竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第六十六話 錬丹術の来訪「動き出す渦潮」

 捕獲したグリードを用いた生体人形(リビンゴイド)の『第三号』。

 その実験は行き詰まっていた。

 というのも、当然ながら賢石の卵……賢石封印からグリードの賢者の石を出してしまえば、即座に再生が始まる。賢者の石以外で周りを固めても無駄だ。侵食し、あるいは取り込んでまでして再生する。

 じゃあ賢石封印ごとコアにすればいいんじゃないか、という考えは、前提からして無理だった。何故って賢石封印に使っている思念エネルギーは僕が常に出しているものだから。『第三号』を動かすために僕が弱体化、ないしは動けなくなるとか本末転倒すぎる。

 出してもダメ、出さなくてもダメ。

 お父様式賢者の石の研究をしたいのに、そもそも賢者の石に手をつけられない──というのが現状。

 行き詰まるどころか行けてすらいないってわけだね。

 

 そんな中、レティパーユと『第二号』は順調に育っている。育っている、という表現が正しいのかはしらないけど、徐々に人間らしくなっているというか、情緒を獲得していっているというか。

 果たしてリビンゴイドにそんなもの必要なのかな、という考えは心のどこかにある。でも錬金術を使わせるなら、想像力豊かになってもらわないといけない。情緒を育てなければ思念エネルギーも放出できない。だからこその成育だ。

 

 とまぁ、こんなところがリビンゴイドの研究。

 これから先は──僕とお父様の「やるべきこと」についてのお話だ。

 

 僕は今日からアメストリスを発って、各国で仕込みをする。長期間第五研究所を空ける日が多くなる、ということだ。

 そうなると、アンファミーユだけじゃ戦力に不安がある。ので修練に出していたスライサー兄弟を返してもらって、カリステムの実験場に配備。また秘中の秘である錬成兵器も研究所内に設置しておいたので、侵入者は痛い目を見ること確実だ。

 ……それがエド達でないことを祈るけど。

 

 また、遠出となるわけだから、護衛というか付き添いが必要となった。

 選んだのは当然キンブリー。余計な口出ししてこないし、強いし、色々知ってるし。

 それはいいんだけど、もう一人必要だとかで──もう一人ついてくることになった。

 

「そ……そういう、わけだ。よ、よろしく頼むよ、お二方」

「……失礼、誰ですかアナタ」

「あ、あっ、す、すまない。一応私も……ああいや、なんでもない。私はティム・マルコー。一応……何故か、大佐位に上げられている国家錬金術師だ」

「はあ。それは失礼を。本当に知りませんでした」

 

 ティム・マルコー。

 何故かめちゃくちゃおどおどしているこの人が同行者になった。

 ヒーラーはありがたいけど、中央軍の意思をひしひしと感じる。あとなんで大佐に上げられているのかも気になるし──どこまで知ってるのかも。

 

「ああ、そ、そう懐疑の目を向けないでくれ、クラクトハイト少将。私の上にいるのは中央軍ではなく、大総統だよ……」

「大総統? なんで?」

「それは大総統に聞いてほしいが、お、恐らくノウハウを学んで来い、という……彼の後ろにいる者の命令なのではないか、と、と、私は考えている」

 

 大総統の後ろ、ね。

 相変わらず性格に似合わず頭がいい。これでバリバリの勇気があれば英雄になっていただろう。マスタング大佐に並ぶほどの。

 

「それで、少将。此度の任務の全容をお教え頂けますでしょうか。私達は何も聞かされておりませんので」

「ああ、特に大した話じゃないんだけどね」

 

 背中から賢石の尾を出して、崩壊した建物に突っ込ませる。

 

「世界の扉を開くために、必要な陣を刻みに行くってだけ。ただ多数の妨害が予測されるから」

 

 釣り上げ、持ち上げたのは──アメストリスの軍服を着た兵士。

 それを僕らの前にどしゃっと落とす。その衝撃で皮膚が剥がれた。つくりものだ。

 

「僕が外出するというだけで、暗殺を狙う者は多いだろう。僕が外国で何かをするというだけで、勘繰りを入れる者も多いだろう。──故に大総統は、一週間前の時点で国外に出ていたアメストリス人を全員国内に戻した。調査をしていたもの、警邏に当たっていたもの、実験を行っていた者すべて」

「なるほど。では」

 

 キンブリーが手を合わせる。陰陽が重なったその瞬間、彼の足元を伝って遠くの物見櫓が大爆発を起こした。

 

「国外にいる人間は、全て敵、と。──良いですね、実にシンプルな仕事だ。やりがいがある」

「君達の任務は一応僕の護衛。マルコー大佐は治療になるのかな。ただ、守りに徹する必要はない。見敵必殺って奴だ。アエルゴ、クレタ、ドラクマに()()()()()()。いるのは敵だけだ──そうだろう?」

「ま、待ってくれ。人間はいない、とは」

「え、その辺説明されてないの? ……まぁ簡単に言うと、全部賢者の石にしたからいないんだよ、人間。アメストリスの隣国は全てゴーストタウンだよ。食事中であれ運動中であれ戦争中であれ、等しく全てが石になった。ゆえに、アエルゴ人、クレタ人、ドラクマ人というのはもう存在しない。いるのは裏切り者か内通者かテロリストのどれかだけだ」

 

 続けざまにドカンドカンと爆発が起こる。

 わー、結構いたんだなぁ。僕の気配察知も範囲が狭いから、その辺の観察眼はキンブリー頼りになっちゃう。頑張ってもらおう。

 

「まぁ見てもらった方が早いかな。キンブリー! もうちょっとこっち寄って!」

「おっと、離れ過ぎましたか」

 

 地面に円を描き、一枚の紙をそこへ叩きつける。

 瞬間隆起する壁──通称ワームの口。

 必要な個所に鉛玉を射出して、はいオッケー。

 

「ノウハウを得たいんだっけ? じゃあ、これを覚えて帰ってほしい。──これが僕式の賢石錬成陣だ。

とっても簡単だろう?」

 

 発動する。

 恐ろしい音と共に生えてくる黒い腕。円の中にいた人間、キンブリーにさえ見つからず隠れていた者がボトボトとその命を落とし──中心へ凝縮されていく。

 

「……賢者の石の錬成陣は、そこまで不思議なものではないが……最初に作った岩の円はなんだ?」

「跳水錬成と言ってね。理解できなければそれまでだよ」

「跳水……まさか錬成エネルギーを流していると? どうやって……」

 

 うん、多分マルコーさんは教えなくても勝手に学んでいってくれるタイプだ。

 気が楽だね。先生役とか無理だからさ。

 

 それじゃ──ちょいとばかし、ご機嫌よう、アメストリス。

 

 

 *

 

 

 南部には「ソウイウ」店が多い。

 それは治安の悪さだとか、都市開発の遅れだとかが関わっているのだけど、「ソウイウ」店を必要とする者からすればメッカも良い所だった。

 

 必要とする者。

 アンファミーユ・マンテイクもその一人である。

 

 第五研究所はどうせスライサー兄弟と少将お手製トラップが敷き詰められている。だから空けても問題がない。ので、アンファミーユは久方ぶりの小旅行に出ていた。危険であることは理解しているから、決して連れて行ってくれなかったことに拗ねているとかそんなことはない。

 そしてもう一人──レティパーユ。

 彼女も一緒だ。

 彼女、と言っていいかはわからないが、今のレティパーユはアンファミーユ好みの女の子っぽい恰好をさせているので女の子でいいだろう。

 

 クラクトハイトはリビンゴイドに情緒を求めている。 

 どうせ使い捨てるのに何故、というのは錬金術を知らない者の発想だ。錬金術に情緒は不可欠。

 使い捨ての道具であるからこそ豊かな感情を得てもらう必要がある。

 

 ──そしてそれは多分、アンファミーユも。

 

「ミユ、唇の色から体調の悪化を観測しました。休息が必要と見えます」

「いいえ、大丈夫。少しはしゃぎ過ぎただけだから」

「性欲の発散。人間というのは非効率ですね。私も人間を目指すのであれば、人間足れと願われるのであれば、それらを身に付ける必要があるのでしょうが」

「こればっかりは人間が進化の過程でそぎ落とし忘れた邪魔な欲求だから、要らないと思う。ほら、所長は持っていないでしょ?」

「所長は人間の目指すべき姿なのですか?」

 

 随分と語彙も増えたレティパーユのその問いに、少しだけ笑ってしまうアンファミーユ。

 

 そんなこと、あるわけがない。

 アレを全人類が目指したら絶滅まっしぐらだ。全く、本当に男運が無いとまた苦笑する。

 

「ミユ?」

「なんでもない。それより、せっかくセントラル以外の場所に出てきたのだから、あなたは行きたい場所とかないの?」

「欲求ライブラリに該当なし。レティは今、特に欲しいものがありません」

「そっか。それじゃ、適当に歩こっか」

「承知しました、ミユ」

 

 互いに適当な偽名をつけて、身分を偽って。

 本当に小旅行だ。南部と東部を回って、中央に戻る。ただそれだけの旅行。

 

 ──の、はずだった。

 

「……ミユ」

「どうしたの?」

()()()()()()()()()

 

 そう言って見せてくるのは、確かにパンダだ。

 

 ちっちゃいパンダ。手のりサイズ。

 

「……研究所で飼うのなら、ちゃんと管理してね。実験動物のエリアにいたら、間違って素材に使ってしまうかもしれないから」

「はい」

 

 アメストリスはキメラを始めとした様々な動物実験を行っている。

 いるだろう、手乗りサイズのパンダくらい。別に驚きもない。

 

 ただ。

 

「あーっ! いましタ、シャオメイ! 追いつきましタ!」

 

 と駆けつけてくる異装の少女には驚いた。

 アメストリス。隣国三つを滅ぼしたことで、隣国嫌いとさえ言われているこの国へ、恐らく恰好からしてシンからの旅行者。あり得ない──とは言い切れない。何故なら、東の大砂漠を挟んでいることを理由に、シンとは侵略戦争を行っていないからだ。

 正式な手続きを経ているのなら、いてもおかしくはない。

 

 そして、言い分から察するに。

 

「レティ。その子、あの子の飼いパンダのようだから、返しなさい」

「……。……はい、ミユ」

 

 一瞬の抵抗。嫌だ、という意思があった。

 順調に情緒が育っている証だ。

 

「あ、あのあノ! その子は私の家族でしテ……」

「はい。先ほど理解しました。お返しいたします」

「あ、ありがとうございまス!」

 

 返されるパンダ。

 そして、それとは別に。

 

「──あ……えト、つかぬことをお聞きしてもよろしいでしょうカ」

「レティに答えられる質問であれば、構いません」

「その、では、あの……あなたは不老不死の法について何かしりませんカ?」

「申し訳ございません。その質問には答えられません」

「答えられないということは、何か知っているというこト……?」

「知らないことは答えられない。それだけよ。……貴女、名前は?」

 

 この返答をするということは、レムノス自らがレティパーユに禁則事項として告げてあったものだ。

 不老不死の法。キメラの研究者であるアンファミーユからしてみればお笑い種も良い所だが、少女は本気らしい。

 

「これは失礼しましタ! 私、シンから来ましタ、メイ・チャンと申しまス!」

「そう。私はミユ。この子はレティ。それで、メイ。何故この子が不老不死の法を知っている、と思ったの?」

「あ、いや、その……その、この方人間ではありませン……よネ?」

 

 人間ではない。その通りだ。

 だが何をして、何をもってしてそれを見抜いたのか。

 

「なぜ、そう思うの?」

「いえ、明らかに人間とは流れが違いますシ、大地の流れがこの方……レティさんを避けていますシ、一目瞭然でス!」

「そう。けれど、気にしないで。この子は生まれが特別なの。人間ではない、と定義しないでほしいわ」

「あ……なるほド、承知しましタ!」

 

 流れ。

 時折レムノスが口にする言葉だ。アンファミーユはその概要を聞いていない。聞こうとしたことがない。自身の存在理由に必要のないものと判断したから。

 けれど、こうしてレムノス以外からその言葉がでるというのならば、話は違う。

 

 全く違う技術体系はレムノスという天才が生み出したものではなく、元からあるものなのだと。

 

「とにかく、不老不死の法というのは知らない。私もこの子も。──ただ、私達の上司なら知っているかもしれない」

「ホントですカ!?」

「ええ。生憎と今旅行中で、帰ってくるのはひと月もあとだけど」

「あ、う」

「だから、貴女さえ良ければ、私達と行動を共にしない? 旅行中の彼を探すよりいいでしょう。私達と来るなら、衣食住も保障するわ」

「ね、願ったりかなったりでス! よろしくお願いしまス!」

 

 騙されやすすぎる。

 少しだけ。

 少しだけ、昔の、あまりにも盲目的な自身を見ている気持ちになった。そして、けれど頭を振るう。

 

 盲目的なのは今も変わらないからだ。

 

「ちなみに聞くけれど、貴女は錬金術師?」

「いえ、錬丹術師でス!」

「錬丹術……」

「はイ。この国の錬金術とは技術体系が根本から違うため、できることできないことに差がありますガ、錬丹術も様々なことができるんですヨ」

「……それなら、所長を待っている間、情報交換……ではないけれど、勉強会をしない? 私も他国の錬丹術に興味がある。あなたはこの国の錬金術に」

「興味がありまス!」

「……ミユ。私はどうしたらよいのでしょうか」

「あなたも学びなさい、レティ。いずれ覚えることになるのだから」

「承知」

 

 錬丹術。

 もしこれが、所長の使うものと完全に一致していたら──彼はどこからその知識を得たのか。

 

 ……そんなことより、レティパーユに錬金術を覚えさせる機会に恵まれたことの方が所長は喜びそう。

 

 アンファミーユのそんな心境は知られぬままに、三人は東部へ向かう。 

 彼女の行きたかった場所。

 

 ──マンテイク家跡地へ。

 

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