竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
最近分かったことだけど、地殻エネルギー、賢者の石のエネルギー、思念エネルギー、錬成エネルギーにも「流れ」というものは存在するらしい。
賢者の石は賢者の石同士で流れを生むけれど、賢者の石単体は何の流れも生み出さない。この石は「ただそこに在る」事に関しては他物質に比べ群を抜いている。風化もしなければ干渉もしない。完全物質とよく言われているけれど、確かにコレはそうなのだろう。ちなみにどんな硬いものをぶつけても割れないし、液体状のものは何物にも付着しない。*1
地殻エネルギーと龍脈エネルギーは超自然的な力なので一旦おいといて、錬成エネルギーの流れも面白い発見があった。
そもそも錬成エネルギーというのは、錬金術師が込めた思念エネルギーが錬成陣によって変換され、錬成物を作り変える作用をするエネルギーのことを言うんだけど、これは賢者の石を使った場合を除いて同一であるようなのだ。
たとえば僕の錬成陣が発する錬成エネルギーと、キンブリーの錬成陣が発する錬成エネルギーは全く同一のもの。無論錬成陣の内容次第で錬成物は変化するけれど、錬成エネルギー時点では同一。
つまり、代替できる、ということだ。どうにかつなげることができたら、の話だけど。
そして流れの話。
錬成エネルギー同士が同一であるから、錬成エネルギー同士の間にも「流れ」は発生する。
これがお父様の行った国土錬成陣の本質なんだと思う。賢者の石の錬成エネルギー同士のみに発生する「流れ」があったから、陣に交点しか敷かれていなくても国土錬成陣は発動した。
賢者の石作成の錬成陣も同じだね。普通の錬成陣に必要な図形。けれどこれは、アメストリスの錬金術師が錬成陣内部に流れを生み出すことができないから、添え木、あるいはガイドラインのような役割で敷かなければならないもの。
その証拠に錬丹術は交点のみで錬成陣を描き切れている。メイ・チャンの苦無や、僕の鉛玉のように。
僕は「鉛玉から鉛玉」へ流れが発生していると思っていたけれど、その本質は「錬成エネルギーから錬成エネルギー」に流れが発生してコレを起こしているのだ。
血の紋、あるいは原作最終版でイシュヴァール人たちが各地に置いていた
これがわかると、僕の戦闘スタイルにもまた新たな光明が見えるというもの。少し燻ぶり気味ではあったんだよね。サンチェゴを早期に作り出してしまった以上はその真理を越えられない……というディレンマ。
けれど、あくまで錬金術の真理でしかないサンチェゴは、錬丹術を加えることによってさらなるものにできるはずだ。
……ちなみに取り残された思念エネルギー君に関しては、個人差がある、という言葉を投げかけるしかない。同じ思念同士にも「流れ」は作られる。僕の遅延錬成陣はそれを確認することができる……んだけど、流れそのものもあんまり強い力を持っていない。
というわけで、錬成エネルギーの流れを用いた新たな錬金術を考える。
まず考えつくのは、遅延錬成を用いた複数の錬成陣の同時発動。いつもやってる奴だ。
これを、たとえば六つ。錬成エネルギーを出すだけでいいので並列処理の制限はなく、簡単に六芒星……乾湿の錬成陣の形に配置してみる。
おや。
六角形になった。
なら、ちゃんと六芒星を意識して発動させる。
六芒星になった。
……ふむ?
「思念エネルギーは微弱だけど、流れの方向性に干渉する……」
口に出すとしっくりくる。
普通の錬成陣でもそうじゃないか。様々な意味を取ることが出来る。取る意味を決めるのは術師……つまり思念エネルギーだ。
そう考えると、逆も……。
「クラクトハイト准将、少しよろしいでしょうか。マスタングです」
「え、ああ。なに?」
実は作戦中で、けれど僕の出る幕が無かったから実験をしていたとかじゃないけれど、簡易司令室の幕に律儀にもノックしてきたマスタング少佐に向き直る。
……いや本当に僕の出る幕無いんだよ。クレタもアエルゴとあんまり変わらない文明レベルだから。ただアエルゴを教訓にしているのか、剣だのなんだので来る奴は一人もいない。
全員ちゃんと銃だ。それも……。
「准将の懸念通り、狙撃兵が多く……」
「ああ、やっぱり。国家錬金術師も人間だからなぁ、そこ突かれると弱いってもうバレてるか」
ということである。
狙撃兵。
こっちにはホークアイ中尉っていう素晴らしい狙撃兵がいたけれど、狙撃の腕に関しては別に他国でも上げられる。むしろ錬金術師がいない分一般兵オンリーで戦った場合の強さはアエルゴやクレタに軍配が上がると言っても過言ではない。
「うちの隊は誰か負傷した?」
「いえ。ただ、一般兵に負傷者が多く、またアームストロング少佐もギリギリを掠めた、という事態に一度陥っていたので、油断はできないかと」
「ふぅむ」
アエルゴとクレタにおける報復戦争では、あくまでクリーンな攻撃手段のみを使っている。
だから現代だったら国際条約で禁じられてそうな攻撃手段は全部封じられていて、僕が生産している遅延錬成陣による兵器はほとんど使われていない。
……遅延連鎖生体錬成弾とかメディア受け悪いこと確実だからなぁ。
何か別のもの作るのはアリ。……いや、だったら。
「ちょっと待ってて」
「はあ」
急いで紙とペンを取り、普通に文房具使って錬成陣を描いていく。
カッコ悪いから戦闘中に正円を描くのはあの掌スタイルを貫いているけれど、こういう場では普通に文房具を使う。大丈夫大丈夫見てるのマスタング少佐だけだから。
そうして描き上げたもの。
「……こんな感じか。ちょっと出ようか、マスタング少佐」
「構いませんが……それは?」
「まぁまぁ」
つまるところ、錬成地雷だけが遅延錬成の真価じゃない、って話ね。
一応射線を全部切った場所で実験をする。
先ほど描いた紙。錬成陣の描かれたソレは、交点に渦の描かれた……つまり遅延錬成の描かれたもの。
これを。
「マスタング少佐。ここ破って、地面に投げてみて」
「錬成陣の内容を教えていただけますでしょうか。リバウンドを考えると……」
「ああ、既に思念エネルギーは込めてあるから大丈夫。起こるとしたら僕に起こるよ。術者は僕だし。まぁ起こらないようにしてあるけどね」
だから、早く、と急かす。
マスタング少佐は訝し気にその錬成陣の描かれた紙を眺めつつ、言われた通りの部分を破って地面に投げ捨ててくれた。
瞬間、錬成が始まる。
「……石壁。いえ、塹壕も、ですか」
「一撃で頭を抜かれたら意味はないけどね。一般兵でも使える簡易塹壕錬成陣ってところかな」
これなら「民衆のための錬金術」を謳える。
これで兵の生存率を上げて好印象をつける、というのはどうだろう。
「確かに良い物ではあると思いますが、根本的な対策にはなりませんね。狙撃兵をどうするかについて……」
「マスタング少佐の炎、射程はどれくらい?」
「視認可能な範囲であれば」
ああそうだった。最強最高の錬金術だった。
となると、クラクトハイト隊で一番射程が長いのがマスタング少佐になる。……いや待てよ?
「それはつまり、あらゆるところに火種を届けられる、ってことだよね」
「はい。ただ私の錬金術は遮蔽物に弱く、構造物に対してはキンブリー少佐程の火力を出すことはできません。狙撃兵は常に自らを隠す遮蔽物の近くにいるため、これを私一人で落とすことは難しく」
「だから……つまり」
キンブリーにマスタング少佐並みの射程があって、マスタング少佐にキンブリー並みの破壊力があればいいってことだ。
……本人たちが構わないなら、僕が狙撃弾に爆発物変成の錬金術と火種生成の錬金術を遅延錬成で刻み込んで着弾と同時に周囲を爆発物に変換、火をつける、みたいな超小型狙撃爆弾も作れなくはない。
ただ他人の錬金術を模倣し、それを我が物にするのは割合マナー違反というか……それが敵であればともかく、仲間のものに対してやることじゃないっていうか。
面倒だな。
国内メディアが不審死してる内にクレタ全部賢者の石に変えるとかじゃダメなの?
落ち着こう。
答えはわかっているけれど方程式を選ばなきゃいけない、という状況だ、今は。
あー、じゃあ、もう少し迂遠にすればいいのかな?
「准将?」
「ちょっと待って……いや、アームストロング少佐とキンブリー少佐呼んできてくれる? マクドゥーガル少佐には一旦一人で頑張ってもらって」
「はい、わかりました」
あらゆるところに火種を届けられる焔の錬金術。あらゆる物質を爆発物に変換できる紅蓮の錬金術。
この二つ、本来は相性が良いはずなのだ。原作では敵対者だったからアレだったけど、やろうと思えば二人だけで世界を終わらせられるくらいのヤバさを持っている。
それが僕の手にあって、わざわざ個々に動かしているのは……酷く勿体ないと言えるだろう。
……で、ここには大人がいるのである。
僕より己の錬金術について詳しい大人が。
「アレックス・ルイ・アームストロング、ただいま到着いたしました」
「何用ですかね、准将」
「ああ、来たね。ちょっと知恵を貸してほしい」
「吾輩が教えられることならばなんでもお聞きください!」
狙撃手問題。
それはちゃんと二人も把握していることだった。当然か。マクドゥーガル少佐も頭を悩ませていたらしい。現場に出ていない僕でさえ懸念点として挙げていたんだ。そりゃみんな悩むか。
「私の錬成陣とマスタング少佐の錬成陣を刻み付けた狙撃弾、ですか。……まぁ、ナシではないですね」
「消耗品であるならば……そして勝つためならば、私も構いません」
「アームストロング少佐。錬成陣を歪ませることなく平面から砲弾や銃弾を錬成する、ということは可能?」
「無論です。我がアームストロング家に伝わるこの錬金術に不可能はありませぬ」
……いいのか。
マナー的にダメだと思ってたけど、戦争にマナーも何も無いか。
「いけるなら、もう少し改良しよう。アームストロング少佐、どこまで複雑なものを錬成できる?」
「どこまででも……といいたいところですが、見たことのないものまで、となると些か難しい部分もあるかと」
「じゃあ僕が図面引くから、それを作るのは?」
「勿論可能ですとも」
「ただ、これだと数が作れませんね。狙撃手が一人だけであるというのならこれでも構いませんが」
「つまり、一発で複数破壊ができればいいってことでしょ」
「……そういうことではありませんが、それができるのならそれも組み込みましょうか」
あとはコレを打ち出す狙撃手だけど……うーん、ホークアイ中尉は今士官学生も士官学生で、若すぎるからなぁ。僕が許されたんだから倫理とか無いんじゃないか感はあるけど、別に許されたわけじゃなくて僕が強行突破しただけだし。
まぁ別に人間を貫くわけじゃないからいい、のかな。建物にさえあてることができたらこの錬成陣は発動する。
「よし、じゃあ僕は金型になる錬成陣を作っておくから、みんなはまた戦場に戻って。あ、キンブリーだけ残ってほしいかな」
「わかりました」
「ではマスタング少佐、マクドゥーガル少佐を助けに行きますぞ!」
うん。
仲が良さそうで何よりだ。原作みたいに敵前逃亡とか敵を逃がすとかされたら本当に困るからね。
それで。
「それで?」
「どうかな。遅延連鎖生体錬成弾や錬成地雷みたいな印象の悪い兵器の使用についてなんだけど」
「……やめておいた方がいいでしょうね。私もそこそこフラストレーションが溜まっていますが、マクドゥーガル少佐といいマスタング少佐といい、どうも私達を見る目が厳しい。決定的証拠、あるいはそういう素振りでさえ見せたのならば、メディアに抜かれて印象操作が関の山かと。国民からの印象などどうでもいいと普段であれば吐き捨てるのですが」
「ドラクマ、行きたいんでしょ?」
「はい。隣国三つの中でも最も屈強で最も広大で、アエルゴ崩壊を受けて既に錬金術師の育成が始まっているというドラクマ。楽しみでないはずがないでしょう」
そう、キンブリーがこのクリーンな作戦行動に大人しく従っているのはコレが大きい。
まだなのだ。まだはっちゃける時じゃない。
ドラクマでなら、どんだけ卑怯な手段を用いて、あるいは残忍な錬金術を用いて印象を悪くしようと、どうせしばらくは戦争が無いので関係ない。それで階級を下げられようと謹慎扱いになろうと関係が無い。
けれど今やってしまうとドラクマに行けなくなる可能性がある。だからやらない。
「ただ──私はできませんが、准将が隠れてやる分には問題ないのでは?」
「あんまり買い被らないでよ。僕が単独行動なんてしたら、一般兵に撃たれて終わりだよ」
「そうですか? 貴方、遅延錬成以外にも不可思議な錬金術……遠隔で発動させる錬金術を有しているでしょう。あちらで二つ名を更新できるほどには特異な技術ですよ、それ」
「遠隔錬成は、まぁズルみたいな所あるからね。それにしたって下準備が必要だ。結局僕は下準備がないと何もできない錬金術師でね」
「ならば下準備を行えばいいのでは?」
「……言い訳に対して正論かましてくるのそろそろやめない?」
軽口を叩くと──珍しくキンブリーは、大きく溜息を吐いた。
そして、強い目を向けてくる。
「私は貴方のことをそこそこ買っていますが、杞憂や深読みで足踏みをし、行動が遅くなる部分だけは評価していないんですよ。──そろそろ自信を持ちなさい、クラクトハイト准将。貴方は一民族を滅ぼし尽くした悪魔とさえ呼ばれる錬金術師で、我々四人の国家錬金術師を従える将でもある。自らの強さを認めなさい」
「……」
「貴方は良く言いますね。自分は本当は私達に腕の劣る錬金術師であると。自らの錬金術は私達に敵わないものであると。だから、自分は弱いと。──くだらない。実にくだらない。錬金術の優劣は術師に依存します。その逆はあり得ない。どれほど優れた錬成陣を用いても、術師に実力が無ければその錬金術は何事を為すことも出来ない。そんなことは貴方が一番良くわかっているはず」
僕は弱い。
遅延錬成は弱点を補完し、逆転の発想で強みにしたものであって、本当に特化している天才たちには敵わない。
──それは、言い訳でしかない。わかっている。
「クラクトハイト准将。貴方は強いのです。貴方に負けて死んだすべての者達が貴方に劣ります。貴方に劣ったから死んだのです。イシュヴァールという民族も、命からがら逃げ出し、けれど牙を剥いてきたあの二人も、貴方が殺したスパイやアエルゴ人も。誇りなさい。そして直視しなさい。彼らの強さを思い出しなさい。貴方は今、彼らの屍の上に立っている。──自らを貫き通した死者の上に立つ者であるのならば、自らを信じ抜きなさい」
「厳しいなぁ。僕まだ子供だよ?」
「子供は両親を守るためだけに3000万もの人間を殺したりしませんよ。自覚してください。貴方は子供でも大人でも人間でもなく化け物だ。自らが自らへと課した契約のもとこの世に災禍を齎す悪魔。──いまさら何を恐れるのです。その名を受け入れた時から──いいえ、貴方が貴方であると自認した時点から、貴方の前には茨しか生えていないのだと、貴方自身が何よりもわかっていたことでしょう」
ここから先は茨の道だと。
そう理解して突き進んできた。まぁ、そうだ。確かにそうだ。反論はない。いつも通りの正論パンチだ。虚飾だらけの人間だからね、クラクラするよ。
でも、そうか。
僕は絶対に彼らが──イシュヴァール人が弱かった、なんて言わない。口が裂けても言わないだろう。あんなに強くてあんなに怖くて、あんなに厄介な民族。もう一度戦えと言われたら戦いはするけど、今度はもっと全力で叩き潰すだろう。
絶対に油断はしない──そんな相手を踏み潰してきて今、ここにいるんだった。
そうだそうだ、忘れていた。
そうだね。その通りだ。
「キンブリー」
「はい」
「今日の夜は、誰も外に出さないでね。──周囲の街がいくつか消えるから」
「いいでしょう。出たがるだろう二人をなんとか止めてみせますよ」
何が出る幕がない、だ。
そうだった。
勿論保険は用意するし、杞憂もするけれど──僕は、僕自身が早く戦争を終わらせるためにここへ来ているんだ。
僕に向けられる目線がどうなろうと、それはそれ、これはこれでいいじゃないか。
なにより僕は正面切って
これ以上に誇れる言葉、鋼の錬金術師の世界で他にある?