竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第六話 錬金術の応用「戦闘時の錬成難度」&リスさん

 結論から言うと、僕に剣術は無理だった。

 お父さんは一応、本当に一応アメストリス式軍隊剣術を修めてはいたんだけど、今は育休中な上に基本は銃を使うとかで、士官学校以来剣は握ったことが無いとかなんとか。

 んじゃ前世の剣道でなんとかしようとしたら、隙だらけだって言われた。確かに。剣道はあくまで道だし。

 だったら知り合いを紹介してよ、って言ったら知り合いにも剣術家なんていないらしい。キング・ブラッドレイ大総統が言っちゃなんだけど異端なだけで、そもそもアメストリスって銃が基本だ。銃構えてる奴に剣で突っ込むのは蛮勇か余程ヤバい奴なんだって。確かに。

 

 というか、というかなんだよね。

 僕の知識は勿論鋼の錬金術師から来ているから、何故か接近戦を挑む気満々でいたけど、接近戦って危ないんだよ。リスクが大きすぎる。

 余程身体能力に自信がある人がやることであって、普通は遠距離から戦うんだと。

 

 あと、何よりも僕が「無理だな」と感じたことがあって。

 それが。

 

「レミー。お前、そもそも"動きながらの錬成"はできるのか? できると思うか?」

「あー」

 

 そう。

 作中ではみんな当たり前のようにやっていたけど、格闘しながら錬成とか逃げ回りながら錬成とか、無理だ。人間は歩くだけ、走るだけでかなりの思考リソースを割いている。重心移動、バランス、地を蹴ることや逆に止まること。

 それをやりながら形状を完璧に考えて、あるいはテンプレート通りでも組成の組み換えを脳内計算して……って。

 超人?

 

「例えばだがな、レミー。俺の場合、錬成陣を描く速度はそれなりだという自負がある。加えてどんな場所にも描ける。ただ、一から物を作るのは苦手だ。ちゃんと考えて、ちゃんと計算しながらじゃないとできない。無理にやろうとすれば、コップのように割ってしまいかねない」

「それは多分、僕もかな。割ることは無いと思うけど、違う結果を引き起こす」

「そのリスクを戦闘中に考えなければいけない……なんて、できると思うか?」

「無理だと思う」

「うん、良く現実が見えているな」

 

 よく現実が見えている。

 ……そうだ。

 現実を見よう。

 

 今は家の中だから良い、とか考えないで、現実を見よう。

 

「……お父さん」

「いいか、レミー。俺が母さんの錬金術を秘密にしたのは、母さんが少し危ない錬金術を扱うからだ」

「!」

「街で錬金術師が嫌われているのもそのためだし、恐らく監視がついているのもそのため。お前がそれに気づいてしまったのは想定外だったが……()()()()()()()()()()()

 

 おかしな文脈。

 だから、か。

 

「うん。わかった。お母さんの錬金術については、お母さんが帰ってきてからなら聞いても良いんだよね?」

「ああ。別に隠すことでもないしな」

 

 お父さんがどこまで知っているのかはわからない。

 お父さんの地位もわからない。だけど、僕の態度から何かを察してくれたんだと思う。

 

 さて。

 そろそろ楽観視はやめよう。

 

 お母さんが国家錬金術師でー、危ない錬金術が使えてー。

 お父さんが軍人でー、お母さんには及ばないまでも錬金術が使えてー。

 その子供が落ちてきた本で頭を打ってから突然錬金術に目覚めてめきょめきょ成長しててー。

 

 これで監視がつかないこと、ある?

 

 ホムンクルスたちは優秀な錬金術師を探している。

 それは人柱候補として監視対象になるからであり、監視下に置きやすくするためだ。

 その錬金術師に「大切な人」がいるのなら、無理矢理扉を開けさせるために策を練ることも苦ではなく──。

 

「さっきのは聞かなかったことにする。──言わなかったことにしなさい、レミー」

「……うん」

 

 ぞっとする、よね。

 僕ら親子三人は全員が錬金術師で、それぞれに方向性が違う。

 だから、全員が全員、互いの人質になり得てしまうわけで。

 

 国家錬金術師を目指して、イシュヴァール戦役に呼ばれるようになる。

 国家錬金術師を諦めて、ホムンクルスたちの目から外れるように努力する。

 

 この二択なら、僕は。

 

「──お父さん」

「なんだ、レミー」

「軍人やめない?」

 

 第三の選択肢……もうみんなで錬金術師やめちゃおうぜを取る!!

 

 

 *

 

 

 お父さんは軍人も錬金術師もやめなかった。ので、僕はまた僕なりの錬金術のお勉強である。

 

 僕の作った四大元素手袋かっこかり。

 これを使った錬金術をもう少し突き詰めたい。いや、だから、お父さんが軍人をやめてくれないなら、僕の選択肢はもう国家錬金術師になるしかないわけで。

 作中に出てこなかったところを見るに、国家錬金術師たるお母さんはイシュヴァール戦役中か、あるいはまったく関係ない所で死んでしまっている可能性があるわけで。

 

 二人を守りたい僕としては、やはり強くなるしかないという結論に至る。

 

「だから、土を錬成する……のが難しいからー」

 

 あの鹿さんは今日も見に来ている。

 確実に監視されている。僕が監視に気付いていることに気付いているのかはわからないけど、それはもうじぃっと見つめてきている。

 これ僕なのかなぁ、狙われてるの。

 

 岩に親指と人差し指を当てる。そして──右に捻る。

 これを行うと何が起こるかって、単なる乾湿の錬成陣に違うマークが生まれるのだ。三角形を円運動させたら当然扇台形が生まれる。扇台形の意味は「軟化」。湿の錬成陣で行う岩の軟化は、まぁ普通はあり得ないこと。それを錬成を通しておこない、さらには乾の方でも同じだけ動いた記号によって「切削」を行う。

 引っ張り出した柔らかな岩をもう片方の手袋に沿わせながら、剣の時にできなかったことをしていく。

 押し出しの錬成陣で余計な要素を押し出し、固定するものは親指を這わせて両側から圧縮。岩の中に含まれた鉄はごく少量のために先端へ集中させることを選び、柄となるただの岩の部分はできるだけ硬くしていく。

 かかる時間は……やはり20秒ほど。

 これ以上早くやるならお父さんの前でやらないといけない。

 

 とかく、こうして作り上げられるは──槍。

 石の先端に鉄の刃がくっついた槍だ。

 

 さて、僕が剣でなく槍の扱いに長けているかどうか。──無論、慣れているはずもない。

 長いし重いし、まだ身長が伸びていないからむしろ振り回されるし。

 

 使うならもう少し短め? けどそれだと槍の意味が無いしなぁ。

 やっぱり剣? 誰に習うの問題。

 ま、それを言うなら槍だってそうなんだけど。

 

「……あ、でもこういうことはできるな」

 

 先端の刃を分解して取る。

 残った石の円柱の底面に触れて、「整形」を行っていく。刻むのは錬成陣。

 

 それを──どすん、どすん、どすん! と。

 地面に何度も突き立てる。

 

「そういうことも──ある!」

 

 鹿さんにじーっと見られながら行うその錬金術は、押し出しの錬成陣。

 最後にもう一回石柱を振り下ろした瞬間、ドゴッ! と複数の土の柱が立ち上がった。

 

 ……一応、成功だ。

 耐久の設定を岩へのもののままにしてしまったからすぐに崩れたけど、これをもう少し改良すれば目くらましに使える……カモ。

 こういう使い方してると、僕は判子の錬金術師になるんだろうか。……ちょっとカッコ悪くない?

 

「──なあ」

 

 声はそんな、特別なことをしていない、なんでもない時にかかってきた。

 余りにも聞き覚えのありすぎる声。真実をいつも一つにしてしまいそうなその声は、少し上の方から。

 

 ビクッとして、キョロキョロしている僕に、声は。

 

「上だよ上。いや空じゃなくて、木の上! 枝のとこ!」

 

 わかってはいた。わからないふりをしたかった。

 何故接触してきたのか、何故その姿で声をかけてきたのか……何もわからないままに、僕は。

 

「リ、ス……?」

「よぉ。そうだ、リスだよ」

 

 絶対リスじゃないリスと、会話を始めてしまう……のである。

 

 

 

 僕は割合幼い。

 文字が読めただけで賢い子とされるくらいには幼い。無論それは学校に行っていないのもあるけど、まぁ幼い。

 だから行けると思ったのかもしれない。

 

 リスは、そのいつも通りの尊大そうな態度で、こっちを馬鹿に、見下してますよ感の伝わる声で……それを問うてきた。

 

「それ、何してんの?」

「え、いや、錬金術だけど……」

「そんな一発芸みたいなのが錬金術?」

 

 グサァッ!

 ……残念、僕の冒険の書がここで終わってしまった、になるくらいの精神ショック。

 

「い、一応そうだよ」

「ふーん。俺が見たことのある錬金術ってのは、もっと爆発が起きたり、鉄の槍が何本も地面から突き出たりしてたけど」

「そういう危ない錬金術はまだ習ってないから……」

 

 リスと会話する幼子。

 絵面だけ見ればメルヒェン。余りにもメルヒェン。

 でも正体がわかってる僕にとっては断頭台でしかない。刃が、刃がそこに。

 

「あの……リスさん」

「ん?」

「どんぐり……食べる?」

 

 そんな境遇に陥った僕が取った選択肢は、なんと賄賂。これで懐柔されてくれませんか、と。お願いだから見逃してくれませんか、と。

 そんな、ただ僕の足元に落ちていただけのどんぐりを提示されたリス。

 

「……意外と通じるもんだな。流石人間」

「え?」

「なんでもないよ。リス語だよリス語」

「あ、リスにも言語があったんだ……」

「まぁな。あんまり動物馬鹿にすんなよ? 俺たち動物は人間のこと馬鹿にできるくらいの知能はあるんだから」

「は、はい」

「んじゃ、一応そのどんぐりは貰っておくよ」

 

 そっと近づけて、渡す。

 ……いきなり頭が刃になる、とかはなかった。普通に貰われる。

 

「あの、リスさん」

「なに?」

「名前って……あるんですか?」

 

 深入りするべきじゃないのはわかっている。

 ただ、友好関係と言わないまでも、この幼子にはそこまで知能が無いと……監視対象にするまでもないと思わせるほどの「幼稚さ」を見せつけることができれば、なんとかなるんじゃないかという浅知恵。

 対し。

 

「名前はないよ。今までも適当に名付けられたことはあったけど、どれもこれも覚えてない。つか、アンタの名前は? 名乗りもしないのか、最近の奴は」

「あ……っと、僕の名前は……レムノス、かな」

「あん? なんでそこ曖昧になる? 自分の名前だろ」

「普段愛称でしか呼ばれないから……」

 

 これは割と本当。

 まだ文字も読めないと思われていた頃からいきなり錬金術を習うまでに至った僕は、文字の練習というものをしていない。普通はそこで自分の名前を書いたりするものなんだけど、それをすっ飛ばしているからどういう字で僕の名前が書かれるのかすらわかっていない。

 ついでにいうと苗字もわかっていない。どうしようこれでエルリックとかカーティスとかロックベルとかだったら。

 無いか。

 

「ふぅん。んじゃ俺だけは本名で呼んでやるよ。それで、アンタはなんて名前をくれるんだ?」

「……ちょっと待ってね、今考えてるから」

 

 リス。

 リスっぽい名前。リスっぽい名前ってなんだ?

 ……とっとこするやつはハムスターだし、そもそも「太郎」の響きがアメストリス的に微妙。

 チッフ〇とデー……は検閲対象だ。たとえ異世界でも消される可能性がある。

 

 じゃあ逆に、彼の正体を絡めた名前にしてみるとか。こう、切望からとってロング! とか。

 ……それはあまりにも馬鹿すぎる。知性を見せているようなものだし、なんで名前知ってるんだってとこまで行かれかねない。もっと監視対象になるでしょ。

 

「……錬金術師としてあるまじき思考速度じゃないか?」

「うっ、き、気にしてるんだよそれ……」

「あぁ自覚はあるんだ。……別になんでもいいぜ。茶色(ブラウン)とか縞々(ストライプ)とか。いっぱいあるだろ、見た目の特徴は」

「でもそれって、たとえば髪の毛が無い人の事をハゲって呼んでるようなものじゃない?」

「……まぁ、確かに? 言われてみりゃそうだな」

「だから、もう少しパーソナルな部分を知らないと名前なんて名付けられないよ」

「でもアンタの親はお前の事なんも知らないのに名前を付けただろ?」

「それは……それは、生まれたばかりの子供にパーソナルな部分なんて何もないからで」

「リスにはある、ってか」

「あるでしょ、それは。話していて今のリスさんに個性があるのはよくわかるし……」

 

 ……アレ、コレ。僕「幼稚さの露呈」できてる?

 年齢の割に思慮深いとか思われてない? 大丈夫だよね? 素直過ぎて幼すぎて意見の決断ができない、流石人間愚か愚かって思われてるよね?

 

「ハハッ、じゃあいいよ。リスさん、で。十分だ」

「あ、うん……ちゃんと考えておくね」

「ああ。()()()()()()()()()()()()()()()。適当な時期にちゃんと名付けてくれよ、レムノス」

 

 うん?

 ……いや気のせいだろう。

 

「あ、僕そろそろお昼ご飯に戻らないと……」

 

 と声をかければ、リスはもう姿を消していて。

 木には、木の枝には、なんで折れてないのか不思議なくらいの窪みが刻まれていて……。

 

 うん。

 うん!!

 

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