竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
第六十話 錬金術の例外「反射」
イーストシティからセントラルへはそこまで乗車時間が長くないので、聞きたいことをパパっと聞く。
「そういえばなんだけど、何故エルリック姓を名乗っているの?」
「ん? あぁ、なんか知らねーけど、"あまり好きな名前じゃないんだ"だそうで。オレ達にもホーエンハイム姓は名乗らねえよう言って来たんだよ」
「……」
ふむ。
普通に名付け親としてのお父様が嫌い、という説はある。もう一つは、ホーエンハイムという名はこの世界では生まれ出でないものであるから、それを名乗っていたら一瞬にしてお父様に目をつけられてしまう──というのを恐れた、のもあるのだろう。
自身の名が、自身に纏ろう名がアメストリスに轟くことを嫌った。この兄弟がいずれ大物になると確信していたがために、って感じかな。
「あの、ボクからも一つ聞いていいですか?」
「勿論」
「何故ホムンクルスの研究を? 人が人を作ること……これは、あまり推奨されていないというか、人体錬成に至っては禁止されていることですよね」
「そうだね。でもまぁ、僕がホムンクルスを作る理由は簡単だよ。ホムンクルスが他国と戦ってくれたら、アメストリス人は平和でいられるだろう? 僕は今まで錬成兵器というものを開発してきたけれど、それも同じ理由だ。一般兵が前に出て剣や銃で戦うより、よっぽど安全でよっぽど効果的で、何より生存率を底上げする。みんなが幸せになる。──誰も死ななくさせるための錬金術。ちょっとクサいかな」
「い、いえ! 素敵だと思います!」
目を輝かせるアル。うんうん、鋭い目で僕を監視しているのもいいけれど、子供はそうでなくっちゃ。
「アンタ、何歳だっけ?」
「今年で多分20か、19か。正確な年齢を僕は覚えていないんだ。あ、別に家族がいないとかじゃないよ」
「ふぅん。……なんつーか、大佐といいアンタといい、夢見がちなとこはそっくりなんだな。流石は大佐の隊の隊長ってことなのかね」
「マスタング大佐が何か夢見がちなこと言ってたのかい?」
「夢はでっかく大総統、だそーだよ。大佐の上に准将、少将、中将、大将とあっての大総統だろ? 気の遠くなる話じゃねぇか」
「あー……。彼、そろそろ30だからね。ホントに狙ってるなら頑張らないと……」
「30であの顔は反則だよなぁ」
「君達ももうちょっと大人になれば甘いフェイスになるんじゃない?」
「行きつく先が見えてっからなぁ。老けたら親父みてーになんだろ? ……今の内に髪染めたりしてイメチェンしておくか?」
「髪染めは髪を痛めるよ兄さん」
髪の話になって、二人は僕の顔を見る。
なんだろうか。
「……アンタさ、彼女とかいんの?」
「ちょ、兄さん失礼過ぎだって!」
「いるよ。結婚を前提に付き合ってる」
「ハッ、そりゃ藪蛇だった。国軍少将で嫁さんもいて、研究所一個丸々所有してて国家錬金術師で……」
「そ、その……差し支えなければ、お嫁さん、どんな方か聞いても良いですか?」
おお。
そういう話に興味のある年頃か。そうだよね、本来なら15歳と14歳。原作のような凄惨な展開になければ、もっと青春を過ごしている年齢だ。
しかし、生憎写真というものを持っていない僕。……作るか。
「なんか適当な鉄材とか持ってない?」
「持ってるわけねぇだろ」
「ははは……すみません、持ってません」
当然だった。
しかし、汽車の一部を錬成するのは流石に。
……。
「じゃ、会ってからのお楽しみで。君達が国家資格を取って僕の研究所へ遊びに来たら、自ずとわかるからさ」
「ちぇー」
「はーい」
原作より生意気過ぎないのは、自信があまりないからだろう。国家錬金術師として数々をやってきた自尊心があの余裕を生んでいたのだろうし。
そう考えると、場数慣れしていないのが少し気になるな。大丈夫だろうか。シン組とかの初見に対応できる? ホムンクルス……には伝達済みなので大丈夫だろうけど、他に何かあったっけ格闘が必要な事件。
……あ、普通の野良キメラとかは危ないか? あれらが単純命令を聞くとは思えないし。
「そろそろセントラルに着くけど、まず中央司令部で手続きを受けてね。僕はお偉方に君達の推薦に関してを話してくるから」
「ちなみにそういうのってパスできたりはしないワケ?」
「流石にね。多額の研究費を毎年払うわけだから、コネで誰でも彼でも入れられちゃったら国庫が死ぬよ」
「だよなぁ。ま、言ってみただけだ。っし、アル!」
「うん。絶対合格しようね、兄さん」
ということで。
一旦ここで別れる。マスタング大佐の忠言こそあったけれど、これ結構関係良好なんじゃない? いいよ、僕。優しいお兄さんできてるよ。
と、屋内に入った瞬間。
「──誰ですか、あの二人は」
「人柱候補」
「まだ子供に見えますが?」
「年齢関係ないでしょ。僕が推薦する程の錬金術師、って聞いて、それ以上に理由必要?」
「……わかりました。大人しく引き下がりましょう。それと、父がまた姿を見せて欲しいと。何か預けたいものがあるのだとか」
「ん、今日はちょっと研究所の方へ戻らないといけないけど、明日か明後日あたりに行くよ」
「そうしてください」
業務連絡を影の化け物と終えて。
ふぅ、と一息を吐いた。
……
ブラッドレイ大総統に並んで、僕の天敵だ。グリード、ラストの最強の矛は賢石剣鎧で防げることが判明している。完全物質の鎧ならスロウスの突進もいけるだろう。
問題は大総統の眼と、プライドの物量。あとグラトニーの疑似・真理の扉。
これの対策をしておかないと後々大変そうだなーとか思いつつ。
エンヴィーは、まぁいいよ。あの取り込みは肉ごと補充してこそだと思うし。
プライド。
プライド対策どうしようかな。無難に閃光弾責めが一番か。あの影も研究したいんだけどなぁ。
「時に」
防御する。
──し切れていない。首の皮一枚切れた。が、剣に賢石を纏わりつかせて固定、感圧式錬成陣を発動して──。
「ほう? 私の剣を止めるか、竜頭の錬金術師」
「何の真似かな、キング・ブラッドレイ大総統」
「八つ当たりという奴だ。最近父の我儘が過ぎるのでな。この歳になって初めて"悩みの種"や"我儘な子供との接し方"を学び始めた」
「奥方に聞いたら?」
「浮気を疑われるように仕向けたいことだけは伝わった」
大総統の剣を離し、彼へと伸びていた四本の槍も崩す。
感圧式錬成陣は自身の意思で思念を止めないと発動してしまうのが難点だ。
……八つ当たりで首を斬ろうとする方が悪いので何とも言えないけど。あと本気じゃなかっただろうし。
「子供と言えば、今日僕が推薦した兄弟の錬金術師がいるんだけど」
「ほう?」
「人柱候補としても、錬金術師としても──僕は二人に大いなる期待をしている。罷り間違っても殺さないでね」
「……人を快楽殺人鬼のように言いおって」
快楽じゃなくても通りすがりに斬り捨てたりはするじゃん。フー爺さんとか。
「それじゃ、僕は第五研究所に戻ります。お先に失礼します~」
かるーく言って。
今しがた入ったばかりの中央司令部を出て、門を出て、セントラルの通りをくねくね歩いて路地裏まで来て。
「──ッ、っふぅ……化け物でしょ、あれ」
賢者の石を押し当てて止めていたそこを、確認する。
薄皮一枚なんてとんでもない。
結構ざっくり行かれた。子供の頃より首が太くなっていたのが災いしたか、それとも大総統が僕の実力を過信していたか。
錬丹術で治癒を行う。生体錬成は決して使わない。
生体錬成で治した結果がこの腕なワケで。粘土をくっつけただけじゃ歪みは消えない。流れを正さないと無理だ。
全く。
もしかして
ただいま、という声に、おかえりが帰って来たのはいつぶりだろうか。
……なんて、研究所のみんなは基本おかえりを言ってくれてはいたんだけど。
「アンファミーユ、どう? 何か進展あった?」
「喋りました」
「……え、ホントに?」
「はい。喋りました」
それは、凄まじい進歩では?
え、見たい見たい。
「ただ、喋った時点で自由意志があると判断し、完全拘束しました。解放しますか?」
「サジュの失敗を学んでるね。うん、口だけお願い」
やはりアンファミーユも天才の一人。
……と、褒めるのは難しい。
「これ、キメラ・バッテリー使ってるでしょ」
「う」
「僕に嘘を吐く、というのがどういうことかは……」
「う、嘘は吐いてないですよ! 喋った、って言って、少将が勝手に早とちりしただけです!」
ふむ。
はい。喋りました。見たい見たい。
……成程。確かに、賢者の石を使っているとは言ってない。
「でもアンファミーユ、僕をからかうなんて、そんな自我があったんだね君」
「あ、いえ、ちょっとした意趣返しというか、折角婚姻を結んだのに一瞬でほっぽかれたことに怒ってるとかじゃ」
……あー。
そういえば、オズワルドとアンファミーユって体の関係があったんだっけ。
つまり何?
欲求不満で僕をからかったってこと?
「……」
「ご……ごめんなさい」
「うん」
しかし。
欲求不満か。うーん。
どうするか。僕じゃどうしようもないんだよね。アンファミーユに性的興奮を覚えられない。他の女性に対してもだ。僕の感情のその全てがお父さんとお母さんを守るに向いているから、そういう反応が一切起きない。故にハニトラにも引っかからないし、ラストに劣情を抱くこともない。
「キメラ・バッテリーを使えば確かに喋りはするだろう。苦しい苦しい苦しい苦しい。痛い痛い痛い痛い。そういう思念の塊がキメラ・バッテリーだ。それに準じた感情をリビンゴイドも手に入れることができる。だけど、そういう話じゃないのは理解しているよね」
「はい……」
「賢者の石。賢者の石に指向性を持たせる。課題はそこからだ。とりあえずアンファミーユ、君はもう一体リビンゴイドを作って組み立てる作業をして反省していて」
「……はい」
何かを組み立て、作業していると心も落ち着くというもの。
あるいはオズワルド型とかも作ればいいんじゃないかな。それで慰めたらいいんじゃない? その生体パーツが誰のものかは知らないけどさ。
これ以上はR18になるので割愛しよう。
バッテリー用の賢者の石を前に、胡坐をかいて座る。
思念エネルギーを送る……にしても、思念エネルギーというのは流れるものであれど留まるものではない。単純な思念エネルギーではダメだ。何か工夫をしなきゃ。
遅延錬成のように渦を描いて押し留める? ダメだ、いつか出て行ってしまう。それじゃバッテリーの意味がない。
リピーターのようなものをつける? それだとキメラを使わないといけない。
自己保持回路……も同上。
賢者の石と思念エネルギーだけで賢者の石に指向性を持たせること。
そのやり方。
……賢者の石の形を変えてみるのはどうだろう。
錬成陣にするのは少し危険すぎるので、記号に。たとえば上向き三角形で「火」に。
「……」
反応なし。
地水火風全部反応なし。
うーん。
いや、錬成陣は絶対危険なんだよ。賢者の石で錬成陣を作るのは、国土錬成陣よりも危険だと思う。
……あー。
一個思いついた。
リビンゴイドの核の内部に五芒星を刻んでいく。
噴出先を敷き詰めて、蓋の内側にも入れて。
そうして、──賢者の石を使う。
賢者の石エネルギーを出した状態でリビンゴイドに入れて、蓋をして、さらに遠隔錬成で中の噴出口の場所を一部変えて。
「……」
「……ダメか」
「いいえ」
ゾッとする。
冷たい声が聞こえたからだ。どこからって、目の前から。
アンファミーユに感謝だ。完全拘束してくれていなかったら、あるいは。
「……」
「……名は?」
「ありません」
「そっか」
そりゃそうだ。
結局何の思念が宿ったのかもわからない。
僕がやったのはただ、アレ……ブラックダイヤモンドの奴。
内部で反射し続ける賢者の石エネルギーが思念エネルギーを押しとどめる。本来隙間ができるはずのバッテリーボックスの内部に遠隔錬成をして隙間を消して、勝手に一生賢者の石エネルギーがバチバチし続けるようにした。
「レティパーユ。今日からの君の名だ」
「個体名レティパーユ。了解しました」
スイルクレムの妹だからね。
一応、立ち位置としては。
「さて、質問だレティパーユ。君は今どんな感情を抱いている?」
「動けません」
「……」
ふむ。
感情の育成はアンファミーユに任せようか。僕は量産体制に移ろう。人手が足りないんだ、一体一体の情緒を育てている暇はない。レティパーユがある程度育ったら、レティパーユにも育成係をやらせよう。
やっぱりリビンゴイドはホムンクルスの劣化品だ。
だってホムンクルスには最初から感情があって、人間らしかった。ああいうのを人造人間っていうんだよなぁ。
「主よ、貴方の事は何と呼べばいいですか?」
「呼ばなくていいよ。僕から君に呼びかけることはあっても、君から僕に呼びかけることは発生しない。君が意見や主張を持とうとも、僕ではなくあっちにいるアンファミーユに伝えてくれ」
「……承知」
リビンゴイド。生体人形。
僕はお父様にはなれないと思うからね。呼び方は無しでお願いするよ。