竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第四十二話 錬金術の応用「シェルター」

 賢石錬成の性質上、これは全く味方のいない場所で使うか、僕にぴったりくっついてもらっている状態で使うかしか現状の行使ができない。スイルクレムはぴったりくっついているからいいとして、他の味方はそうはいかない人が多い。

 賢者の石から人間に戻す、という工程を僕が行えない以上巻き込むことは絶対に回避しなければならないことだ。

 なお、これは愛国心故とか味方を守りたくて、とかじゃなくて、「味方を巻き込むとその遺族や友人が復讐者になりかねないから」である。散々裏切りにはあって来たけど、街を歩いていてすれ違いざまに刺される、とかは対策しようがないから可能性の芽は出来得る限り潰したい。

 一般人に恨まれるのが一番怖いのだ。軍人や錬金術師よりね。

 

 そういうわけで、普段ならクラクトハイト隊の誰か……主にキンブリーを引き連れて敵地を回るんだけど、今回はホークアイさん──まだ階級はない士官学生──がいるからいいかなって一人離れた所で戦っていた。

 

 無論、悪手であったのは違いなく。

 

『──将? ……信が……えます……ますか!? 准──』

「げ」

 

 僕はホークアイさんへ無線機越しに、どこに賢石錬成陣用の弾丸を撃ち込んでほしいかとか、どこの建物を消してほしいかとかを指示してたんだけど、それが突然ノイズだらけになって、切れた。

 

 妨害電波の類だ。通信機の不調ではない。僕はそんな楽観を覚えたりしない。

 すぐに遮蔽物に身を隠す。絶対、絶対どっかにスナイパーがいる。

 

 とにかく遮蔽物に沿って、身体を低くして退いて、ジャミングの範囲外に出よう。

 ……なんて考えてたら絶対水平方向とかから撃たれる。狙撃手がいる場所は高所だけ、なんて先入観、錬金術師がいない戦場なら通用すると思うよ。でも──たとえば狙撃手が錬金術を齧っていたら、高度くらい自分で変更できてしまう。場所もね。そうなったら遮蔽なんて関係ない。

 

 だから、地面に穴を掘って逃げる。

 

 ──足音。

 すぐに錬成をやめる。錬成反応で位置がバレる可能性を恐れ、建物内に身を潜めた。

 

 複数人だ。声はしない。ハンドサインの類で動いていると見た。厄介な。

 またSAGか、それに類する特殊部隊だろう。全く、子供一人にどんだけ力注ぐ気なんだ。

 建物内の、けれど壁に背をつけることは無い。壁の裏側からドスン、はハボック大尉で学習済み。怖いのはサーモグラフィーみたいな技術がある可能性だ。熱源感知。機械でなくとも錬金術で可能である場合もある。そう考えると……まぁ、仕方がない。

 

 用済みだ。

 もう聞きたいことは大体聞き出したし、改造もある程度まで行った。完成形に至らなかったのは残念だけど、今は四の五の言ってられる場合じゃない。

 乾湿の乾。上向き三角形。

 火を象徴する記号を描き込み──偵察を命令。建物の外に出す。

 

 一歩、だ。

 一歩踏み出した瞬間、頭を撃ち抜かれた。まぁ頭に急所を作る程僕は馬鹿じゃないのでそのまま彼は歩き続けるけど、二歩、三歩、そして四歩目で──地面より突き出た槍の群れに全方位からめった刺しにされて、動けなくなる。

 

 ……近づいては、来ない。

 

 仕方がない。

 最後の手段を使おう。遠隔錬成で──彼の血印に施していた細工を外す。

 細工。とっても簡単な細工だ。ただ、血印から出る声を遮音するようこれを囲んでいたというだけ。完全な遮音は無理だからか細い彼の声を聴いた、という味方軍人はいたようだけど、まぁ内容は理解できなかっただろう。

 それを取っ払って。

 

「あー、ようやく終わりかね。全く、本当に、心の底から思うが冥界に堕ちてくれクラクトハイト。というか冥界から来ただろう貴様。私の出世街道、崖に突き落とすどころか振り返って味方に刃を向けさせるその所業、冥界に住まう者でなければ思いつかないだろうに。愛しきドラクマよ、ドラクマの民よ。叶うのならば逃げろ。相手は人間ではない。相手は命を弄び、人の道をまろび行く悪魔なのだから──」

 

 今だ。 

 何度も撃たれているのを確認して、遠隔錬成。遅延錬成陣を壊して遅延を切り、それを発動させる。

 

 無論、大爆発である。

 彼の中には使いもしない燃料*1が入っていて、味方方々には「機械鎧だから」という何がだからなのかわからない説明をして通していたんだけど、勿論このための燃料だ。

 僕が模しているキンブリーの錬金術じゃここまでの威力は出せない。錬成反応も出てしまう。

 だったら最初から入れておけばいいじゃん戦法。

 

 ドタバタという足音が響く。

 入って来たね。爆発した機械人形はガン無視か。いや、僕を殺してから後で調べたらいいんだから、そういうことかな。

 

 息を潜める。

 

 ……声はやっぱり聞こえない。ハンドサインか、端末とかまで持ってたら厄介だけど、流石にそこまで技術は進んでないはず。スイルクレムの知識は二年前で止まっているから、二年間でそこまで進化してたらお手上げだ。

 

 サブマシンガンを連射する音が聞こえる。アレか、とりあえず錬金術とかやる前に銃で殺せるなら殺してしまおうって判断? 数撃ちゃ当たるは実際そうなんだよね。流れ弾でも危ないし。

 けどこれで熱源感知はやっていないことがわかった。熱源感知を持ってたら僕の位置に最大火力突っ込めばいいだけだから。

 

「竜頭の錬金術師。貴様がここにいることはわかっている」

 

 お、ようやく喋った。

 位置は……この辺かな?

 

「貴様が大人しく出てくるというのなら、我々はお前を傷つけず捕虜として──カ?」

 

 喋っていたドラクマ兵に鎖を突き刺す。後頭部から脳天へグサりと。

 いや大人しく出ていくわけないじゃん。そして傷つけられないわけないじゃん。出ていった瞬間に集中砲火でしょ知ってる。

 

「っ、床下だ! ヤロウ、このフロアのゆかしギャッ!?」

 

 もう一人も同じ手法で殺す。喋ってくれると本当に助かる。正確な位置がわからないと鎖による攻撃はあんまり意味を為さないから──あ、やっば。

 

 錬成反応が出ることなど気にしない。気にしないで、賢者の石を用いて鋼鉄のシェルターを作る。いつかメグネン大佐といた時にやった奴。

 直後、僕がいた一階と二階の隙間、天井と床の間に空けた空間が分解された。

 ……手合わせ錬成の会得者。やっぱりいるか。

 

「いたぞ、あれだ!」

「SAG、分解を!」

 

 流石にもうハンドサインをしている余裕はないらしい。

 声を出して、僕が入っているシェルターに大人数が近づいてくる音がする。

 

「待て、一人で良い。人数をかけると奴の思うつぼだ」

 

 思わず舌打ちをしそうになった。

 察しが良い。人数がいればできる錬金術がいくつかあったんだけどね、その策が消された。

 

「完全に分解する必要はない。──銃口分の隙間があればいい。あとはその穴から掃射しろ」

「中佐、反撃が考えられます。穴の直線上から避けてください」

「ああ」

 

 わぁ隙が無い。

 穴が開けられた瞬間に串刺しにしてやろうか、とか思ってたのもバレた。バレたというか、想定されたというべきだ。

 

 それなら。

 

「分解します」

「細心の注意を──いや、離れろヘニッジ!」

「!」

 

 嘘だろう。 

 今まさに発動した、しかけたとかしようと思ったとかじゃなく、発動したその錬金術を避けられた。勢いで僕はシェルターごと吹っ飛ぶから逃げられはしたけど、なんでわかった?

 やったのは単純な噴出だ。空気を集めて破裂させるだけ。ただし超々高圧縮で。サンチェゴも作っていない僕には無理な錬金術なので、賢者の石をふんだんに使った錬成だったんだけど……。

 

 とにかく、一旦の逃走は成功した。

 雪の上に強く打ち付けられたことで自爆ダメージは食らったけど、このまま他の建物に逃げないと。相手の鼓膜が破れてくれたことを信じて……っと、勿論背後に壁を出現させながら。

 

「待っていたぞ」

「っ!?」

 

 咄嗟に出した手で刀を受け止める。刀。刀? なに、スライサー兄弟?

 いや、普通のドラクマ兵だ。なんだよ刀剣愛好家か何か? シン出身でもないのに刀なんかどこで手に入れるんだ。

 

「なに? ……貴様、その手袋……鋼でも仕込んでいるのか?」

「仕込んでたらぐーぱーできないでしょ!」

 

 この一瞬だけ見たらタイマンだけど、後ろからはさっきの特殊部隊が追ってきていることを忘れてはならない。この剣客がどれほどの強さなのかは知らないけれど、少なくとも僕側の身体能力は子供の域を出ない。それを忘れずに立ち回る必要がある。

 さっきの打ち身と刀を受け止めたことで折れた手の骨を錬丹術で治す。自己治癒はずっとずっと練習して研鑽を積んできたんだ。流石に腕が千切れたりしたら治せないけど、骨折くらいならワケない。

 

「五芒星の錬成陣……やはり、我らが手に入れた錬金術とはまるで違う体系らしいな」

「ワオ、君剣士やりながら錬金術も齧ってるの? 凄いね、アメストリスで国家錬金術師にならない?」

「お断りだ」

 

 ──錬成反応を迸らせる刀。

 なんか嫌な予感がするのでローリングで大きく距離を取る。

 

 斬れたのは、床。

 バターにナイフを入れるくらいサクっと。膂力が凄いんじゃないな、コレ。

 

「分解の錬成陣でも刻んでるのかな」

「ほう、流石だ竜頭の錬金術師。解読もお手の物か」

「けど今、君人体を斬ろうとして、けれど斬ったのは床だったよね。もしかして理解の工程を無視できる、とか言わないよね?」

「何の話かわからんな」

「ああそう、情報は漏らさないか。偉いね」

「ム!」

 

 さっきいた場所から遅延錬成で突き出した槍が弾かれる。

 僕の錬成速度だから当然のパリィだけど、それで終わるなら僕はお母さんに負けている。

 

「そして、曲がるのだろう?」

「っ、僕君嫌いかな!」

 

 ……読まれている。

 整形。その再整形。直進した槍を、急激に曲げる錬成。特に難しい錬成ではないとはいえ、そう易々と想定できるものじゃないはずなんだけどな。

 

 いや。

 読まれ過ぎじゃないか? さっきから。

 僕の考えが安易であるというのはそうなんだろう。所詮子供騙しだと傷の男(スカー)の兄にも言われていたし。

 だけどそれ以上に何か。

 

「ちょっと──試すのはアリだね」

「何か思いついた、という顔だな。ならば我は逃げるとしよう」

「え」

「竜頭の錬金術師は発想力が豊かだ──故に、新たな策を思いついた場合、それに対処できる可能性は少ない。ならば逃げるのが得策である」

「──やっぱり内通者がいるか!」

「加えて、我がやらずとも後ろから来ているからな、仲間が」

 

 振り返らない。

 振り返ったら思うつぼだ。だから地面を錬成し、へこませ、地下へ逃げる。

 

「情報通りだ! SAG! 蒸し焼きにしてやれ!」

 

 僕が逃げたへこみに蓋がされる。

 そして一瞬にして上がる温度。乾湿の湿で相殺する。

 

 情報通り。内通者。

 ドラクマを攻略し始めてから二年。僕としたことが、内側に目を向けるのを怠っていた。

 いておかしくなかった。だってアメストリスから増員に増員が為され続けているのだから──そこに一人くらい混ざっていたって。あるいは敵の手に染まっている者がいたって。

 

 ……ちょっと賭けになるけど、まぁここで死ぬよりはマシだ。

 手詰まりになる前に、やけくそになる前に、一歩手前の策を御覧じろってね。

 

 まずは、ノイズを流す。

 相変わらず「流れ」を体感できない僕だけど、「導流」はできるようになっている。暗渠錬成のもっと簡単なバージョンだ。

 自然物と構造物を材質的なグラデーションにして混ぜて、龍脈の一部にする。流れを寄り道させる。

 そこへいつぞやも使った「錬成物の霧散」を流し、錬金術封じを行う。

 

「……中佐、一旦退くべきです。錬金術が使えなくなりました」

「使えなくなった? ……竜頭の仕業だと見るか?」

「そうであってもそうでなくとも、です」

「至言だな。よし、全員帰投せよ!」

 

 そして跳水錬成。

 周囲を円柱形で囲む。

 

「──これは、ワームの口!」

「まずい、壊せ! 外壁を壊せばこの錬金術は発動しない!」

「しかし錬金術が──」

「銃でいい!」

「刀でもよかろう?」

 

 やはり壊された。

 勿論それが目的だ。そもそも五角形を生成できていないので、賢石錬成は使えない。

 

「全員出たか!? 逃げ遅れた者はいないな!?」

「全隊退避完了です!」

 

 よくとおる良い声だ。ハンドサインを忘却してくれて助かった。

 円柱を閉じて、縮小させる。

 さらに材質を鋼鉄に作り替えて……つまりシェルターにして。

 

 後は任せた。

 

 ──それは僕の見えないことだけど。

 

 突如、業火が周囲を包む。

 突如、拳の形をした金属が全員を突き飛ばして。

 突如、あり得ない場所があり得ない形に爆裂する。

 

「無事ですか、クラクトハイト准将!」

「助けに参りましたぞ!」

 

 まず二人。

 マスタング少佐とアームストロング少佐が、ちゃんと心配している声を出す。

 

 その背後から、のんびりした声のキンブリー。

 

「油断しましたね、准将」

「前に出過ぎた! 次からは注意する! だから、助けて欲しい。お願いできるかな君達!」

「よろしい。素直に大人を頼れるのは良いことです。それでは皆さん、クラクトハイト隊の腕の見せ所です。──相手はドラクマの特殊部隊。国家錬金術師だけで作られた我々の隊もまぁ、アメストリスの特殊部隊のようなものでしょう。どうですか? 特殊部隊同士しのぎを削りあうというのは」

 

 スイルクレムを爆発させた理由。

 

 スナイパーの目を潰す、という目的ももちろんあったけど、主目的はやっぱりこれ。

 ホークアイさんならどうにかして他のみんなに通信を繋げてくれると信じていたし、それを受けてこっちに急行する面々に必要な情報が何かと言われたら、僕の位置だ。僕がどこにいるのかがわからなければ助けようがない。

 その中で、ひときわ目立つ爆発があった方向にできた円柱。

 僕しかいないよそんなの作るの。

 

 スイルクレムを犠牲にした価値はあったってこと。

 

「焔の錬金術師、紅蓮の錬金術師、豪腕の錬金術師……アメストリス最強戦力に名高いクラクトハイト隊の揃い踏みか。ふむ、どうするパルシィ中佐。我はユキウサギの如く逃走することを推奨するが」

「同意見だ。だが、逃がしてくれるかどうか」

「私達が壁になります。お二人はどうかこの場からの離脱を──」

「お喋りが好きなようですね」

 

 爆発音。

 仕込み中だからまだ外を見れていないけれど、多分バリバリに賢者の石使ってる感じの爆発音だった。

 作中ではお喋り中は待ってくれたりしていたキンブリーだけど、戦争中である今はそういうの関係なしにドーンする。そしてそれが皮切りだったのだろう、業火の揮われる音や巨大質量が錬成される音が響き始めた。

 

 ……まだ雌伏の時だ。

 確実にこいつらを仕留めて──内部の敵も殺すために、もう少しだけ三人には頑張ってもらわなきゃ。

*1
凍結防止剤添加済み

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