竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第三十六話 錬金術の小技「虚勢錬成陣」&対峙

 クレタ侵略はアエルゴと似た形──つまりあちらの降伏宣言で結末を迎える。

 よって僕はまたクレタを国土錬成陣で賢者の石に……と考えたんだけど、そこにストップが入った。

 エンヴィーから、だった。

 

「流石に?」

「ああ。怪しまれるどころじゃないだろ。特に今アメストリスはビョーキに敏感なんだよ。知らないだろうけどさ」

 

 ──。

 そういえば、エド達の母親、トリシャ・エルリックが死んだのって、流行り病が原因で……まさに1904年に亡くなったんだっけ?

 成程、そこにアエルゴ、クレタと連続して奇病を運んでいる僕らが帰るのはちょっと、と。

 ……それさ、この前パレードで帰ったので手遅れ感ない?

 

「クレタでも流行ってる、程度ならどうでもいいが、クレタで流行ってクレタ人が全滅した、は色々隠すの面倒なんだよ」

「でも君達のお父様に3200万を約束しちゃったけど」

「ああ聞いたよ。けど安心しろ、お父様は日時を指定しない約束に関しちゃ結構ルーズだ。少しくらい遠のいたって何も言わねえよ」

 

 とのことで。

 

 クレタ人の賢者の石化は先送りに──。

 

「でもごめん、エンヴィー。僕は君達のために敵国を賢者の石にしているわけじゃないんだよね」

「は?」

「復讐の芽を摘むためだ。指定した範囲を確実に、且つ取りこぼしなく摘み取れる錬金術が、賢者の石の錬成。──アメストリスの景気とか、僕への心象とか、知ったことじゃない。ここでクレタ人を野放しにしてみなよ。クレタは西部に近いんだ、もし復讐者がアメストリスに入ったら、真っ先に狙うのはウェストシティとその周囲。あとは言わなくてもわかるでしょ」

 

 そうだ。

 雇われ、あるいは正社員としてホムンクルス達の下で働いている僕だけど、戦争も賢者の石化もあくまで利害の一致で行っていること。

 味方への損害だってどうでもいい。味方殺しをしないことで有名な竜頭の錬金術師は、けれど味方の命を重く見たことは一度だってない。ただいた方が便利だから残しているだけだ。雑兵の一刺しは象を倒すだけでなく、敵の雑兵を削るからね。

 

「……いいのかよ? 俺が言ってんのは、つまり」

「今アメストリスで流行ってる病気の原因を擦り付けられる、謂れのない罪を被せられる、ってことでしょ。ああ、これは言葉の先取りじゃないよ。君が珍しく言い淀んでいたから結論を急いただけ」

 

 珍しいことだった。

 いや、ある意味珍しくはないのかもしれない。

 彼は自らの嫉妬に振り回され、感情的になることが多い存在とはいえ、基本は合理的な存在だ。「煽った方が戦いやすい」「情報を引き出しやすい」、「ここは完全に化けていた方がうまく運ぶ」「退屈でも成り代わっている人物になり切れる」。

 見た目を他者に変えるだけじゃない、中身まで寄せるのはそういう合理的で几帳面なところがあるからだと思ってる。口は軽いけど。

 

 そして、今の僕は余程合理的じゃないんだろう。

 エンヴィー的には少し待て、という程度の時間。多分一年かそこらだ。あるいは数か月。流行り病なんてすぐ過ぎ去るものだから。だから、少しだけ待った後に、復讐者の芽を摘むなりなんなりすればいい、と。そう言いたいのだろう。

 わかるよ。そっちの方が絶対安全だ。僕という存在に対しての視線。僕という偶像に対しての心象。折角"勝利の子"なんてプラス方向のあだ名を獲得したのだから、お父さんとお母さんを守りつつ、そして自身の身を守るならちょっと待った方が良い。待つだけですべてがいい方向に向く。

 

 わかる。

 けど、嫌だ。可能性を見過ごすことが僕にとっては実益を上回る損失となる。

 

「……殺しのための、賢者の石、ね」

「手段と目的が入れ替わっていることは気に入らない?」

「べっつにー? 人間がどうなろうと、どう動こうと俺には関係のないことだ。このエンヴィー様にとっちゃアンタの作り出す賢者の石さえ手に入れられたらそれでいい。……わかったよ、もうストップはかけない」

 

 彼がそう言った瞬間、僕らの足元でガチャンという音が鳴り──四つの巨大な国土錬成陣が連鎖して発動する。

 唖然とする彼は、けれどキッとこっちを向いて。

 

「てめっ、俺が許可しようがしなかろうがやるつもりで仕込んでたな?」

「勿論。アメストリス軍は全部退かせてあったし、クレタ人で作った五角形も各地に配置済みだった。起点となる命もね」

「……これで、3200万か」

「うん。まぁ取りこぼしというか、戦争中に作った賢者の石分が差し引かれているから、実際には3150万とかになると思うけど」

「気にしねえよそんなこと。……喜ぶと思うよー、お父様は」

 

 また強くなるなぁお父様は。

 少しくらい子供たちに分けてあげたりしないのかな? まぁそうなったらエドがさらに大変になるんだけど。

 

「それは何より。あ、じゃあ回収は任せていい? 今回の戦争は爆発多目だったから道の舗装が剥げててさ、車じゃ走りづらいんだよね」

「ああ、構わねえよ。……次のドラクマはどうする気だ?」

「ドラクマは広いし寒いから、ちょっと難しいよね。寒さがあるし」

「そーじゃなくて。あそこにはいるだろ。砦から出てくるかは知らねえが──」

 

 准将が従わなきゃいけない相手がよ。

 

 

 *

 

 

「……」

「……」

 

 ドラクマ兵の傾向と対策。

 それを得るために僕はここに来ていた。

 

 ──ブリッグズ砦。要塞。ブリッグズの巨壁。

 正式な手続きを経て軍人に連れられて来たはずの僕は、何故かそれら軍人を剥がされ──彼女、アームストロング少将とタイマン張っている。……いや戦っているわけじゃないからタイマンというかなんというかだけど。

 少将は沈黙。僕はもう挨拶を済ませてあるけど、少将は一切の返事を返してきていない。

 原作より10年前である今。ただ少将は一切変わっていないように見える。アームストロング少佐もほっとんど変わってないし、アームストロング家の血なんだろうか。

 

「……」

「……」

 

 監視は……無いのか。それで大丈夫?

 僕が少将を害するとか考えないのかな。というか少将って10年前から少将なんだね。左遷されているようなものであることは知っているけど、ブリッグズからの脅威を守り続けている彼女の貢献を無視し過ぎじゃない? それとも自分から昇進断ってるのかな。それはありそう。

 

「……」

「……」

 

 つらつら考えることが浮かんでは消えていく。考えても仕方のないことだし、多分聞いても答えは返ってこないし。

 しかし寒いね。子供の身体は全身が冷えやすくていけないね。

 

「……」

「……」

 

 因みに喋らないのは喋らないからだ。

 多分だけど「あの……」とか切り出したら斬られる。そんな気がしている。

 けれどこれだと無為に時間を過ごすことになる。それは勿体ない。やりたいことは沢山あるんだ、人格を見定める程度のことに付き合っていられない。

 

「二つ」

 

 瞬間、首元に剣があった。

 大総統の時と同じだ。部屋中に赤い錬成陣が展開される。即座にバックステップする少将は、けれど嫌がらせか少しだけ剣先を逸らして頬に傷をつけてきた。

 

「用件は二つだけだよ、アームストロング少将」

「ほう。開口一番がそれか、クラクトハイト准将」

「ドラクマの兵器レベルと、できるならドラクマの全体地図。君に要求するものはそれだけだ。それ以外要らないし、それ以外をブリッグズに求める気はない」

「当然だ。私達はこの国境を守るために組織されている。ドラクマ本陣への侵攻などブリッグズ兵の行うことではない。だが──」

「長年の手柄を奪う気か、と言いたい?」

「悪魔に魂まで売るつもりはない。ドラクマのことはお前自らが調べろ」

「流行に後れているよ、少将。僕はもう悪魔じゃなく、勝利の子らしいよ?」

「ふん、弟から貴様の所業は聞いている。随分と上手く猫を被るものだが、お前の過去を鑑みれば、それが印象操作であることなど容易くわかる」

「僕の過去を知っているんだ。それはアレかな、イシュヴァール人の混血。その末裔でも匿っているから、かい?」

 

 マイルズ少佐がいつブリッグズに来たのかは知らない。正直僕としては彼も殺したい気持ちがある。だって彼は自身をイシュヴァール人だと思っている。ただ先祖返りでイシュヴァール人の特徴が強く出てしまっただけのアメストリス人なのに、彼は作中でイシュヴァール人の未来を考えていた。

 ──此度皆殺しを行った僕に何か反感を覚えていてもおかしくはない。

 

「用件は二つだけ。貴様が言った言葉だろう?」

「確かにそうだね。ごめんね、謝るよ」

「准将の身で随分とふてぶてしい態度を取るものだ」

「身分にそこまでこだわる人だとは思っていなかったよ。噂に聞く高潔さは単なる猫被りだったのかな」

「良く回る口だな、クラクトハイト。貴様、ここがどこか忘れたわけではないだろう?」

「今この時、この部屋は僕の掌の上だよ。君が首に剣を当ててくれたからね、感圧式錬成陣はその効果を発揮した。君が僕を殺すのならば、傷つけるのならば、同時に君も死ぬだろう。それが国益だと僕は考える」

「国益か。よく言う。貴様、アメストリスなどどうでもいいのだろう?」

「まさか。アメストリスは僕の大切な人たちが住んでいる場所だからね。安全でいてもらわないと困るんだよ。だから長年ブリッグズからの脅威をここで堰き止めてくれている君達には感謝しているよ、少将」

「感謝しているなら少しは敬意を持て、准将」

 

 少将が剣を降ろす。

 僕も途中からはパフォーマンスにしかなっていなかった赤い錬成陣を消した。

 一応名前を付けるなら「虚勢錬成陣」と言ったところか。無反応錬成とは違う、「赤い光の錬成陣を描くための錬成陣」。無反応錬成は実際に錬成エネルギーがバチバチと飛ぶから術者相手に効くフェイクになるけど、一般人な彼女相手にはこっちで十分だ。

 

 仕組みは至って簡単、蓚酸ジフェニルと過酸化水素を混合するだけ。あとそこにローダミンBをIN。あとはその混合液を整形で錬成陣の形に整えてやれば、見た目だけ賢者の石の錬成反応っぽい錬成陣の完成だ。

 つまりケミカルライトの反応だね。

 ちなみにこの流体操作の錬金術はマクドゥーガル少佐とマスタング少佐の錬金術から少しずつ拝借したものを用いている。パクりではないリスペクトだよリスペクト。オマージュでもいいけど。

 

 ふぅ。

 言っておくけど、無理だからね。キング・ブラッドレイを相手にするのが無理でもその下でしかない少将ならいける──とか、欠片も思ってないからね。

 キンブリーの金言で自信こそついたけれど、それは過信や蛮勇に変わることは無い。無理無理。勝てない相手の見極めくらいつくよ、僕も。

 

「いつを予定している?」

「1905年7月。あと半年は猶予がある」

「猶予? まさかとは思うが、逃げる猶予が、などと口に出すつもりではないだろうな」

「その通りだよ。君や君の部下が軟弱者でなくとも、君が守るべき民は戦えない者も多いだろう。ドラクマ侵攻については、アエルゴやクレタと同様の快勝で終わるとは思っていない。恐らくこっち……ブリッグズにまで火の手が回る。ドラクマは広いし人口が多い。僕らが中心地に進めば進むほど、命を賭して抜けてくる人間も出てくるはずだ」

 

 そしてそれらは復讐者であり、なりふりを構わない。

 あらゆる悪徳を尽くしてでも生き延びんとするだろう。あるいはブリッグズを越えて、ノースシティに入り──そこの住民を殺してでも、だ。

 

「ちなみに僕らの手に地図があれば、壁を作ることはできる。人の壁でも、物理的な壁でもね」

「ふん、言葉を撤回するつもりはない。地図は自分たちでどうにかしろ」

「取り付く島もないね。そんなに僕の事嫌い?」

「他者の命に価値を覚えない人間をどう好けと?」

「失礼だな。さっきも言ったけど、僕にも大切な人はいるよ」

「母親と父親だろう? そして、それ以外はどうでもいい」

「どうでも良かったら侵略なんてしてないよ。──敵には殺す価値があると思っているよ、僕は。ちゃあんと」

「全く、アレックスの奴め。コイツのどこをどう見たらあんなにも褒めちぎる文章が書けるのだ」

「兄弟仲がいいね。弟と文通なんて、可愛らしい所もあるじゃないか」

「貴様、中央のタヌキジジイが化けてでもいるのか? 発言が子供のソレとは思えんな」

 

 ……うん、今のは効いた。

 エンヴィーにジジくさいって言われても君に言われたかないよ、で済むんだけど、普通に今20代な女性にそれを言われるのは刺さる。転生者のつらいとこだよね、精神年齢問題。

 僕の性格のせいだけだったら余計に悲しいんだけど。

 

「それじゃ、僕はこれで。用件をのんでくれないのならここに居座る意味は無いからね」

「待て、クラクトハイト」

「うん?」

「一応聞いておく。弟は役に立っているか?」

「……多分ウチの隊で一番腕のいい錬金術師が彼だよ」

「返答になっていないな。……まぁいい。行け。もう来るな」

「うん、それじゃ、失礼します。アームストロング少将」

 

 頭を下げて。

 振り返って、その後頭部に風を感じながら、僕は部屋を出たのだった。

 

 

 *

 

 

 帰りの車で、少し思いに耽る。

 

 ドラクマ攻略についてだから思いも何も、って感じだけど。

 

 ──案外、寒かった。

 前世でも別に雪国に住んでいたってワケじゃない。スキーとかで寒い地域に行くことはあったけれど、基本は温暖な地域にいた。はず。もうほとんど覚えてないけど。

 それが、ドラクマは年がら年中寒い。広いから単純計算攻略は今までの倍はかかるだろうし、それ以外の障害もある。ドラクマがアエルゴ崩壊を受けてから育て始めたという錬金術師。急造とはいえ錬金術師は錬金術師だ。僕の撃ち込む国土錬成陣に気付く可能性もある。

 寒さ。寒さはそれだけで人から動きの精彩を奪う。果たして中央でぬくぬくしている兵士にドラクマの寒さを乗り越えられるか。

 懸念点はいくらでも出てくる。

 マスタング少佐、キンブリーの錬金術。あれ雪国で使っていいんだろうか。使うことはできると思うんだけど、あの熱量ドカドカやったら雪崩とか洪水とか起きそうだけど大丈夫なのだろうか。

 

 洪水?

 

 ……あ、一個……それこそ悪魔的な考えが浮かんだ。

 ちょっと準備が大変だけど、できなくは……ないかもしれない。果たしてそれがどのような悪影響を及ぼすのかは考えないものとして。

 

 ドラクマの地。

 帰ってエンヴィーに聞かなきゃいけないことができた。一つは血の紋に関わることだから、もう察している前提で問いかけて良いだろう。お父様が僕を気に入ってくれたから、早々に殺されないことを祈る。保険は四つかけておくけれど。

 そして、ドラクマという地。あそこが()()()()()()()()()については──まぁ、別にいい、と言ってくれることを信じているけれど。

 

 アメストリス国民には、英雄の評価を改めてもらわないとね。

 その化けの皮を彼ら自身の手で剥いでもらって、もう評価がどうのとか煩わしいことが僕の耳に入ってこなくなることを願うよ。

 

 半年後だ。

 ドラクマ侵攻。此度は報復侵略とかではなく、普通に侵略。それができるくらいには、あちら側からの侵略行為を受け続けてきたからね、ブリッグズが。

 大義名分を以て国家錬金術師を大量投入できるのである。

 

 半年後。そして──。

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