竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第四十三話 錬丹術の切り札「思念急流」&復讐

 あらゆるものには「流れ」が存在する。

 龍脈という大地の流れ。地殻エネルギーという惑星の流れ。賢者の石という神なりし流れ。

 そしてそれはもっと細分化できるものであり、鉄から生じた流れは鉄に向かいやすく、銅からは銅に沿って流れていく。それが錬丹術の基礎だ。同じ材質であれば、同じ意味を持つものであれば、そうでないものよりも抵抗が無いから、そちらを選ぶ。

 

 そこに錬成効果を乗せる、あるいは流すことで、噴出先に力を発する。これが遠隔錬成の原理。

 

 本当なら、大地の流れを感じ取ることができれば、あらゆるところからあらゆるところへ入り口と出口を作ることができるのだろう。流れを選択する必要はあれど、この地球上において故意に流れを遮断しない限り、流れの流れていない場所なんてないのだから。

 でも僕はそれができない。

 僕がこの世界を認識してからもう七年もの月日が過ぎた。だというのに一向に僕は「流れ」を感知できていない。多分瞑想するだけじゃダメなんだろう。何か特殊な訓練方法があるのだろう。悲しいかな、それを会得する手段は未来以外では恵まれないだろう。

 

 だから、今は、今あるもので片をつけなければならない。

 

「……口に出すことでもないけれど──まぁ、その方がわかりやすいよね」

 

 薄く目を開き、耳から入る情報を遮断する。

 今は味方である皆の戦う音を全て処理せずに聞き流し、演算を行う。

 

 何も。

 何も僕は、無差別に、適当にドラクマの地で賢者の石を作っていたわけじゃない。 

 ちゃんと描きたい形があってやっていたんだ。ああ、賢石錬成陣で賢石錬成陣を描く、ってわけじゃない。それは多分神の坐す扉をノックする行為に近しいものだ。やる意味がないことをやる気は無い。

 

 六芒星だ。

 僕がドラクマの地に描いていたのは、僕の中でも基礎中の基、乾湿の錬成陣。上向き三角形と下向き三角形を重ねたこの錬成陣を、賢者の石で描いていた。

 

「ずっと気になっていたことではある。カボション型の賢者の石に始まり、液体、結晶、石板、球体……賢者の石は特定の形を持たない。ただしどの形であっても賢者の石にした時点より加工は不可となり、それが液状であっても千切れることは無いし、どんなに硬いものでも傷一つ付けられない」

 

 ぶつぶつ呟きながら、賢者の石の錬成陣──その跡地を意識する。

 跡地でしかない。ホークアイさんが打ち込んだ弾丸も回収してあるから、本当にただの跡地だ。

 

「どうしてか。どうしてか、僕の作る賢者の石はそのほとんどが結晶型だ。巨大なものだと石板になることもあるけれど、球体や液体のものは作り得ない。何故? 想像力によるものだと仮定して、液状を思い浮かべながら錬成したこともあったけれど、結局結晶型になった。何故。何故か。イメージが固定されているから──だけじゃあ、ないんだ、多分」

 

 思い返せば、賢者の石の錬成陣には種類があった。

 クセルクセス式、マルコーさんのやっていた奴、第五研究所のもの。クセルクセス式と第五研究所の錬成陣は酷似しているけれど、細部が違う。

 そして国土錬成陣。

 その差異が錬成される賢者の石の形状を決めているのだとしたら、たとえば──湿の錬成陣を盛り込んでこれを作ったら、どうなるのか。

 

「……研究不足だ。僕はそれを恐れる。けれど」

 

 いつだって僕はリバウンドを恐れている。いつだって僕は失敗を恐れている。

 だから、できることをやる。できることをできる範囲でやって、少しずつ上限を伸ばしていく。

 

 ──賢者の石のエネルギーを、「流れ」へと流す。

 

 地中を伝う赤い錬成反応。

 跳水錬成ならこれを押し込むんだけど、今回は蛇口を絞ってちょろちょろ流す感じだ。

 

 これはこのままでいい。次。

 

「サンチェゴ……賢者の石ばかり日の目を見てちゃ、竜頭の名が廃るよね」

 

 地面に作ったへこみ。その中で、東西南北に対し四つ円を描いていく。

 音もなく、振動もなく、激しい錬成反応を地中に走らせながら、サンチェゴが四つ生成されていく。

 四つ。僕の想像限界。

 七年経っても一切成長しないこれを、僕は意味のあるものだと捉えた。

 遅延錬成も錬成速度の遅さを逆手に取った錬金術だ。僕に備わった「成長限界」は転じて「それ以上は絶対起こらない」という言葉に置き換えることが出来る。

 

 つまり、どれほど頑張っても僕自身の力では五つ以上を作り得ない。どれほど思念エネルギーを込めようとも、どれほど気合を入れようとも、どれほど演算を頑張ろうとも、だ。*1

 逆に言えば、過剰なまでの思念エネルギーを込めることで──必要以上の力を錬成陣に与えることができる。

 リバウンドは「錬成に失敗した時、錬成エネルギーが術者へ跳ね返ってきて怪我をする」という現象だ。まぁ多分これミニミニ真理というか、扉潜ってないけど片足入れたから代価貰うね、って感じで奪われてるんだと思うんだけど、とにかくリバウンドが発生するのは「錬成に失敗した時」だけ。

 傷の男(スカー)の兄に対してやった割込錬成は、要素を増やして錬成エネルギーを不足させ、失敗させるという手法だった。

 

 ならば逆に錬成中の錬成陣から要素を取り除いたり、初めから過度なエネルギーを込めたらどうなるか。

 疑似・真理の扉の中でエンヴィーが言っていたこと。賢者の石を使われる感覚は、持っていかれる感覚に近いらしい。つまり不足分を埋める形で消費されている。賢者の石はブースターというよりサポートアイテムと言った方が正しいのだろうことがわかる。

 

 不足分を補うために、補助電源から電力を引っ張ってくる。

 では過分はどこへ行くのか。錬成を終えるに十分な量を使ってなおも余る思念エネルギーは、どういう形で発散されるのか。

 

 ──僕は、流れるものだと考えている。

 

 いつだか実験したことだ。思念エネルギーは方向性を与えるための微弱なエネルギーであると。

 でも、それが有り余って流れに乗った場合──たとえば、たとえば。

 

 たとえば。

 

 

 *

 

 

 SAGと呼ばれる錬金術師の特殊部隊。

 その練度に舌を巻くのは、クラクトハイト隊の面々だ。

 

 全身を黒いスーツに包み、どのようにしてか多種多様な錬成を行う彼らは、まるで意思の疎通が完璧に行えているかのような連携をしてくる。

 他者が想像した錬成物。それが確実にそこへ来ることを予想して、あらかじめ跳んでおく、とか。愚直にも特攻し、襲い来る火炎や爆裂を仲間が防ぐことを信じて一切速度を落とさない、とか。

 銃器のような複雑なものを錬成することにも長けていて、劣化品ながら炎と爆裂も使ってくる。けれど決して味方を巻き込むことなく、むしろ援護する形で扱えている。

 

「一筋縄ではいかないと思ってはいましたが、これはこれは」

「むぅう、悔しいですが、吾輩達よりも──部隊としての完成度はあちらが勝りますな」

「……キンブリー少佐、クラクトハイト准将は」

「助けて欲しい、と頼まれたのですから、彼の助けを待つのはあり得ないでしょう。それともなんですか? マスタング少佐は、12歳の子供に助けを求めますか?」

 

 12歳の子供も何も、今までの所業があるだろう! とはマスタングの胸中だが、実際先ほどの頼みから一切反応のないクラクトハイトを頼っても仕方のないことであるのは事実だった。

 炎。発火布で火炎を放てども、瞬時に壁を作って防がれる。今更になって弱点が明るみになった。今のやり方では、矛先がどこに向いているかわかりやすすぎるのだ。

 

「──パルシィ中佐。我はこんなところで死ぬ気は毛頭ないのだが」

「こちらも同じだ。だが……」

「ム!」

 

 斬る。

 斬られる。マスタングの放った火種が。

 中佐らしい指揮官の男と、階級の分からない刀を持つ男。SAGという部隊もさることながら、この二人も要注意人物だ。

 刀を持つ男はその身体能力に加えた錬金術が、そして中佐の方は。

 

「SAG! 少し下がれ、そこは敵の射線が通る!」

「っ、ありがとうございます!」

 

 戦場を俯瞰でもできているのか、やけに目が良い。勘が良いというべきか。

 ホークアイ士官学生の射線は生きている。それを理解しているらしく、決して建物の死角から出ようとしない。

 

 一番厄介なのが指揮官とは、羨ましいことですねぇ、なんて嘯くキンブリー。

 その、真横。

 

 側頭部に刀があった。

 

「な──」

「筋! 肉!」

 

 今、今の一瞬で顔を真っ二つにされかけたのだ。それはキンブリーがパルシィ中佐に目を向けたから。常に刀の男を注視していたアームストロング少佐がいなければ、キンブリーは死んでいたかもしれない。

 

「キンブリー少佐、マスタング少佐! 彼の男は吾輩に任されよ! 武人として──勝たねばなりませぬ!」

「我武人ではないので帰っていいだろうか」

「笑止! その様相で武人ではないというのなら、なんであると」

「──無論、錬金術師だ」

 

 刀が炎を纏う。

 防ぐのはアームストロング家に代々伝わりし手甲。しかしというか当然というか、熱は手甲以外の腕へと伝う。焼ける。焼ける音だ。肌の焼ける音が響き──。

 

「掴んだ!」

「ならばその腕、分解しムゥオ!?」

 

 軸足を回転させ、身体を捻っての──背面投げ。

 刀を手放せば問題なかったはずの男は、けれどそのままぶん投げられる。

 

「成程」

「そういうことか!」

 

 投げられた先。

 そこで待つのは爆炎だ。焔の錬金術が男の身体を焼き焦がす──焼き焦がせていない。焼け焦げているのはヒトガタの、つまり外側。特殊スーツのようなものだけが炎に包まれ、その中身が出てきたのだ。スーツを脱ぐことで逃げ果せた。

 その裏面にびっしりと刻まれた錬成陣。刀とスーツが一体化したもので、ノーモーションの錬金術はスーツの内側で発生させているものだった、という話。

 

「まずい、ハーフヴァング大佐の援護を!」

「させませんよ」

 

 踏み込んできてくれたのだ。

 それを逃す手はないと、キンブリーが爆裂の壁を作る。

 

「まず、一人目だ!」

「──無論、武人でもあるとも」

 

 ドスッと。

 踏み込みから殴打までがあまりにスムーズで。だから、それなりに動けるマスタングでも、対応ができなかった。

 腹への一撃。

 スーツを脱ぎ、刀を失った男は、けれど単体でも強かったと、ただそれだけのこと。

 

「アームストロング少佐! マスタング少佐の援護を!」

「わかっていますとも!」

 

 駆けつける。駆け抜ける。自らの火傷をものともせず、アレックスはマスタングの元へ辿りつく。

 

「止まれ、豪腕。──それ以上近づけば焔の錬金術師の首を握り潰す」

「むぅ……」

「そちらもだ紅蓮の錬金術師。パルシィ中佐たちへの攻撃をやめたまえ。我、短気なので簡単に潰すぞ」

「どうぞご勝手に。そうした場合のアナタの末路などわかりきっているでしょう?」

 

 さて──しかし、どうしたものですかね、というのがキンブリーの心境である。

 マスタング少佐が人質になり、アームストロング少佐はその心根の優しさから恐らく動けない。キンブリー自身はまだ数人残っているSAGを相手にせねばならず、助けには行けない。

 膠着状態だ。否、キンブリーがSAGを殲滅しきればいい話ではあるのだが、どうにも中々隙を見せない。賢者の石は既に使っている。使っている上での膠着状態だ。

 

 マスタング少佐を窘めておいてなんですが、期待してもいいものでしょうかねぇ、なんて少年のいる方向を見れば。

 

 バチバチと──青い青い、そして今まで見たどの反応よりも大きな錬成反応が、地を突き出てきているところだった。

 

 

 *

 

 

 サンチェゴへ過剰な思念エネルギーを供給する。

 僕の想像限界が四つである以上、これ以上の物が作られることはなく、故に五つ目を作りかけて失敗する、ということが起き得ない。

 ガチガチと音を立てて組み変わり続けるサンチェゴ四つ。錬成は行わず、思念エネルギーと錬成エネルギーを放出し続ける。

 

 激しい震動。激しい圧力。

 錬成陣発動時特有の風圧のようなものが四方向から来るものだから、まっすぐ立っていることさえ難しい。

 

 それでも立って、シェルターを分解して──戦場を見る。

 

 首を掴まれたマスタング少佐。その前で立ち尽くしているアームストロング少佐。SAGと相対しているキンブリー。脱ぎ捨てられた刀付きのスーツ。顎に手を当てて何かを考えている中佐と呼ばれていたドラクマ兵。

 

 オーケー、特に何かわかったってことはないけどオーケーだ。

 

「キンブリー! あそこのビル爆破して! 粉々に! 被害とか考えなくていい!」

「承知」

「っ、行かせるな! 狙撃手の射線だ!」

 

 うわ、よく見てるな。

 けど、行かせないのはこっちだ。

 SAGの部隊へも思念エネルギーは流している。故に。

 

「……!?」

「錬成が、何故っ」

 

 二つのサンチェゴからこぼれ出る膨大な思念エネルギーは、周囲の錬成エネルギーの方向に作用する。

 僕から彼らに向かって流れているのだから、彼らから僕に向かって行う錬成はその悉くが逆方向へ作用する。大河急流、遡るには果たしてどれほどの力が必要か。

 そして残りの二つからは錬成エネルギーを。流すのはあちら、アームストロング少佐とマスタング少佐の方へ、だ。

 

 ──遠隔錬成。マスタング少佐の首を掴んでいる腕に局所錬成を行う。

 

「グ……狙撃か!?」

 

 思わずと言った風にマスタング少佐を解放してくれた。

 局所錬成。極小範囲を生体錬成によって組み換え、鋭いダメージを与える錬金術だ。それの遠隔錬成版ともなれば、まるでどこぞから狙撃を受けたかのような痛みになる。

 全身を、とも考えたんだけど、そこまで範囲を広げるとマスタング少佐にまで影響する恐れがあった。僕はまだその辺の細かい調整を得意としていない。

 

「フゥゥウウウウウムゥゥウウウウウウン!! 我が! アームストロング家に伝わりし!!」

 

 マスタング少佐さえ解放されたらこっちのもの。

 一息で踏み込んだアームストロング少佐が──敵のドラクマ兵の顎を。

 

「蹴り!!」

「ガ──アームストロング、と、は!?」

 

 殴るのではなく、膝蹴りで搗ち上げた。

 ナイスぶっ飛ばしだ。そこまで飛ばしてくれたら、鎖で攻撃できる。

 

「ぐ……げほっ……アームストロング少佐、早く、准将の援護を」

「必要ない」

 

 と言いかけて、伏せる。

 数瞬遅れて発砲音が響いた。

 

「ワオもう気付かれた。二人とも助けて!」

「マスタング少佐、吾輩が壁を作ります!」

「ああ、汚名返上とさせていただく……!」

 

 この思念エネルギーの急流はあくまで錬金術対策。

 普通の銃撃や人間の進行を止められるものではない。

 

 だけど、そこはこの二人だ。

 僕の眼前にせり上がった壁と。

 

 そして──最大規模の業炎。壁越しだというのに熱を覚えるソレで死なない人間はいないだろう。

 壁が崩壊する。生き残りがいないか炎が晴れるのを待って。

 

 遠く、ビルが崩壊する。

 

「お逃げ、くだ、さ──」

「馬鹿、何をやって」

 

 音は響かない。聞こえる距離じゃない。

 ただ、SAGを率いていた指揮官と、アームストロング少佐に顎を砕かれた二人がそれぞれビクンと跳ねて、倒れたのがわかった。

 

 ……腕が良いのもそうだけど、装填速度も物凄いな……それとも二丁用意してたのかな。

 

 なんにせよ。

 

「……辛勝、か」

 

 なんとか、勝てたらしい。

 

 

 

 戦利品として刀付きスーツを回収して、僕らは帰路についた。

 全員そこそこボロボロな状態だったから、帰ってすぐに軍医の元へと回されて、特に重傷だった僕とマスタング少佐は治療室行き。ほら僕、蒸し焼きにされて喉あたりまで焼けてたし、自分ぶっ飛ばした打ち身で骨折とかしてたりetc...で結構怪我してたんだよね。

 そしてマスタング少佐は内臓にダメージが出てるらしい。しばらくはお休みだ。僕が錬丹術で治すのもアリではあるんだけど、内臓系はあんまり触りたくない。個人差がかなりあるから。

 

 見た目じゃ一番ボロボロだったアームストロング少佐は、けれど肌の火傷以外ほとんど無傷。筋肉あればこそらしい。

 そして一番無傷だったのはキンブリー。いやホント、スマートだよねいつもいつも。

 

「准将。私はいつも言っていますね。裏切り者の始末であれば私に任せてください、と。特に今回の貴方はそこそこ重症であることを忘れているのでは?」

「ああもう全部治したよ。賢者の石サマサマ」

 

 流石に軍医の前では見せられないから、見える範囲の傷は残してあるけれど、中身はもう万全だ。

 他人の身体は触れないけど、自分の中だったら把握している。錬丹術で癒すことは可能だ。

 

 そんなことより、である。

 

「あ、いたいた。──久しぶりだね、ワイルダー少尉」

「え……え、あ、クラクトハイト准将? 何故このような場所に」

「うん、なんでだろうね。なんで君はこんな場所にいるのかな」

 

 ──そこは雪山の麓。

 アメストリスが敷いた基地から少し離れた場所。

 

 ワイルダー少尉。

 クレタの時は、准尉だったね。昇格おめでとう。

 

「いえ、自分は」

「まぁいいや、君の言い分を聞く気は無いよ。二つだけ確認ね。──君の背後にいるのは、マクドゥーガル少佐?」

「な──んの、こと、ですか」

「君が彼を慕っていたことは知っているんだよ。クレタで僕らが喧嘩していたのを耳をそばだてて聞いていたのも君だ。あの時の不和から君が僕を裏切った──という可能性も無きにしも非ずではあった。ううん、理由の一つではあるんだろう。でもその様子だと、マクドゥーガル少佐は関係ないみたいだね」

 

 じゃあ、最後の確認だ。

 

「君の行動は国益のためかな。それとも私欲? ああ、復讐は私欲に含まれるよ」

「──っ」

「どちらにせよ、でしょう」

 

 ワイルダー少尉の足元が爆発する。

 気が早いな。もう少し揺さぶっても良かったのに。ドラクマ側の間者の名前とか出したかもしれないじゃん。

 

「どうせ尻尾切りですよ。あちらの情報管理は完璧に近い。杜撰なのはこちらだけです」

「カ──や、やめ、勘違い──」

「おや? おかしいですね、両足を吹き飛ばしたはずですが、何故まだそんな普通に喋っていられるのですか?」

「ああ、それは簡単だよ」

 

 ──赤い錬成反応が走る。

 それは僕らに向かい、けれど雲散霧消した。

 

「な、なんで!?」

「ああ賢者の石ですか。……言っておきますが、私は盗まれていませんよ」

「僕のだよ。頭の回転は良かったんだろうね。マクドゥーガル少佐との喧嘩のタイミング、彼が離反した時期と奇病。僕が戦場に出てからまた始まった奇病に赤い光。まぁ君だけじゃなくても気付いている人は沢山いたんだろう。今回の作戦で明るみになったことでもある。そんな奇病を扱う錬金術師に対し、君だけが唯一行動した」

 

 彼が持っているのは僕が送ったものだ。

 ちょろちょろ流して、流した先で形にした賢者の石。

 賢者の石のエネルギーを錬成に用いず、賢者の石を再構築することに使ったらどうなるかの実験。湿の錬成陣によって水の特性を得た賢者の石は、僕の作った他の賢石錬成陣の跡地で形を成す。

 

 そこをわざわざ調べに来た人間がいた。奇病の発生地になんて誰も近づきたがらないだろうに、わざわざ現場を調べに行けたのは、僕がいなければ発動しない錬金術であることを知っていたから。あるいは一度発動したらもう発動しないと思っていたから。

 そうして見つける。中心に溜まった小さな小さな赤い石を。

 

「ドラクマへ情報を流したのも、賢者の石を盗んだのも、僕一人へ向けた復讐だね。僕に死んでほしかった。マクドゥーガル少佐を追放した僕がそんなに憎かった?」

「……ッ、あの人こそが、あの人こそが真に国を想う」

「激高してくれてありがとう。言い分は聞かないと言ったはずだよ。君が怒ってくれたから、君がやったことが確定した。ありがとう、僕もう眠いんだ。早く終わらせてくれたことに礼を言うよ。──さようなら」

 

 何をさせるつもりもない。

 近づき、ノイズで錬金術を妨害し、過畳生体錬成で仕留める。

 

 仕留めそこなった。

 剣が突き出てきたからだ。

 

「お……っと。いいの? 僕らみたいなのならともかく、少将様が軍法会議にもかけられていない軍人をその場で殺す、なんて」

「ふん。たまたま通りがかった所で、重傷により入院中のはずの准将に対し錬金術らしきものを行使せんとする何者かを見かけたから斬り捨てただけだ。何か問題があったか?」

「それを信じるのは子供だけでは?」

「つまり僕が信じるから良いってことだね」

「そういうことだ。ついでに私の弟も信じる。何も問題はない」

「……いえ、私は構わないのですが」

 

 流れ。

 まだまだ研究のし甲斐がありそうだ。

 

 ……復讐、ね。

 その辺のケアもしないといけないと思うと、憂鬱だなぁ。

*1
賢者の石を使っている時はブーストされているので話が別だけど

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