竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第五十七話 再会の小話「東方司令部と嫉妬」

 東方司令部。

 原作では中央よりなじみ深いだろうここだけど、僕にとっては訪問回数最下位の司令部だ。何故って隣が敵国じゃなかったから。

 ま、だからと言って迷うことは無いし、ぶっちゃけスルーしても良かったんだけど──少し()()()()みることにした。

 

 巨大な駅を出てすぐにそれは路地裏へと入り、ひと気の少ない方へとどんどん向かって行く。

 特に時間的な縛りがあるわけではないから、悠々とついていけば──何故か東方司令部の練兵場に辿り着いた。いや、凄いルートを通ったけど。これ改修案件じゃない?

 

「オホホ……私をそんなにも熱心に追いかけてくるとは、まだまだ私も捨てたものでは」

「いや、前一回会ってるじゃないですか。軍の敷地内だからわざわざご婦人とも呼びませんけど、なんか用ですか?」

「……前より生意気な感じに成長しているわねぇ」

「階級は一つ違いなんで」

「軍人にとっては無視するべきではない壁だと思うのだけど」

「わざわざ姿を見せて誘って来た理由を簡潔に述べてください、グラマン中将。暗殺であれば、全力で抵抗しますが」

 

 地面から引き抜くのは単なる竜頭剣。

 剣石錬成なんかこの人に見せるべきじゃあない。

 

「オホホ……はぁ。余裕のない若者は面白みにかける。──用も何も、そちらが突然東部に赴くとの通信が入ったのだ、悪名高き竜頭の東部入りを警戒しない者はいないだろう」

「悪名高いも何も、東部以外では僕英雄とか勝利の子とか言われてるんですけどね」

 

 そう。

 北部、西部、南部において、僕の評価はうなぎ登りだ。

 戦火をほとんど国に持ち帰らず、完全な侵略をしてみせた。唯一ドラクマが入ってきてしまってはいるけれど、それも微々たるもの。

 加えて好景気まで齎したものだから、この三部と中央では英雄扱い。

 翻って東部ではまだイシュヴァール戦役の印象が根付いているのか、割と恐ろしい物を見る目で見られる。見た目ではもうわからない程度にまで成長しているけれど、名前や銀時計を出せば流石にね。

 

 特に東部はイシュヴァール戦役経験者が多い。

 中でもあの赤い槍の雨を見た兵士がうんといる。他の地域で僕に纏ろう赤といえばワームの口こと跳水錬成&賢石錬成だけど、こと東部に限って言えば赤い雨と血濡れの子供、という印象が強いらしいのだ。

 

 僕に言われても、って感じではあるけども。

 

「何用か、ってことか」

「まさかとは思うが、マスタング君に会いに来た──とでもいうつもりじゃあないだろうな?」

「無論。というか誘いが無ければスルーするつもりだったよ。イーストシティに対して興味がないから。ああでも、そういわれたら確かに気になるかも。マスタング大佐は元気? あとあの子、ホークアイさん。今階級がどこか知らないけど」

「──問題ありません。少将も、壮健そうで何よりです」

 

 お。

 前の時よりも甘いフェイスになって、うん、僕の知っているマスタング大佐に程近いかな、今のマスタング大佐は。

 その傍らに控えるホークアイさん。肩の階級章はちゃんと中尉だ。ぶっちゃけドラクマの功績を考えたら少佐くらいにしてあげてもいいくらいなんだけど、そうなると多分マスタング大佐のもとにいられないからね。彼女はアレでいいんだろう。

 

 そしてそして、後ろにいる太めのが、ハイマンス・ブレダと……顎鬚剃ってない人が、ジャン・ハボック。記憶力良い人と電気工事に長けた人は出てこなかったか。

 

「お久しぶりです、クラクトハイト少将」

「うん、久しぶりだねマスタング大佐。ホークアイ中尉も」

「……はい。お久しぶりです」

 

 罠の類はない。いや、いや。流石に軍施設で少将を暗殺、はやんないか。狙撃手である彼女を連れてきたのもそういうアピールかな。それとも僕の考えすぎかな。

 

「そっちの二人は初めましてだね。僕はレムノス・クラクトハイト。竜頭の錬金術師だ。裏切りと内通者は即時処断するけど、味方殺しだけはしないことで有名な錬金術師だよ」

「うへぇ、一手目から脅しとか、大佐ぁ、この人は」

「ハイマンス・ブレダです。よろしくお願いします」

「あぁすんません。ジャン・ハボックす。にしても……御幾つですかい? 随分と若く見えますが」

「正確な年齢はわからないけど、17歳か18歳くらいだよ」

 

 そう。

 僕もう結構大人だったりする。身長は172㎝と、まぁ、そこそこ? だからもう子供扱いされたりしないし、アンファミーユと結婚してもアンファミーユがバッシングされることはない。まぁ同情されることはあるだろうけど。

 

「それで、用件はマスタング大佐から、ということでいいのかな」

「はい。──SAGについて、です」

「東部にも出てるの? そんな報告来てないけど」

「今のところ全て捕縛できていますので」

 

 ふむ。 

 本気でスルーするつもりが、じっくり腰を落ち着けて話さないといけない案件かもしれない。

 

「ん、捕縛? 殺してないの?」

「ええ。仲間の居場所を吐かせるために──」

「グラマン中将、東部の拘置所ってどこですか? 殺しに行くんで教えて欲しいです」

「ホッホッホ……おしえなーい」

 

 何やってるんだか。

 SAGは大半が真理を見て帰って来た錬金術師。手合わせ錬成だけじゃなく、様々な知識に溢れている。それを一般人も使うようなトコにぶち込んだって簡単に逃げられるのが関の山だ。

 

「しかし、少将。これは少将からのご命令であったと記憶していますが……」

「──ああ、そういうこと。じゃあいいや。ちゃんと両手は離して拘束しておいてね」

 

 身に覚えのない命令。

 つまりエンヴィーだ。アイツ、最近外交に忙しいとか言っておきながら、僕の声や姿でなんかやってたな?

 

「えーと、だから、結局用件はなんなの? SAGは捕まえたんなら、もういいんじゃないの?」

「……SAGの内の一人が、吐いたのです。曰く、アメストリスで"土地を用いた錬金術が行われようとしている"──と」

「あー。それで、似た錬金術を使う僕に、ってワケね」

「はい」

 

 国土錬成陣がバレかけている、というのは──少々どころじゃなくマズいな。

 SAG。ドラクマの特殊錬金術師部隊(Special Alchemist Group)。あれだけの数がいて、この国を嗅ぎまわっているのなら──成程、気付かれてもおかしくはない。アメストリス軍人(マース・ヒューズ)と違って情報規制されているわけじゃないし、傷の男(スカー)の兄のように弾圧を受けているわけでもない。

 ある種悠々自適にこの国の歴史を調べ尽くすことができる。

 

 戦争中に何度も何度も賢石錬成を使っている僕だ。一度は内部でそれを見たマスタング大佐も、片棒担いだホークアイ中尉もその陣をしっかり覚えている可能性が高い。

 それをもし、アメストリスの国土錬成陣に当てはめられたら。

 SAGが──まるで「この国を救いたいんだ」とでもいうかのように、気付いた事柄をすべて吐き出したら。

 

 動きづらくなる。

 お父様へは辿り着かないだろうけど、僕の立場が少々面倒になる。

 

「協力していただけますか」

「どうしようかなぁ」

「……少将。これは、もしやすると恐ろしい規模の策略が裏で働いている可能性があるのです。どうか──」

 

 そこまで言う、ということは。

 これ、ほとんどアタリついてるな。いや、いや、本当に余計なことをしてくれた。捕縛じゃなくて全部殺せと口を酸っぱくして言っておくべきだった。

 

「──君達が知る必要はないよ」

「少将!」

「その錬成陣については僕らも把握している。大総統にも既に進言してある。そして、その上で少将以下の兵士に伝える必要はないと判断が為されている。グラマン中将に伝わってないのは、彼が大総統と折り合い悪いからじゃないかな」

「ホッホッホ、その程度で連絡が来なくなる組織など潰れてしまえ、とは思うが……実際に来ていないのだから、その可能性は高いねぇ」

 

 こういう時の権力だ。

 不都合は権力でもみ消す。それが人間のやり方だと僕は知っている。

 

「……これ以上探るな、と」

「そうだね。──君が隣国で見た僕の錬金術を、目の前で見ることは避けたいだろう?」

「っ……少将! それは、アメストリスのためにやっていることなのですか!?」

「当然だよ。ああいや、違った。お父さんとお母さんのため、だ。──アメストリスが無くなることに関しては、僕はどうでもいいと思っているよ」

 

 これ以上話が進展することは無さそうなので、踵を返す。

 

 直後、目の前に火柱が上がった。

 

「ちょ、流石にそれはマズいんじゃないッスか大佐!」

 

 ハボックの声は尤もだ。

 今の火力は、攻撃に等しい。

 

「……このまま見過ごす、というのは承服しかねます。単刀直入に聞きましょう。──クラクトハイト少将。貴方はこの国で、何をしているのですか?」

「一つ勘違いを訂正すると、僕がやろうとしているわけじゃないよ。僕は駒だから」

「なに?」

 

 ガチャン、と大きな音がする。

 高速回転を始めるは、少し前から作り始めていた四つの機械時計。

 過剰供給された思念エネルギーが余剰エネルギーとなり──マスタング大佐達に襲い掛かる。

 

 一般人にとっては、風圧にさえならない何かだろう。

 しかし錬金術師にとっては違う。

 

 もう一度後ろ手を振って去ろうとした僕へ向けられた焔の錬金術は、あらぬ方向……彼らの後方上空で発動する。

 思念急流だ。方向を決めなければならない錬金術相手にはめっぽう強い錬丹術。

 サンチェゴへは遅延錬成で自壊を組み込んで、今度こそおさらば。

 

 ……せっかく会えたけど、もう相容れないかな、これは。

 

 

 *

 

 

 ホントは勘の良いガキ嫌いおじさんの家とか見に行きたかったんだけど、これ以上イーストシティ近辺にいるのは絶対に面倒だなって思って、既にリゼンブール行の汽車に揺られている。

 

 もし。

 もし、本当にトリシャ・エルリックが生きていた場合──僕はどうするのが正解か。

 たとえば僕が彼女を殺したとて、果たしてエルリック兄弟は人体錬成を行うだろうか。彼らが人体錬成を行った年齢より些か歳を取っているのと、蘇生させるより僕への憎しみが勝りそうなものだけど。

 

 アレは病気というどうしようもない結果と、父親らしいことなんもしてやんなかったホーエンハイムへの寂しさから生まれた天才性だ。

 たとえ今同じ結果を齎したからといって、同じ結末に至るとはあまり思えない。

 

 車窓。

 原作と違って羊の量が格段に多い。織物工場もちらほらある。

 戦火が届いていないが故の、本来のリゼンブール。

 

「よぉ」

「やぁ。僕の姿で余計な事言ったみたいだね」

「おいおい、久しぶりの再会だってのになんだよその言い草は。嬉しさ余ってハグするくらいの優しさはねぇのか?」

「したら絞め殺される未来しか見えないけど」

「ハッ、正解」

 

 誰もいない車両の、背中合わせ。

 姿かたちはエンヴィーではないと思う。普通の乗客なんだろう。ただ声だけがエンヴィーで。

 

「──随分と、お父様に気に入られてるんだな」

「そうだね。嫉妬する?」

「ああ。するよ、そこは素直にする」

「そっか」

 

 人間への嫉妬とか、仲間へのそれらは図星を指されるまで決して認めない彼だけど。

 お父様への忠誠、あるいは愛情は、ちゃんとあるのだろう。嫉妬とは羨望の別名であり、今の若お父様があらゆるものへ好奇心を見せている姿を見れば一目瞭然。ある種強欲にも似た──家族を欲する心。繋がりを失いたくないという(やまい)

 

「しかも勝手に憤怒(ラース)名乗ってるらしいじゃんか。ハッ、確かにお前のやり方は憤怒って感じだけどよぉ」

「あれ、誰から聞いたのソレ」

「プライドだよ。"アレには困ったものです。……本当に"とか言ってたよ」

 

 ああ。

 成程、プライドが聞いてたのか。ま、別にいいけどね。彼がどう思おうが、彼がどう伝えようが──残念ながらお父様の信頼度は既に僕の方が上を行く。

 

「だってのに、永遠の命は断るんだもんな。なんでだ? 普通の人間と同じか、それよりも早く死んじまうって可能性を考えたら、永遠の命は魅力的だろ」

「死の間際まで全力を賭す、という考え方は、死がある生物にしかないものだと思っているよ」

「は?」

「僕は決めたんだ。お父さんとお母さんを守る、って。それが決意。故に僕はこの事柄へ力を注ぎ続ける。たとえ刃がこの首を断ち切ろうとしているその瞬間でも、たとえ億の亡者に囲まれ、肉を千切り取られている最中でも、僕は自らの全力を賭して二人を守らんとする。それがたとえ無駄な足掻きでもね」

 

 結果守れずとも。

 僕も、お父さんもお母さんも死んでしまったとしても。

 

 僕は全力を以てこの第二の生を生き抜く。

 

「何度も聞いたよ、それ。で、それが永遠の命を得ないのとどう繋がるんだよ」

「何でもできたら、全力を出せないと僕は信仰している。僕にはたくさんのできないことがあるから、今尚こうして動き、確かめ、考え、その中の最良を掴み取っている。誰にとって最悪でも、僕にとっての最良をね」

 

 だから、要らない。

 永遠の命は──命を賭す行為を踏みにじるものだ。そしてそれは、僕から最良を奪い取る毒薬でもある。

 

 僕は初期も初期にサンチェゴという「自らの真理」を作った。

 それでもちゃんと血は流れたし、苦戦もした。僕の真理では「なんでも」はできなかった。だから錬丹術や賢石錬成やら、さらにさらにと研究開発を行えている。

 

 もし、サンチェゴがなんでもできる装置であったのなら──僕はそこで歩を止めていたかもしれない。

 15秒という錬成速度の遅さ。四つまでという制限。そして限りある命。シンの者やイシュヴァールの武僧のように身体能力に秀でるわけでもなければ、マスタング大佐やマクドゥーガル少佐のように一点特化の錬金術を使えるわけでもない。

 故にこそ僕は進化を止めない。いつでも全力であり続けられる。

 

「僕は僕としての性能に、これ以上を求めないよ。永遠の命も、ホムンクルスになる、という選択肢もない。僕は僕を飾り付けて、そうしてどこかであっけなく簡単に死ぬんだ。その時悲願を達成しているのか、夢半ばなのかまではわからないけれどね」

 

 いつか。

 お父様が死したあの時、真理が彼に付きつけた言葉。

 

 外付けの力で強くなって王様気分、だとか。お前自身が成長していないからだ、とか。

 けれど、僕はそれを大いに結構だと思っている。

 

 僕がもし、人間として成長していたり、達観した考えを持つようになってしまったら。思想が代わってしまったら。

 その僕はもう僕じゃあない。

 

「ふぅん。……なぁレムノス」

「なに、エンヴィー」

「お父様がアンタを気に入っている理由についちゃ、正直ムカつく。俺達には絶対にできないことだからさー。けど、俺がアンタを気に入っている理由は、やっぱそれだよ」

 

 顔は見えないけれど、エンヴィーはニヤリと笑って。

 

「お前に対してだけは、何にも嫉妬する気にならない。なんだよそれ、化け物の考え方じゃんか」

「そうかな」

「自覚がないトコが一層良い。少なくともエンヴィー様は死にたいとは思わないし、ずっと生きていたいと思う。仮にお父様が死ねって言ってきても、それは変わらない。ま、抵抗するだけ無駄だとは思うけどな」

 

 そうだろうか。

 そうだろう。

 もし、お父様が賢者の石を欲したあの場にエンヴィーがいたら。

 彼は「石を寄越せ、エンヴィー」と叫んで──エンヴィーは一瞬だけ嫌な顔をして、けれどすぐに諦めるのだろう。死にたいわけじゃない。けれど逃げられないし、逃げた後を考えれば死も同然。ならばいっそ、と。

 

 ……ま、これは僕の信仰だからね。

 

「あ、そろそろリゼンブールだね」

「リゼンブールゥ? なんか用あんの? あんなクソ田舎に?」

「何も用が無ければいいな、と思って行くんだよ。一緒に来る?」

「行かねえよ。あのな、どっかの誰かさんのせいでエンヴィー様は忙しいんだよ。戦後処理を一人でやってんだぞこっちは。他国の法的手続きとか知るかっつーの」

「全部やったことにすればいいのに」

「どこぞの誰かが犯罪博物館なんてもんを建てたせいで民衆の関心がこっちに向いてんだよ。なんもかんもアンタのせいなの気付いてる?」

「でも君達のお父様は喜んでいたよ」

「子には子の悩みがあるんだよ」

「ついでに言うと、アエルゴを賢者の石にしろって言ったのは君だよ」

 

 言えば、エンヴィーは目を逸らす。

 

 結構そういうとこあるよね。嫉妬から責任転嫁に名前変えてもいい頃合いだと思うよ。

 

 ──汽車はリゼンブールへ到着する。

 エンヴィーはそのまま、南部のピットランドへ向かって行った。

 

 さて。

 ──いるかな、トリシャ・エルリック。まぁその前にエルリック家ってどこですか、から始めないといけないんだけど。前一回キンブリーと通り過ぎたことあるけど覚えてるワケないんだよね草原過ぎて。

 

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