竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
賢石錬成は面白い。
固体であり液体であり、何よりも柔らかく何よりも硬く、あらゆるものより伸びてあらゆるものより縮む──のに、摩耗することも罅割れることもない、完全物質。賢者の石。
賢者の石にある流れ。憎悪、憎悪憎悪憎悪苦痛苦痛苦痛苦痛。思念エネルギーの中でもとりわけ「外に放出する」という指向性のあるものの塊。故に、こいつに対してさらに大きな力で、包むように思念エネルギーを流してやれば──どろり、と形を変える。
剣の形。爪の形。糸状にして繊維として使ったり、膜にして盾にしたり。
コスパを考えないなら弾丸とかも良いだろう。使い捨てなのがアホらしいし、普通にブースターとして使った方が何百倍もの効果を出せるのでやらないけど。
とかく──面白いものだ。
「少年」
その声は。
アンファミーユに最後の仕込みを教える、とお母さんが張り切っていた日の、「じゃあ僕また外で散歩してくるよ」の後に聞こえてきた。
いつもの岩場ではあった。けれど、安心しきっていたのかもしれない。あまりにもうかつだった。
気はホムンクルスに近い。いや、違う。これは。
「──その石をどこで手に入れたかは知らないが……そうやって遊んでいいもんじゃあない。もっと危険なものだ」
知っている。
恐らくこの世の誰よりも。
「君がそれをただ拾っただけだというのなら、俺に渡しなさい。そうでないというのなら」
「僕が作ったと、そう言うのなら?」
不意打ち気味に振り返る。
金髪金眼。初老の男性。
──最初の頃のお父様に酷似した、存在。
「君が作ったというのなら──お前を、アイツに与する敵として認識する」
「やけに話が早いね、ヴァン・ホーエンハイム!」
僕が名前を呼べば、それはもう確信となったのだろう。
赤い錬成反応が地を走る。ノーモーションだ。だけど、生憎とここは僕の庭。
描きかけの錬成陣なんかいくらでもある! 昔懐かしの土壁と鉄のコーティングを乱立させて、距離を取った。うわー、今見ると効率悪いなー。
「隣国三つを賢者の石にしてしまったという最悪の錬金術師、レムノス・クラクトハイトで間違いないか?」
「そっちこそ、凄い形相だけど、ヴァン・ホーエンハイムで間違いなさそうだね」
「俺の事は……アイツから聞いたのか」
「アイツアイツって言ってるのは、お父様のことであってる?」
「"お父様"、ね。じゃあなんだ、ようやく最後の一人を作ったのか、アイツ。ラースってことでいいんだな?」
「へ? って、ああ」
キョトンとしてしまう。
……ああ、そっか。ブラッドレイ大総統がラースだって、まだわかってないから……中々作らなかった最後の大罪が僕だと、そう勘違いしていると。
ふむ。
まぁ、相手がホーエンハイムなら、ピーキーなこの賢石剣鎧を試してみても良いだろう。
気を付けるべきは、僕はホムンクルスではないので再生できないこと。
……結構なハイリスクじゃない?
「ヴァン・ホーエンハイム。人柱だけど、まぁ中身の賢者の石は一人分残しておけばいいわけだし」
「あんまり荒々しいこと言わないでくれよ。俺荒事苦手なんだから」
背中。
かつてキレイア中尉に傷つけられた切り傷は、今尚傷痕として残っている。いろんな人に「治さないんですか? 傷痕くらい消せるでしょうに」と言われるけれど、消さない。なんでって。
どろり。
どろり、どろり、どろり。
傷口が、縫合痕が膨らんで、そこからだらだらとどろどろと紅が出てくる。
それは僕の身体を這い、伝い、剣や鎧となって纏わりつく。
長い爪。竜のような頭。棘を帯びる尾。肌の全てが紅で、見る人が見ればわかるだろう。その全てが──賢者の石であると。
いつか、僕がドラクマに捕まった時の事。
ドラクマは調べに調べたはずだ。僕の身体を。そして諦めたはずだ。何もないと。
キンブリーは賢者の石を胃に隠している。正直アレはちょっとよくわからない。
だけど、まぁ、変態度でいえば僕も似たり寄ったりだろう。
なんせ僕は、自身の
ドラクマ兵とて、流石に抜糸痕の残る傷痕をわざわざ切開しようとは思わなかったのだろう。
機械鎧の中に隠せばいい、というのも思ったけど、外れやすいもののなかに仕込んでいざというとき使えない、とか馬鹿馬鹿しいからね。
ちなむと、賢者の石が体内に入ったからと言ってキング・ブラッドレイみたいになったりはしない。アレは憤怒という感情あってこそだと思うし、僕の場合は常に形を意識して保っているからね。
「……見た目、完全に化け物だな」
「カッコいいでしょ?」
「……息子と趣味が合いそうだ」
ん?
もしかして家族仲良かったりする?
というか、トリシャ・エルリックってちゃんと死んだよね? そのイベントがないと、エルリック兄弟が錬金術師にならないとかいう最悪のルートも考えられるんだけど──。
とか。
思案しながら、思案する素振りを見せながら踏み込んで、その鋭い爪で彼を薙ぐ。けれどホーエンハイムは「うわわっ」なんて情けない声と共に完璧な間合いで避けて、振り向きもせずに巨大な銛を射出してきた。
しかし残念、賢石鎧は何物も通さないのである。
「うわぁ、完全物質を鎧や武器に使うか……潤沢な賢者の石があればこそだな」
「そっちだってあるじゃないか。あと何十万残ってるかは知らないけど、自分の事棚に上げすぎじゃない?」
「俺はそういうことには使ってないしなぁ。それに──それが賢者の石だというのなら」
「僕の鎧を増幅器として使ってしまえばいつかは壊れる……みたいなこと言おうとした?」
「……もしかして、弱点は全部想定済みだったりする?」
「するね。自身の兵装について確認もしない奴が、こんな大立ち回りするわけがない」
両手に作り出す賢石ダガー。逆手に持ったそれを、連撃、連撃でホーエンハイムにぶつけていく。
初めの方は「おっと」とか「うわっと」とか言っておどけた風に避けていたホーエンハイムだったけれど、途中から──僕が彼の頬に傷をつけたあたりからちゃんと避けるようになった。
「成程ね……外側の賢者の石を動かしているだけだから、人体としてのスタミナ消費は少ないわけだ。合わせなきゃいけないからないわけじゃないが……ズルいな」
「じゃあ、僕の戦力を分析してもらったところで、確認しておきたいことがあるんだけど」
「なんだ」
「何用?」
まぁ。
成り行きで戦闘になったけど、結局なんなのかな、って。
「……なんだ、会話の余地があるのか」
「あるよ。人間だろうがホムンクルスだろうが、会話による平和的解決ほど有意義なものはない」
「それはいい考えだな。俺はてっきり、ホムンクルスってのはみんな人間を見下してて、話なんて全く通じないものだとばかり思っていたよ」
「第一に、ヴァン・ホーエンハイム。君は人間じゃない。第二に、僕は元が人間だ。ホムンクルス的な考え方なんか習ったことないよ」
元が人間。今も人間。
全部
「……元人間なら、なおさらだ。アイツを裏切って、人間に寝返ってくれ。アイツがやろうとしていることを理解していないわけじゃないんだろう? ──この周辺の人々だって巻き込まれる。ここは君の故郷なんじゃないのか?」
「そうだね、アルドクラウドは故郷だ。だけど僕にとって守りたいものは二人だけで、その他に興味は無い。この町の人々にも、君の妻にも、君の息子たちにも」
言葉を発した瞬間、地面が──岩場が全て溶岩と化した。
咄嗟に賢者の石を鉤縄の形に形成して、近くの木へと跳ぶ。
挑発し過ぎた?
けど、これでわかったことがある。
エルリック兄弟の人体錬成の有無はともかくとして──原作より家族仲が良いっぽい。元々父親としての愛情を持っているホーエンハイムだったけど、その発露はそんなに多くなかったはずだ。
けれどそれが、「僕の守護対象に入っていない」というだけの話にここまでの怒りを見せるとは。
……よし。
「ホーエンハイム」
「なんだ」
「お開きにしようよ。僕らがここで戦ったって、何にもならない。それとも衛兵でも呼ぼうか? ほら僕国軍少将だからさぁ、一般人の力で君を倒し切ることもできるよ」
「……こっちの味方になるつもりは、ないんだな」
「うん。止まる気は無いよ。──僕は、いずれ世界の全てを掌握する。この星を、アメストリス以外の全てを賢者の石に変える。そしてお父様に強くなってもらうんだ。君が今画策しているカウンター錬成陣も逆転の錬成陣も意味がないくらい、全てが無駄に思えるくらいの存在に。真理だろうと、神だろうと御し得る──天上の存在に」
「アイツは子供に目を向けないだろう」
「僕を他の奴らと一緒にしないでほしいかな。最近の僕はよくお父様と話すよ。いろんなことを話すんだ。国の事や錬金術のこと、錬金術師のこと、人間としての家族のことも話すし、好きな食べ物とか嫌いな料理とかも話すよ。お父様は、なんなら君よりお父様をしてるんじゃないかな」
なお、これは本当である。
若々しくなったお父様の知識欲は留まることを知らず、そして作中でエンヴィーが言っていた通り、「食べなくても死なないけど無駄に賢者の石を消費するから人間みたいに食事を摂る」──に倣って食事をすることが増えている。
僕が振舞うこともあれば、ラストが作ることもしばしば。ラストって料理できたんだね、って言ったら「オトコを堕とすのには胃袋を掴むのが一番手っ取り早いのよ」って言われた。
「アイツが……」
「ヴァン・ホーエンハイム。準備をするなら、過剰なくらいした方が良い。今やお父様は君より若いよ。二億六千二百万と一万の賢者の石を取り込んだお父様だ。そしてそこに、五千万が入ろうとしている。──足りないよ、クセルクセスの民だけじゃ。たった五十三万じゃあ、全く足りない」
開示する。
僕は僕で対お父様対策をしている。お父様がカミを降ろす以外の──たとえば僕やお父さんとお母さんに牙を向けたり、当初の予定に無かった街の破壊を始めたりしたら、止めるために。それ以外ならやってもいいということでもあるけれど、だからまぁ一応、本当に一応準備はしている。
けれど、それが読まれている場合もある。僕は僕を天才だと、誰も辿り着くことのできぬ霊峰にいる天才だとは思っていない。僕の真理たるサンチェゴに
だから、才あるものに投げるんだ。
ヴァン・ホーエンハイム。故
僕は僕のやり方で自らの始末をつけるから──君達は君達のやり方で抗ってみせて欲しい。
「何故そこまでを教える?
「レムノスだ。レムノス・クラクトハイト。あるいは竜頭の錬金術師。そう呼ばれる方が好きだよ、僕は」
ぎゅるり、と。
超合金でホーエンハイムを包む。卵の形。
そして──クレタ方面へ射出。賢者の石をバリバリ使った簡易ロケットだ。落下地点を気にする必要はない。だって誰もいないからね。
……エンヴィーとかグラトニーとかいたら、ごめんね、だけど。
賢者の石をまた全てしまい込む。
ああ、とても気持ちが悪い感覚だけど。
「……ちょっとお父さんに剣でも習ってみようかなぁ」
無論、その後戦って、全く歯が立たずに降参した。やっぱり僕には無理デース。
*
「お世話になりました!」
「またね、二人とも」
「ああ! またな、レミー、アンファミーユさん!」
「またね、レミー。アンファミーユさんも、お元気で」
二人に送られて、出る汽車の車窓から身を乗り出す。
ぶんぶん手を振るアンファミーユと──何かに祈るように手を合わせて握りしめるお母さんが、なんだか印象的な対比だった。
さて。
で。
「アンファミーユ、結婚の話は了承してくれるってことでいいんだよね」
「え、あ……はい」
「うん。じゃあ、セントラルに帰ったらすぐに申請を出しておくよ。式の類を挙げるつもりはないけど、挙げたいなら」
「え、いやいやいや、気が早すぎですよ所長! こういうのは段階を踏まないと」
「そう? これから忙しくなりそうだから、早めに済ませるのが良いと思ったんだけど……君がそういうならそれでいいよ。で、お母さんとはどんな話をしたの? 僕の昔話?」
「あ、はい。そうです。少将の切り替えの早さって昔からだったんですね」
「なんならお母さんも早いし、お父さんも嫌な空気とか一瞬でも耐えられないタイプだからね」
まるで。
まるで、平和な会話。いや今の一瞬は確かに平和なんだけど、恋人や夫妻ではなく、友達みたいな会話だな、と思った。実際は上司と部下だし、ある種の共犯者だしで色々複雑だけど。
「所長が錬金術を一か月で覚えて国家資格を取った話を聞いた時は、流石に震えました」
「自分でもどうかしてるとは思ってるよ。けど、それを言うなら君もじゃない? ざっと経歴を調べたけど、一年で中央軍の錬金術師……キメラの研究課に入ってるじゃないか。その前までただのマンテイク家の娘だったのに」
「ああ、必死でしたからね。アイツ……兄に追いつこうと、置いていかれないようにと、必死で必死で」
懐かしい、いい思い出、という風に話すアンファミーユ。
うん、やっぱりアンファミーユの心はオズワルドにあるね。形だけの結婚にしてよかった。恋愛結婚、みたいにお母さん達に紹介していたら、余計な瑕を作る所だったよ。
「で、何キンブリー。わざわざ後ろの席に座って、何か報告でも?」
「いえ、少将閣下が見知らぬ女性と親しげに話しているものですから、つい気になりまして。そちらは?」
「まず自分が名乗るのが礼儀じゃない? こっちの席に来てさ」
「それは失礼」
汽車内で立ちあがるは白スーツ白コート。だからなんで軍服を着ていないんだ。それ好きなの? 無理矢理着せられているわけじゃなかったのね。
「お初にお目にかかります。私はゾルフ・J・キンブリー。大佐位で、クラクトハイト少将がかつて率いたクラクトハイト隊の一人です。国家錬金術師、紅蓮の錬金術師でもあります」
「ああ、貴方が……。ええと、アンファミーユ・マンテイクです。クラクトハイト所長の管轄にある第五研究所の職員で、錬金術師ですけど国家資格はないです」
「ほぉ、アナタがあの研究所の。ということは、キメラに対して造詣が?」
「はい、他者よりは秀でていると自負しています」
この二人って気が合うのかなぁ、とか思ってたけど、思ったよりは好感触。
キンブリーもアンファミーユも悟っている。「コイツに踏み込んでもメリットはない」と。だからビジネスライクに接している。
互いに互いの血の臭いも感じているだろうし。
「……おや? 何か懐かしい触覚が見えると思えば──キンブリー大佐ではありませんか。それに、おお、クラクトハイト少将まで!」
「む、うるさいのが来ましたね」
「でっか……」
「アームストロング中佐? 珍しいね、セントラル行きの汽車に乗っているなんて。どっかに出張してたの?」
「出張……といえば出張ですが、実質お使いですな。なんでも大総統の御友人がアメストリス中の料理という料理を食べてみたいと騒いでいるそうで、今は沢山の兵が出たり入ったりを繰り返して、様々な料理を献上している最中で。大総統閣下も"……すまんな、言って聞かせるにも恩のある方で……それに、言って聞かせた所で聞き入れんのだ。どこぞの少将が様々なものを教えたせいで、やれ食べてみたい、やれ見てみたいだのの……まぁ、意欲的なのは良いことではあるのだが"、と」
どこぞの少将、の時点でキンブリーとアンファミーユから視線が飛ぶ。
知らなーい。
「中佐、もしよかったらキンブリーの横に座っていきなよ。で、西部の話聞かせてくれない? 西部、ほら、僕って西部出身ではあるんだけど、だからこそ何も知らないっていうか。観光なんか全然しなかったし」
「始まりましたね少将の嫌がらせ」
「勿論ですとも! では失礼して」
荷物の多い筋肉だるまがキンブリーの横に座る。とても嫌そうな顔のキンブリー。
そうだ、と思って、見せつけるようにアンファミーユの手を取り、そして肩を抱いてみせた。
「む、いけませんぞ少将。未婚の女性にそういうスキンシップは」
「珍しいこともあるものですね。アナタがそういう冗談を」
「冗談でも未婚でもないからね。ああいや、未婚ではあるか。けど、婚前と言ってほしいかな。──僕、この子と結婚するからさ。そこのトコロよろしくね、二人とも」
うん、いい顔だ。
特にキンブリーのキョトンとした顔なんて、アルが「原則に縛られないのも~」の件を言った時以来に見たから、今生では初めてかもしれない。
涙をダバダバ流しているアームストロング中佐はおいといて。
「式っていつ挙げるのが正解なのかな。僕、そういうの疎いんだよね」
アルドクラウドからセントラルへ帰る汽車の中は──。
紳士的なアームストロング中佐と、無駄になんか常識人なキンブリーも交えて、そういう浮ついた話で和気藹々とした雰囲気が続くのだった。
賢石纏成
見た目は竜人とかリザードマンとかそんな感じ。なお可変。
サンチェゴと同じくらいには最強装備だけど、生身の人間相手に使うわけにはいかないピーキー性能。また重さがどうこうなるわけではないので吹き飛ばされる系には弱い。