竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第五十四話 錬金術の秘奥「人体の錬成陣」&修行

 この家にある秘密の部屋。秘密って程隠されていないし、ただ入っちゃダメなだけの普通の部屋なんだけど、そこに答えがあると──お母さんは言っていた。

 そして長期滞在をするとは言ったけれど、僕はやりたいことがたくさんあるので帰って来たお父さんを鎖で捕まえて、その部屋に放り込む。勿体ぶらずとも大体わかってたからね、何があるのかは。

 

「──もう、隠しようもない、か」

「うん。説明が欲しい。いや……今の僕であれば、もうこの陣を読み解くことはできるけれど、どうしてそんなことをしたのかが知りたい」

 

 そこには陣があった。

 内容を見るに。

 

「これさ、お父さん。──人体錬成の陣、だよね」

「いいや違う。これは人体の錬成陣だ」

「……ああ、成程。ようやく全部理解できた」

 

 その部屋にあった巨大な陣は、原作でも何度か目にした人体錬成の陣……から、魂を意味する記号をすべて抜いたもの。いや、精神も抜いてあるか。肉体の保持と、血流操作。

 マスタング大佐が作ったダミーと同じだ。人の形をし、しかし生きていないモノを作るための陣。

 人体の錬成陣。

 

「……レミー。コールドスリ-プ、という言葉を知っているか?」

「まぁ、知っているよ。冷凍保存をすることで長期的な寿命を得る──寿命をそこで止める術だよね」

「俺が研究しているのはそれに類するものだった。正確に言えば、俺がこの本を譲り受けた錬金術師の夢だった。不老不死ではなく、()()()()()()()()()()()という……ある種の世捨て。その方は凍らせる、という形でそれを試し──けれど氷の中で、老衰による死亡が確認された」

 

 いつか聞いた話だ。

 お父さんの古書はある錬金術師が研究していたものであり、本当はその錬金術師に会いたかったものの、その人は老衰で死亡。だからお父さんは遺族に頭を下げてお願いした、と。

 

「俺はそれを、違うアプローチにて再現しようとした。レミー、お前が死んだあと、俺は冒涜的であるとわかっていながらも──お前の身体を機能させ続けた。血液を流し続け、臓器機能の必要最低限を動かし続けたんだ。……カッコ悪かったのさ。どうしても、どうしても諦めきれなかった。一度だけ開いたんだ。セティスがお前を産んで、けれどすぐに心肺が停止してしまった──その直前に、お前の目は開いていた。俺と目が合っていた。お前は確かにそこにいて、だというのに死んでしまった」

 

 言ってはなんだけど、良くある話だ。

 特にこの時代の医療技術だと赤子や母体の死というのはままあること。それを錬金術で代替し、繋ぎ続けた、というのが──現在の国家錬金術師制度においては評価されないだろうけれど、非常に優秀な腕をしているのがわかる。

 

 所謂脳死状態。植物状態ですらない、完全に脳が停止した肉体の機能を一週間維持し続ける錬金術。

 

「四つまでしか錬成ができない、と言ったよな」

「うん。心当たりは、あるの?」

「ああ。お前は完全に蘇生するまでに、三度息を吹き返している。──この言い方はよくないか。三度、息をするような反応を見せている。そして四度目にお前は起きたんだ」

「ということは、やっぱり埋めてすらいないんだね。ずっとこの部屋で僕を維持し続けて──本当に蘇生したから、急いで棺に入れたの?」

「まぁ、そうなるな。……そのせいで、俺ではなくセティスがアルドクラウドの嫌われ者になってしまった。産んだセティスが、そして俺より腕のいいセティスこそが人ならざる者を産んだのだ、と」

 

 息。

 呼吸能力? なんだろう、それは、もしかして──別人が、だったりする?

 僕じゃないのが僕の前に三回入ってたりして。それで、けれどどれもが定着できずに消えて行って──ああ、だから、一週間じゃないんだ。

 七日間、なんだ。

 二日ごとに入っては出てを繰り返すこと三度。これで六日。

 そして四度目に入って来た僕が完全に定着して、八日になる前に産声を上げた。

 

 ふむ。

 つまり、つまり?

 

 僕の想像が四つまでなのは──あるいはキャパシティーの問題とか?

 どっちか、だろう。

 他者の思念エネルギーが入り込んでいるせいで、四つまでに制限されている、か。

 他者の思念エネルギーが混ざり合った結果、ただの一読者でしかなかった僕……僕たちが、四つも錬成できるようになっているか。

 

 あるいは──もしかして僕、四つ真理の扉持ってたりして。

 行く気ないけどね。

 

「……怒らないのか、レミー」

「え、なに? 聞いてなかった」

「聞いてなかったって……。だから、お前が……戦場で、いろいろ言われたのは、元をたどれば俺のせいなんだよ。俺が……こんなことしてなければ、お前はちゃんと英雄として」

「いやいや、何言ってるのお父さん。お父さんが頑張ってくれていなければ、僕はそもそもこの世に生誕できてないんだよ。お父さんとお母さんにも会えなかったし、二人を守る決意もできなかった。僕がいなかったことで二人が死ぬような未来があったと考えるだけで恐ろしいくらいだ」

 

 この決意こそが僕を形作る全てだ。

 これがない僕など、それこそ死体と変わらない。たとえ出産の時点で死んでいなくとも、鋼の錬金術師の世界だと気付いたところで何をするということもなかっただろう。国土錬成陣が怖くて他国へ逃げる──せめて両親を連れて行く、くらいしかできなかったと思う。

 これが良い結果に転んだかどうかは定かではない。アエルゴ、クレタ、ドラクマからしたら堪ったものではないだろうし、イシュヴァールだってそうだ。第五研究所の皆も、僕に送られて来た裏切り者たちも、メグネン大佐やアーリッヂ大尉のような僕を信じた者達も。

 

 それでも僕はこの世界に生まれることができて良かったと声高らかに謳える。

 

「要約すると、僕はお母さんから産まれて、お父さんから出生したって感じだよね」

「何も要約できていないぞレミー」

「うん。だからなんでもいいんだよ。僕が今回ここに来たのは、僕のハンデについて知るためだった。それの理由が今ある程度わかった。それで、なんだっけ。お父さんの所業がどうであれ、お母さんがどれほどの試練を背負ったのであれ──僕はもう二人を飛び越えている自信がある」

 

 外道も、艱難辛苦も。

 

 任せて欲しい。

 

「怒るはずがない。怒る理由がない。僕は僕という存在を二度も生み出してくれた二人に感謝している。感謝の念は尽きることを知らない。だから任せてよ、安心してよ、お父さん」

 

 僕は、必ず二人を守ってみせるよ。

 そのために生まれてきたのだと、()()()永らえたのだと胸を張るために。

 

 

 *

 

 

 ということで、長期滞在の理由は無くなった……んだけど。

 まだ、お母さんの、クラクトハイト家の秘伝の味、とやらをアンファミーユに受け継げていないらしい。

 

 しかし、不思議な話だと今さら思う。

 もし仮に魂が四つあるのならもっとチート染みてていいのに。まぁ前任者の三つは出て行っちゃったからなんだろうけど。

 そのせいで四つまでの制限が課されているのなら、三つの魂を取り戻したいところだよなー、とか。

 

 結局、おかしなハンデ、は解除されないワケだ。

 別に期待はしてなかったけどさ。

 

「ちょっと出てくるね。ご飯前には帰るから」

「あ、え、所長、私も行きま──ヒッ!?」

「ええ、あまり遠くへは行かないようにしてくださいね、レミー。アンファミーユさんにはすべてを伝授しておきますので」

「よし、俺も腕によりをかけて料理を作るぞ。記念日は記念日だからな!」

 

 みたいな声を背に、家を出る。

 

 

 気。気。気。

 大自然ってほど森林が深いわけじゃないけど、アルドクラウドのはずれであるこの辺は、野生動物がいっぱいいる。

 

 リスさんじゃないリスとか、鹿さんじゃない鹿とか、その他諸々。

 そういうのにも気はあって、流れはあって──それぞれが噴出口となっているのがわかる。

 

 歩く。

 流れを感じながら歩く。未だ大地の流れを掴み取れない僕だけど、生物の流れはわかる。

 恐らくこれを気と呼んでいるのだろうこともわかる。

 野生動物の気。樹木や草花の気。生きているものだけじゃない、岩や地面にも流れはある。巨大な流れではないけれど、同じ素材から同じ素材へ流れるものが存在する。

 

 かつて大岩のあった場所に座り、禅を組む。

 エネルギーの知覚。賢者の石の蓋がどこからどこまで敷いてあるのか、その下の地殻エネルギーは何がどうなっているのか。地殻エネルギーにまで知覚を伸ばすと、そのあまりにもな大きさに恐れ戦く。とても人間一人が制御できるエネルギーじゃない。

 お父様が降ろそうとしているカミは、これを超えるのだろうか。

 

 アルドクラウド。

 人口はそこまで大きくないけど、錬金術師の嫌われようやイシュヴァール戦役後とかばかりに周ったから、あまり中身を把握していない。

 地図をかけ、と言われても難しいだろう。

 それでもこうやって流れを辿っていけば、道の形はわかるし、構造物がどこにどうあって、どれほどの大きさをしているのかもわかる。

 

 ──ここに錬成エネルギーを流し込めば、倒壊させることもできる、と。

 

 やんないけど。

 

 空。

 飛ぶ鳥にも気はある。地面から離れていても流れは存在する。

 

「全は一、一は全……って奴かな、これが」

 

 すべてのものには流れがある。

 世界にも、虫の一匹にも。

 

 ……ダメだ。

 声に出してみても、龍脈とやらはわからない。やっぱり嫌われているとしか思えない。

 

 立ち上がる。

 まだ夕方までには時間がある。久しぶりに修行でもしていこうか。修行といっても、新たな錬金術を試すこと、だけど。

 

 とりあえず剣石錬成を行い、近くの岩にストン。

 サクッと切れていく岩。僕に斬鉄の技術なんかないし、何を習っているわけでもない。

 

 ただ岩が、極限まで鋭くされた完全物質に負けただけだ。

 

「……攻撃力が高すぎるという問題はあるよね」

 

 僕からわざわざ敵対する気はないんだけど、もしエドとかと戦いになった時、これで斬りつけたらそのまま胴体泣き別れ、も普通にある。

 だから竜頭剣を普段は使うんだけど、アレはアレで使い勝手が……。

 

 あと剣以外にも、手袋の繊維に使っている賢者の石を凝固させて岩を殴れば──……いや、ナシ。無しだ。当然内側も完全物質なので、殴った分自分の拳が砕ける。

 防御には最適で、殺傷能力にも優れている……けれど、普段使いするもんじゃない、ってのが今のところの印象。

 

 とはいえ、である。

 近接戦闘手段は絶対に必要だ。鋼の錬金術師は、錬金術師を謳っておきながら、あんなファンタジーファンタジー魔法魔法しておきながら──何かとインファイターが多い。

 典型的な魔法使いスタイルであるが故にインファイトに持ち込まれたら負ける、とか。今までは仲間がいたし、そうならないように立ち回って来たけど、エドやアル相手にはそうはいかない。なんでって仲間があっちにつく可能性の方が高いから。

 

 今お父様と話している構想的に、僕も人柱をあまり傷つけたくない。確保し続けているSAGですべてが賄えると楽観視するつもりはない。

 エルリック兄弟。ヴァン・ホーエンハイム。イズミ・カーティス。

 ──必要な人材だ。もしかしたら、マスタング大佐やアームストロング中佐も何事かがあれば開いてくれるかもしれない。

 25人。

 僕とお父様は、それだけの数の人柱を探している。

 

 なれば、手加減の利く戦闘手段の確立は必須事項。

 サンチェゴは切り札、竜頭剣を初歩として、その中間が欲しい。

 

 何か。

 何かないだろうか。僕らしくて、且つちゃんと威力がある……ふむ。

 

 一個思いついた。

 

 近くの岩に手を当てて、竜頭を巻く。

 巻いて──引き抜く。出てきたのはかなり小さいサンチェゴ。

 

 これを。

 

「投げる!」

 

 投げる。

 フリスビーみたいに。

 

 投げられたミニミニサンチェゴは、遅延錬成と複合錬成を発動させ、空中でポン、と白い煙を出した。

 ふむ。

 これ良くない? 複雑な錬成陣を描く手間がない。それはサンチェゴ側でやるから。

 これを「成型」の錬成陣で手袋に刻んでおいて、あらゆる構造物から機械時計を引き抜いて投げまくるスタイルの錬金術師……新しい、新しいよコレ!

 

 新しいけど……。

 何か既視感が。

 

 新しい……はず、なんだけど。

 

「コマンチ爺さん……のに、似てる、か」

 

 声に出せば、しっくりきた。

 あっちはチャクラムだけど。

 ……似てるのは、よくない。けど発想は良い気がするんだよなぁ。

 

 よし、決めた。

 アンファミーユがクラクトハイト家の秘伝の味を覚えるまでに、僕も新技を一個開発することにしよう。

 あと少しで原作開始時期だ。イシュヴァール人もいなければお父様が超絶強化されている現状、彼らがどうなっているのかは知らないけど──知らないからこそ、見てみたさがある。

 お父さんとお母さんを守れるのなら、お父様に退場していただくことだって僕は構わない。現状お父様と一緒に世界征服するのが一番現実だから意気投合してるだけだし。

 

 さぁ。

 エドワード・エルリック。まず僕を何とする。なんとして越えるか。

 

 ……仲間にしてくれてもいいんだけどね?

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