竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第六十一話 錬金術の会話「反照」

 レティパーユと名付けた生体人形(リビンゴイド)は、言葉を習うだとか、体の動かし方を理解する、だとかの工程を一切無視し、初めからそういう形であった、とでもいうかのように動いている。

 これを受け、僕はレティパーユを仮定として「賢者の石の中の魂のどれかが表出している状態である」と置くことにした。単なる思念エネルギーや錬成エネルギーに意思があるとは思えないし、生体部品もそれは同じ。であれば「人間だったころの記憶」を有しているのは賢者の石だろう、という判断だ。

 

 今、レティパーユのコア……バッテリーボックスでは半永久的な錬成エネルギーの噴出と吸入が起きている。物質にはそれぞれ錬成エネルギーの伝導率というものが存在し、気体は固体よりその伝導率が低い。だからこそレティパーユのバッテリー内部から錬成反応が消えることは無いし、それに絡めとられている思念エネルギーがどうにかなることもない。

 賢者の石こそ皮切りだけど、錬成エネルギーの噴出と吸入はもう賢者の石がなくても続く。バッテリーが損傷でもしない限りレティパーユが死ぬことは無いわけだ。

 

 問題……というか懸念事項があるとすれば、シン組がレティパーユをどう感じるかわからない、ということ。賢者の石が中にあるからホムンクルスみたいな気配を覚えられるのか、それとも錬成エネルギーの過剰集中が全く違う気配を生むのか。

 

 どちらにせよリビンゴイドなんか量産して使い捨てる予定であるとはいえ、鹵獲されたり壊されたりは普通に面倒臭い。結構コストかかるからねーコレ。

 

「所長、上のCCMから内線が」

「内線? 珍しいね、なんかあったのかな」

「なんでもお客様、とか」

 

 色々考えていたら、アンファミーユがそう声をかけてきた。

 僕と入れ替わる形でレティパーユを()始めるアンファミーユをよそに、内線電話に出る。

 

 内容は。

 

 

 

「よっ、久しぶりだな!」

「ちょっと兄さん? 目上の人だし、階級もかなり上なんだから、敬語」

「良いだろ別に。アンタ、そういうの気にし無さそうだし」

 

 ──笑顔で僕に銀時計を……二つの銀時計を見せてくる金髪金眼の兄弟。

 

 はっっや。

 

「もう資格取ったの?」

「おう! その日のうちに、とはいかなかったが、なんぞお偉方の意向で試験を執り行うー、とかでさ。アンタが図らってくれたんじゃないのか?」

「進言はしたけど、僕は特に何もしていないよ。それより、おめでとう二人とも。ま、最年少国家錬金術師は僕の称号だからあげないけどね」

「いや別に欲しがってねーって」

「あははは……ありがとうございます、クラクトハイト少将」

 

 こう。

 なんだろう。

 ……トラウマらしいトラウマがないから、純粋な15歳、14歳くらいの少年、って感じ。僕は前世があるからまた話は違うんだけど、母親の死と人体錬成を経験しなかったエルリック兄弟は、ヒネた感じやあくどい感じのない……悪く言えば騙されやすそうだな、とか思っちゃった。

 このエドならサマとかしないんじゃないかって。……いや、騙されるな僕。ズルをしないエドワード・エルリックなど存在せず──。

 

「二つ名は?」

「追って通達だそうで、まだ届いていないんです。ただその前にすぐにでも兄さんがクラクトハイト少将の所へ行きたい、って」

「んなこと言ってねーだろー? オレはただ、研究中のホムンクルスを見たいって言っただけだ」

「おんなじことだよ、兄さん」

 

 どんな試験内容だったんだろう。

 国家錬金術師になれるくらいだから、手合わせ錬成無しでも十二分に認められるようなことをやったはず。ふぅん、推薦しておいてなんだけど、手合わせ錬成無しのエドの実力が楽しみでもある。

 ……ま、どれほど悲惨でも人柱候補だから絶対受かるんだけどね。

 

「じゃ、ちょっとここで待っててくれる? 中の部下に色々伝えてくるから」

「おう」

「ありがとうございます」

「シェスカ、もしできたら、その間二人とお話でもしててくれる? CCMの歴史とかさ、なんでもいいから」

「あ、はーい」

 

 ──さて。

 リビンゴイドは見せるつもりだ。だけど、選択が二つ。

 

 喋らせるか、喋らせないか、だ。

 喋らせる場合、勘の良いガキ嫌いおじさんの「人語を解すキメラ」の価値がかなり落ちる。何故って量産の利くこちらの方が「人語を解し、命令を聞ける兵士」として質が高いから。

 喋らせないと、絶対に「コイツ喋ったりはしねーの?」って聞かれる。

 

 ……まぁ、キメラはキメラで頑張ってもらえばいいか。

 

 階段を下りる。

 レティパーユに何かを話しているアンファミーユに声をかけ、今から社会見学が始まるから、と一方的に伝えれば、彼女は大きな大きなため息を吐いたあと、資料等々の片付けを始めた。

 うん、アンファミーユもなんか遠慮が無くなって来たね。いいよ、そっちの方が楽だろう。

 

「レティパーユ。君は、僕が良いというまで喋らないこと」

「承知」

 

 いいよ。

 聞き分けの良い内は、ちゃんと守ってあげるからね。

 

 

 *

 

 

「クラクトハイト少将について、ですか?」

「ああ。ま、雇い主の悪口は言いたかねーと思うからそっちはいいんだけどさ。あの人がどんな人なのかいまいち掴めねーんだ。シェスカさんの目線からでいいから、教えてくれよ」

 

 応接間に座る金髪金眼の少年二人、エルリック兄弟。

 対面には大きなメガネをかけた女性──この中央犯罪博物館で、「特に何もしなくていいよ。他に頼みたい仕事あるから」と言われ、本当にただ座っているだけの受付を行っているシェスカ。

 クラクトハイトが地下へと降りて行ったことをしっかりと確認してから、二人はシェスカへそんな質問を投げていた。

 

「一言で言い表すと……すごく良い人ですね!」

「……一言じゃないと?」

「物凄く良い人です」

「あ、あはは……え、えーと。それじゃあシェスカさんがここで働いてる理由とかって聞けたりしますか?」

「私ですか? 私は、実は、なんと、スカウトなんです!」

 

 胸を張るシェスカ。

 けれどそれがどれだけ凄いことなのかを知らぬ二人には、何も伝わらない。

 

「スカウトっつーと、どっかの部署からの引き抜き?」

「はい。元々中央図書館の第一分館にいたんですけど、私、一つの事に集中するとそこから抜け出せなくて、毎回毎回怒られてて……そこを所長さんが掬い上げてくださいました。初対面で私の、その、一応特技と呼べるものを見抜いて、"君にお願いしたいことがあるんだ"って」

「その特技っつーのは?」

「あ、たとえばこれです」

 

 そうシェスカが手元の本を持ち上げて見せる。当然、首を捻る二人。

 

「記憶力が良いんです。昔から、それだけが取り柄で。この本の内容、ページ数や行数、なんなら列数指定でもどこに何が書いてあるかを当てられますよ!」

「そりゃ……確かにすげぇ。ってもしかしてこの本、アンタが書き写した本か?」

「はい。所長さんの研究日誌? とかいうのを普通の本として書き写すようにお願いされていて……あ、でも凄いんですよここ。労働条件が他のどこよりも最高で、正直夢みたいな職場で」

 

 CCMの紹介は二人の耳を通り抜ける。

 その興味の対象は、クラクトハイトの研究日誌。その写本だ。

 自身に何かあったときのために研究日誌の写本を残しておく、という錬金術師は少なくない。それを弟子や部下が継いでくれるように、と。

 

 それが。

 第五研究所の第一人者であり、国軍少将にまで上り詰めた国家錬金術師の研究日誌が目の前に。

 

「それと、最初に悪口は言いづらい、って言ってましたけど、多分ここで働いている職員で所長さんに不満を覚えている人はいないと思いますよ。いつ会っても笑顔で挨拶してくれますし、病欠や急用にも対応してくれますし……流石は勝利の子と呼ばれただけありますよねぇ」

「勝利の子、ねぇ」

 

 エドワード達東部出身のアメストリス人には聞き馴染みのない言葉。

 さらに言えば、幼馴染の家の夫妻が語っていたそのイメージとはかけ離れた──。

 

「って、ごめんなさい! 私ここの歴史全然紹介して無かったですね! ええと、ここができたのは1910年で、元々は17人の職員がいたんですけど、色々あって減ったり増えたり減ったりして今はそんなにいなくて……」

「その色々あってを聞きたかったんだが……時間切れか」

 

 エドワードが目線をそちらにやる。

 瞬間、扉が開いた。明るい茶髪。血よりも濃い深紅の瞳。

 かつて悪魔と、悪夢の子と怖れられた錬金術師。

 

「準備ができたよ、二人とも。──さ、行こうか」

 

 こと東部においては活躍よりも悪行の方が轟いている。

 イシュヴァールという部族を殲滅した、その紅いの雨の伝説が。

 

 

 *

 

 

 ──何か探られているなぁ、という印象。応接間のあちらこちらには盗聴器が仕掛けてあって、当然あそこで話される内容は全て筒抜けである。

 何かを探られている。ただ確信があるというわけじゃない。そんな感じだ。

 マスタング大佐に何かを吹き込まれたと見るべきだけど、まぁまずはここ。

 

「紹介するよ。アンファミーユ・マンテイク。僕のお嫁さんで、たった一人の部下だ」

「……アンタだったのか」

「先日ぶりですね。所長と上手く出会えたようで何よりです」

 

 何故か。

 ほんの少しだけ化粧をしているアンファミーユ。君ってそういう体面を気にする人だっけ。

 

「んじゃいい機会だし改めて。オレはエドワード・エルリック。ついさっき国家錬金術師になったばっかりで二つ名はまだない。父親を探して旅をしている。──が、別にあんな親父見つからなくてもいいとも思っている!」

「ちょっと兄さん。それだと母さんが悲しむって何度言ったら……。あ、ごめんなさい。ボクはアルフォンス・エルリック。兄さんの一個下の弟で、ボクも先ほど国家錬金術師になりました。よろしくお願いします」

 

 いや、いや。

 うんよかった。本当に良かった。血とか掃除しておいて。

 こんなピュアッピュアな少年たちに凄惨な殺害現場とか見せられないもんね。

 

「それで、ホムンクルスの研究ってのを見せてくれる約束だったよな!」

「うん、いいよ。アンファミーユ、レティパーユを連れてきて」

「わかりました」

 

 アンファミーユが奥の部屋へ行って、そしてすぐに戻ってくる。

 普通に歩けるけれど、わざわざレティパーユを台車に乗せて。

 

 ちなみにレティパーユの容姿はフランス人形って感じ。最初はただのマネキンみたいのだったんだけど、僕がリゼンブールから帰って来たらこうなっていた。多分アンファミーユの趣味なんだろう。

 あるいは、自分がなりたかった姿か。

 レティパーユに雄雌はない……と思う。如何せんまだレティパーユが何の思念なのかがよくわかっていないから断定はできないけれど、原作で言う白人形に性別があるか、って言ったらないでしょ、って答えるよね、うん。

 

「おお……これが?」

「そう、ホムンクルス。まだ開発段階だから僕らは生体人形(リビンゴイド)と呼んでいるけれど」

「あの、触ってみても良いですか?」

「良いかどうかは本人に聞くと良い。レティパーユ、喋っていいよ。ただし彼らとの受け答えのみだ」

 

 言葉に目を開き、上体を起こすレティパーユ。

 エルリック兄弟は「うおっ」とか「わ!?」とかいってバックステップ……をしかけて、けれど踏みとどまった。

 ……体幹がしっかりしているな。イズミと出会ってなくて、カウロイ湖で修行していないのだから格闘はそこまでなんじゃないか、とか思ってたけど……それとも出会ってるのかな?

 

「動いた……喋れる、のか?」

「はい。レティパーユは会話が可能です」

「あの、触ってみてもいいですか?」

「四肢であれば構いません。また私は未だ実験開発段階にあり、あまり強い衝撃を受けると破損する恐れがあるため」

「は、はい。優しく触ります。……わぁ、すごい、ホントの人間みたい……」

 

 まぁホントの人間を素材に使っているからね。

 きゃっきゃとピュアにレティパーユを触るアルとは打って変わって、エドは神妙な面持ちでレティパーユを眺める。

 ……分析力の天才。エドワード・エルリックという主人公の最たる部分はそれだ。故にこそ、あるいは傷の男(スカー)の兄にさえ届き得る資質を持っている。

 

「……クラクトハイト少将。コイツ作るのに、何人犠牲にした?」

「それは研究員の数? それとも実験体?」

「実験体の方だ。失敗作のリビンゴイドは……どれくらいいる」

「いないよ。動物実験はやってたけど、リビンゴイドそのものはレティパーユが第一例だ」

「……信じられねえ」

「無理もないかな。けれど、本当だ。……マスタング大佐に何を言われたかは知らないけどね、僕は国防のためならなんだってやるし、死に物狂いでやる。そのために必要なホムンクルス制作にあたって自国の民を犠牲にするとか本末転倒が過ぎる。故に、死に物狂いの結果がレティパーユだと思ってくれて構わない。そしてまだまだリビンゴイドは、ホムンクルスは進化する。あるいはいつか、錬金術を使えるほどにまで」

「所長、お客様が引いてますよ。……ごめんなさい。所長はこのレティパーユという成功例を手にしてから、可能性が広がった可能性が広がったとテンションが落ちることを知らなくて。ただ、彼の国防の精神は本物です。どうか怖がらないであげてください」

 

 ──という設定を、さっき地下へ降りた時に詰めていた。

 僕はあくまでただのマッドサイエンティスト気味な所長で、アンファミーユはそれを窘める立場にある、と。

 この演技は二人をここへ近づき難くさせるだろう。人間、話が通じない相手や自分ばかりが話す相手とはあまり付き合いたがらないものだ。

 

 そしてもし敵対することがあれば、彼らはアンファミーユから先に狙うだろう。

 僕にはどうせ冷静な判断はできないと、そう断じて。

 

 ……なんて。

 なーんで敵対する前提なんだか。

 

「っとと……つい熱くなってしまったけれど、犠牲者を出していないのは本当だ。誓ってもいい。生憎と誓う神がいないから、僕の可愛いお嫁さんにでも誓っておくけど、それでいいかな」

「惚気は結構。つか、誓われなくてもわかるよ。アンタなんか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()な、ちょっと」

 

 ……オレが今まで見てきた研究者連中?

 なに? 誰の話?

 

「あ、そうだった。兄さん、クラクトハイト少将に言伝があったんだ」

「そーいやそうだっけ」

「言伝? 誰から?」

「今言った研究者連中の一人だよ。名前は」

 

 ──カリステム。

 

「"またどこかでお話しできたら幸いです"、ってさ」

「ん、ありがとう。もし次に会ったら善処するよって伝えておいて」

「いやそれ行かねえ奴じゃん……」

「忙しいからねー僕は。ま、こんな感じだよ。あとはレティパーユの換装パーツとかを置いてある部屋見ていく?」

 

 アンファミーユに目配せをして、レティパーユごと下がらせる。

 これ以上の意味はない。そう判断した。

 

「換装パーツ?」

「うん。レティパーユはホムンクルスを目指して作ってあるけど、リビンゴイドの域を出ないからね。腕とか足とか、壊れた時用に取り換えることができるものを用意してあるんだ」

「……つまり、人間の足だの手だのが並べられてる部屋ってことか?」

「本物じゃないけど、そうだね」

「遠慮しておくよ。大体想像はつくし」

「他には何か研究していないんですか?」

「昔は色々やってたんだけど、職員がやめちゃって引継ぎができない、とか事業を畳まざるを得ない、が連続してね。昨今はホムンクルス事業だけかな」

「ああ、さっきなんか聞いたような」

 

 頃合いだろう。

 それを察したのは、エドの方だったようだけど。

 

「……っし、じゃあ帰るぞアル!」

「え、いいの兄さん。もっと聞きたいことあるんじゃ」

「あるにはあるけど、それより気になるモンがあんだろ? ──なぁ少将さん。つまりアレは、読み解けるモンなら読み解いてみろ、ってことでいいんだよな?」

「さて、なんのことかわからないけれど──難しいよ? 子供にわかるかな」

「あ、ああ。そういうことか。……うん、わかった。じゃあ僕らはここで失礼します! ありがとうございました!」

 

 アルだけは頭を下げて、エドは手を上げて。

 地下研究所を去っていく。

 

 読み解くものなんか一つしかない。

 僕の研究日誌、その写本だ。ダミーとして置いてあるソレには、遅延錬成のことやリビンゴイドの事が書かれている。さらに読み進めると──「本物のホムンクルス」の存在の示唆に辿り着く。

 

 果たして彼らは、ポケベル語を何日で読み解けるかな──!

 

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