竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第三十五話 錬金術の禁忌「対人賢石錬成」&一人

 面倒な挨拶回りを終えてクレタに舞い戻って来た。

 舞い戻って来た僕を迎えてくれたのは──なんか、ポージングしてるアームストロング少佐。

 

 ……キンブリーの指揮でメンタルぶっ壊れてないか心配したけど、してないようで何よりだよ。

 

「お迎えに! 上がりました!」

「あ、うん。ありがとう。戦況はどう?」

「順調ですな。例の奇病の患者もここ一週間は出ておらず、警戒態勢から攻勢態勢へ切り替え、キンブリー少佐の指揮のもと主要都市をいくつか攻め落としました。クレタ側でも降伏宣言をする話が出ている、とは捕虜の話で」

 

 彼が運転するらしい装甲車に乗って、現在の戦線のある場所まで行く。

 

「それで、銃撃対策はどうしたの?」

「キンブリー少佐の作戦が刺さりました。マスタング少佐とその場で協力開発した発煙装置にて射線を遮断。吾輩の錬金術でこちらの陣地を一時的に高台にまで押し上げ、勝利を」

「……成程発煙装置。僕には無い発想だったな……」

「仕方のないことですな。准将は准将という地位にあるとはいえ、未だ幼き身。対し吾輩や他軍人は士官学校を経てきています。兵器の扱いや選択肢に関しては、吾輩たちに一日の長があるものかと」

 

 遮蔽を作るのに壁を敷いたらこっちも攻撃できないじゃん? で思考を止めていた。

 そうか、煙で、相手だけわからなくさせてこっちから一方的な攻撃を。こっちは別に相手の位置とかどうでもいいもんね。広範囲攻撃を叩き込めばいいだけなんだから。

 

 やっぱり兵法はその道のプロに任せた方が良いなぁ。僕はちまちま賢者の石作ってるべきだ。

 

「ただ、准将の遅延錬成陣が在庫切れで、狙撃手対策の超小型狙撃爆弾が錬成できず」

「ああそうか。一週間だもんね。……どうにかして三日以上保つようにしなきゃなのはわかってるんだけど、中々難しくてさ」

「いえいえ。十分に助かっておりますよ」

「……マクドゥーガル少佐は、帰ってくる気はないらしいよ」

「……そうですか」

「部下と喧嘩して、落としどころを見つけられない僕はダメな上司かな」

「吾輩にもそれはわかりません。こういうものは大抵どちらにも悪い所があった、という結論に落ち着くものですが、それで納得できるものであるなら初めから喧嘩などしないでしょう。マクドゥーガル少佐には軍人としての責任感が足りていなかった。准将には部下へのメンタルケアが足りていなかった。第三者から見た互いの悪い所はそれですが、お二方はそれで納得しますかな?」

「無理だろうね」

 

 主にマクドゥーガル少佐が。

 僕はいいよ。全然、普通にごめんねができるよ。心が籠っているかは知らないけど、下げてどうにかなるなら頭でもなんでも下げるよ。

 でもまぁ、許せないだろうことを見込んで僕は彼を隊に入れたからなぁ。むしろ期待通りというか。

 

「そういえば、マスタング少佐が"准将が帰ってきたら謝りたい"と仰っていましたよ」

「謝りたい?」

「吾輩がここで何を言うのも野暮ですが、なんでも子供に対する態度でも上官に対する態度でもなかった、と」

「あー」

 

 真面目か?

 そんなこと言ったらキンブリーなんか不敬オブ不敬だけど。

 

「若いね」

「准将に言われてはマスタング少佐も立つ瀬がないですな」

「その場で流したってことは許したってことだし。気にし過ぎですぐにでも老けそうだね、彼」

「それはどうでしょうな。あの甘いフェイスです。30、40と過ぎても女性を魅了してやまないのでは?」

「アームストロング少佐確か軍人のお姉さんがいたよね。どう、マスタング少佐とは」

「……いえ、マスタング少佐のためを思えばこそ、紹介することはないかと……!」

 

 僕ロイアイはプラトニックラブで実益的な結婚はアームストロング少将アリだと思ってるんだけどな。……なんて鋼の錬金術師知識を出すのは絶対にないにしても。

 

 結婚だのなんだの。

 僕にも来るのかなぁ、そういう話。来るとしても原作開始あたり……つまり十年後とかだろうけど。

 

 ……あれ、適齢期?

 

 

 *

 

 

 

 お帰りなさいませ、准将閣下! みたいなのがあった後の話。

 

 簡易司令室に入った途端、マスタング少佐が頭を下げてきた。

 

「申し訳ありませんでした」

「うん、許すよ」

「私は……って、え」

「大体の話はアームストロング少佐から聞いたから。それよりキンブリー少佐、今の戦局図って出せる?」

「ああ、それならそちらの机に」

 

 言葉による謝罪なんて自分の罪悪感を減らしたいだけの行為だ。

 受け取っても使えないので自分で消費して力にしてほしい。

 

「だから言ったでしょう、マスタング少佐。准将に謝罪など無駄なことはしない方が良いと。この方、貴方やマクドゥーガル少佐のような態度の大人には慣れていますから。軍人歴で言えば貴方より長いのですよ?」

「ですな。准将は吾輩たちもわからない程の悪意に晒されて来たはず。これからはその悪意との盾となるのが吾輩たちの役目でもありますが、過度に守ることは却って准将を軽んじる行為となりかねませんぞ」

「う……そもそもキンブリー少佐が焚きつけて来たように……」

「なんですか? 私のせいですか?」

「……わかりました。もう謝りません」

 

 ううん。

 やっぱりキンブリーのせいか。良い空気吸ってるなぁ。

 

「さて、じゃあ戦場に話を戻そうか。……って、随分と制圧したね」

「はい。どうやら准将より私の方が大局を見られるようですね」

「それは否定しないよ。じゃあこのまま任せてもいい?」

「構いませんが、仕事を放棄するおつもりですか?」

「いや、遅延錬成陣の生産に努めるのと、もう一個新たな錬成兵器を開発しようと思ってね」

「……いいでしょう。では──」

 

 餅は餅屋だ。

 僕は僕にできることをする。そのために──もう一個鬼札を切ることにする。

 

 

 

 こちらの狙撃手に、イシュヴァール内乱の時のノウハウで錬成陣を刻み込んだ狙撃弾を渡す。

 

 少し心配そうな目線は、暴発とかの危険性だろうか。

 

「……撃ちます」

「うん」

「あまり身を乗り出さないでください。あと、耳を塞いでおくことを推奨します。ああ、そこにいると薬莢が飛んできて火傷しますよ」

「もしかしなくても今僕邪魔?」

「俺は准尉なんで何とも言えません」

 

 答えじゃん。

 

 狙撃手が──僕の指定した建物を撃つ。

 瞬間、青い錬成反応が走って、その建物が()()された。

 

「……これ、いくつ作れますか」

「生産方法を変えたら1000は堅いね」

「戦争がぶっ壊れます。範囲は? 地面に撃って反応させることは?」

「錬成陣を描きかえればいける。いくらでも。なんにでも」

「コレ、作れるの内緒にしといたほうがいいですよ。国家錬金術師でさえ目じゃない」

 

 いつもの遅延錬成陣を使った弾丸なんだけど、そんなに?

 

「量産することはバラさない方が良い。俺、准将の事お飾りだと思ってたクチですけど、やっぱアンタも国家錬金術師だ。化け物だ。しかも俺達一般兵が使える弾丸を、とか……危険すぎる」

「じゃあ君との秘密だ。それでいいかな」

「構いませんけど、俺中央司令部の命令でアンタの指揮下に入ってますよ。アンタ裏切り者嫌いでしょ。俺と秘密を共有するのはやめといた方が良い」

 

 ……。

 ……いいじゃん。

 

「良いね。久しぶりに部下の名前を覚えることにするよ。君、名前は?」

「うわ怖、何が琴線に触れたのかわかんねぇ。……ラティオ。姓は無いス。拾われなんで」

「オーケー、ラティオ。それじゃあこっちの弾丸をあっちの大きな建物に撃ってみようか」

「……あそこ、クレタ政府の」

「いいからいいから。大丈夫、さっきみたいな分解が起きるわけじゃないから安心して」

 

 渋々、と言った様子でラティオはそれを打ち込む。

 やはり何も起きない。じゃあ次、じゃあ次、はいこれ次、とその後に五つ。

 

 何も起きない弾丸を撃ち込んでもらった。

 

「なんだったんですか、今の」

「それは明日のお楽しみ。それじゃ、また明日」

「……ス」

 

 いいじゃないか。

 オープンスパイはいいね。新しいよ。

 

 ラティオ。久しぶりだよ、裏切り者の名前を覚えるのは。

 

 

 

 

 次の日、である。

 

「……最悪ス」

「ああ、頭良いね。気付いたんだ」

「気付きもするでしょ。自分が弾撃ち込んだ場所に、奇病が発生した。……病原菌でも詰め込んでたんですか」

「そんなところ。嫌気が差した?」

「最悪スけど、まぁ、仕方がない。やんなきゃ殺されるんだ。お上も、こっちがどんだけ優勢だってわかっても兵を退かせる気配はない。俺の飼い主も情報抜いてくるまでアメストリスの国境は踏ませないとか言ってきてたんで、手ぶらで帰ったら射殺だ。なら、アンタの所業を全部盗むしかないでしょ」

 

 メグネン大佐、アーリッヂ大尉のような悪人でも、キレイア中尉とヴィアン准尉のような善人でも、あの名前さえよく覚えていない国家錬金術師の盗人でもない。

 自分を捨て駒だと理解している、目の死んだ若者。

 

 いいじゃないか。

 

「あの奇病。アメストリス人は罹るんスか」

「病原菌が拡散するかどうかは僕が決めているから大丈夫」

「つーことは、ここの基地の真下にアンタが埋めてる可能性もあるんスよね」

「なんでみんなそんなに僕の事味方殺しする、みたいな印象持ってるの? 僕一回もやったことないけど」

「裏切り者以外は、でしょ。んで俺は裏切り者。裏切り者を消すためならなんだってやるのがアンタだって中央で言われたスけど」

「酷い誹謗中傷だよ。やんないやんない。今ここで君が僕に銃を向けてきてもやんないよ。引き金引いたらやるけど」

「やるんじゃねーか。つまりここにいる全員人質かよ」

「君が素直に従ってくれたら何もない話だよね?」

 

 ちなみにそんな仕込みしてない。

 いやまぁここにいる一般兵の全員が全員裏切り者だっていうなら考えなくもないけど、それは流石に無い……はず。それがあるなら夜の暗殺とかもっと起きてるでしょ。

 

「国家錬金術師達と正規兵が戦っている間に、僕と君でクレタを一気に消し去るんだ。簡単な話でしょ?」

「……んで、最後の最後にお役御免になった俺もソレで殺すってワケだ」

「悲観的だなぁ。僕に見初められて僕の隊に入る、くらいの希望は見てもいいんじゃない?」

「絶望したくないんで、夢は見ないようにしてるんス」

 

 なんて夢のない子だ。

 僕を見習ってほしい。

 

「まぁまぁ。はいこれ、今日の分解弾。素材は石だよ」

「……うス」

 

 ──さて、彼のおかげで奇病も再発したし。

 そろそろ詰めと行こうか、クレタ。

 

 

 

 

 次の日の夜のことである。

 

 真っ暗なクレタで、バチバチと赤い錬成エネルギーが光を発する。

 

「……っ」

「やぁ、ラティオ。良い夜だね」

 

 赤い錬成光と共に()()()したのは、彼から何かを受け取ろうとしていた記者の男性だった。

 

「暗視スコープで僕の錬金術を撮影したのかな。考えるね」

「……アンタの錬金術は、錬成に時間がかかるんだろ」

「それなら勝てるって?」

「無理だな。今の錬金術をやられたら勝てない。……が、俺はアンタの糧になるのは御免なんでね」

 

 言って、何の躊躇もなくラティオは自らの側頭を撃ち抜いた。

 一瞬だった。止める暇もなく。

 

 自決。

 

「……いや、潔いとかいうレベルじゃ」

「そういうものですよ。孤児の子飼いというのは」

「キンブリー」

 

 呆気に取られている僕に声をかけるはキンブリー。

 冷めた目で、冷めた声で。

 

「貴方はこういうことへの経験が少ないようですね。大人ばかり相手にしてきたからでしょう。……愛されたことが無く、自らを駒としか考えていない子供。彼らは愛されたことが無いが故に、寝返ったら愛されるかもしれない、という判断に至りません。バレたら終わり。用済みになったら廃棄する。武器でも人間でも、自分でも」

「……うん、まぁ、僕は愛されて育ってきた子供だから、彼らの気持ちはわかんなくて当然かな」

 

 戦争孤児。あるいは単に孤児で、中央に拾われただけかもしれない。

 それが、軍人とまでなって、だというのに、そこまで行ったというのに、こうもあっさりと。

 

「それより、今のなんですか? 賢者の石の錬成陣にしては、明らかに範囲が狭いでしょう」

「あぁ、まだ試験段階なんだけどね。この前セントラルに帰った時着想を得て、やってみたんだ。名付けるなら……対人賢石錬成陣、って感じ?」

 

 ラティオに渡した、というかラティオがくすねた銃弾に入っていたものだ。

 彼がくすねたから今日彼が裏切るとわかったんだけど、くすねやすく置いておいた銃弾を素直に盗んでくれて助かった。

 アレはダミー錬成弾なのだ。

 中に小さな紙片が入っている。賢者の石の錬成陣の描かれた紙片が。

 中央の子飼いの兵士が盗んで持ち帰って、中央の錬金術師が見つけた時に「既に知っているものじゃないか!」って憤慨するように仕込んであるもので、マルコー医師がやっていたものと同一の賢者の石の錬成陣が描かれている。

 

 後は知っての通りだ。

 僕が持っている同じ賢者の石の錬成陣でその銃弾に対して跳水錬成を発動、地形でも人体でも関係なくせり上がる円をファクターとして、賢者の石の錬成陣が発動する。

 錬金術の基礎でやったように、円とは思念エネルギーを中心点に統一に向かわせるためのファクターである。だから外円の円周上に交点がある必要はない。内円……銃弾の中に入っている錬成陣が内円として機能し、それがしっかりした陣ならそれでいいのだ。

 ……まぁ、多少どころではない思念エネルギーのロスが発生するけど。*1

 

 着想元は勿論お父様の「個人を賢者の石にする錬金術」。アレ原理意味わかんないんだけど、多分こんな感じで無理矢理錬成陣描いているか、もしくは魂にも流れがあって、それが引き合っているとか……やっぱりわかんない。

 とかくこれの利点は、相手が賢者の石の錬成陣入りの銃弾を持っている、ないしは体内に撃ち込まれてさえいれば即座に賢者の石化できる、という点にある。

 

 ……そんな状況早々ないけどね。

 

「言ってくだされば裏切り者の一般兵など私が始末したものを」

「まぁ、試したかったし。それに、僕が始末したのは裏切り者の一般兵の方じゃなくて連絡役の方ね。裏切り者の一般兵はそれを見て自決を選んだんだよ」

「英断ですね」

「僕もそう思う」

 

 賢者の石にされると、永遠の苦しみに囚われるらしいからね。

 される前に死ぬのはあまりにも英断だ。

 

 ……せっかく名前覚えた相手だったけど。

 ま、戦場と政治なんてそんなものだね。

*1
こんな感じ

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