竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
生体錬成は中々に面白い。
大昔、生体錬成と錬丹術の違いについては述べたように思う。生体錬成は粘土を作って張り付ける。錬丹術は周囲の流れや人体の流れを用いて破損個所を修復する。
だからこそ、錬丹術では絶対にできないものもくっつけられるのが生体錬成だ。その結果の一つが
たとえば。
今ここに、適当に錬成陣を描く。円を描いて、骨を錬成する陣を描く。成人男性の大腿骨くらいの大きさの骨だ。結構大き目。その円の中にもう一つ、今度は子供の橈骨や尺骨くらいの大きさになるような錬成陣を描く。骨を錬成する陣そのものが細長く、それに付随するように、そこから伸びるようにそういった短めの陣を描いて、発動。
材料として置かれたカルシウムやアパタイトなんかの物質に錬成エネルギーが加わり、それが「成形」される。
たっぷり15秒の時間をかけて錬成されたのは、骨の枯れ木、とでも呼ぶべきもの。
しかし枝の根元に継ぎ目はなく、完全に一つの骨として成立している。
コレが生体錬成だ。
人体をまるで粘土細工のように錬成する技術。肉体を作る分には真理は関係ない。魂を、というか既に失われたものを錬成しようとすることが真理への到達条件の一つだから。
……この技術があると、化石とか作り放題だなって思った。
「所長。骨で遊ぶのも良いですけど、僕の成果も見てくださいよ。結構いいとこ行ったんですよ」
「サジュ、良い所に行ってから、じゃなくて完成してから見せて欲しいんだけどね」
「そんなこと言わずに。ほら、どうですかこれ!」
呼ばれてそちらを向けば──そこには双頭の蛇がいた。
死刑囚を使った人間と動物のキメラの研究を行っている第五研究所だけど、別に普通のキメラも作っている。管轄違いと言われたら確かにそうですねって返すけど、まぁほら僕少将だから。大体ねじ伏せられる。
「蛇と蛇のキメラ?」
「そうです。どうです? 神話の生物って感じしませんか?」
「あー。ちなみに何か特性があったりする?」
「こっちの頭は麻痺毒を、こっちの頭は神経毒を持ってます。問題はそれぞれ別個体としてくっついているだけなので、行動の意思統一が図れないことですね……」
「別に脳が頭にある必要はないんじゃない? メインが毒を与えることなら、目も鼻も脳の近くにある必要はないでしょ。むしろカメレオンとかカエルアンコウとか入れて伸縮速度上げて……」
「あああ! ちょっと、ちょっと待ってください! 自分で考えます! だから言わないで!」
こういう職員もいる。
サジュ。姓は無いけれど、特に難民とかじゃない。北西部出身だけどドラクマ戦には参加しなかった軍人の錬金術師で、「天使を作るのが夢です! 他に興味はありません!」って言って入って来た。確かゲーム版に天使いたよな、とか思いながら即採用した。ふざけたこと言ってるけどかなり腕良いんだよねこの子。
また、天使を作りたいと言いつつも人間を使う気はないらしい。曰く「いや死刑囚が天使になれるわけないじゃないですか。天使はもっと超常的で、絶対的で……とにかく人間如きを素材に使って作ったって意味は無いんですよ!」って怒られた。
熱量があるのはいいことだね。なんか今は天使の敵である怪物を作ることからインスピレーションを得ようとしているらしく、「管理は厳重に、逃げ出したら自分でちゃんと始末すること」を言いつけてある。地下水道に放し飼いとか杜撰も良い所な管理はさせない。
先日仕事を任せたマンテイク兄妹はキメラ・トランジスタ開発課。サジュは合成獣課。っていう風にちゃんと研究分野を分けている。二兎を追う者は一兎をも得ずだ。僕が言うなって話だけど、興味のあるものに専念して研究してくれた方が絶対良い成果が出る。
そして、僕が最も期待している課が。
「あ、レムノスくん。なにー? お姉さんの肩でも揉みに来たの? 労いに来たの?」
「進捗を聞きに来たんだ。どうかな──思念エネルギーの貯蔵は、できそう? できなさそうだったら早々に切り上げるんだけど」
「この、レムノスくんったら仕事人間なんだからぁ。ちょっとは遊びを持ちなよ~」
「持ってるよ。ほら、さっき作った骨の枯れ木だ。大腿骨、橈骨、尺骨でできてる。なんなら手の骨や頭蓋骨を使って花でも咲かせてみようか?」
「……あくしゅみ」
「うん、悪趣味なものを作ろうと思ってつくったからね」
ここ──思念エネルギー研究課。
トランジスタ開発課と少しだけ内容は被るけれど、ここはもっと凄惨。
なんせ扱うのが生身の人間だ。それも錬金術師ではない普通の死刑囚。
担当者はこの甘ったるい声のイリス・カルコル。他四名。
椅子に座らせて拘束した死刑囚と、その下に敷かれた錬成陣。ただしこれは僕の遅延錬成の陣ではなく、単純に思念エネルギーを引き出すためだけの陣だ。錬金術の心得がない人間のサポートになるもの。
先日作った僕のキメラ・トランジスタよろしく苦痛だろうが攻撃の意思だろうが想像だろうが思念は思念であることがわかっているため、じゃあどのような思念が一番効率よく溜められるのか、安定が取れるのか、また思念エネルギーの蓄積は可能なのか、可能であった場合保存は利くのか、みたいなことを研究している。
この研究が上手く行けば、僕の遅延錬成を無理矢理貯蔵庫として使わなくて済む……つまり錬成兵器に三日という縛りが無くなるのだ。
結べば快挙。──だけど。
「ごめんねぇ、どうにも上手く行かなくて。見える~? ほら、ちょぉーっとだけなら
丸底フラスコ。イリスの持ち上げたそれには、薄い薄い、本当に薄い赤色の液体がちょびっとだけ溜まっていた。
……あー。
薄めた賢者の石になるのか。魂のエネルギーが感情……なのはわかってたけど、魂がある状態で感情を引き出して、それがそのまま賢者の石に……成程ねぇ。
「感情の種別による発露量は計れた?」
「やっぱり苦痛と恐怖がピカイチで大きいわぁ。でもでも、一回しか取れないけど絶望もいい感じよぉ」
「ということは、既存の苦しみと痛みのセットが一番であるのには変わらないか……。ちなみに快楽系は試した?」
「試したけど無駄ねぇ。喜楽の感情はどちらかというと己に対して発露されるものみたいで、溜めてた思念エネルギーが吸い取られそうになった時は慌てたわぁ」
「吸い取られる?」
ふむ。
思念エネルギーは今のところ、術者が発露して、錬成エネルギーに変化する。その一方通行しか確認できていない。
けれどイリスの実験が本当ならば、一度出した思念エネルギーをもう一度術者に戻す……あるいは錬成エネルギーを思念エネルギーに変換することが可能である……?
プラスとマイナスみたいなもの、って表現すると各方面に喧嘩売ることになるんだけど、つまり正負だ。正の流れと負の流れ。
……待て待て。
すぐに取り出すのは、いつも持ち歩いている
それをパララララと捲っていって……うわ、あった。
思念エネルギーの正負。その流れと特性。
自分に戻すことまでは書いてないけど……そうか、成程、成程。
「イリス、今すぐその実験をやってほしい。苦痛で吐き出された思念エネルギーと喜楽で吸い取られる思念エネルギー。その反芻はどれほど続くのか。純度や色はどれくらい変わるのか。赤に近づけば近づく程良い結果になっていると思ってくれていいよ」
「また、急ねぇ。はいはいわかったわ、タスクに追加してお……いえ、最優先でやるから、所長はあっちいってあっちいって。
外道ばかりの集うこの第五研究所地下の錬金術師の中で、唯一イリスは僕を子ども扱いする。拷問の類は「子供に見せるものじゃない」と僕を締め出すし、決して血液のついた手袋や工具の類を見せてくることはない。
実験体に対しては普通に苛烈だけど、まぁなんかあるんだろうイリスなりに。
……という感じで締め出しを食らったので、最後の課の様子を見に行くことにしようと思う。
そこは第五研究所の中でもさらに奥まった場所。
というか、作中で賢者の石の錬成陣があった場所。今は無いけど。
「はい。はいはいはいはい。お疲れ様ですお疲れ様ですクラクトハイト所長。何ですか何ですか、何用ですか何用ですか」
「いつもの見回りだよ。進捗はどう?」
「はいはい。えーとえーと、特には……特には? まぁまぁ、一応一応完成はしましたよ、第一例」
「あの檻?」
「はい。はいはい。そうですそうです。あ、でもあんまり近づかないでくださいね、唾とか吐いてくるのではいはい」
ぐるぐるの丸眼鏡にモルタルボードハット、白衣の下に作業服とかいう意味わからない恰好をした男性。彼の名前はカリステム。モロ偽名*1。
喋り方にクセがあり過ぎるのも演技っぽいけれど、まぁ別に良い。僕は裏切りや内通が発覚したらその場で殺すと断言している。それでも来るなら、承知の上ということだ。僕がどれほどの人間を殺しているかは知っているはずだしね。
そんな彼が研究しているのは──人と人のキメラ。
死刑囚と死刑囚のキメラ。今、彼が指さした檻の中にいるのは、四本足で四本腕で双頭で腹から上がセパレートしてるナニカ。
ただくっつけただけのコレだけど、それでも成功例だ。だって生きているから。
「会話は?」
「可能ですハイハイ。名前はジョルジオとモーガですです」
「そう。ねぇ、君達」
「……」
少しだけ反応があった。
けれど、虚ろだ。目が虚ろ。死んでいるわけではない。ただ生きる気力に欠けている。
「カリステム、彼らは会話ができない程衰弱しているのかな。それとも僕を無視しているだけ?」
「後者ですねはいはいはい」
「そうか」
じゃあ、と鉛玉を檻の中へ五つ投げる。
ピク、とだけ反応し、けれど拾うことのない二人……いや一人?
自分の足元にも鉛玉を落として──遠隔錬成。
「ぎゃあああ!?」
「ぐ、がぁぁ!?」
「あちょちょちょっと、やめてくださいよ所長、殺すのだけは、まだまだまだまだ使い道があるんで、で、ねね? ねね?」
「大丈夫だよ。今のは神経に痛みを与えただけだから。生体錬成の応用ってやつ」
「ほ、ほぉ、そんなことが」
無論錬丹術だけど。
錬丹術の麻酔効果に近いものを反転して使っているだけだ。痛みを無視してくるイシュヴァールの武僧みたいなのとかにはあんまり効果の無かった奴。SAGとかドラクマ兵も覚悟キマってたからあんまり意味なかった。
けど、死刑囚には効くらしい。
「声をかけられたら反応しなよ。それともアレかな、カリステムが殺したくないって言ってるから、生易しいことしかされないって思ってるのかな。それなら間違いだ。そら、もう一回──」
「う、話す、話すよ! なんだよ、あ、いや、なんですか! 何を聞きたいんですか!」
「……」
「君達は二人で一人だからね。連帯責任だ」
「ちょ、まま、待ってくれ所長サン! おいモーガ、声出せ、声出せってオイ!」
「……こんなガキに尻尾振るくらいなら、死んだほうがマシだ」
ありゃ、プライド高めか。
「す、すいやせんね所長サン、コイツシャイなもんで! ええ、俺でよければなんでも答えますよ!」
「そうか、シャイなのか。それなら仕方ないね。──じゃあ、モーガの方に実験をしながら話を聞こう」
遠隔錬成。
錬成エネルギーの波で局所錬成を行う。モーガの腕だけに極小の針くらいの大きさでの生体錬成。
「ぎゃあああ!?」
「ガ……ん、だ!? 銃!?」
「お、やっぱり。神経は繋がっているのか。ってことは、やっぱり思念エネルギーも二倍取れるってことだし、あるいは片方が思念エネルギーを出さないで、片方が出す、をやれば疑似的な論理回路を……」
「はいはいはい、成程成程、所長のお望みは論理回路でしたか。成程思念エネルギーの論理回路。確かに必要になりそうですね、はいはい。それについては私が実験しておきますともとも。それでそれで、なにを二人に聞きたいのでので?」
「ああうん、下半身の感覚はどっちが握ってるのかなって。肉体の主導権はどっちにあるの?」
ポーズで錬成エネルギーをパチパチやりながら聞く。カリステムにはバレてるだろうけど、これただ風圧を起こすだけの錬金術だ。けどそれは素人目には痛い錬金術且つなんか威圧的なものに感じるんだろう。
「主導権はオレです、オレ、あ、いや、私です! ジョルジオです! ほら!」
何故か反復横跳びをしだすジョルジオ。四本足、その全てがしっかりとした連携を取って動いている。ふむ、完全に片方の制御下にあるのか。
「……別に俺が動かせないわけじゃねえぞジオ」
「どわっ!?」
足の内二本が動きを止める。だから残りの二本が絡まって、ジョルジオはコケた。
ふむ? どちらもに主導権はあるのか。キメラ……一般的なキメラは知能の高い方に主導権が渡るんだけど、こうやってセパレートしてる場合とか、完全に同一のステージにある存在だと変わってくるわけだ。
「尻尾振るくらいなら死んだほうがマシだったんじゃないの?」
「うるせぇガキが。──だが、てめぇ。俺達を殺す、って目じゃねえな。利用する気満々ではあるが──何かをさせようとしてる悪ィ奴の目だ。いうだけ言ってみろクソガキ。聞くだけ聞いてやる」
「ちょ、モーガお前、馬鹿生意気な口利いたらまたあの痛いのが」
死刑囚だけはある。
立ち回りの賢い方と、単純に我の強い方。
この状況下にあってもまだ何かを──なんなら脱走まで考えている目。
ジョルジオの方は評価低めだけど、モーガの方はいいね。
──うん、合格だ。
「ジョルジオ、モーガ。君達──錬金術を覚えてみる気はないかな」
キメラの錬金術師。
夢が広がるよね。
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