竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
彼は自らをカリステムと名乗った。アルケミストのアナグラム。馬鹿にしているとしか思えない偽名。
提出してきた自らの経歴書には、ツッコミどころしかなかった。一点の曇りなく偽造書類。
正直な話をすると、偽造書類で入ってこようとした軍人はカリステム以外にも多くいた。
全員、ちゃんと、送り返したけれど。
背後にいるのは大体がお偉方。あと第三研究所から、というのもあった覚えがある。面接の時点で「報復に出ない理由を考えといてね(意訳)」と告げて返してからはアクションがないけれど、変わらずレイブン中将だけは僕とコンタクトを取りたがり続けている。
国防の話、なら喜んで受けるんだけどね。「良い話があるんだが」って来られて乗る人そうそういないでしょ。
話が逸れた。
そう、だから、それで。
おかしなことに──カリステムだけは背後に何も出てこなかった。
どれだけ洗っても、どれだけ探っても、何も出てこない。というよりアメストリス軍という歴史の中に突然湧いて出た、と言われた方がしっくりくるくらいの不自然さ。誰にも繋がっていないし、誰と知り合いでもない。偽造と不詳だらけの錬金術師。
ただ、一点。
わかりやすくわかるのは──。
「ああ、ああ、所長! どうですかどうですか──第一段階、段階、突破しましたしましたよ!!」
カリステム。
彼の錬金術師としての腕は、この第五研究所を見回しても突出して高い、ということである。
*
サジュ。
北西部の出身で、ドラクマやクレタの戦いには参加しなかったものの、実はイシュヴァール戦役にいたとか。僕には全く見覚えがないのだけど、それもそのはず僕が出て行った後の北東基地……つまりロックベル夫妻を説得した後のあの基地へ追加された軍医、だったそうだ。ああ、だから、夫妻を引き留めるために僕が来るのを遅らせた軍医ね。
そう、彼の生体錬成における深い知識は戦場で怪我人を治し続けた勲章であり、天使だなんだと騒いでいる割にかなり深いところまで錬金術を研究できている。
此度ミスを──原理の分からない生物を作ってしまった、というのは彼にあるまじき失態だけど、恐らく僕にあの天使を殺された瞬間から代案や修正案はその脳裏に浮かんでいたはずだ。処理も沙汰も覚悟していた上で、彼は何をどうすればいいか考えついていた。
死を覚悟した上で、自身の研究を第一に考えられる。研究者らしい行動であると同時に、どこか狂気を孕んだ行為であると言える。
経歴はしっかりしているし、背後に誰がいるということもないけれど──「キメラを自由に作っていい」の一点のみで入って来た彼には今後とも強い注意が必要だろう。
*
マンテイク兄妹。
出身はイーストシティで、東方司令部に兄妹で勤務していた。イシュヴァール戦役にも少しばかり関わっていたようだけど、最初の方だけで早々に帰ったとかなんとか。その後ユースウェルの方へ派遣され、特に何があるわけでもない鉱山で過ごす二年間は非常に退屈だったと兄妹どちらもが語っている。
そのままうだつが上がらない軍人生活を送るのかと世を嘆いていた所、妹のアンファミーユが僕の募集を見つけて、そのまま意気揚々と応募。面接に来た時も二人一緒にだったし、帰る時も面倒くさそうなオズワルドの腕をアンファミーユが掴んで歩く、という……まぁ、君達兄妹の一線超えてない? と思うような雰囲気の二人だった。
イチャラブイチャラブな二人だけど、一応東方司令部に勤務だったということで、グラマン中将にはお世話になったとか。繋がりと呼べるほど明確なものではないけれど、思想は煽りを受けているというべきか、どちらかというと平穏無事にコトが進めばそれで良い派。
危険なものや面倒くさそうなものには関わろうとしてこないけれど、興味のあるものや──悪い言い方をすると、僕からの評価の上がりそうな研究にはかなり食いついてくるイメージがある。
出世欲、とは少し違うのだろう。だって第五研究所でどんな成果上げたって特に出世できないし。
ならば物欲……金銭かとも思ったけど、それも違うらしい。
最近わかったことだけど、アンファミーユは捨てられることに過度な拒否反応を示す。僕の研究を手伝いたがるのはそこから来ているのだろう。ただし、兄のオズワルドはそういう反応を示すことなく、けれど食いついてくるから……ここも、ちょっと要注意。
*
イリス・カルコル。
中央南西にあるメリーエンという街出身。結婚歴があり、軍人ではない一般男性と結婚し、子を授かり──けれどどちらも亡くしている。
何故その二人が死んだのかは不明。まぁ一般人の死だ。軍には特に何かが残されていることもなかったし、実際にメリーエンに行って聞き込みまでしたけど、覚えている者は誰一人としていなかった。
歳は29だから、その事件がそこまで昔であるとは思えないんだけど、誰も知らない。
──隠蔽されたか、あるいは何かの実験で、と考えるのが普通だろう。
彼女の子供へのトラウマはこの事件から来るものだと容易に想像できるけれど、ああいうヒステリックな反応をするということは、目の前で子供が殺される、くらいはしていそうだな、と予想。夫が子供と心中したんじゃないかな、みたいな話は考えたけれど、真相は闇の中。
軍人としての彼女は実は少佐という高い位を持っている。錬金術師ではあるものの国家錬金術師ではないから、ちゃんと軍人として積み上げに積み上げてきて、少佐という地位を手にした努力家だ。
軍内部でもイリス・カルコルの名はそこそこ知られていて、特に「自らが怪我を負ってでも子供を守り通した」系のエピソードには事欠かない。軍というか憲兵に有名な女性だ。民間人を数多く守った軍人さん、なのである。
それがなんでこんな外道の集まりに、という疑問は面接時に解消されている。
──アメストリス以外の国は要らない、と。
強い……強い憎しみの籠った言葉だった。夫と子供の事件に他国が関わっていたのかどうかは知らないし、彼女が他国嫌いだという話は軍人からも憲兵からも聞かなかった。
これが僕に取り入るための嘘だとしたら、恐ろしいほどの演技力だ。思念エネルギーがこぼれ出るんじゃないかってほどの怨嗟がそこにはあったから。
というわけで、イリスもそれなりに要注意人物だ。思想の強さで言えば恐らく僕の上を行く。
ちなみに彼女と共にいる四名の職員は彼女が連れてきた者達だ。
それぞれに身辺調査はしたけれど、特にめぼしいものは見つからなかった。しいて言えば独身男性多めってことくらい。
*
みたいな話を、第五研究所の屋上でする。した。
「……なんというか、誰も彼も怪しいわねぇ」
「まーね。実力と熱量オンリーで選んだから変人だらけになるのは当然にしても、皆バックにお偉方がいな過ぎる。内通者はその場で処断する、が効き過ぎた、というのは楽観視だと思うけれど、ここまで無いと全員怪しく思えちゃう」
している相手は、ラスト。ホムンクルス、
そう、地下の錬金術師九人と、地上の職員五人。プラス僕で16人。でも第五研究所の所属人数は17人。
その最後の一人がラストなのだ。
ま、監視兼各所とのパイプって感じ。エンヴィーじゃないのは、エンヴィーの方が忙しいから。
「誰が裏切り者だと思う?」
「あら、裏切り者がいるのは確定?」
「僕の人生で、僕の隣を歩んだ者が裏切り者じゃなかったことがなかったからね。裏切り者じゃなかったら早々に死んでいた。それくらいには死に纏わりつかれているよ」
「クラクトハイト隊は?」
「アレは……まぁ、彼らは特別だよ。死なない理由がある」
原作キャラの加護みたいなものがあるんだろう。知らないけど。
覚えているとも。僕の隣に来たばかりに死に行った悪人と善人。僕を裏切ったばかりに死んでいった善人と悪人。包み隠さず僕から情報を取りに来た善悪の無い彼。誰も彼も、決して忘れたりしない。
それが突然ここまでの人数に囲まれて、誰も裏切り者じゃない、誰も死なない──なんて。
残念ながらそう楽観視できる風な育ち方をしていない。
「フフフ、疑心暗鬼、人間不信ねぇ。仲間ができたことを喜べばいいのに」
「ホントにね。素直に同じ研究所の仲間を信じられたらどんなに良かったか。──ラスト、人間を信じる方法知ってたりしない?」
「
「残酷ではあると思っているよ」
「同情を欲しての言葉では無かったのだけれど、そうね。アドバイスをあげるとしたら──人間は結局一人では何もできない、ということよ。組織を動かすことも、戦局を左右することも。青臭い言い方を選ぶのならば仲間が必要になる。──それを必要としなくなった貴方には、もうわからない話でしょうけれど」
少し面食らう。
ラストからそういう……なんだろう、人間を持ち上げるような言葉が出るとは思っていなかったからだ。いや、勿論文面上は「人間は一人じゃ何もできない」なんだけど、逆に言えば「集まり、群れることさえできれば、仲間がいれば何でもできる」と言っているようなものだ。
「意外、という顔をしているわね。フフ、私は
「……ねぇ、ラスト」
「何かしら」
問う。
答えを知っている問いをかける。
「昔ね、エンヴィーに言われたんだ。お父さんとお母さんを守るのが僕のやりたいことだけど──お父さんとお母さんが死んだところで、僕は泣けない、って。どうかな、ラスト。君から見て僕は、両親の死に咽び泣けるポテンシャルがあるように見えるかな」
「いいえ。悲しみはすると思うけれど、泣くことなく、埋葬だけして──アナタは次に進むのでしょう。守るもののなくなったアナタがどの道を辿るのかまでは予想できないけれど、少なくとも人間にとって良い結果を齎すようには見えない。フフフ、お父様が貴方を気に入った理由がわかったような気がするわ」
「そっか」
やっぱり無理か。
最近、そうなんじゃないかと思うことが多くあって、イリスが泣いているのを見てそれを確信に変えた。
僕の中に、愛情というものはないんだって。
「さて、そろそろ私は行くけれど。何かお父様やブラッドレイに伝えておくことはあるかしら」
「その二人には無いけれど、グラトニーに伝えておいてほしいことがあるんだよね」
「グラトニーに? ……その、あの子に何かを期待しているのならやめておいた方が良いわ」
「ああいや、コレ。コレの匂いのついた人間片っ端から食べて欲しいってお願いだから、それならいけるでしょ」
言って渡すのは、SAGの特殊スーツ。
血がべったりついたそれは、グリードと遭った時に殺した一人から鹵獲したものだ。
「……承知したわ。人間を食べて欲しいというお願いなら、あの子も喜ぶと思うから」
「ああでも気を付けて。──多分、全員人柱になり得る人材だから。お父様の願いを優先するなら、殺したり食べさせたりするんじゃなく捕獲するのが一番かもしれない」
「貴方、長生きをしたいのなら味方ではない者達の計画を簡単に口にしない方が良いわ」
「エンヴィーにも言われたなぁソレ」
左掌から、紅の刀身を抜いてソレを防ぐ。
脅しのつもりだったのだろう、けれど防がれて、一気にバックステップをするラストに──言う。
「大丈夫だよ。僕の命を握っているのは、君達ではないからね」
「……私の爪が欠けた。成程、その刀身……厄介なものを持っているじゃない」
「コレの何百倍のものを納品しているんだから勘弁してほしいな」
剣石錬成、なんて名前で呼んでいるコレは、だからつまり、賢者の石だ。
賢者の石の形状変化にある程度の法則性を見つけた僕が文字通り身に着けた、僕本体の弱さを補うための近接戦闘手段。
竜頭剣じゃ無理な相手にのみ使う、完全物質の切れ味を用いた"最強の剣"。ちなみに手袋にも繊維として練り込んであるし、軍服の裏地にも張り巡らせてある。
多分シン組が僕を見たらホムンクルスと勘違いすることだろう。
賢者の石は完全物質だ。
傷つかない。溶けない。腐食しない。燃えない。
じゃあ賢者の石で鎧作ったらいいじゃん! という安直な考えに、ドラクマの刀とスーツが一体化したものから得た着想を混ぜ込んで、賢者の石を纏い、それを武器にする、という発想に至った。
「グラトニーの件。これはこちらで預からせてもらうわ。そのSAGというのが本当に人柱足り得るのならば、こちらの計画も大幅な変更が必要になってくるもの」
「うん、好きにして。ただし彼らが僕の前に現れたのなら問答無用で殺すから、僕や僕の周囲で彼らをのさばらせないよう注意してね」
さて。
人柱がどうなったって約束の日は変わらないし、SAGの生き残りがどれだけいるのかはわからないけれど──果たして。
「誰が裏切り者だと思う?」
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オズワルド・マンテイク
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アンファミーユ・マンテイク
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イリス・カルコル
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サジュ
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カリステム
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「裏切り者なんていないよ」