったら、感圧式錬成陣が一つ発動する」

「……それが何?」

「何が起こるかは起こってからのお楽しみだよ。サプライズ好きなんでしょ?」

 

 ささやかばかりの反撃をぷれぜんとふぉーゆー。

 ま、利害が一致している限り、僕が君達を裏切ることは無いけれど。

 

 その矛先が二人に向くのなら。

 その害意が僕に向くのなら。

 

 相応のものを用意しているつもりだよ。

 

「イイコトを教えてあげるわ、小さな錬金術師さん」

「"揚げ足を取る男は嫌われる"──とかだったりして」

「言の葉の先を取る男は嫌いよ、私は」

「ああそれエンヴィーにも言われたなぁ」

 

 ──そんな感じの、今生初めての女性とのデート。その記録である。

 

 

 *

 

 

 1904年4月。

 隣国クレタによる暴虐非道なりし行いに対し、アエルゴ王国を下したアメストリスは更なる報復攻撃に出る。アメストリスとの戦いで疲弊したアエルゴへ攻撃を仕掛け、その国民を殺して回ったというのだ。これは現地に残っていたメディアが写真を押さえているし、命からがら逃げてきたアエルゴ王国の王子が証言もしている。

 

 ──無論。

 全て工作であるが、準備は整った、ということだ。

 

 前回のアエルゴ侵略で資材の投入し過ぎだったことはわかっていたので、此度は少数精鋭での報復行動。クラクトハイト隊プラス一般兵の軍隊。つまり国家錬金術師五人いればいいでしょ、って思われたらしい。

 中央軍としてはぱっぱかぱっぱか侵略終えられても困るし、確証はないものの僕という存在が賢者の石を作っているだろうことは知られているだろうし、そういう色々が相俟って一気に攻略されて欲しくないんだろうなぁ、とか。

 

 関係ないよね。

 侵略が長引けば長引く程兵士は疲弊する。それはつまり、勝率が減っていくってことだ。流石に僕とキンブリーの二人だけで国盗り、っていうのは難しい。なんでって相手は普通に銃使ってくるからね。僕の天敵だよ銃。

 

 なんで、今回もスピード重視で行くつもり。クレタは暑くもなく寒くもなくの、アメストリスと緯度が然程変わらない位置にあるから、季節に気を配る必要もなく。

 

 ──そして、中央から送られて来ていた彼の代わりに、もう一人、国家錬金術師が補充されることとなった。

 

「初めまして──国軍少佐、ロイ・マスタングです。士官学校を卒業したばかりの身ではありますが、アメストリスのため身を粉にする思いで──」

「硬いですよマスタング少佐。彼は准将ですが、特に上下関係に口を出してくるタイプではないので肩の力を抜きなさい」

「フフ、学生から軍人となった身ですぐの国外遠征は緊張するでしょう──ですが、吾輩のように筋! 肉! さえ鍛えていれば、あらゆる場面で安心! 安全!」

「……まぁ、頼りにしているぞ、焔の錬金術師」

 

 鋼の錬金術師という原作を知っている僕からすると、最早ドリームチームも良い所だ。

 紅蓮の錬金術師、ゾルフ・J・キンブリー。

 豪腕の錬金術師、アレックス・ルイ・アームストロング。

 氷結の錬金術師、アイザック・マクドゥーガル。

 焔の錬金術師、ロイ・マスタング。

 

 全員が全員最強の名を手にできる錬金術師達。

 

 ……ただ、悲しいことに原作じゃ一番信頼できるところにいたはずのロイ・マスタングが、中央からの派遣員、とかいう何か引っ付いてそうな雰囲気バリバリだ。士官学校出たての軍人に潜入捜査とかさせないとは思うけどなぁ……。

 

「レムノス・クラクトハイトだよ。みんなより一回りは年下だし、錬金術師としての腕もそうでもないから、敬いとかはいらない。──ただ、アメストリスを害さんとするクレタを、アメストリスの資源を食らわんとする害虫を破壊し尽くしてくれたらそれでいい」

「……」

「……」

「あぁ、皆さん。恐らく言葉はこれで以上ですので、各自簡易司令室に入っていてください。作戦開始時刻まで現地の下見でもいいですよ。狙撃されないでくださいね」

「了解しました。ではマスタング少佐、行きましょうか。吾輩がクラクトハイト隊での様々を教えてさし上げますぞ!」

「俺は……仮眠する」

 

 実を言うと、現地での指揮もみんなのまとめ役もキンブリーがやっていたりするクラクトハイト隊。

 僕が方針だけ告げて、それを翻訳して、あとはドーンだ。基本的に報復攻撃そのものは明るい……殺伐としない、殺戮を行わない、攻撃するのは国軍兵士だけ、というクリーンな侵略を行っている。

 だからアームストロング少佐も気を負っていないし、マスタング少佐も過度に何かを背負うことはないのだろう。

 唯一の気がかりは、マクドゥーガル少佐が僕とキンブリーへ疑いの目を向けていることだけど……。

 

「なるようにならなかったら、なるようにするまで、だよね」

 

 ボソッと呟いて、僕も簡易司令室へ向かうのだった。

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