竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第四十話 錬金術の禁忌「魂定着の陣」&「錬成機械人形」

 魂定着の陣、というものがある。

 鋼の錬金術師主人公エドワード・エルリック、連続殺人鬼バリー・ザ・チョッパー、同じくスライサー兄弟。これらに共通するワードはなーんだ、って言ったら魂定着の陣になるだろう。

 この陣だけど、既存の錬成陣とは違う部分が一つある。

 何か。それは何か。

 

 ──思念エネルギーが尽きる気配がない。

 一度定着させたらそのまま、恐らく術者が死んでも機能し続ける。無論魂と金属の拒絶反応はあるから永続ではないのだろうけど、おかしなことにこの錬成陣は思念エネルギーを消費しないというか、ロスしないようなのだ。

 もう少し詳しく言うと、これは"錬成"陣ではない、という話。

 物質を分解して再構築するのが錬成陣だ。円や記号を用いて、その中心にあるものに対して働きかけて、元のものを違うものに再構築する。それは物質であったりエネルギーであったりと様々ではあるものの、あらゆる場合において「錬成」するのが錬成陣である。

 

 しかし魂定着の陣はそれをしていない。

 魂を定着させるための陣は、錬成を行っていない。錬成を行っていたら錬成反応が出る。仮に精神を錬成している、とかでも錬成反応は出るはずだ。そして込められた思念エネルギーが尽きる。けれどこの陣にはそれが無い。

 何故か。

 恐らく、でしかないけれど、多分この陣は完結しているのだ。

 今までの錬成陣が、術者からの思念という入力を受けて錬成という出力を返すものであるのなら、この陣は入力も出力も受け付けないししない。初めは自己保持回路なのかとも思ったけど、それだと思念エネルギーが尽きる。定着されている魂が術者ってわけでもないから定着されている魂からは思念エネルギーを吸い取れないだろうし、やっぱり錬成陣ではない。

 

 これは恐らく、本当に推測だけど、機械鎧の技術と同じ応用陣なんだと思う。

 機械鎧にも錬金術が使われている。

 末端神経からの電気信号を媒介するデバイスと関節を駆動させるシリンダーで構成される機械鎧だけど、そんな超技術前世でもできない。筋電義肢なんだろうけど、今ようやく内部AIセンサーのユーザー学習や外部アプリケーションの力を使って細かい動作ができるようになったくらいだ。

 ここに使われているのが錬金術。内部の細かい構造やパーツに加え、電気信号をシリンダーへの駆動動力に変換する機構がある。はず。

 

 つまりこのデバイスこそが魂定着の陣と同じもの。

 錬成陣ではなく、変換陣とでもいうべきもの。術者ではなく陣に繋がっている者(以下使用者とする)から思念を受け取り、それを動力に変換する。術者ではなく使用者の思念エネルギーを用いるから術者が死んでも関係なく動くし、使用者が死ぬ、ないしは拒絶反応で消えたら術者がいようがどうしようもない。

 

 要約して、僕は今まで錬成陣の種類のみを追いかけて色々な錬成陣を使い分けてきたけれど、そもそも錬成をしない陣もあるんだね、って話ね。錬丹術の陣も派生ではあるけど。

 

 というわけで、それこそが僕の練りに練っていた構想で。

 

「──……」

 

 コレが、完成品である。

 

 バリー・ザ・チョッパー曰く、魂を剥がされるのは壮絶な苦痛を伴うという。賢者の石にされるのも苦痛だというし、多分肉体から剥がされるのが苦痛なんだろうな。

 で、そんな痛みを経験したせいか、何も言えずにいる──多分ドラクマの犯罪者。

 魂を扱う錬金術だけで扉が開くなら第五研究所の人間やマルコーさんが真理を見ているはずだ。真理の扉が開くのは神の構築式を使った時と、失われたものを無理に取り戻す時だけ。あるものを別の物に移し替えるのに扉は開かれない。

 

 金属塊、である。

 僕はロボット工学にあんまり詳しくないので、絡繰り人形とか球体関節人形をイメージして作ったロボットかっこ笑いかっことじるに魂を載せてみた。勿論武装は遅延錬成をふんだんに使った錬成兵器。

 参考にしたのはバリー、スライサー兄弟の陣。エドの奴は無理。アレだけで魂と鎧の仲立ち、定着、思念エネルギーの変換とかの意味を持たせているのは本当に天才なんだろう。しかもあんな荒々しいものでちゃんと発動している。

 マジモンだと思うよ、彼は。

 

 僕は初めてだったから描きに描いて物凄い複雑な陣にした。自分で思念エネルギー流して動くかどうかのチェックもしたけど、魂定着に関しては何分初めての事だからリバウンドが怖くてね。入念に入念を重ねたよ。ついでにいうと魂分離の陣に至ってはノー知識。僕の頭の中でしか起こしていない知識だった。──ま、この前ラストとデートした時の死体で少しは理解したけど。

 聞きかじりの生体錬成の知識や「流れ」に関する錬丹術の知識も役に立ったと言えるだろう。知識の穴を埋めるなら、キメラとかも勉強したいところ。

 

「ほら、行っておいで」

 

 背を押す。

 外に錬金術師の特殊部隊が来ていることはわかっているので、この機械人形(オートマトン)と僕に似せたダミー人形の乱立で時間を稼ぐ。

 もし僕が敵側だとしたら、最初は普通に殺せないか試して、無理そうだったら()()()()()()()という手段を取る。圧縮だ。あれだけ手合わせ錬成のできる錬金術師がいるんだ、建物を囲んで錬成をすれば容易だろう。

 中にいる犯罪者と僕をぐちゅっと潰すにあまりに最適。錬成陣を描けない状況、手合わせ錬成をしていられない状況、知っているかはわからないけれどサンチェゴも破壊できる。

 

 その手段を取られないために、陣を描いていく。

 いつもの奴だ。そして囚人を見つけたら機械人形に。

 

 気を付けるべきは五隅に置く生体を扉を開いた錬金術師にしないこと。

 人柱で賢者の石作ったらカミが降りて来かねない。割と簡単にノックできるカミの坐す場所。月が無ければ無理なのかもしれない。アレに関してはよくわからない。ドラクマ攻略が終わったら久しぶりにお父さんの本でも読みたいな。あの本にはプリミティブな錬金術が記載されていたように思うから。

 

 というワケで──跳水錬成を発動。

 この監獄を円で囲み、いつもの奴を発動させる。機械人形からも魂は取れるからね。奇怪な金属塊が残りはするけれど、理解はできないだろう。

 

 ダメだよ、ちゃんと殺さないと。

 初見殺し以外は対処しちゃえる自信があるんだから。キンブリーに背中押されてるんだからね、僕は。

 あとは、キンブリーからパク……ぬす……習った爆発物錬成で脱け殻の機械人形をどーん。

 

 

 *

 

 

「監獄を囲んでいたSAG全隊、通信途絶……」

「……」

 

 沈黙が落ちる。

 アメストリスが錬金術師。自国の民族を一つ滅ぼし、アエルゴを滅ぼし、クレタを滅ぼした超過激派。

 竜頭の錬金術師、レムノス・クラクトハイト。

 

「司令。ここがバレる、という可能性は」

「十分にある。逃げたければ逃げて良いぞ。儂は残る。どこへ行こうとも関係ないように思うからな」

「ああ、では私も。こういうの死期を悟るっていうんですかね? 私はもう竜頭の掌の上にあるような感覚で」

「オフィエル、お前は若い。逃げても良いんだぞ。通信を逆探知してくる可能性は大いにあるんだ。逃げて、逃げて、生き延びさえすれば人生なんとかなるものだ」

『生き延びさえすればね』

 

 ──通信が入る。

 逆探知じゃない。単純に隊員の誰かの通信機を使っているのだろう。こちらの回線を開いたつもりはないが、果たしてそこの技術さえもあちらが上回っているというのか。

 

『でも残念だけど、僕はドラクマを滅ぼすよ。もうすぐアメストリス国軍がここへ雪崩れ込んでくる。そして僕は、それを待たずに君達を殲滅する。けど、錬金術を研究し始めてからたかだか二年でここまで練り上げたことは褒められるべきだ。褒められるべきことをしたのなら、何か報酬が与えられるべきだ。何か欲しいものはあるかな』

 

 子供の声だ。何度聞いても子供の声。言っている内容に目を瞑れば、愛らしい、まだ年端も行かない子供。

 アメストリスは──こんな子供を、こんな悪魔に育て上げた。

 隣国をすべて滅ぼすために。

 

「質問がある」

『どうぞ』

「貴様、親は? 軍人か? 錬金術師か?」

『お母さんも父さんも錬金術師で軍人だよ』

「成程サラブレッドか。いつから錬金術を仕込まれた。いつから隣国を潰せと言われ続けた」

『言いがかりはやめてほしいな。錬金術を学びたいと言ったのは僕だし、隣国を潰すことも自発的な行いだ。二人は関係ないよ』

 

 保身を第一とする者達が逃げるように去っていく中で、司令だけはどかっと座って竜頭と話す。

 顔は、怒りだ。

 ……そういえば確か、司令には10歳くらいの娘さんが。

 

「子供が自ずと隣国の殲滅を考えついたと? 馬鹿も休み休み言え。そんなことはあり得ん。あるいはアメストリスという国がそれほどまでに過激な教育をしているというのなら話は別だが」

『僕は学校に通ったことが無いからどういう教育をしているのかは知らないや』

「そうか。通わせてもらえなかったのか」

『さっきから、どうしても僕の周囲を悪く言おうとするじゃないか。僕の育った環境が悪いから僕がこんなになった、とでも言いたげだ』

「そう言っている。子供が独りでに悪を突き進むわけがない。環境がそうさせた。貴様に自覚がなくとも、アメストリスという国が貴様のような悪魔を育てたのだ」

『ま、いいよ。決めつけの口調である以上、僕が何を言っても君は意見を変えない。何をどう言っても何かにつけてこの結論に持っていく。話し合いの無駄だ。それで、欲しいものはあるかな、ドラクマの偉い人』

 

 司令は──ニヤりと笑う。

 そして、「すまんな、オフィエル」と。

 

『オフィエル?』

「こちらの話だ、気にするな。そして欲しいものなど決まっている」

『やっぱり僕の命?』

「──貴様、格好つけようとした儂の()()の言葉を奪いおったな」

『いや、今時珍しくはあるからね。こんな普通の建物にこれほどまでの自爆機構が取り付けられている光景。でも残念だ、全部分解しちゃったよ。それでも僕の命が欲しい?』

 

 全て。

 全て、読まれている。全て知られている。あるいは逃げ出した者達も殺されたか。

 

 何をしたらコレが育つ。

 何を教えたらコレに育つ。

 

『欲しい物がないのなら、話は終わりだ。意外だったよ、自分の命や部下の命を欲しがらないなんて。ドラクマ全国民の命を欲しがっても良かったんだよ』

「ふん、所有権が貴様に無いものを欲しがってどうする。儂の命も、部下の命も、国民の命も、貴様にやった覚えは無いし、貴様にやるつもりもないわ」

『いい上官だ。アメストリスにもこういう上官が欲しいよ。中将以上は大体腐り切っているからね』

「そらみろ、環境だ」

 

 クツクツと笑う司令。

 通信機越しに、「へえ」という──底冷えするような、けれどどこか楽しんでいるような声が落ちる。

 

『よし、じゃあ君は殺すことにするよ。決して半永久的な地獄になんて落とさない。ここで安らかに天へ召されるといい』

「ふん、貴様、先ほどから勝った前提で話しているが──儂らが貴様に勝つことも」

「ないよ」

 

 ──それは、螺旋を描く剣。剣、かどうかすら怪しいもの。

 床より突き出て、司令の心臓を背後から貫いた螺旋は──ジリジリと音を立てて回される。苦痛を与えるためかと思われたその行為に、けれど司令はぐったりと動かなくなる。断末魔も苦悶も無しに。

 

 彼は、絶命した。

 

「そして、そっちの君が逃げなかった唯一の部下って感じかな」

「……如何にも。その上司がいなければ出世コースまっしぐらだった超エリートだ。若手だが」

「出世街道にまさか崖があるとは思っていなかったかな」

「どうだろうな。私がこの国の国家元首になる未来は見えていなかった。あるいは簡単にどこかで躓いていた可能性は高い。が、竜頭の錬金術師に殺される、という死に方であれば、まぁ、多少は、私の生にも価値がつくというものだ。箔はわからないが」

 

 床からじゃらじゃらと鎖が生えてくる。生き物のように、植物のように。

 竜頭の錬金術師。成程、竜を従える錬金術師だったか。

 

 ──ここが終わりとは、中々、人生とは。

 

 

「などと無抵抗に殺されると思ったか!!」

「っ!」

 

 思い切り投げたナイフは鎖に弾かれる。構わない。

 抜き放つのは腰に提げた拳銃。正直銃の腕は良くないが、それも関係がない。撃てばいい。撃つだけで牽制になる。

 弾かれる。守られる。なんだあの鎖は。

 

「く──ああ、本当に嫌になる! 何度言えば、何度経験したら治るんだ!」

「取り乱したな! そこだ!」

 

 今度は投げるのではなく直接斬りかかる。

 ナイフはあと二本。それまでに致命傷でも与えられたら御の字だ。錬金術も使えない、銃の扱いも上手くない単なる人間が、アメストリスの錬金術師に一矢報いて。

 

「慢心はダメだって、タイマン張るタイプじゃないって自分で何度も言ってるだろ!」

「──っ、グ」

 

 ナイフが弾かれた、のではない。

 ナイフを持つ腕が貫かれたのだ。床から生えてきた鎖に。食いつかれた。

 

 そのまま続け様に四肢を貫かれる。磔だ。これではナイフも爆弾も使えやしない。応援を呼ぶことだって無理だ。

 

「……オフィエル、だっけ?」

「殺せよ、レムノス・クラクトハイト」

「手足貫かれてるのになんでそんなに喋れるんだ……はぁ。ドラクマ人、ちょっとどころじゃなく侮ってたな。イシュヴァール人程の精神力の持ち主はもういないと思ってたらコレだ。……オフィエル。ラストネームは?」

「早く殺せ、レムノス・クラクトハイト。痛い」

 

 手足を貫かれているんだぞ。

 痛くないはずがない。

 

「いいから。ラストネームは?」

「……オフィエル・スイルクレム」

「綴りは?」

「おい、痛いと言っているだろ。竜頭の錬金術師は捕らえた敵を嬲るのが趣味なのか?」

「いいから。綴りは?」

「……Ophiel(オフィエル)Suirucrem(スイルクレム)だ」

「はい。それじゃ、おやすみ」

「結局何が──」

 

 筆舌に尽くし難い苦痛。

 呪ってやるぞ、竜頭の錬金術師。死んだら覚悟しておけ。天に来た瞬間思いっきり殴ってやる。

 

 

 *

 

 

 という経緯なんだよ、とキンブリーに話す。

 

「成程、それで連絡が無かったのですね。理解しました。──それで、ソレは大丈夫なので?」

「問題はないはず。あったら死ぬだけだよ、彼が。ああ、行動の制限も加えてみた。上手く機能しなかったらごめんねキンブリー」

「……ふむ。まぁ准将が良いというのなら構いません。襲い掛かってきた場合は壊しても?」

「勿論。ほら、マクドゥーガル少佐が抜けちゃったからさ。穴埋めは必要かなって」

「国内の国家錬金術師から選べばいいものを……。何故アナタはそう自ら進んで疑われるようなことをするのか」

「心外だな。君に言われたくない言葉No.1だよ。賢者の石を見せびらかすとか、なんでそんなことやるんだよ」

「何も言い返せませんね。准将、貴方に正論を言われるとは思ってもみませんでした。謝罪しましょう」

 

 二人で、見る。

 金属塊──からは少し、アル寄りになった気がする、鎧、みたいな、みたいな……うん。芸術のセンスはまた別だからさ。

 

 スイルクレム。

 機械人形スイルクレム。

 無論、当然、魂定着の陣の試用運転兼様々な試験のための実験体だ。

 

 復讐の芽。僕が唾棄する復讐の芽そのものだけど──まぁ、そうなったらちゃんと危なくないような設定はしてあるから。

 

「ちなみに彼、どう説明するのですか?」

「僕がいなかった三か月間機械鎧について学んでいたんだけどその時見つけた全身機械鎧。捨てられてたから拾って来た」

「それで納得するのは子供だけでは?」

「つまり僕が納得するんなら十分でしょ」

「……アームストロング少佐は、普通に信じそうですね」

 

 さて。

 では明日から、ドラクマ侵略開始である。──作戦基地はもう作ってあるから、全部スムーズに、ね。

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