竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
再構築。
それは錬金術の基礎にして真骨頂。
物質を理解し、物質を分解し、物質を再構築して全く違う物質に変える、または全く違う形状に変える工程。
「やり方はこの前の水と同じだ。……とりあえず、ほら」
「え……粘土?」
「ああ。これを棒状にしてみなさい」
「錬金術、で……だよね?」
「お、良い質問だな。答えはNOだ。まずは自分の手で棒状にしてみるんだ」
やっぱり。
お父さんはいきなりこれを渡してやってみろ、なんて言うスパルタじゃない。いや、水の時はそうだったけど、あれは事前座学あってのもの。
今回はこれが座学なんだ。
さて、普通に棒の形にするなら、うにょーんと伸ばすのが良いだろう。
うにょーんと伸ばして、端っこを持つ。
ぐにょり。
「……これは、棒じゃないね」
「そうだな。紐……というか、ただの伸ばした粘土だ」
ふむふむ。
じゃあねじってみよう。ぶちっ。
よし、じゃあくっつけて、手の中でごろごろさせて、少しずつ長くして……先端を整形して。
端っこを持つ。
「あー」
「ちょっと曲がったか。でも、言いたいことはわかったな?」
「うん。素材を伸ばすだけだと、耐久力が足りなくなる。ただ伸ばすだけじゃだめだ。工程をもう少し増やさないと」
「そうだ。じゃあ今度は錬成陣アリでやってみろ。ちなみに手でやるとそれ以上は硬くならないし、硬くするには日数が必要になる」
「……それヒントじゃない?」
「さて、どうだろうな」
乾かないといけない、と。
確かにそうだ。こんな湿った粘土じゃ硬くなるものも硬くならない。
さて、ではパズルのお時間である。
まず正円を描く。ちなみに今回はコンパスの使用が認められている。僕の本来の錬成スタイルを使うなら、粘土から何かを引き出すように使うからだ。今回は異例って感じで。
正円。そして、まぁ無難に正三角形を描く。
色々練習して分かったんだけど、正三角形は「一工程」を表す場合が多いっぽい。多いだけで必ずしもすべてそうじゃないんだけど、つまり中心へ向かうエネルギーが一画で終わってしまうんだ。寄り道が無い。だから一工程分しかエネルギーが循環しない。
これを考えるに、多分これじゃいけないけど、まずは正三角形。
それで、僕の中のイメージである正方形を水の凝固の時のように配置。
一応これで発動してみる。
「……ちょっとだけ圧縮された?」
「気のせいレベルだな」
「……まずは理解をしよう」
大体の場合、粘土の成分はアルミニウムとケイ素だ。勿論粘土にも色々あるから一概には言えないけど、この灰色っぽい粘土はこの成分だと思う。
「よし。次は分解……」
分解。
たとえばなんだけど、この前の水の凝固。アレはもっと上手くできたんだと思う。あの時も思ったけど、水分子を完全に理解して想像できて、それでいてそれらがくっつくのを想像できればいけた。
そして今度は水を水素と酸素に分解するようなもの。アルミニウムとケイ素に分解して、配列と位置を変えて組み直す、というのが課題だ。
正円に正三角形を描く。そして、正方形を散りばめるだけじゃなくて、十字を描いていく。
十字はシンプルなマークでありながら結構強い意味を持つマークで、太陽とかと同じくらい「意味が定まっているマーク」である。
その意味は「固定」。あるいは「死」。つまり「停滞」とか「留まる」、「止まる」を意味するマークだ。これの下が伸びると「剣」を意味したりするんだけど、今はあんまり関係ない。
水の凝固を行った時、僕は正方形を「無理矢理固める」だと認識していた。そこに十字を置くことで、「"固める"を"留める"」にする。他にもっと上手いやり方はありそうだけど、とりあえずこれで──発動。
「……どう?」
「分解しようとしたんじゃなかったのか?」
「あ」
「だが、固まってはいるな」
け、結果オーライ!
棒ができた後にこの記号を用いれば、粘土を固めることができるってことだ。
じゃあ──分解をしてみよう。
正円に、正三角形。散りばめるのは二等辺三角形……を途中まで書いたもの。頂点が繋がっていない二等辺三角形、って感じのマーク。
これで、そのマークの中に「AlSi」の文字を刻む。AlSi、つまりそのままアルミニウムとケイ素を一緒くたにしたものを裂く、という意味を込めたこのマーク。これで発動してくれるのなら御の字だけど。
「……お?」
「ほぉ、成功だ」
一応、成功した。
粘土は砂とシルトに分かれ、ボロボロになる。
……アルミニウムとケイ素に分解したかったから、失敗ではある。だけど、そうか。AlSiをAlとSiに分解したんじゃなくて、AlSiをそのまま分解したって感じになったのか。
うん? でもそれでいいんじゃないか?
粘土から棒を作るのに、わざわざ元素まで分解する必要ある?
「じゃあ次は再構築だな」
「うん……えーと」
ではおさらいだ。
現状、理解、分解までは上手く行った。よってこの錬成陣に「再構築」足り得る意味を描き足すことで、この錬成陣は完成する。
まぁ普通に考えるなら、逆向きの正三角形を重ねる形だろう。
一応広義的……錬金術の用語的に、上向きの三角形は火を、下向き三角形は水を表す。それぞれ燃える火と滴る水だ。
これで作る六芒星は、そのまま乾湿に関わる錬成陣に捉えることができる。
つまり、僕の描いた分解の錬成陣は「乾」を内包するものであり、ここへ「湿」を足したとするのなら、その周りに散りばめるべきは「押し出す」だろう。何かのマーク、あるいは文字から「押し出す」の意味を抽出しなければならない。
押し出すもの。押し出すもの。
……僕の頭にパッと浮かんだのはアレ。ところてん押し出す奴。でもそーじゃないのだ。
押し出す……あるいは引き出すでもいいのかな?
今錬成陣を描いているのは紙だ。だから、これを粘土に当てて、錬金術を発動しながら引き出す、でも行ける気はする。エドが国家錬金術師試験でやった時みたいに。
「普通に文字として書いてもいいんだぞ」
「あ、うん。でももうちょっと考えたい」
「そうか。……すまん、邪魔した。もう少しゆっくり考えると良い」
押し出す。押し出すもの。引き出すもの。
引き出す、でいいなら持ち上げる、でも良さそう。逆に突き上げる、でもいいのか。
あ、突き上げる、なら……アームストロング少佐の衝角が使えそう……だけど、それを僕が使っているのは変じゃない? まぁ衝角だけがアームストロング家に代々伝わる錬成陣じゃないとはいえ。
もうちょっと頭をフラットにしてみよう。
僕の中で引きだす、引き抜くものって言ったらなんだろう。
……。
……。
……。
「鍵、かな?」
鍵。
押し込むもので、引き抜くもの。それを「湿」を意味する逆三角形の周囲に描いていく。
そして、最後に正円の円周上に沿うように正方形を描いて、その中に十字を描いて。
「うーん、なんかごちゃごちゃしてる……」
「ま、物は試しだ。一応聞いておくが、何を作ろうとしているんだ?」
「固めた粘土の棒」
「よし、それならリバウンドの心配もない。やってみなさい」
やってみる。
粘土の下に敷いて発動する予定だった紙を粘土に被せ、その端を持ちながら発動。
そのまま上へ持ち上げていく。
重み。
おお、引っ付いてきている。
「おお」
「おおお」
親子二人して声を上げながら、ゆっくりと錬成されていくそれを見る。
勿論思念は送っている。つまり、粘土を伸ばす想像と、順次固めていく想像を。
そうして出来上がったのが──。
「……あ、折れた」
「はは、長く作り過ぎたな。粘土の耐久性だと、この長さでこの乾きじゃ重力に耐えられないんだ」
成程。
もう全然、何の反論の余地もない。元からする気はないけど。
長く伸ばして乾かして固めた粘土。それを横向きにして持ち上げたらどうなるでしょうか、なんて。
「でも、できたな、再構築」
「うん。……同じ物質を同じ物質にしただけだけど」
「問題ないさ。一歩一歩やっていけばいいんだから」
それに、と。
「自分で何かを作り出す、って楽しいだろ?」
「……うん!」
すごく楽しい。
パズルはパズルでも、数学パズルって感じだ。求めたい解に近づけるように少しずつ式を変えていく感じ。
「それに、まさか押し出すんじゃなくて引き抜くとは思ってなかった。レミー、お前は父さんの想像を超えたよ」
「そ、そう? ……なんかこっちの方がしっくりくるんだよね」
「そうか。じゃあレミーの錬金スタイルは、物質に対し手を押し当てて円を描き、そこにいくらかをつけ足して、その物質から再構築した形状を引き抜く……という感じになりそうだな」
おお。
やっぱそうなるか。それが一番使いやすそうだな、とは僕も思っていた。
じゃあ、そっち方面でレパートリー増やそう。マークの。
勿論他の錬金術も勉強するけど、やっぱり代表的なものがあった方が人間やる気出るよね。
……というか。
こう考えると、エドってハンパないんだなぁ。
再構築の時の頭の中どうなってるんだろう。
*
先日の錬成陣には元素を意味する文字を描いていたけれど、あれはやめた。
というのも、そういう部分の「理解」は自分の頭でやった方が良いみたいなのだ。そっちの方が良いぞ、って言われたんじゃなくて、お父さんの錬成陣を見てそう思ったというだけ。
でも確かにそうだよなってなった。
錬成陣に全部描いてたら、何が理解だよって感じだし。
これはちゃんと聞いた話だけど、錬成陣に描かれている文字は全て再構築時のサポートであることが多いらしい。想像力の手助け、って奴だね。
「その点で言えば、レミー。お前の鍵のマークは俺も見たことが無いものだった。それはお前のオリジナルとなるだろう。大事にすると良い」
「わかった」
ということも言われたので、鍵をイメージした錬金術を色々試している最中だ。
それとは平行に、お父さんの持っていた錬金術の本も読ませてもらっている。ただこれが難解も難解で。
「三本の花束を持つ貴婦人。杖を持つ老人。彼らは兄弟だ。彼らの前で、奴隷が重石を熱し、火かき棒を鳴らす。水桶に落ちる小さな水桶。それを飛び越える犬。……が」
えーと?
これの訳が……。
「彼らは最も古い石に縛られていた。それらは他の人よりも先に開かれ、最も重要な秘密。全ての狂信の源にして、──より賜ったもの。
うーん。
わっかんない。
「ただ後ろの方はわかるんだよなー。沼地を踏む雄の竜。泥によって火を消し、完全に取り除くことができる。小さな火の上には大量の水ができ、水からは火ができる。第三の鍵」
この本は全体的に錬金術における「素質」を事細かに説明したものだ。
錬金術における
前に僕が使った「乾」や「湿」もこの素質に類する話で、六芒星はこの全てを内包させることもできる凄い形状だ。
また、錬金術の三原質、「燃える、または腐食する能動的作用」として「硫黄」を、「能動的作用を封じる受動的作用」として「水銀」を、両者の中間にある固定された作用」として「塩」を配置しているのも六芒星……というか三角形かな。
この「三」と「四」が錬金術的にはかなり大事で、基本的に錬成陣はどれもこれも三角形か四角形、もしくはそれらの公倍数が使用される。
……だからこそ、五角形の陣は珍しいんだ。
僕の感覚で言えば魔法陣的なノリで五芒星とかもありそうなものなのに、錬金術の世界には全く見当たらない。
五芒星も五角形も不可逆性を推してしまうから、かもしれない。まだまだ研究は必要だけど、「五」はなんというか、指向性のある数字なのだ。
安定を保ちたがる錬金術にはあまり見られない数字。
だからこそ──人体錬成の陣や、賢者の石作成の陣に使われるんだろうけど。
そんな錬金術書における「五番目の鍵」。
「顔のある太陽。王冠を被った獅子。楽器を弾く男女と、それに弓を引く片翼の天使。女性の手には七本の花束……」
神は太陽を生み出し、太陽は大地を生み出し、大地は生命を生み出す。生み出された生命は草木を生み出し、草木は空気を生み出し、空気は熱を生み出す。
つまり循環だ。神が手を加えたことで循環は始まり、その循環は神が離れても続く。
重要なのは、やはりあくまで生命を生み出すのは大地であること。そして恐ろしいのは、「人が人を作り出してはならない」とは書いていないということ。
人体錬成を禁止しているのはアメストリスという国であり、こういった古書にそれらしい記載はない。
むしろ──隠されていたり、別の言い方をされたりしているけれど、「著者が目指すべきはそこである」とでも言いたげな文章がちらほら。
「……この本、参考にならないな」
辿り着く先がそこだというのなら。
この本を読む意味はない。
うん。
僕は僕の錬金術を作ろう。