竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第四十一話 錬金術の戦闘「殲滅対成長」

 疑:何故か。

 

「当然の采配では? 准将、貴方は拠点防衛型の錬金術師。これほどまでに味方の多くいる戦場で、且つ拠点を数多く作成しなければならない規模の作戦。前線に出るのではなく基地防御をメインにした方が効率がいいでしょう」

「キンブリー少佐の言う通りかと。私やアームストロング少佐、キンブリー少佐のような移動砲台型の錬金術師は前線及び中遠距離からの攻撃を。准将のような陣地作成に長けた錬金術師は自陣を固める。兵法から見ても、というか誰が見てもそう採るのが一番です」

「んんん! 前線はお任せくださいクラクトハイト准将! 必ずや! 勝利を持ち帰って見せますぞ!!」

 

 答:ということで。

 

 ……僕はお留守番になった。

 

 

 ドラクマの侵略が本格的に行われ始めたことで、ブリッグズ砦から雪崩れ込むようにアメストリス軍が侵攻。()()()ゴーストタウンとなっている東側の集落に基地を設置し、本来であればあり得ない程の勢いで前線を押し上げての侵略となったため、基地作りが急ピッチになった。

 これを受けて「拠点防衛用の錬金術師が必要」と判断され、僕が抜擢。なんで僕に命令権が無いかって言うと。

 

「なんだ、不満でもあるのか?」

「いえ。地図も情報も提供してくれなかった割についてくるんだな、と思っただけです」

「正式な命令が出ていないにもかかわらず敵国でやらかしまくった奴が何を偉そうに、とは言っておこうか」

「僕は迷子になっただけですよ。たまたま敵に隙ができたので持ち前の機転と発想力で困難を乗り越えました。何か問題が?」

「ふん、問題はない。おかげでスムーズに侵攻が行えている。こちらの被害も軽微だ。感謝しよう、クラクトハイト准将」

「いえいえ、ブリッグズ兵以外までもを、こうも規律正しく命令遵守の形に鍛え上げてくれたのは少将の手腕あってこそでしょう。たった三か月で、ですから。恐れ入ります」

「公式の場とはいえ気持ちの悪さが勝る。普通に話せ」

「それで咎められたら堪ったもんじゃないんだけどねこっちは」

 

 アームストロング少将。

 ……僕は准将なので、彼女の決定に従わなければならないのである。お父様に地位を要求するべきだった。せめて少将に。……ただ少将以上になるとどっかに固定配置される可能性があるからヤなんだよな。

 

 という感じでまぁ、僕はお留守番で、マスタング少佐達や一般兵が出ている。

 

「クラクトハイト。事前に入り込んでみて、ドラクマはどうだった?」

「……意外と技術発達が早い。プラス、たかだか二年で錬金術を上手く使いこなしている。頂点を見ればアメストリスには及ばないけれど、底辺を見れば」

「水準が高い、ということか」

「うん。加えて言うなら、武器や兵器の質も錬金術発達を受けて上がってきている。一世代か二世代か。それくらいは違うよ、アメストリスとドラクマの兵器は」

「それはこちらでも確認している。アメストリスの兵器工場にサンプルを渡し、研究開発を急がせているところだ」

「流石、手が早い」

 

 僕個人の快勝だけ見ればドラクマ攻略も余裕に見えるかもしれないけれど、正直そんなことはないというのが本音。僕が潰したのなんてドラクマの1%にも満たない領域だ。それくらいドラクマは広いし、それくらいドラクマは強大。

 兵器差を無視して言えば兵士の練度は同じくらい。だからこそ、人口の差でいつかは押し負ける。

 そこを埋めるのが国家錬金術師……なんだけど。

 

「正直な話をする。僕は今まで、つまりアエルゴとクレタにおいては猫を被った戦争をしていた。少将の慧眼通り、イシュヴァール内乱での僕の方が本当の僕だ」

「だろうな」

「けど、ドラクマにおいてそれが通用するようには思えない。クリーンな戦争……開戦の合図と共にやりあって、夜間は攻撃せず、民間人にも手を出さない。そのやり方は多分通用しない。ドラクマ側には暗視狙撃部隊やSAGと呼ばれる錬金術師のみで構成された部隊がいる。国家錬金術師に殲滅力で劣るとはいえ、錬成速度は勝る者までいる始末」

「要点と結論だけ言え」

「国家錬金術師含む兵士の心持ちを変えないといけない。今までのピクニックみたいな戦争とは違うって。そして、僕も非道な、つまり悪魔だの忌み子だのと呼ばれていた頃の錬成兵器群を出す必要があると判断している」

「……そうか」

 

 スイルクレムを通し、ある程度のドラクマの実態を知った。

 自分で裏打ちもしたし、キンブリーと合流するまでに調査もし続けた。

 

 結果わかったのは、ここは広く薄めたイシュヴァールの地という感じである、みたいな所感。

 気候は違えど厳しい土地であることに変わりはなく、技術の発展の割には民が裕福じゃない。つまり我慢に慣れている。そしてクレタと隣接し、そこまで険悪な仲ではないにもかかわらずドラクマから離れる者が少ない。

 愛国心が強いんだ。なぜかは知らないけど。

 

「貴様が非道とまで言う兵器。確か、残留連鎖生体錬成弾と言ったか」

「よく知ってるね。誰かに聞いた?」

「イシュヴァール経験者にな。群れる敵に効果的な──非戦闘員をメインに狙った弾丸。それの使用は禁ずる」

「まぁ、そうだろうね」

「だが錬成地雷だったか、アレは使え。基地に近づいてくる時点で民間人だろうと何だろうと敵だ。他に何がある?」

「……錬成地雷にも種類がある。踏んだら爆発するα型と、爆発するかしないかわからない……正確には一度踏んだだけでは爆発しないように思わせられるβ型。まだ実践投入はしていないけど、地下に潜るのではなく設定した距離を突き進むγ型、踏んだり掘り起こされたりしても爆発はせず、解体しようとした時にのみ周囲を巻き込む形で爆ぜるΘ型」

「貴様、紅蓮から悪い薫陶を受けていないか?」

「全部発想は自前だよ」

 

 イシュヴァール戦後もずっと考えていた。アエルゴやクレタでは使う機会に恵まれなかったけれど、錬成兵器はまだまだ可能性がある。スイルクレムという試作機一号──錬成機械人形(オートマトン)も、だ。

 他にもラティオに量産を止められた分解弾だって錬成兵器の一つだし、アレは分解以外にも、たとえばキンブリーに倣って爆発性のある物質に変換しておく、なんて弾丸に変えることも出来る。変換しておいて、後々なんらかの衝撃で爆発する感じ。

 僕らの攻撃以外でも……例えばコーヒーを零した、程度で爆発する感じに設定しておけば、その構造物にいた誰かがテロリスト扱いされて混乱が起きるんじゃないかな。

 

 敵がアメストリスだけである内は一丸となれるだろうけど、身内に敵がいるって一回疑い始めたら崩壊の兆しを作れる。

 

「成程、歴戦だけはあるな」

「そして、完全に同じと言わないまでも──相手がこういうものを使ってくる可能性はある」

「……錬金術師か」

「うん。僕はどこまで行っても子供だ。銃器のこと、兵器の事について現地で戦う軍人より詳しいわけじゃない。ただの錬金術師に過ぎない。けれど、実際にずっと戦い続けてきた軍人が錬金術師になったのなら──僕より悪辣で想像もつかないような使い方の錬成物を出してくる可能性がある」

 

 真理を見たっぽい錬金術師はあらかた潰して回ったとはいえ。

 また開かせる可能性は高い。全く、何人犠牲にしてるんだか。この前のSAGの部隊にも四肢が全部義肢、みたいな隊員がいた。そうだよね、真理を求めて、ではなく効率的な錬金術を求めて、なんて風に扉を開いたら、持っていかれるものが極大になるなんて想像に難くない。

 それでも有用だから。それでも──国を守れるなら、と。

 彼らは続けるのだろう。

 

「……バッカニア!」

「へい」

 

 おお。

 後ろのテントから出てきたのは、かなり若いバッカニア大尉。いや、階級章は准尉を指している。そっか、そんな時期から。

 

「此奴から、想定される錬金術師用の対策を聞き出しておけ。やられてから解析する、では遅すぎる。何事も今のうちに、だ。聞き出したことを検討し、全隊に共有することも忘れるな」

「へい」

「少将、君は通信兵の近くにいてあげた方が良い。多分そろそろ前線の兵士から泣き言が入ってくる頃合いだ」

「だろうな。クラクトハイト。……貴様の思う非道な行い。その全てを対策として話せ。ドラクマはそれを行ってくるものだと考えて行動しろ」

「勿論。こっちで対策兵器も作っておくよ」

 

 そう言って、別れる。

 バッカニア准尉。若いこと以外はあのへんな髪型も、そして片腕が機械鎧なことも変わらない。チェーンソーの奴じゃないのは残念だけど、技術の進歩がどうのとかなのかな。

 機械鎧技術はイシュヴァール内乱を受けて発達したもの。それを外に出していないから、ラッシュバレーは今もあんまり景気が良くない。

 

 ……まぁ、安心して、というのはおかしいけれど。

 vsドラクマは多分長期化する。かなり、だ。それに負傷者も。

 

「バッカニア准尉、これからよろしくね」

「ああ、正しい言葉遣いは必要で?」

「要らないよ。それで、じゃあまずは壁の作り方についてからだ。あと周囲の山にブリッグズ山岳警備隊の装備を持った兵士をいくつか……」

 

 正直、早めに降伏してほしくはある。

 してくれないとホラ、お父様に納品する分がさ。別に口約束だから構わないと思うけどさ。ね?

 

 

 

 *

 

 

 

 ──それから、二年が経った。

 

 イシュヴァールの時より苦戦している。これは確実だ。

 こちらの兵の疲弊もさることながら、相手の成長がエグい。ヤバい。パない。

 人海戦術とでもいうべきか、国家錬金術師の錬金術を食らいながら解析して、劣化品ながら似たものを使ってくる。真理を見た錬金術師がいればこそだろう。原理さえ理解すれば、再現してしまい得る。

 

 キンブリーは、かつて僕が言った「対自分を想定しておく」から着想を得た対抗策を使っている、とのことだけど、マスタング少佐とアームストロング少佐の消耗がちょっと激しめ。

 加えて……目つきが、かなり病み気味。

 他の兵士もそうだ。依然変わらずにいるのはアームストロング少将率いるブリッグズ兵と僕、キンブリーくらい。あとちらほらいるのは、イシュヴァール経験者だろう。

 

 快勝じゃない戦争が未経験である、というのが響いた。ストレスがマズい所まで来ているせいで、集中力も低下しているし、記憶力や回復力にまで支障をきたしている。

 反してドラクマはずっと元気だ。いや元気って表現はちょっと違うんだけど、アメストリスを追い返す、アメストリスを追い抜かす、アメストリスを越える──と息巻いて止まらない。日々進化していく錬金術と日々進化していく兵器達。

 

 向上心の塊だから遅延錬成はまだ解析されていないようだけど、そろそろ、というかこれ以上成長させるのはまずい。普通に押し負ける。

 

 ──だから。

 

「アームストロング少将」

「なんだ、クラクトハイト」

「そろそろ僕が出ます。拠点防衛はもういいでしょう」

「……"奇病"か?」

 

 冷たい目。

 まぁ、そりゃバレる。だってこの戦争が始まってから一度も例の奇病が起きていない。アエルゴとクレタでは起きまくったのに、だ。

 それはずっと、僕が陣地側にいたから。

 サボってたわけじゃない。ちゃんとこっちの基地や、そしてブリッグズへまでも攻撃があったのだ。だから前線をそのままに国の防衛にも力を割かねばならなかったし、さらにさらに、無人となったクレタ側からもドラクマ兵が来ていた、なんてことがあったので西部の国境戦も大変になっている。

 ……西部。

 当然、僕の権力ではどうにもならない──お父さんとお母さんの徴兵があったはずだ。けどこればっかりは歯噛みするしかない。悔しがる以外何もできない。今の今までずっとずっと守れていたのに、ここで、こんなところで。

 

 僕がクレタを賢者の石にしたからだ。

 エンヴィーの言う通り、少し待っていればよかった。あそこに人間がいるというだけで壁になるという事実を見逃していた。経験不足だ。

 

 だから、もう、待っていられない。

 

「そう。僕は竜頭の錬金術師。地の底から竜を呼び出し、敵を殺すことができる」

「自らの仕業と認めるか。……それは、どれほどの非道だ」

「貴女が剣で人を殺すのと同じくらい」

「……フッ。確かにそうだな。いいだろう、出ろ、クラクトハイト。ただし」

「味方は殺すな、でしょ。わかってる。僕は味方殺しをしないことで有名な錬金術師なんだ」

 

 出る。

 そして──ある人に、協力を仰ぐ。

 また別の形で参加することになった彼女に。

 

「行くよ、スイルクレム」

「……」

 

 この二年で改造に改造を重ねたオートマトンを引き連れて。

 

 

 *

 

 

 地がせり上がり、赤い光が走り、黒い手が伸び──それが晴れたら、人が死んでいる。多く。数多くが死んでいる。

 

 言われた通りの場所に銃弾を撃ち込む。

 人間の頭ではなく、人間の足でもなく、交通機関の主電源部などでもなく、ただの地面に。角度的に狙えない場所があれば、彼から貰った錬成弾なるものを用いて構造物を消し去る。

 

 己だけ、なのだろう。

 彼の所業を、あの小さな背中の非業を見届けているのは。

 あそこまで悍ましいものを彼は錬金術だと言った。父が、あの人が研究し、身に着け、国のために使うと言っていたものが──その成れの果てが、アレ。

 

 殲滅速度が各段に上がった。

 民族と、国を二つ滅ぼした国家錬金術師。

 

 勿体ないという声はずっと上がっていた。拠点防衛、陣地作成に使うだけは勿体ないと。その声を上げるのは決まってイシュヴァール戦役に参加した者達。

 見たという。

 赤い、赤い、赤い──凡そ人間では辿り着かないような行い。

 彼の地に、槍の雨を降らせた小さな錬金術師。

 

 前線でこそ活躍する、悪夢のような──。

 

『ホークアイさん、次、今やった地点から北西にある赤いビル。わかる?』

「……はい。今視認しました。撃ち込みます」

『うん、お願いね』

 

 子供の声だ。

 何度聞いてもそう。ともすれば、声だけ聞けば……優しそうな。心優しそうな、家族や友人を大切にしそうな、とても人の良い感じのする声。

 見た目だってそうだ。母親に頭を撫でられて、「この子は優しい子なんです」とか言われたら誰だって信じてしまうだろう、普通の子。

 

 それが。

 

「中心、五点。全て撃ち込みました」

『ありがとう』

 

 ──君の正確無比な射撃を買っている。お願いがあるんだけど、聞いてもらえるかな。

 

 元より士官学生でしかない己には断ることのできないお願い。

 そうして渡された弾丸と"お願い"で──果たして、何万の人間が息絶えたのだろう。

 手応えが無い、どころではない。指定された地点、指定された形を撃って、あとは彼がすべてを行う。だから、何が起きているのかを理解する前にドラクマの人間が死ぬ。本当に死んだのかすら判別できない、原理の全く理解できない錬金術。

 

 父が作り、あの人が受け継いだ錬金術は、最高最強ではなかったのか。

 ならばあの赤と黒の錬金術は──何なのか。

 

『今日の分はここまでだ。帰投するから、他の人の援護射撃をお願いね』

「了解しました」

 

 竜頭の錬金術師。

 その二つ名の意味する所は。

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