竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
錬金術の中でも先日僕が使った再構築は「整形」という分類に分別される。あ、美容のそれじゃなくてね。再構築の中のジャンルは「整形」、「成形」、「成型」と種類があって、まず「整形」は「元の物質から組成を変えずに形を変えるもの」を指す。錬金術師によっては「変成」って呼ぶ人もいるけど、それはキメラの分野で使われることが多くて混同しやすいので、とりあえず覚えておくべきは「整形」でいいらしい。
次に「成形」。日本語だとややこしいけど、「整形(Shaping)」と「成形(Modifing)」の違い、って感じかな。「成形」は「元の物質を錬成して形を変えること」。作中で行われているほとんどの錬金術がこれ。槍を作ったり剣を作ったり、兵器そのものを作ったりする奴。
そして最後に「成型」。これはMoldingを意味する。成形と似ているんだけど、違いは「元の物質を錬成して定められた通りの形に変えること」。つまり、錬成陣にあらかじめ何を作るかテンプレートを組み込んでいて、それを作るのが「成型」だ。
難度順に並べるなら、「整形」≦「成型」<「成形」となる。
錬成時の思念、つまり想像力がどれくらい必要か、というところがポイントで、「整形」はそれこそ粘土みたいに考えればいいのでやりやすい。ただし強度に難あり。形状に関しては術者次第なのでなんとも。そこは全部一緒だ。
その点「成型」はあらかじめ形状が決まっているから余計な思考リソースを割かなくて済むのがメリット。その割かなくて良くなった分を耐久性や錬成速度に割り振れるので、この形式を使っている錬金術師が一番多い。エドの機械鎧の小剣とか、バスク・グラン准将の兵器群とかね。
思考リソースも多く必要で、且つ形状の決まっていないものを自由に、けれど完璧に想像しなければいけないのが「成形」。その深奥を調べたわけではないけれど、マスタング大佐の焔やキンブリーの紅蓮、あとマルコーさんもそうだと思う。
真理を見た錬金術師たちも同じだね。エドの小剣はあらかじめ型を作ってあるだろうけど、それ以外のアドリブは全部「成形」だ。
それで、ここまで長々と述べたけれど、この中で僕に一番合っているものが何か、っていう話をしたかった。
とりあえず全部試してはみたんだ。
まず「整形」。先日やったように粘土を棒状にする、は成功した。他にも岩から円柱状の棒を引き摺りだすとか、コンクリートから同じく円柱を取り出すとか、色々できた。
……ものの、これじゃあ戦えない。
いや、まだ僕は造形……形状をもっともっと変えるような錬金術を覚えていないから、これでもいいのかもしれないけど、たとえば作中でエドが鉄パイプからナイフを作っていたような事が僕にできるように思えない。
はっきり言って僕の思考速度は遅い。比較対象が漫画で見た国家錬金術師……つまり超エリートだから、というのも勿論あるんだろうけれど、目下の目標であるイシュヴァール戦役に間に合わせるためにはこれじゃあだめだ。ダメすぎる。
錬成陣を描き、必要な文字を描いて引き抜いて、けれど耐久性は低いまま……なんて。
武器として役に立たな過ぎる。
逆に自由度が限りなくある「成形」もダメだ。逆にというか同じように、だね。
思考速度が遅いから、錬成内容を考えながら形状を考えながら……みたいなのができない。お父さんは「どこを目指しているんだレミー」って言って来たけど、うん、確かに錬金術覚えたての見習い錬金術師が挫折するところじゃないのもわかってる。
けど、足りない。
僕に今必要なのは実用性だ。
そうなると、やっぱり初めから型があって、他の事に思考リソースを割ける「成型」の錬金術が一番合っている、ということになる。
「そこで僕は考えたんです、お父さん」
「おお、ちょっと……待って、くれないか。ジョギング……息が、切れ」
「判子、って……ダメなんですか?」
「はんこ?」
判子。スタンプ。
いや、鋼の錬金術師内にいないなぁ、とは思っていたんだ。
ジョギング後で息も切れ切れなお父さんの前に、練習用の石を置く。
それに、今朝自分でちまちま「整形」した印鑑くらい小さな判子をペタっと押して。そのまま錬金術を発動! 判子を引き抜きながら、錬成反応を光らせて石の棒が──いいや、先端の尖った小さな槍のようなものが抜かれていくではありませんか!
「おお……」
「どう?」
「……文句はないよ。ただ、その判子を落とした時や、こういう地面……上手くインクの付かないものが素材の場合はどうするんだ?」
「落とした時は予備で、あとすぐに判子も錬成できるように錬成陣を覚えてる。上手くインクの付かないものは」
まだ一部が残っている石を持ちあげて──地面にドン! と叩きつける。
その先端が地面にめり込んでいることを感触で確認しつつ、違う判子を石へと押し付けて、発動させる。
錬成光。
……ただ錬成速度はちょっと遅め。土を錬成対象にするのちょっと難しいんだよね。利用用途があんまりないっていうか。
だからこうやって──めきょっと地面を陥没させる、くらいしか僕には考えつかなかった。
現状の僕が使える引き抜き以外の錬成。まぁこれも地面を下から引き抜いている、って感じのイメージなんだけど。
「40点だな」
「やっぱり?」
「その様子だと、問題点はわかっているな?」
「そりゃ勿論。結局判子を押せるものがないと何の意味もないってことと、この穴があんまり深くないこと」
「70点だ」
「え」
「その判子を押す動き、見極められやすいからな。……レミーがどこを目指しているのかは知らないが、手を蹴り飛ばされたりしたら危ないし、どうしても判子を見てしまっているのも減点だ。そうじゃなきゃまだイメージを送れないんだろうが……」
「あー」
確かに。
かなり俯いちゃってるな。
これだと危なすぎる。
「それに、言っちゃあなんだが」
「手に入れ墨彫った方が早い?」
「入れ墨とは言わないまでも、手袋とかをした方が早いのは事実だろう」
おお。
やっぱりお父さんもそこに辿り着くんだ。
そう、別にインクなんてつかなくてもいいんだ。 粘土の時を思い出してほしい。別に粘土に錬成陣が刻まれたわけでもないのに、錬成陣の発動した紙に粘土はくっついてきた。
接触する側に錬成陣があればいい。そして僕の正円を描くスタイル。
「ではお父さん、これを見てください」
「ん、まだ何かあるのか」
「うん。僕も今のお父さんと同じところまで行ってね、それで、街で軍手を買ってきて、こういうのを作ってみたんだ」
こういうの。
それは、各指の先に半円がそれぞれ描かれた軍手。親指のところだけが下弦の月というか下側の半円で、他の指は上側の半円。
描いてある錬成陣は、親指のものが「上向き三角(△)」、「正方形に十字(王)」、そして「鍵(栄)」。
これに対し、親指以外の四指には「素質」……土、水、火、空気の錬成陣が刻まれている。
つまり、これを手に嵌めて、地面を触って……抓むような動作をすれば。
「ほお」
今使ったのは粘土と同じ、乾湿を用いた「成型」。出来上がるのは……まぁ、泥団子の楕円型みたいなやつ。別に何を作ろうと思ってたわけじゃないからね。何とも言えないものが出来上がった。
「軍手の粗い目だからちょっと精度は低いけど、お金を貯めて良い手袋買って、ってやるつもり」
「いいじゃないか。別に推奨するわけじゃないが、国家錬金術師を目指せるぞ。そのオリジナリティは……って、なんだその渋い顔は。どうしたレミー」
国家錬金術師。
いや。
そうなんだよなぁ、って。……国家錬金術師にならないと、イシュヴァール戦役に呼ばれない。
お母さんの錬金術が攻撃性のあるものでもそうでなくても、お父さんが呼ばれる可能性は大いにある。
でも取ったら目をつけられる。
取らなかったら……流石に一般人は入れない。入ったらイシュヴァール人諸共射殺も全然あり得る。
悩み。
「……なりたいのか? 国家錬金術師」
「なりたくないけど、ならざるを得ない……というか」
「なんだ、街の奴らに何か言われたか? レミー、いいんだぞ。母さんが国家錬金術師だからって、お前までそうなる必要はないんだ」
そうじゃない。
まだ1899年。イシュヴァール戦役まであと2年ある。ある、とはいえ……とはいえ、過ぎる。
僕はまだ幼い、という形容詞の域を出ない年齢だ。田舎だから、学校に通っていない。だから言葉も最近覚えた(ということになっている)くらいの幼さ。
そんな奴を戦場に向かわせるには、相当な強さが必要だと思う。倫理観が子供を戦場に送ること、より身の安全のために化け物を送り出すことで勝るような、そんな強さが。
もし、もしも。
原作開始時のエドワード・エルリックがイシュヴァール殲滅戦開始時にいたら、どうだっただろうか。
……絶対投入されていた。15歳という若さでも、十二分な強さを持っていたから。だって上は倫理観なんか欠片もない外道共で……いや、だから……僕くらいでも行けるには行ける、のか?
強ささえ見せつけることができたら。
「……」
思念を強くする。
地面に指を当てて、考える。土壌中に含まれる鉄……酸化鉄なんかも含めたあらゆる鉄分を考える。
……無理だなぁ。完全に勘になっちゃう。それだとリバウンドが怖い。
なら発想を変えよう。余計なものを取り除くんだ。ケイ素、アルミニウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム。これらを除去する。全部押し出しだ。
それによっておこるのは、土埃。風に巻き上げられたかのように高く上る土。やっていることはただの分解だから、再構築の必要もない簡単な錬金術。
そうして残るのが鉄。
本当はニッケルも欲しかったんだけど、今の僕じゃ「成形」はできないので妥協。
鉄を材料に、乾湿を使って作り上げていくのは──刃だ。物凄く疲れる。今まで棒しか作ってこなかった僕が、複雑ではないとはいえ、全く違う形状のものを作らんとしている。
20秒。
今の錬成にかかった時間だ。実戦における20秒なんか隙でしかない。
けど──完成はした。
抜いて、土埃を切り払う。
「……レミー」
「できた……けど、これじゃ」
「こら! 新しい物を作るときは俺に言えって言っただろう! リバウンドは本当に怖いものなんだぞ!!」
う。
……その通りでございます。
「ごめんなさい」
「できると思っても、まず確認だ。お前はまだ幼いんだから、大人にとっては小さな怪我だったとしても、子供の身には大怪我、なんてこともあるかもしれない」
「うん」
「それに、お前、気付いているか? ──自分が息切れしていること」
本当、だった。
僕は今、息切れしている。別に錬成中息を止めていた、とかではないのに、だ。
汗を拭う。……暑くもないのに、かなり汗をかいていた。
くらっとする頭に、作り出した剣を杖みたいに地面に刺して留まる。
留まる……ろうとして、それがボキッと折れたのがわかった。
倒れる前に、抱き留められる。
「ああ……」
「ああ、危ないな……今危なかったことは自覚しているな?」
「うん、本当にごめんなさい」
もし、僕からもっと気力が抜けていて、折れた刃の上に倒れていたらと思うと──ぞっとしない。
慣れ。
慣れていないんだ。だから必要以上の思考リソースを使った。剣を錬成する、なんて押し出しと引き抜き以外も使っている。僕は今、足りない錬成陣と自分の脳内という外付け錬成陣で、そのほとんどを想像に委ねて錬成を行った。
なまじ知識で剣の鍛錬方法を知っていたのが仇になった。そして同時に、知識でしか知らなかったから、加減がわからずに脆くしてしまって、こんな簡単に折れた。
──経験が必要だ。
「お父さん」
「なんだ」
「お父さんは、軍人さん、だよね?」
「む……まぁ、そうだが」
「剣、教えてよ」
「……理由は?」
理由。
理由か。強くなりたい、じゃダメだろう。
「いじめられたか?」
「え?」
「街から帰ってきて、突然だ。……何か言われたか。喧嘩に負けたか? それで剣を……」
ああ。
そう見えるのか。
「ううん、そうじゃないよ。……その程度で剣を持ちだす程愚かになった覚えはない」
「そうか。じゃあなぜ?」
何故。
……別に、隠すことでもないんだろう。
何か……どこか後ろめたかったから、言わなかっただけだ。
「もうすぐ戦争が始まる」
「クレタとのことか? まぁ、こういう言い方は悪いが、あそこは常にドンパチやってる。父さんがいた頃も──」
「東部。イシュヴァール。……内乱が、始まる」
「……それは、誰からの情報だ。どこからの──」
わからない。
僕たちの事なんて見ていないと思いたい。考えていないと、把握していないと思いたい。
でも今、すべてが怪しく見えてきた。飛ぶ鳥も、眠る犬も──林からこちらをじっと見つめる鹿も。
「言えない」
「いや、言いなさい。事と次第によっては妄言じゃ済まないぞ」
アレ……そうだよね。
"そう"だよね。なんで? なんで僕たちなんか監視してるの?
「見られてる」
「ッ……なんだと?」
お父さんの良い所は、僕の言葉を子供の妄言として処理しないところだと思う。
僕に対して本気になって、真剣になって、親身になってくれる。
僕だったらこんな言葉厨二病かな? とかってなるけど──お父さんは。
「よし! レミー!! ──朝ご飯を食べようとりあえず!!」
「あ、あ、うん。そ、そうだね」
……演技はド下手だったけど。
いやいきなりすぎるでしょ。気のせいじゃなければあの鹿さんも噴き出しそうになってるよ。
「あ、庭の片付けは」
「あとでいい!!」
「う、うん」
もしかして大声出せば全部何とかなると思ってる?