竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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エピローグって言ってるけど全然終わらない(章終わりってだけ)


第四十四話 錬金術の禁忌「炸裂遅延連鎖分解弾」&エピローグ

 1908年3月。

 雪解けの概念のないこのドラクマにおいても、一応春であるこの季節に──アメストリスはある決定を下した。

 

 大総統令三〇四四号──。

 その内容は。

 

 

 *

 

 

 見送る。

 数多の兵と、そしてアームストロング少将らブリッグズ兵を。

 

 そう、今日この日を以て、ドラクマの侵略は終了となった。

 理由は二つ。

 ドラクマの首都及び主要都市を完全に制圧したこと。そしてそれを受けたドラクマの残りの都市が白旗を挙げたこと。

 あくまで殲滅戦ではないから、降伏するというのならもうそれ以上はない。できない。

 故の終了。ドラクマはアメストリスに降り、アメストリスは大陸最大規模の国となる。

 

 ──というのが、表向きの理由。

 

 裏向きにも二つ理由があった。

 

 一つは。

 

「……テロリスト、か」

「抜け穴はやはりクレタですかね」

「多分ね」

 

 テロリスト。ゲリラ。

 正史においてイシュヴァール人が辿るはずだった道を、ドラクマからの逃走兵が辿っているというのだ。アメストリス国内、主に西部と北部で確認されるテロ事件。その対処に兵をある程度戻さなければならなくなった。

 お父さんとお母さんの安否は──まだわからない。

 

「准将、キンブリー少佐。──決して無理はなさらぬようお願いしますぞ」

「その……准将。私は貴方の事を……いえ。私の立ち位置は、私自身が決めたいと思います」

 

 これを受け、アームストロング少佐とマスタング少佐もアメストリスへ帰投。これはクラクトハイト隊として、ではなく国家錬金術師という戦力としての決定だ。そもそもクラクトハイト隊が侵略のためだけのドリームチームなので、国防にあたるとなれば解体されることは決まっていた。

 

「うん。二人は二人の為すべきことをしてほしい。ドラクマの残党──それがアメストリスへ害を為すというのなら、容赦はしないこと。特にアームストロング少佐、わかるよね?」

「……はい。吾輩とて、その分別はつけているつもりです」

「それならいい。──また、国内で、今度は平和な時に食事でもしよう。僕らが最後の掃除を終えるまでの間、国の事は頼んだよ」

 

 言って、彼らも見送る。

 見送って。

 

 

 

 キンブリーと雪の上を歩く。

 アメストリス国軍の軍服を着ている僕らに歯向かってくるドラクマ人はいないけれど、向けられる目には恐怖と憎悪がある。当然だ。

 主要都市を落とすために、僕は切り札の一つをホークアイさんら狙撃手に渡した。ラティオに止められていた物の、さらに上の奴。

 

 炸裂遅延連鎖分解弾。

 構造物に撃ち込んだ瞬間、弾丸が潰れることで遅延錬成が途切れ、水平方向の構造物へ錬成陣付きの種子を飛ばす。その全てに刻まれているのが分解の錬成陣。無論材質が同じものしか分解できないけど、残ったら残ったもの用のものを撃てばいいだけの話。

 たった一発の弾丸で、高層ビルの四十棟は消せる。残留連鎖生体錬成弾の構造物版。

 ただ撃つだけで、都市を消せる──ある意味で賢石錬成よりもお手軽で非人道的な銃弾だ。高い所に撃てば、そこからボトボトと人が落ちるし。根元に撃てば、倒壊は必至だし。

 

 今まで何故提供しなかったのかを聞かれ、条件があるんだよ、みたいな適当なでっち上げをして、戦争は一瞬にして終わりを告げた。

 

「どうして今まで出さなかったのか聞いても?」

「僕の目的は賢石錬成だからね。初めからあの弾丸を渡していたら、中央軍の喜ぶ負傷者が数多く出ていただろう。それを回収するために街中に中央軍が溢れかえっていたことも容易に想像がつく。──そうなると、賢石錬成ができない。僕は味方を巻き込まないことで有名な錬金術師だからね」

 

 中央の子飼いでも、味方は味方だ。

 裏切らない限り、ね。

 

 でも──今回の呼び戻しで、中央軍は帰らざるを得なくなった。ハイエナ行為ができなくなったんだ。

 だから大詰め用の分解弾を支給できたって話。

 

「面倒ですね。中央軍、消してしまわないのですか?」

「エンヴィー達が必要としているらしいから、消しちゃダメって言われてるよ」

「……まぁ、私達がスムーズに動くためには必要ですか」

「そゆこと」

 

 歩いて、刻んで。

 歩いて、刻んで。

 

 車は使わない。ドラクマでレンタルした車とか爆弾仕掛けられててもおかしくないし。だから普通に歩く。案外市民の目があった方が襲われないものだ。

 

「テロリスト。手を合わせて錬成を行う者がいたようですよ。死にましたが」

「……SAGの生き残り。あるいは実験の脱走兵ってところかな」

「手合わせ錬成。准将には心あたりがあるのでしたか」

「まぁね。知りたい?」

「いいえ。知ってどうなるものでもないでしょう」

「賢明だね」

 

 別に真理の扉開いたからだよ、なんて言ったって問題は無いと思うけど、ホムンクルス側がどう思うかは僕じゃ推し量れないからね。

 キンブリーは必要な駒だ。作中におけるキンブリーの立ち位置が僕になっている以上、ホムンクルスはキンブリーを要らぬ駒として扱う可能性がある。僕的にそれはいただけない。だから余計なことは教えない。

 まぁ死んだら死んだで使い道はあるけど、生きてた方が用途は多いんだ、やっぱりまだ死んでほしくないかな。

 

 

 そうやって、数日間、いや数週間かけてドラクマを歩き回った。

 襲撃回数はゼロ。ドラクマそのものは完全に降伏したと見ていいだろう。ま、どこからともなく飛んでくる弾丸で都市がごっそり消えている様を見て、歯向かおう、なんて気はどーやったって湧いてこないんだろうけど。

 そうして、そうして、最後。

 

 ドラクマの中心地。首都があった場所に立つ。

 一般人がこちらを心配そうに眺めている。ドラクマ兵もまた同じく、手は出してこないけれどこちらを見ている。

 

「キンブリー」

「はい」

「アエルゴで3000万。クレタで3200万。そしてドラクマで二億。──これからするものを含めて、僕が手にかけた人数だ」

「イシュヴァールは加算しないのですか?」

「じゃあそこに一万ちょっと」

 

 両の手袋をぐ、と引っ張って。

 左手を地面に、右手を空中に。

 

「僕は英雄かな。それとも殺戮者かな」

「貴方はただの化け物ですよ。私から見てもね」

「──良い答えだ」

 

 右手を、左手の甲へ打ち付ける。

 瞬間、各地で赤い光が上がる。ドラクマの形に合わせて敷き詰めた連鎖賢石錬成陣。それが発動したのだ。

 

 大総統令三〇四四号の本当の内容は勿論、ドラクマ殲滅。

 一人残らず、をオーダーされた。僕へ直接、である。

 

 ジり、と竜頭を巻くように手を動かせば──黒い手が、黒い手が、黒い手が生えてくる。

 酸素が足りなくなったとでもいうかのように首を押さえる民衆たち。心配も憎悪も、ひとくたに纏めて飲み込む巨大な瞳。

 何故この黒い手が生えるのか。

 ──その考察は、してある。それは多分、扉が、彼らを。

 

「いつ見ても悍ましい光景ですね。悲鳴もなく、断末魔もなく、ただ命が刈り取られる瞬間」

「そして、これを」

 

 さらに各地の賢石錬成陣に施された細工が発動する。

 ワイルダー少尉を追い詰める時に使ったものと同じ。賢石エネルギーを錬成エネルギーに変換せず、流すだけ流して噴出先で再構築する。

 噴出先は勿論ここ。

 

 溜まりに溜まっていく賢者の石は、次第に結晶の形を取り──やがて僕らよりも高く高く成長する。

 まるで何か、そういうモニュメントかのように。

 

 赤い結晶が、ドラクマの中心に突き立った。

 

「これで終わりですか。あれほど苦労をして、あれほど激戦を繰り返して──あっけのないことですね」

「キンブリー」

「はい?」

「ホムンクルスと僕だったら──君はどっちにつきたいと思うかな」

 

 モニュメントに手を当てて問う。

 僕の問いに、キンブリーは──ニヤリと口角を上げた。

 

 

 *

 

 

 アルドクラウド。

 本当はいろーんな手続きとかいろーんな提出書類があるんだけど、一旦全部放り投げてこの町へ帰ってきて、猛ダッシュで家まで来た。 

 来て──ゾっとする。

 

 いない。

 お父さんもお母さんもいない。

 

 庭や室内に血痕の類はない。争った痕跡もない。ただ、いない。

 いない。

 ──勝手に見たお父さんの研究日誌の最後の日付は二年前。それは、まぁ、そうだ。ペンドルトンにいるはずだから。そこに呼ばれたはずだから。

 だけど。

 ……こんなにも、帰らないもの、だろうか。

 

 ペンドルトンへ向かうべき?

 いや、電話……一般家庭からペンドルトンに電話して繋がるワケないじゃん。軍の秘匿回線……を使うにはウェストシティに行かなきゃならない。行ったら手続きしろって拘束されるのが目に見えている。

 

 やっぱりペンドルトンへ向かうべきだ。

 それで、もしなんかドラクマの残党とかいたら、僕が殲滅して──。

 

「レミー」

 

 振り返る。

 ──誰もいない。

 

 幻聴?

 おいおい、そんなの聞こえるようになったら、まるで二人が死んじゃったみたいじゃないか。

 

 ……。 

 ……この流れは。

 

「レミー」

「流石に悪趣味が過ぎるよエンヴィー」

「おわ、っぶねぇな! 怒り過ぎだろ!」

 

 賢者の石で鎖を錬成し、突き刺す──直前で叩き落とされた。

 

 お母さんの声で、わざわざそっちの愛称で呼ぶとか。

 流石に怒るよ僕。

 

「あーあー、悪かった、悪かったよ。だからもう人間らしい反応やめていいぞ」

「……ちゃんと怒ってるんだけどな」

「そうか? 怒ってんならお前、もっと苛烈になるだろ」

「いいよ問答は面倒だから。それで、なに? ドラクマの賢者の石回収しに行ったんじゃなかったの?」

「そりゃもう終わったよ」

「仕事が早いね」

 

 落ち着こう。

 エンヴィーがこういう性格なことくらいわかっているはずだ。

 そして、人間らしい反応とか言われてるけど、僕は本当にちゃんと怒っている。僕をからかうときは逆鱗に触れない方向でお願いしたい。

 

「二人は?」

「あ? 知らねえよ。なんでこのエンヴィー様が知ってると思ったんだよ」

「なんだ、君達が誘拐したとか殺したとかじゃないのか」

「だからしねーって。アンタさぁ、自覚ないみたいだけど、ウチのお父様のお気に入りなんだぜ? アンタやアンタの大切なモンに手を出したら俺達がお父様にとっちめられるっつーの」

「……わかった。で、何用?」

「せっかちだなぁ。久しぶりの再会なんだからちっとは喜べよレムノス」

「喜ばれたかったら喜ばれることしてよリスさん」

 

 僕は一刻も早く二人の安否確認をしたいんだ。

 正直用がないのなら放っておいてほしい。ペンドルトンへ向かうのだって汽車乗り継いで色々しなきゃいけないんだから。

 

「わーった、わーったよ。用件は二つだ。一つはまたお父様に会いに来いってこと」

「……なんで?」

「知らね。会いたいんだと」

「そう……本当に気に入られているのか、用済みだからと切り捨てられるのか」

「いやお前他人を信用しなさすぎだろ」

「一番信用できない代表が何言ってんの。で、二個目は?」

「ありゃりゃ、度々の戦争を経てスレちゃってまぁ」

 

 僕は元からこんなんだけど。

 ……いや、国家錬金術師になる前の一か月間は、もうちょっとピュアだったか。錬金術が楽しくて仕方のない子だったような気もする。

 

「二つ目の用件は、ブラッドレイからの」

「レミー!!」

 

 物凄い速さでリスに変身するエンヴィーと──玄関のドアを開き、僕へ駆け寄ってくる、二人。

 

 ああ。

 なんだ。帰ってくるのが早かっただけか。

 

「レミー……久しぶりだな」

「うん。久しぶり、お父さん」

「背。ちょっと伸びたか?」

「そう? 自分じゃわかんないんだよね」

「レミー、レミー……ああ、レミー!」

 

 リスに目配せをする。「また後でね」と。

 リスはリスの身体のままやれやれと肩を竦め、窓を開けて出て行った。

 

「……今度こそ言える。ただいま、二人とも」

「おかえりなさい、レミー」

「そんでもって、俺達もただいまだ、レミー」

「うん、おかえり」

 

 ──戦争は終わった。

 懸念事項は尽きないし、まだまだやることはあるけれど。

 

 僕は二億六千二百一万人をこの手にかけ。

 お父さんとお母さんもまた、ペンドルトンの国境を守るために多くを殺し。

 

 その血濡れた手で──けれど生き延びたことを祝い。

 

 夜も、次の日も、その次の日も、ずっとずっと仲良く楽しく暮らしたのでした。

 

 

 

 ……なんて、当然だけど終わりはしない。

 後日、ほっぽっていたいろんな書類を書くためにウェストシティへ赴き、それはもう色々書いて色々話して、色々やって色々やって色々やって色々やって……。

 

 めちゃくちゃ疲れた。

 僕、現場が、いい。昇進したらデスクワークになるって考えたら嫌過ぎる。いや文字を書くことも文字を読むことも問題に対して熟考することも好きだし得意だけど、手続きが面倒くさすぎる……。

 

「ので少将はお断りします」

「はっはっは。……それが叶わんのだよレムノス・クラクトハイト君」

 

 キング・ブラッドレイからの用事。

 それは少将への昇進に関する話だった。中央へ行った時に、というかお父様に会いに行くときについでに寄ろうと思っていたら、フツーに来たよねこの人ね。なんでこんなフッ軽なんだろうね。

 

「此度の件で、クラクトハイト隊の面々はそれぞれ昇進が決まっておる。アームストロング少佐は中佐位へ。マスタング少佐とキンブリー少佐は大佐位へ。それを率いる君が一つ上では示しがつかん」

「率いるって……クラクトハイト隊は一旦解散じゃないですか。それならもう」

「率いていた、でも良い。これからはメディア露出も増える。特にマスタング君は人気だからな。そこへ勝利の子だ。なに、もう当分は外へ侵略を仕掛けに行くこともないのだから、将の位を得て椅子でふんぞり返るくらいの褒美を自分に与えてもいい頃合いだろう」

 

 少将への昇進。

 来るとは思っていたし、多分これは断れないものだ。既に決定しているもの。

 ……ということは。

 

「褒美、というのであれば──お願いが一つ」

「良いだろう」

「……内容を聞かなくていいんですか?」

「どうせ中央の研究所を一つ寄越せ、とでもいうのだろう?」

「あ、はいそうです。ちょっとキメラの研究がしたくて」

「良い。許す。適当に頭を挿げ替えるとしよう」

 

 やっぱりそういうことだ。

 昇進プラス役職欲しいもの一個、ってことね。

 

「受けてくれるかね?」

「はい」

 

 そんな感じで。

 レムノス・クラクトハイト──13歳で少将になりました。

 




「竜頭の錬金術師」 / 第三章 完
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