竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
南部はダブリス、廃工業地帯。なんでここが廃工業地帯になったかっていうと、原作ではイシュヴァール戦役によって乱造された兵器工場……だったはずだけど、此度では僕のせいだ。戦争しまくったから、錬成兵器工場が乱立していて、けれど一瞬で終わらせちゃったから全部が廃棄されて。
だから廃工業地帯は原作より広くなっているし、工場の中には錬金術関連の物質も多い。始末不足というよりは廃棄ができないのだ。できないほど危ないというか、錬金術師じゃないと触れないというか。
さて、現在僕は一人である。
一人──普通僕が一人になることは無いんだけど、作戦の一環で一人になった。
周囲で鳴り響く爆発音はSAGとキンブリー達のもの。僕が任されているのは工場内部──つまり敵陣のど真ん中で陣地作成をしろ、ってことなんだけど。
「よぉ」
ぶしゃっと。
潜伏していたSAGの一人が、胸を背後から貫かれて絶命する。
血に濡れた爪。鋼鉄の──鋭い爪。
ダブリスと聞いていたんだ。いるとは思っていたけれど。
「アンタが、親父殿に餌与えまくったっつー竜頭の錬金術師──で、あってるか?」
「あっているけれど、まずは名を名乗ってくれるかな」
「グリードだ。弟たちが世話になってるみたいなんで、俺様ともよろしくしてくれねぇか?」
ホムンクルス・グリードがそこにいた。
まだ場は移していない。
サンチェゴはここに設置してあるし、他の仕込みも終わっている。SAGが乗り込んでくることを見越しての罠の数々は、けれど顔以外を硬化したグリードに弾かれて消えている。
「なんだ、警戒心MAXって感じだが」
「そりゃね。そんな物騒な手見せられて警戒心抱かない方がおかしいでしょ」
「そうかぁ? その割には物騒なモンちらつかせてんじゃねえか。──なんだよ、やる気かよ」
「ホムンクルスと争う理由が見つからない。お父様とプライド、ラースから話は聞いているよ、グリード。幾つになっても手が焼けるとかなんとか」
「がっはっは、いっちょ前に親父面してやがんのか親父殿め」
僕の勝率は、ぶっちゃけ低い。
遠隔錬成、サンチェゴ。彼を拘束する手段は数多くあれど、彼を殺し得る手段はそこまで存在しない。ホムンクルスに賢石錬成が効くとも思えないし、鎖がその身を通るとも思えない。エドの方法を真似て脆くした上で攻撃する──か。
普通に仲良くするか。
「それで、何用かと問うているよ、グリード」
「用なんかねぇよ。ちぃっとばかし顔見たかっただけだ。親父殿のお気に入りなんざこれまでもこれからもそうみられるもんじゃねえからな」
「そうかい。それじゃあ、少し手伝ってほしいことがあるんだけど」
ジリ、と竜頭を巻く。
錬成反応は青。周囲の壁から出てきた鎖が四つ、まっすぐこのフロアの壁へと突き刺さる。
それが、バチバチと音を立てて分解された。
「あん?」
「やっぱりただの鉄じゃダメか。もう見抜かれている──四人はキツいから、グリード、背中は任せたよ」
「……がっはっは、いいぜ。初対面だが俺様の背中預けてやる。んで、こいつらはなんだ」
「SAG。特殊錬金術師部隊。ドラクマで結成された錬金術師のみで構成された部隊で」
「敵か、味方か」
「敵だよ。アメストリスにとっても、ホムンクルスにとっても」
「それで十分だ!」
黒く変色するグリードの両腕。鋭い爪はゆらりと光り、先ほど鎖が向かった壁へ向かって突き出される。腕は、手は、いとも容易くコンクリートの壁を貫き、その奥で構えていたSAGの一人の顔を掴んでぐしゃりと潰した。
ジリリリと大きく竜頭を巻く。
錬成されるのは大砲。グラン准将の鉄血の錬金術、その内の一つを真似たもの。
自身の前に壁を作りつつ、壁へと向けて発砲。がうん、なんて優しい音では済まないそれを耳にして鼓膜に痛みを覚えながら、もう一度竜頭を触る──。
触れない。
SAGの蹴りが来たからだ。けれど、久方ぶりの疑似・全身硬化でこれを耐える。耐えるも蹴っ飛ばされてサンチェゴから離された。
置きっ放しになった竜頭をSAGが掴む。
瞬間、SAGの両腕が
「──真理を見ているから、僕のサンチェゴも扱える。良い発想だ。安直であることを除けばね」
割込錬成だ。まさか
さて、腕のない真理を見た錬金術師など足の無いダチョウに同じ。鎖で蹴りを封じ、その身体の中心に竜頭をぶっ刺して、捩じる。
硬直し、失血していくSAG。過畳生体錬成だ。固まった筋肉は再生と破壊を繰り返し、ばたりと体を倒す。
顔を上げれば、グリードがもう一人を殺しているところだった。
「なんだ、手伝えと言った割には手応えの無い敵──」
「グリード、後ろ」
「!」
ザク、と。
錬成反応迸る刀で──グリードの左胸が穿たれる。
そのまま左肺を割断する形で刀を横に薙いで、さらにはグリードをこちらに蹴飛ばしたのは──やはりSAG。刀とスーツの一体化した装備を持つ奴だ。
「……あー? なんだ、なんで俺様は斬られたんだ?」
「なんだと!?」
「油断してたからだよ」
なんでもなく、なんということもなく普通に話すグリードに流石に驚いたのだろう、SAGは大きく後退し、刀を構え直す。
しかしグリードの仕組みが炭素硬化であると瞬時に見抜くとは、流石と言えるだろう。
グリードもグリードでバチバチと赤い錬成反応を立てながらSAGへと向き直った。
「……オイ、背中預けたんだろ。何か知ってんなら話せよ」
「遠慮するよ。君が敵にならないとは限らないし」
「がっはっは、背中預けるべきじゃねぇ奴No.1だなお前」
「なら、せめて僕が前に出るよ。あの刀を無効化するから、君は止めを」
「へぇ、勝機があんのか」
「勿論」
手と手を合わせる。
合わせて、右手を何か握るような形にして、左掌からソレを抜き出す。
赤い。赤い。赤い。
──紅い刀身。子供が持つ用の大きさの、取り回しの利きやすい形。
SAGの刀身一体スーツから着想を得た僕の新しい戦術。
無言で踏み込んで、適当に振るう。技術もへったくれもない刀捌きだけど、しっかりと身体は狙っている。だからSAGはそれを──刀で受け止めた。避けるまでもない、弾けば隙になると考えたのだろう。
大正解だ。それをしてほしかったから、大正解。
溶ける。
SAGの刀身が赤い錬成反応と共に溶け出す。
「──!」
「ハハハ!」
その隙を逃すグリードではない。
攻撃手段を失くしたSAGの喉を突き刺し、突き破り、絶命させる。
血に濡れた爪。それをそのままに僕へ振って来たから、紅剣で受け止める。
「……やっぱりか。がっはっは、俺様の爪に打ち勝つ存在。その赤、見覚えがあると思ったら道理で」
刀を引く。同時、グリードも爪を引いた。
出した時と同じように刀身を左手に突き刺して行けば、染みわたるようにして消えていく赤。
「名付けるのならさしずめ"剣石錬成"と言ったところかな」
さて、外の爆発音他戦闘音も止んだ。
終わったらしい。
外は、だ。
「こっからだよなぁ、楽しいのは」
「確認できるだけで八人いるね。僕できればこの場から動きたくないんだけど、襲ってくるのを待つんじゃあ」
「日が暮れる、ってな!」
サンチェゴを高速で稼働させる。角度を垂直方向から水平方向へと押し上げ、過剰な思念エネルギーを供給。作られゆく二つ目、三つ目、四つ目のサンチェゴと共に、変換された錬成エネルギーが何を為すこともなく廃工業地帯に満ち始める。
「何やる気かは知らねえが、先行くぞ錬金術師!」
「うん。できるだけ巻き込まないように注意するよ」
まず、大穴を開ける。天井に向かって分解の錬成エネルギーをぶち当てて、二階上で潜伏していた三名を落とす。落としつつ合金の槍を生やしてグサグサグサ。
──ん、身代わり? 一人血を流していない。いや、普通に人間だけど、血を流していないってことは。
「う、わ!?」
思わず声が出る。
出るだろうそれは。槍をぶっ刺した死体が、いきなりハリセンボンみたいにトゲだらけになったんだから。赤い──血液の槍。
成程、僕の感圧式錬成陣と原理は同じだ。つまり、心臓が止まったら発動するようにしてあった錬成陣。自らの死ですら無駄にしない姿勢は褒められて然るべきだろう。戦時中なら。
ま、当たらなかったら無駄だけどね。無駄死にじゃないだけ良かったんじゃない? 少なくとも僕は驚いたよ。
サンチェゴ四基からさらに錬成エネルギーを出していく。そしてそれの下を潜るように思念エネルギーも。
思念急流。周辺一帯の錬金術を押し流していく。あくまで方向性のある錬金術を押し流す錬丹術なので、たとえばキンブリーの定点爆破とかにはあんまり関係なかったりする。
起こしていく。
一度水平方向に起き上がらせたサンチェゴを、今度は地上に向かって垂直になるように立ち上がらせる。
グリード。ホムンクルスで、最強の盾を持っているんだ。
一回くらいは誤射だってホムンクルス相手なら通じるよね。巻き込まないよう注意するのはできるだけだから──できなかったら、仕方がない!
思念急流はあくまで大地の流れに思念エネルギーを流すというものだった。
けれどこれは、サンチェゴが垂直方向だから──あるいは吐き出す、という表現を使うべきもの。この廃工業地帯にある錬成物や錬成素材、その全てを飲み込み、コンクリートも鉄パイプも砂も土も石も埃も巻き込んでいく──思念エネルギーと錬成エネルギーの濁流。
「僕はこれを、思念濁流と名付けることにした。ではSAG諸君、自らが錬金術師であることを呪うと良い。一般人なら圧さえ感じないものだからね」
放出する。
その濁流には勿論錬成物であるグリードも巻き込まれ──。
*
「あー、雑」
「おかえり。でも一掃できたでしょ?」
「この辺は良い隠れ家になる場所も多かったんだがな。全部ぶっ壊してくれやがって」
言葉を交わす。
二、三だ。
「そろそろ僕の仲間が来ちゃうから、ほら、どっか行ってよね」
「錬金術師は等価交換が原則なんじゃねぇのか? 特に関係もねぇのに手伝ってやった俺様への報酬は無いのかよ」
「何が欲しいの?」
「全部だよ全部。
「ふむ。──じゃあこれあげる」
ソレを投げ渡す。
グリードはキャッチしたものを見て──目を瞠ったように見えた。ニヤリと笑う彼の表情を見るに、気に入ってはくれたらしい。
「んじゃあな、錬金術師。俺様はデビルズネストっつー酒場にいるからよ、暇があったら立ち寄れよ」
「残念ながら暇という言葉から最も遠い所にいるのが僕なんだ。だから、訪れることがあるとしたらこの惑星にある国全てを統一した時か、アメストリス以外を滅ぼしたその時になるだろうね」
「んだよそりゃ。もう来ないって言ってるようなもんじゃねえか」
実現不可だから、って?
まさか。全部やるつもりで言ってるよ。
背を向け、手を振り。
グリードは瓦礫の山となった廃工業地帯の向こうへと消えていく。
入れ替わるようにして歩いてくるのは三人だ。
「派手にやりましたねえ」
「軍も処理に困ってたっぽいからね。掃除してあげようと思って」
「なんだよアンタ、やりゃできるんじゃねえか。あんな奇特な錬金術使わずとも、こればっか使ってりゃ俺だって離反しなかったぜ」
「ドラクマで開発した奴だからね。君がドラクマまでついてきてくれていたらよかったんだけど」
損害は……軽微というか、全員無傷。
SAGの中でも弱い方だったというか、雪のない場所でのゲリラ戦は慣れないのかな、とか思ったり。
「指揮官らしい指揮官がいませんでしたからね。それが一番大きいでしょう」
「この程度ならお前一人で良かったんじゃないか?」
「あまり舐めるのはよろしくないですぞマクドゥーガル少佐。ああいえ、アイザック殿、と呼んだ方がよろしいか」
「どうでもいい話だ。──まぁ、これが最後だ。キンブリー、お前からの依頼は達成した。俺はこれで帰らせてもらう。もう会うこともないだろうが、一応言っておくぞ。達者で……いや、お前らは達者じゃない方が良いか。アームストロング、お前だけは達者でな。マスタングにもよろしく言っておいてくれ」
キンブリーに目を向ける。
肩を竦めるキンブリー。全員達者でな、でいいじゃんかねぇ。
「けど、本当に吾輩達は要らなかったかもしれませんな。キンブリー大佐、何を脅威に思われたので?」
「……おかしいですね。私が調べた時は二十人近いSAGがいたのですが」
グリードが中にいた奴全部殺してくれたからね。
彼がいなかったらもっともっと苦戦していたことだろう。苦戦というか、時間がかかってたね。そして時間がかかってたら誰か一人くらい逃げてたかもしれない。
復讐の芽を摘むという点においては感謝か。
「私はもう少し南部でテロリストを探しますが……」
「僕は中央に戻るよ。アームストロング中佐、君は」
「吾輩も中央に戻ります。キンブリー大佐、お元気で」
「ええ。少将から新たなブツも貰ったので、元気にやらせていただきますよ」
「?」
そんな感じで。
クラクトハイト隊の同窓会は、むしろグリードとの出会いという思い出に塗り潰される形で終わりを告げたのだった。