竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第五十二話 錬丹術の基礎「治癒(2)」&誕生日

 結果として、第五研究所の職員は地上の六名と地下の一名だけになった。僕入れると二名だけど。

 

 そう、アンファミーユは残ったのだ。残ることを選択した。そして、僕が殺さなかった。

 どうしてか。

 いやだって僕、味方殺しをしない事で有名な錬金術師だからね。

 

 というわけで、血液の類を全て掃除した第五研究所地下に僕らはいた。

 

「じゃあ、いいかな」

「はい……お願いします」

 

 一糸纏わぬアンファミーユ。

 その身を寝台に横たわらせる。頭頂へ触れて──目を瞑る。

 

 ……人体の「流れ」。

 僕はまだ龍脈の流れというものを体感できていない。けれど他の、つまり思念エネルギーの流れや錬成エネルギー、賢者の石のエネルギーの流れはわかってきている。そして人体の流れについても。 

 大地の流れにだけ嫌われているんじゃないかってくらいわからないんだけど、他の流れはわかるのだ。

 それを使い──治療を行う。

 

「麻酔はかけてあるけれど、違和感や不快感までを消せるわけではないから、その辺我慢してね」

「はい」

 

 オズワルドはアンファミーユの体内に56匹のキメラを仕掛けたと言った。だからまぁ、倍はあると見ていいだろう。

 ──まず、頭蓋の中に10はいるな、これ。どうやって……鼻や耳から行った? 流石に気付かない? それ。それとも寝ている間に開頭手術でもしたのだろうか。確かに「気圧で頭痛が」とか言ってる日は多かったけど。

 

「ぅ……」

「痛むかな」

「い、……いえ、頭の、中を……虫が蠢いている、ような……感覚が」

「それは気分の良いものではなさそうだ。分解するよ」

 

 頭頂から足先へ敷かれた五角形の錬丹陣。

 その流れの最中で、感知した滞り……極小のキメラ、通称ナノキメラを丁寧に分解していく。親機が沈黙しているから動きはしないはずだけど、一応これらも生物なので何をしでかすかわからない。だから、雑さを棄てて、丁寧に。

 

「ぅ……ぁ、ぐ……」

「分解物を体の構成物へ錬成し直すから、そこに違和感があっても待っててね。けれど、少しでも動くような兆候があったらすぐに言うこと」

「だぃ、じょうぶ……です」

 

 次に顔……も、点々とナノキメラが。そこから喉及び脊椎にもびっしりと張り付いている。これ……もしかして肌から直接注射針とかで入れた? 流石に気付きそうな痛みのある場所だけど、兄への依存心が勝ったのかな。

 

「何か、水……に、似たものが、頭を、浸して……」

「それが僕の治療だからそれそのものは気にしなくていいよ」

「これは、ぁ、ふぅ……思念エネルギー、ですか?」

「いや、錬成エネルギーだね。ほら、そろそろ心臓部に達する。恐らく山場の一つだし、麻酔を飛び越えて痛みがあるかもしれないから雑談はあとあと」

 

 急所だ。それなりのものを仕込んでいるはず。

 肺や胸、肋骨周辺、勿論背骨の方もすべて精査していく。……夥しい数があるな。112を優に超えるんじゃないかな、これ。確かにこの量のナノキメラが間近で爆発していたら僕も危なかったかもしれない。賢者の石の鎧は頭までは守れないからね。オートで守っているとかじゃないからさ。

 その辺どうにかしないとなぁとは思っている。結局僕って動体視力や反射神経が人並みかそれ以下だから、パッシブで守っている部分はどうにかなるんだけど、アクティブな守りや攻撃はあんまり強くないんだよね。

 

「ぅぁ……あぁ……ぁあ、ぅぅぅ」

「臓器の一部には癒着しているか。困ったな、切除と縫合までとなると……いや、できなくもないけど、もう一つ陣が必要になる。アンファミーユ、肌に錬成陣を描いても良いかい?」

「は、ぃ……だいじょ、で」

 

 水性マーカーで彼女の上腹部へ円を描く。久方ぶりの描き方、僕の原初といえる竜頭の描画。三本のマーカーを持ってぐりんと回す奴ね。

 そこへ五角形を描く。錬丹術の五角形は多少歪んでいても関係ない*1ので適当にマーカーを星型に走らせて、と。

 

「ちょっと痛むよ。お腹に力入れてね」

「──ッ、ぁ、くぅっ!?」

 

 十二指腸と膵臓の入り口付近にいたナノキメラを切除し、その傷を癒す。

 そこそこ……一瞬だけ盲腸になった、くらいの痛みはあったはずだ。で、それが五、六匹いるので、断続的にやっていく。こういうの無駄に休みを入れると余計に痛いからね。

 

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫?」

「……はい、大丈夫です」

 

 とはいえ、アンファミーユは僕の近くに来た人間で、唯一の裏切らなかった──本当に何も知らなくて、むしろ裏切られた側で、ちゃんと真面目に働いていてくれた人間である。

 それなりの褒賞というべきか、こうやってちゃんと治療することも含めて気を遣ってあげたいところ。いくら僕がお父さんとお母さんを守ること以外に興味ないといったって、人間関係ゼロでやっていけるほど世界は甘くない。

 あと僕若くて地位があるからね。近くに女性の影があった方が色々面倒が少ないんだよ。

 

「オズワルド……結構執拗だな。さっぱりした性格だと思ってたんだけど、こんなところにも……」

「う……あ、その、治療だとは……わかっている、んですが、あまり注視されると……その」

「ああ、大丈夫だよ。僕は君をそういう目で見たりしないから。そもそも16歳の少年だよ、僕。まだ早いでしょ」

「い、いえ一応年頃だと思いま……ぐっ」

 

 まぁ前世含めたら結構行ってるのは事実だけどさ。

 あんだけ酷い仕打ち受けたくせに、まだオズワルドに心があるような女性に変な事したりしないって。

 

 僕は一途で純愛主義だからね。一度決めたことは徹底してやり通すし、誰に何を言われても絶対に曲げないから──好きな人もできないよ。人を好きになるっていうことは、お父さんとお母さんを守ることの妨げになりかねないし。

 

「あと半分ちょいだから、余計なこと考えてないで集中して」

「うぅ……」

 

 しかし、僕の錬丹術も上達したものだ。

 錬金術と組み合わせているせいでほとんど我流だけど、これならメイ・チャンともマトモに戦えるのではなかろうか。

 なんで戦う前提になっているのかはわからないけれど。

 

 ──その後も、妙になまめかしい声を出すアンファミーユを後目に治療を続け、体内のナノキメラを消し去ることに成功したのだった。

 

 

 

 

「これから、どうするんですか?」

「どうするって?」

「こんなにたくさんの死者が出て……第五研究所は」

「別に、上の博物館さえ無事ならここはどうとでもなるからね。適当にやっていくよ。君が辞めたいと言わないのならば、僕からも不当に解雇するつもりはないし」

 

 ちなみにだけど、イリスが連れてきていた錬金術師四名も処断した。イリスと身体の関係があっただけでなく、イリスの思想に染まっていて、アンファミーユを……と、まぁこれ以上詳しく言う必要はないね。

 そんなわけで、本当に僕とアンファミーユと、あとラストだけになったってわけだ。上の一般職員をこっちに引き入れるのも難しいので、事業は絞る必要があるだろう。

 

「そんな貴方に朗報があるのだけど、聞く気はある?」

「!?」

「ああ、ラストか。エンヴィーがからかいに来たのかと思ってたよ」

「エンヴィーは最近忙しいの。どこかの誰かさんが隣国を全滅させてしまったせいで、外交関係での成りすましにそれなりの苦労がかかっているのよ」

「君達のお父様は喜んでいたけれど?」

「子には子の悩みがあるのよ」

「そんなものか」

 

 ラストの出現。

 僕は流れの詰まりでわかっていたけれど、アンファミーユは全くそうじゃない。だから全力で驚いて、けれど僕と彼女が親しげに話しているのを見て、落ち着いたらしい。

 

「えっと……もしかして、ラストさん、ですか?」

「あら、よく知っていたわね」

「全職員十七名で登録してあるのに十六人しかいないからね。あと一人が誰なのかを聞かれた時に普通に答えたよ。何か不都合があった?」

「いいえ。そう、私がラストよ。この子と大総統の繋ぎがメインの仕事」

「大総統……大総統!?」

 

 まぁ大総統の、っていうかお父様との、が正しいんだけど。

 お父様とはあれからも頻繁に会っていて、主に僕の思想を説いている。

 

「そう、僕は大総統と個人的な繋がりがあるんだ。君もグラマン中将と繋がりがあるだろう? 似たようなものだよ」

「え、いや、確かにお世話にはなりましたけど、繋がりという程……なな、内通者とかではないです! 決して!」

「わかってるよ。内通者だったらオズワルドと一緒に殺してたさ」

 

 当然のように言えば、乾いた笑いがアンファミーユから零れる。

 ふむ。兄への依存心が消えたわけではないし、引き摺ってもいる……けれど、そういうのを差し引けば普通の子なんだな。

 

「それで、ラスト。良い話って?」

「絶対に裏切らず、言われた通りの動きをし、決して秘密を口外しない者達を貸し出せるのだけど──どうかしら?」

「それ、もしかして大総統になれなかった人たちの事?」

「ええ」

 

 ……ふむ。もう何で知っているか、とか、不意打ち気味の攻撃とかしてこなくなったか。

 ブラッドレイ大総統と頻繫に会っていること、お父様にも同じくらい会っていることから知っていても特に気にすることでもないと思われたかな。

 それで、彼らか。

 そういえば確かに、彼らは裏切りとか無さそう。プライド、ラース、金歯医者さえいなければの話だけど。

 

「いや、せっかくの話だけど、遠慮しておくよ。こっちの地下事業は絞ろうと思ってたところなんだ。ああただ、お願いがあるんだけどいいかな」

「お願い?」

「少し前にね、とあるキメラを作ったんだ。スライサー兄弟っていうんだけど、これが所謂"錬金術を使いながら戦う剣士"でね。成り損ないや適当なキメラと戦わせて、戦闘データを取りたいんだよ」

「……いいでしょう。けれど、その戦闘データは中央軍にも取られるわよ」

「構わないよ。こっちの成果のお披露目でもあるからね」

 

 スライサー兄弟の強化──というのは別に期待していない。強くしたところで特に何にもならなそうだし、そもそもあの二人元々強いし。

 ただ、中央軍に成果……「人と人を合成獣(キメラ)にして、片方には常に錬金術を、片方には戦闘を、いざとなれば思念エネルギーを増幅させてさらに強い錬金術を」という生物兵器を見せつけることができるのはかなりのアドだと思う。

 ある意味キメラ・トランジスタであり、サジュとカリステムの全てが詰まったものであり、イリスとオズワルドの成果も欠片程度は詰まっている──第五研究所の集大成として見せるのが目的だ。

 

 ナノキメラとかCPSとか、隠者の石とか他の諸々とかは教えない。それは僕が使うから。

 

「それじゃあ契約は成立ね。それと、アナタ」

「え、私、ですか?」

「そう。アナタ、名前は」

「あ……アンファミーユ・マンテイクです」

「マンテイク、ね。それじゃあ所長さん? 私はこれで」

「うん。戦闘データについては後で詰めよう」

「ええ」

「え……え?」

 

 僕もラストが何を確認したかったのかはわからないけれど、まぁどうでもいいことだろう。少なくとも僕にとっては。

 

 ──こんな感じで。

 アンファミーユ・マンテイクのみが、僕の元に残った──久しぶりの部下となったわけである。

 

 

 *

 

 

 たかだか五つの真理の扉で開いた扉。そこに座す神に如何ほどの価値があるのか。

 

 ──それが、お父様と最近話していること。議題。

 

「二億六千二百と一万。そこに五千万を足して三億一千万と一万。……仮にこれで神を降ろしたとして、同程度の神が降りてくるだけ、か」

「うん。真理の扉が返すのは術者の支払う代価に対し、同じだけのもの──等価しか返してくれない。この惑星の総人口はまだ調べられていないけれど、少なくともたった四つの国の総人口程度で降ろし、御し得る神に、それほどの価値があるかどうか」

「ふむ……三億程度、か」

 

 それは原作を読んでいたころから思っていたこと。

 たかだか五千万人の賢者の石エネルギーで抑えられちゃうカミって、ホントにカミなの? って。

 せめて惑星全部クラスの賢者の石エネルギーでなんとか抑えられる、くらいじゃないとさ、なんか型落ちというか格落ちというか。

 

 あ、ちなみに既にお父様は僕が「約束の日」や国土錬成陣を知っていることを知っている。というか彼から楽し気に話してきた。

 二億の賢者の石を取り込んだお父様はかなり若々しく、そして知識の蒐集や新たな挑戦に酷く意欲的だ。合成獣(キメラ)に関しては「人間は必ずそういった愚かな道を通るものなのかね」とか言ってたけど、主に賢者の石の性質に関する研究には結構な興味を示してきている。

 

「この惑星の扉を開く。それはとてもいい考えだと思うんだけど、錬成陣を増やすのはどうかな、って」

「アメストリス、アエルゴ、クレタ、ドラクマ。その全てで人柱を?」

「いや、僕が四つを担当するから、お父様がもう一つを担当してほしい。つまり、扉同士の反発エネルギーを反発させるんだ。それを月にぶつけて──月という天体の全てを地に引き摺り落とす」

「四つは負担にならないかね? 私がもう二つほどを担当しても良いが」

「逆なんだ。僕は五つ以上の錬成陣を同時に操れない。だから全力が出せる。二つ三つの錬成陣を扱っていると、逆に余剰エネルギーがでちゃって、違う結果や破壊を齎す可能性が大きい」

「……それは中々におかしなハンデだな。ふむ、おまえ……もしやとは思っていたが」

 

 髭があったころの名残なのだろう、若お父様は顎をすりすり撫でてから、小首を傾げ……そして、言葉を吐いた。

 

「おまえ、自らが誕生した日を覚えているか?」

「え? いや、覚えてないけど」

「……そうか。それならば、親はいるかね?」

「うん。ちゃんといるよ。初めに話した通り、なんとしてでも守りたい人たち」

「それらに聞いてみると良い。おまえが生まれた日のことを。いや、おまえの出生がどのようなものだったのかを」

 

 若お父様は。

 それなりに真剣な顔で、そんな助言をくれた。

*1
噴出口の目印でしかないため

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