竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第六十五話 錬金術の戦闘「竜頭vs焔」

 セントラル練兵場──。

 正史においては鋼vs焔が繰り広げられたここで、今。

 

 竜頭vs焔の戦いが始まろうとしている──!

 

 

 *

 

 

 無理ゲー。

 あと僕の錬金術は初見殺しなんだからこんな何人もいる場所で見せつけるのも意味わかんない。

 アエルゴ潰したんだからこのイベント無いんだと思ってたけど、全く関係なかったらしい。というより爆発寸前だったんだって。人気が。

 元から、ドラクマを侵略しきった後から囁かれていたことではあった。

 

 隣国攻略の中核となったクラクトハイト隊。その実態を見てみたい、という話。

 セントラル市民の声でもあり、他の地域の声でもあり。東部以外はみんな僕や僕らを英雄だのなんだのと讃えているから、期待度もMAXだ。

 

「けど無理だよ。相性悪すぎ」

「でしょうねぇ。アナタ、私やマスタング大佐どころか、ほぼすべての国家錬金術師と相性悪いでしょう」

「いやコマンチ爺さんとかならまだやりようはあるよ。系統が似てるから。でもマスタング大佐はむーりー」

 

 控室でキンブリーに駄々をこねる。

 クラクトハイト隊全体に招集がかかっているので、恐らくだけどマスタング大佐の控室にはアームストロング中佐がいることだろう。

 

「賢者の石を使ってしまえばいいのでは?」

「こんなお遊戯会で賢者の石の存在を露呈させるって?」

「露呈したところで何か変わりますか。せいぜいが正義感を持った何者か達が賢者の石というものについて調べ始める程度でしょう」

「……賢者の石使っても勝てる未来あんまり見えないんだけど」

「因ませてもらいますと私もそうですね。中遠距離の不意打ち無しの勝負でマスタング大佐に勝てる錬金術師などいないのでは?」

 

 プライドとかの問題じゃない。

 真面目に無理。焔の錬金術は最強だ。ほんっとうに最強なんだ。対人は。

 

「代わってくれないかな」

「残念ながら、私そこそこ顔が割れていまして。各地でSAGを潰している内に覚えられてしまったようですね」

「そうだ、レティパーユに……」

「先ほどの生体人形(リビンゴイド)でしたか。丸焦げになって終了では? 惨いことをしますね。そのリビンゴイドも、そしてマスタング大佐も死にますよ。火力を誤って大衆の前で上司を殺した、なんてレッテルをあの真面目人間に張るつもりですか」

「誤らなくても僕が黒焦げになりそうなんだけど」

 

 もう少しで出場時間だ。 

 マスタング大佐は律儀で礼儀正しいので、僕がサンチェゴを作るまでの時間を待ってくれる、という可能性もある……けれど、逆にサンチェゴを作らせないために速攻で来る可能性もある。

 どう考えても大火傷必至。よくあんなのと戦ったよねエド。

 

 ……エド。

 エドか。

 

 ふむ。

 

「何か思いついたようですね。アナタの長所はその土壇場の発想力です。存分に見せていただけると私も楽しめますので」

「キンブリー、低威力の爆弾四つくらいくれない? あと煙幕。黒」

「……武器、兵器の持ち込みは禁止では?」

「機械鎧に仕込んでおけば大丈夫でしょ。デフォルト兵装扱いで」

「多少の怪我を押してでも彼と真っ向から戦ってあげる、という選択肢はないようですね。彼、張り切っているようでしたが」

「僕の人生における真っ向勝負は"できることなんでもする"だから。その身一つで戦う、とかはアームストロング中佐に任せるよ。あとキンブリー、なんか余裕ぶっこいてるけど僕の戦いのあと熱が冷めなかったらアームストロング中佐vs君ってパターンもあるからね」

「無理ですね。勝てません」

「わかる」

 

 マスタング大佐もアームストロング中佐も天才だ。大天才だ。

 エリートオブエリートだ。

 僕らみたいな日陰者が敵う存在じゃない。

 

 が。

 

「ま、つまらない戦いにはしないよ。彼と次に戦う時は、本気の殺し合いになりそうだしね」

「ほう?」

 

 お遊びの範疇でいられる内に、ちょっと踊ろうか。

 

 

 

 

 スタジアムみたいに改造された練兵場。観客席に空きはなく、ざわつきがすごい。

 

「……上の判断とはわからないものですね。私と少将の仲に亀裂がある、というのは伝わっているものだと思っていましたが」

「だからこその配慮なんじゃない? 喧嘩して仲直り、とか今更説明するまでもないけどさ」

「古典ですか?」

 

 両の手袋をしっかりと嵌める。そしてそれはマスタング大佐も同じ。

 解説と実況……が誰なのか、何を言っているのかは知らないけれど、スピーカー越しに会場を盛り上げる文句のようなものが流れているのはわかった。

 なんかあそこ気のせいじゃなければ大総統いない?

 

「さて、改めて。マスタング大佐、僕の錬成スタイルは知っているよね」

「無論です」

「じゃあお願いがあるんだ」

「サンチェゴを錬成する時間、待ってほしい、ですか?」

「ああうんうん、一言一句そう」

「ではお断りします。──ここを戦場だと思い込み、初めから全力で行かせていただきましょう」

 

 ──"それでは両者準備もできたようなので!"

 ──"始めて行きたいと思います! 焔の錬金術師ロイ・マスタング大佐vs竜頭の錬金術師レムノス・クラクトハイト少将!"

 

 ──"はじめ!"

 

 なーんにも準備できてないんだけどなー、とか思いつつ、始まる前から錬成を始めていた壁を目の前に出現させる。

 そこにぶち当たる炎。うん、人間相手の火力じゃないね。

 

 ただこれで目くらましの噴煙が出た。今のうちにサンチェゴを──。

 

「つく、らない!」

「……流石、避けましたか」

「あっぶな……何今の、導火線曲がって来たんだけど?」

「私も成長しているということです!」

 

 乾湿の湿、地面に水気を振りまいて、僕自身は逃げまわる。

 聞いてない聞いてない。遮蔽物が意味なくなるvsマスタング大佐とか無理ゲーに拍車がかかってるって!

 

 錬金術師封じである思念急流はサンチェゴがないと流せないし、ノイズも空中を走らせるにはちょっと足りないものが多すぎる。

 これは。

 

「ありがとうキンブリー!!」

 

 投げる。爆弾四つ。

 内一つは僕が今錬成したもの。

 

「な、卑怯な!」

「常時飛び道具なそっちのが卑怯だよ!」

 

 さっき作ってもらったそれは、まず一つ目が空中で大爆発を起こす。爆発の威力はそこまででもないけれど、火の粉が降ってくるタイプ。当然、マスタング大佐も土壁と屋根を作ってそれに対応する。

 そして残りの二つは──パチン、なんて音を立てて、爆発ではなく鉛玉を周囲にばら撒くもの。銃弾じゃなくて僕がいつも使っている奴ね。

 

 最後の一つ、僕が作ったものは地面へと落ち、適当に見出された五角形から吸入され、そしてまた適当な五角形の噴出口からポン! と高くへ飛ぶ。

 飛んで、弾けて。

 

「水!?」

 

 卑怯上等!

 空気中の水分をどうたらこうたらとかサンチェゴや賢者の石を使わないと無理だからね!

 初めから水が入った爆弾だ。濡れるがいい、濡れて無能になるがいいロイ・マスタング! そして僕はサンチェゴを作る!

 

「──甘い!」

 

 指パッチンの音と共に、降り注いできた水が全て炎に巻かれ、蒸発する。

 ……。

 

「……もしやとは思いますが、私対策はこれだけですか、クラクトハイト少将」

「まさか」

 

 じゃらり、という音を聞いたはずだ。

 その音を聞いて咄嗟に振り返ったマスタング大佐は、だから見たはずだ。

 一番に爆発した爆弾。その中に入っていた大量の鎖が地面に落ちた光景を。

 

 ダミー。

 すでにサンチェゴは作り始めている。ガチャン、なんて音出すものか。あれは単なるアピールなんだからやる意味がない。

 だから、それはそれとして──肉迫する。

 こっちに意識を戻したマスタング大佐に。

 

 右ストレート。……は、いとも簡単に掴まれ、止められた。

 

「……格闘戦、とは。軍学校を出ていない貴方では私に勝ち目などないと」

「"遺脱"」

 

 掴まれた右拳をそのままに腕を捻ってパージする。その際、拳の中から零れ落ちた鉛玉が、青い錬成反応を見せる。

 

「機械鎧!? いつから──」

「"破裂"」

 

 風船の割れるような音がした。

 弾かれるように僕の右拳を握っていた右手を振り上げるマスタング大佐。

 

 ふ。

 フフーフ……。この僕が機械鎧に何の仕掛けも施していないと本気で思っていたのか。そもそも機械鎧だって今知ったみたいだけど。

 収納スペースだけに使う、なんて勿体ないからね!

 

()っ……!?」

「酸だよ。ああ安心して、人体への害はちょっとしかない。口とか目に入ったらすぐに洗い流さないと大変だけど、入ってないでしょ? 計算はしてるんだよその辺の」

 

 弾かれたマスタング大佐の腕は、だらんと力を失くす。お、ラッキー。脱臼したか。

 狙いは発火布だけだったんだけどね。

 

「……それでも焼けるように痛いのですが」

「うん。これが終わったらちゃんと病院へ行くと良い」

 

 酸だからね。

 何の、どういう酸かは……まぁ。ははは。

 

「さて、じゃあこれで終わりかな」

「終わり、ですか?」

「片腕の使えないマスタング大佐と右拳のない僕。錬金術師の勝負にならないじゃないか」

「まだ左腕が残っていますが」

「そう言うと思ってた」

 

 突然、練兵場全体に青い錬成反応が迸る。 

 全体だ。この巨大な空間に走る錬成反応は、僕が今まで見せてきた中でも一、二を争うもの。

 防がなければならない。普通は、そう考える。けれど。

 

「フェイクですね。これが発動しても何も起きません。故に、距離を取ってほしいという願いを見ました」

「俯瞰で見てるワケじゃないのに錬成陣の内容一瞬で読み解くとかやめてくれるかな!!」

 

 踏み込まれる。無作用錬成陣が一切効果を為さなかったのは初めてだ。

 来る。アッパーか、蹴り上げか。どちらにせよ為す術がない。防ぐ術がない。

 

 サンチェゴは完成したけど、あれも思念エネルギーを流し込まなければただの機械だ。僕が踏み込んだのは明らかに失敗だった。

 

 万事休すか。

 せっかくエドモチーフの戦法思いついたのに活かせなかった。まぁ、焔で焼かれるわけじゃないだけいいとするか。

 

 ──期待されても、特に何も思いつかない。

 ガツンという音が顎を叩き、身体能力もエリートなマスタング大佐の肘による打ち上げが僕を高くへと飛ばす。

 容赦無っ。

 

 そして眼下。飛ばされた僕の眼下で、残った方の腕を僕へ向ける彼の姿に。

 

 

「まぁ、負けるのも一興ではあったんだけど、気が変わったらしいよ」

 

 自身を包み込む炎を、左手の手袋で薙いで掻き消した。

 

「──何?」

「はぁ。いや、いや。来るなら一言言ってよって思うのは、これちゃんとした子供心だよね。全くさぁ、そんな顔されたらお遊びでも頑張りたくなっちゃうじゃん」

 

 お父さんとお母さん──じゃ、ない。二人は滅多にセントラルには来ない。来ないし、もし僕がボロ負けになっていたとしても、大げさなまでに心配するお父さんと冷めた目で見るお母さん、という光景になるだろう。

 

 そこにいたのは。

 マスタング大佐の背後の観客席にいたのは──なんか普通の服を着た若お父様だった。

 

 その目は。

 

「まぁ、まぁまぁまぁまぁ。どこまでが僕自身の力かって話だよね」

 

 赤い錬成反応と共に、機械鎧の拳を修復する。

 全身。全身だ。

 錬成反応は全身から迸り、出るマンガ間違えたみたいなオーラを放っている。

 

「……それが何かを聞いても?」

「君の懸念。君の疑念。今この国で行われようとしていること。僕が行おうとしていること。それらの基礎となるものであり、果てとなるものであり」

「賢者の石、ですか」

「ちょ、おいおい、今人がせっかく格好つけてるんだからさぁ、もう少し余韻ってものを」

 

 踏み込んで、殴る。テレフォンパンチも良い所なそれを、マスタング大佐は──右手で掴む。そのまま左手を擦った。

 

「やっぱり脱臼は演技か!」

 

 超至近距離での炎。

 自分も巻き込まれるだろうソレを受けて、僕はバックステップをする。

 炎は──けれど、僕の身体に纏わりつかない。

 

「……無傷、ですか」

 

 完全物質は燃えない。

 この軍服に仕込まれた賢石繊維はあらゆるものに対しての耐性を持つ。

 

「対して君はボロボロだね。降参したら?」

「自傷ダメージのみで降参するのは些か格好がつきませんよ」

「そう、それなら」

 

 今度こそガチャンという音が響き渡る。

 賢石繊維を竜頭へと伸ばし、自らを釣り上げる形でその位置まで戻った。

 

 そうして、久しぶりに出す。

 いつもは地中に埋めているサンチェゴを──地上に出す。

 

「久方ぶりに見ました。少将のサンチェゴなる機械時計」

「普通見せないからね。──さて、鎖と焔、どっちがいいかな」

「どちらでも!」

「じゃあ水で」

 

 セントラルの地下水道から引っ張って来た水を、その辺の用水路から持ち上げてきた水を、赤と青の錬成反応で操り、殺到させる。

 

 だーれが君と同じ土俵で戦うものか。

 焔で戦ったら錬金術を使い慣れている君が勝つに決まっているし、鎖なんか弾かれて終わり。

 

 やっぱ水だよ水。水最強!

 

「さて、さっき容赦されなかったからね。──審判が止めるまで水責めに遭うといい。僕はやめないよ」

「ちょ、待、溺れっ!」

 

 段々、段々と。

 練兵場……その観客席ギリギリのあたりにまで溜まっていく水。

 あ、使った水はあとでちゃんと浄化して各地の水道に戻すから。軍事演習で市民の生活に害が出るとか本末転倒だもんね。

 

 

 こうして。

 竜頭の錬金術師vs焔の錬金術師は、竜頭の錬金術師の勝利で終わった。

 うん、やっぱりサンチェゴさえ作ってしまえば傷の男(スカー)の兄クラスとか以外は勝てるな。僕の「真理」。弱いわけがないってことで。

 

 さて、これを見てあの兄弟は何を思ってくれただろうか。

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