竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
地下の非人道的実験施設はそのままに、地上にも第五研究所は存在する。
原作ではあからさまにあからさま過ぎたというか、閉鎖しているにも関わらず警備が厳重とかいう「ここに何か隠してますよ」って言ってるようなものだったので、真逆にしてみた。
つまり、閉鎖は当然していなくて、警備も一般の憲兵だけで、そしてなんと一般人の出入りが可能。
第五研究所──改め、
過去のアメストリスで起きた凶悪犯罪からアエルゴ、クレタ、ドラクマにおける非人道的兵器を展示した博物館であり、戦争の恐ろしさや人というのはこんなに簡単に死ぬのだ、ということを知ってもらうための場所。
無論──歴史の闇に葬り去らねばならないものは置いていないし、主に錬金術関連の犯罪もあんまり置いていない。一切じゃないのは一切置いていないと不満が出るため。錬金術嫌いな国民もそれなりにいるからね。
となりに刑務所があることも拍車をかけているといえばいいのか、博物館は開館からそこまで月日が経っていないにもかかわらずそれなりに人がいる。入場料が無料である、というのは大きいだろう。地下の第五研究所を隠すためのもの且つアメストリスという国への愛国心を育てるためのものなので、国から援助が出ているのは当然の話。
そんな中央犯罪博物館で働くのが錬金術師ではない軍人の六名。
その内の一人に──彼女を選出させてもらった。
「あ、おはようございます! クラクトハイト所長!」
「おはよう、シェスカ」
シェスカ。
本来であれば中央国立図書館第一分館勤めである彼女だけど、僕が無理矢理引っ張って来た。本が好きらしいけどホラ、好きなことはやらせてあげて、やってほしいことはやってもらって。
その瞬間記憶能力は正直すさまじいスキルだし、且つ厄介過ぎるスキルなのだ。賢者の石の研究云々が僕の手に渡っている以上、ティム・マルコー医師が何を研究しているのかがいまいちつかめていない。
原作通りのことだけがわかるのなら別に良いんだけど、それ以外のことを覚えていられると──最悪、エド達がシェスカを訪ねてきた時点で国土錬成陣にまで行きつかれる可能性が出てくる。
何故それを僕が「厄介だ」と思うかに関しては後々述べるとして。
勿論厄介だから、って理由だけで彼女を引き抜いたわけじゃない。僕が彼女に頼んでいるのが。
「シェスカ、今日はこれをお願いできるかな」
「はい! 写本ですね!」
「うん。いつもと同じで、渡している本にね」
「お任せください!」
──写本である。
瞬間記憶能力を持っているからと言って、五日間であの量を写し、しかも他人が読んでも何ら問題ないほど綺麗な字で起こせるのは稀有な才能だ。
写してもらうのは──僕の研究日誌。
幼き頃より使っている、ポケベル語で書かれた僕の研究日誌である。
「写本が終わるか、定時になったら上がっていいから、お願いね」
「はーい!」
ま、要するにダミーだ。
エド達が僕の研究日誌に辿り着いた時用のダミー。ダミーにして──暗号文でもある。別に僕彼らと敵対する気ないしね。
そんなわけで、シェスカはそこそこの高給取りになっている。仕事を早く終わらせれば休み時間が増え、残業もなく、仕事自体も数字を本として書き写すだけな作業。一字一句間違えずに覚えているということは、一字一句書き間違えないということでもある。少なくとも原作のエドの様子を見るに、だけど。
逸材過ぎる。なんで誰も眼をつけなかった。なんで特技として書かなかった。まぁ今のアメストリス軍にそれで志望すると「余計なことまで覚えられてしまいかねない」とか思われて消されそうだからそれでよかったのかもしれないけど。
という感じで、展示物の管理を行う軍人二人、館内の案内をする軍人三人、シェスカ一人の計六人が地上の第五研究所を回している。
人柄のわかっているマリア・ロス少尉とかも入れようか迷ったんだけど、そうなると別の誰かがマスタング大佐に焼かれたフリをしてうんぬんかんぬんになり……とかって、色々考えるのが面倒だったのでやめた。
別にマリア・ロス少尉に際立った才能無いし。
「あ、そうだクラクトハイト所長」
「うん?」
「昨日の17時6分頃なんですけど、白いスーツを着た方が来て、このメモを所長に渡してほしいと」
「ああ、ありがとう」
なんで白スーツ着てるんだアイツ。軍服着てないとテロリスト狩っても民間人に間違われるじゃん。
とか思いながら、メモを開けば。
……溜め息。
指定の場所に向かうことにする。
「これ、中身見た?」
「いえ! 私信の中身を見るような真似はしません!」
「良い人だね。ありがとう」
メモを分解する。
焼くと復元できる可能性があるから砂粒レベルにバラバラにして風に流す。
さて。
呼び出しか。
一応、用心していこうかな。
そこは──喫茶店だった。
喫茶店だった。
喫茶店だった。
……似合わな。
「ああ、ようやく来ましたか。全く、昨日のうちに渡したというのに、仕事熱心なことですね」
「でも君昨日から待ってたわけじゃないでしょ。僕が今日来ることを予見して、今日、なんならさっき来たばかりだね」
「どうしてそう思うのです?」
「注文したコーヒーがまだ来てないから」
「流石、ご慧眼恐れ入ります」
心にもないことを。
それで──えーと?
「久しぶりだね、アームストロング中佐」
「ええ、お久しぶりですクラクトハイト少将。しかし吾輩、まさかキンブリー大佐から茶会に呼ばれるなど思ってもみませんでした。少将はどうですかな?」
「僕も同感だよ。何より──」
目を向ける。
白スーツでも筋肉でもなく、対面に座る男性に。
「……俺がいるのが、意外か。だろうな」
「うん。軍を抜けて反体制派ゲリラにでもなっているんじゃないかと思ってたから」
「あまりバカにするな。──なるとしても、少将以上専門のシリアルキラーだ」
「そうかい。大変だねアームストロング中佐。お姉さんが狙われているよ」
「むむぅ、姉を狙うのはよした方がよいかと……」
アイザック・マクドゥーガル少佐。
中央病院の精神病棟にいるはずの彼が、そこにいた。
退院&退役祝い、らしい。
「ああ、じゃあホントに軍やめるんだ。折角国家錬金術師になったのに。適当に成果物出して置けばジャンジャンお金貰えるのに」
「金のために国家錬金術師になったわけじゃない。……言っておくが、今更アンタを否定する気はないんだ。だからその微妙な殺気を抑えろ、少将」
「ああ漏れてたか。そういう所甘いよね僕。交渉慣れしてないっていうかさ」
「貴方は交渉慣れしていないのではなく手段が直接的過ぎるだけです。情報規制するのであれば緘口令を敷くのではなく目撃者を全員消せばいい。何かを守るのなら四六時中そばにいるのではなく外敵を全て滅ぼせばいい。迂遠な回り道をするくらいなら最も効率のいい直接的な手段を選ぶ」
「ふむ、言われてみれば、アエルゴへの攻撃を終えた後もそうでしたな。確か……青の団でしたか? 結成直後の過激派組織が近くにいるということで、本来であれば聞き込みや足取りの調査を行う所を」
「"上空から見下ろしてそれっぽいのを強襲すればいい。違ったらごめんなさいじゃダメ?"だったか。今考えてもアホだな、アンタ」
……なんだこの同窓会。
マスタング大佐がいないのがアレだけど、別にいても同じ空気にはなっていたんだろう。というよりマクドゥーガル少佐はホントどうしちゃったの。僕を告発するんじゃなかったの。殺したいんじゃなかったの。なんでこんなゆったりお茶会できるの。
別にいいよ僕の昔話は。勝手にしてくれていいよ。今でも僕は同じ手段を取るし。アームストロング中佐の錬金術で高度確保して、それっぽいトコにぶっ飛んでいってそっから考えたらいい。効率的じゃん。町を更地にすればいいよ、って言わなかった僕を褒めて欲しいくらいだ。
まただ。
なんか、居心地が悪い。もしかして僕こういう和やかな空気苦手なのかな。お父さんとお母さんと一緒にいる時はそれでもいいけど、他人といる時はギスギスしてる方がやりやすい。
「でも、どうしようか。僕退役祝いとか何も……持ってないし、上げられるものもないし」
「不要だ。アンタから貰ったものなんて、棄てたら呪われそうだし使えば大惨事を引き起こしそうで処分ができん」
「まぁ否定はしないよ。三日間は油断しないことだ。そして三日経ったらカウロイ湖にでも投げ入れた方がいいね。何が起きるかわからないから」
「否定しろよ。元部下の退院祝いにンな物騒なもん押し付けるんじゃねえ」
「じゃあ聞くけどキンブリー。君なら何を贈る?」
「ふむ。カチカチと音の鳴る時限爆弾……分解をしてもそのものを棄てても常に耳にカウントダウンの音が聞こえ続ける、そんな代物を」
「敵か? 敵だなお前ら」
「吾輩はマトモですぞ。なんなら今差し上げましょう。これが! 吾輩の! 彫像!」
「お前のが一番要らないんだよ」
何だ、この時間は。
何を見せられているのか。何をさせられているのか。
キンブリーに渡すもの渡して帰っちゃダメなのか。僕はまだやることがあるんだけど。君達暇人と違って。
「──さて、クラクトハイト少将がそろそろ痺れを切らす頃なので、本題に入りましょうか」
「本題があるなら先に話してほしかったな。それが終わってから退役祝いでも退院祝いでもあげたらよかった」
「相変わらず余裕がないな、アンタ。子供のくせに生き急ぎすぎだろ。どこ目指してんだ」
「勿論世界平和だけど。恒久的な、ね」
「はいはい。戦時中何度も聞いたよそりゃ」
嘘じゃない。本気で目指してる。
そのためにアメストリスを超大国にするのだし、テロリストを根絶やしにするんだ。そうじゃないとお父さんとお母さんを守れないから。
……けど、心に余裕がないのは確かかもしれない。
焦りがあるのは事実なのだ。
約束の日はあと六年もしたら来る。お父様は二億六千二百一万の賢者の石でかなり若返った。対抗策は幾つも講じているし、進行形でいくつも作っているけれど、どれが通じてどれが通じないのかは未知数。
世界征服にだって懸念点がある。シンという大国が待ち構えているのだ。
当然だけど、あの国で一番強いのがヤオ家とメイ・チャン、ってわけじゃない。もっと強い人は沢山いるだろうし、錬丹術のもっともっと凄い使い方をしている人もいるはず。
錬丹術で負けるのなら、僕に残されているものなんか遅延錬成とサンチェゴだけ。そして身体能力で完全に劣るのなら──負ける。負ける。
今の状態のままアメストリスとシンがぶつかった場合、シンに軍配が上がる計算しかできない。
焦りもするだろう。だってこのままいけば、ホムンクルスやお父様との戦いでさらにアメストリスの国力は削れる。疲弊するんだ。隣国三つを消費できたのは僥倖だったけど、疲弊したアメストリスではシンの侵攻を防ぎきれない。
だから僕が、誰でもが使い得る兵器を作らないと。それで兵士を戦わせて、軍事力を底上げに底上げをしないと。愛国心を高めて、アメストリスを命に代えてでも守るような兵を作り上げないと。
焦らないはずがない。
「──レムノス・クラクトハイト」
冷や水を浴びせられる。
……文字通り、だ。マクドゥーガル少佐がコーヒーの水分を冷やして僕にぶつけたらしい。
「言ったでしょう、マクドゥーガル少佐。少将は
「……らしいな。勘違いをしていたことは認める。やり方に難はあれど、アンタも国を想う一人なんだと」
「はいはい、美談はそこまでです。少将の面持ちから何を察するのも結構ですが、本題を話してもよろしいでしょうか? 時間も限られていることですし」
「ん、うん。いいよ。なに?」
次に紡がれた言葉は──僕の思考を一気に冷えさせるものだった。
「南部でSAGを見ました。その時は逃げられてしまいましたが、恐らく複数人いるものであると推測されます。──潰すの、手伝っていただけませんか」
*
ドラクマ戦にいなかったマクドゥーガル少佐にSAGのことを説明しながらの汽車の旅。
ちゃんと手続きをして、ちゃんと研究所のみんなにいろんな言伝を渡して、そうしてからの汽車。
南部行は久しぶりに乗る。アエルゴ以来だから。
「マスタングは呼ばなくて良かったのか?」
「彼、今中央にいませんから。東方司令部に栄転ですよ」
「そりゃ左遷だろ。……アイツも清濁併せ吞めない奴だからなぁ。上の連中に逆らいでもしたか」
「純粋な方ですが、世渡りも上手であるかと。恐らく折り合いが悪かっただけかと……」
隣に座るキンブリーのポッケにあるものを入れる。
今回欲しがってたものだ。なんでもそろそろ使い切りそうだったらしい。どんだけ使ってんだか。使い過ぎでしょ。
「しっかし……」
「……なんです?」
「いや? あのキンブリーが俺達に助けを求めるとか、面白いこともあるもんだなと思ってな」
「SAG側も私達の錬金術への対策をしている可能性がありますからね。あの時いなかった貴方は丁度良かったんですよ」
「むぅう、SAG。吾輩も辛酸を舐めさせられた相手ですが、よもや南部にまで入り込んでいようとは……」
「ちなみに被害は?」
「憲兵が一人殺されています。背後から刀らしきもので刺された後、焼き焦がされていた、と」
アレか。
あのハーフヴァング大佐とかいうのが使ってたやつ。スーツ一体型の武器で、スーツの裏地にはびっしりと錬成陣が描かれていた。アレは謂わば僕のサンチェゴの簡易劣化版なんだと思う。あらかじめ刻んでおいた錬成陣を、並外れた反応速度で戦闘中にどれを使うか選択し、錬成エネルギーを纏った刀で斬る。
錬成速度の遅い僕には使えない武器だけど、真理を見た錬金術師ならお茶の子さいさいだろう。
……アレが一人。多く見積もって十人いるとしたら、それは大変な事だけど。
「少将? 降りますよ」
「え? あ、うん。あ、そんな近いトコなんだ」
「珍しい。聞いていなかったのですか? SAGが目撃された場所は──」
南部はダブリス。
廃工業地帯ですよ。
そう、聞いた。