竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第六十七話 錬金術の禁忌「重複合成獣」

 メイからもたらされる異国の技術は、そのどれもが目を瞠るものばかりであった。

 あった、が。

 

「うーん……」

「やっぱり、感じ取れませんカ?」

「自分の中の流れ、というのは、わかってきた。けれど大地の、というのが……。レティ、あなたは?」

「何もわかりません。そもそも私には肢体の感覚自体ありませんので」

 

 わからない。

 わからなかった。

 

 アンファミーユは一度レムノスに「流されて」いるから、なんとなく体内の流れはわかる。やはりあの時生体錬成だと嘯いていた技術は錬丹術だったのだとも。

 けれど、大地の流れというのが全く感じ取れない。そしてそもそも賢者の石で動いているに過ぎないレティパーユがそんなものを感じ取れるはずもなく。

 

「上司の方……レムノスさんでしたカ。その方は何か、特別なところがあったりするのでしょうカ」

「特別というよりは特異でしょうね。所長……あの人は、身体が痛みを発して動かしづらいくらいなら切り落として義肢にしてしまう、みたいな……効率的を飛び越えて、空恐ろしい考え方の人だから」

「それは恐ろしすぎませんカ!?」

 

 イーストシティへ向かう汽車の中。

 メイは汽車が止まっていようが動いていようが「大地の流れ」を感じ取れるというが、恐らく初心者にやらせるには向いていないこの汽車の中での錬丹術の手解き。それを指摘できる人間は残念ながら小旅行中で。

 

「シンには、所長の名前は届いていないの?」

「そうですネ、聞いたことはありませン。レムノス・クラクトハイト……であってましたカ? うーん、少なくとも私の所には」

「隣国三つを滅ぼした国家錬金術師、という名前は?」

「あ、それなら知ってまス。この国へ向かう際、決して不興は買うナ、ト……」

 

 一気に蒼褪めるメイに、アンファミーユは溜息を吐いた。

 無知とは恐ろしいものである。アンファミーユは特に気にせずCCMやクラクトハイト隊の名を上げていたのに、あんまりにもメイが無反応だったものだから、本当にただの旅行者なのだと信じかけていた。いや、旅行者であるのは確実だろうけれど、そういう血の気事から離れた人物なのだと。

 けれど実際は違ったようで。

 

「ア! は、はじめに言っておきますガ、私はアメストリスと敵対するつもりはないでス! 私はというか私達ハ!」

「あまり大声を出さない方が良いと思われます」

「あ、すみませン」

 

 驚きがあった。

 メイへ、ではなく、レティパーユへ、だ。

 アンファミーユは、レティパーユが他人を注意した、という事実に驚き、そして喜んでいた。

 やはり連れ出してよかった。情緒が育っているどころではない。これはそう遠くない内に、人間とそう違わなくなる。

 

「なんにせよ、もうすぐイーストシティだから。目的地についてから、またゆっくり話せばいい」

 

 プラスして、やはり。

 竜頭の錬金術師の悪名は、恐怖の対象になっているのだな、と。形ばかりではあるが夫への絶大な信用にクスリと笑うアンファミーユであった。

 

 

 *

 

 

 さて、イーストシティの駅を出て、勝手知ったる、と言った様子で歩くアンファミーユ。実は幼少の頃の記憶なんてほとんどないので全く勝手は知らないのだけど、レムノスが調べたマンテイク兄妹の足跡資料からマンテイク家の地図を抜き取って持ってきたアンファミーユに敵は無かった。

 特に問題なく地図を読める彼女は、まるでいつも通っている道であるかのように自信満々に進んで。

 

 進んで──それを見つける。

 

 イーストシティの郊外。

 

「……」

「これガミユさんの生家……その、なんといえばいいのでしょうカ」

「廃墟ですね」

 

 ばっさり。

 レティにはまだ遠慮という機能は搭載されていない。

 

 廃墟だった。跡地、といってもいいくらい廃墟だった。

 加えて真新しい破壊痕や錬成痕がある。これはレムノスが調査した痕跡だろう。

 

 そして──周囲に転がる、謎の生物の死骸。まだ分解されていない理由は、あるいはまだ外で生きている個体がいるのだろうか。

 

「ここ……流れがとても滞っていまス」

「滞るとどうなるの?」

「色々な事が起きますガ、一番の問題は土地が死ぬことですネ。アメストリスへ来る前に隣国……アエルゴでしたか。あそこの周辺を少し見てきたのですが、似たようなことが起きていましタ。アレに関しては錬丹術師の仕業でしょうガ、故意に、無理矢理に曲げられた龍脈……最悪の所業」

「熱くなるのはいいけれど、土地が死ぬとどんな問題があるの?」

「あ、すみませン。で、エエト、簡単に言うと植物が生えなくなったり、死骸がそのままになったリ、砂漠化したり……人がどう改善を試みても、大地の流れがおかしくなっている限り、その土地は再生しませン」

 

 土地が死んでいる。

 マンテイク家の周囲だけ。

 

「ですから──。む! 誰ですカ、そこにいるのハ!」

 

 感じ取る。 

 アンファミーユは戦闘者ではない。錬金術師の全てが戦闘に長けていると思ったら大間違いだ。サポートくらいはできようが、戦闘者足り得ないのはアンファミーユが一番わかっている。

 だから、わかる。

 目の前のメイが突然気配を変えたのを。今までのただの旅行者から──鋭い、ともすれば暗殺者をも思わせる雰囲気へ。

 

「ミユさん、レティさん、さがっテ! ……手練れでス!」

「参りました、した、参りましたねねね。まさかまさか、気付かれる、かれるとは。とは」

 

 既視感。

 この、壊れた人形のような口調は。

 

「カリステム?」

「ええ、ええ、ええ。ええ、お久しぶりですです、アンファミーユさん。お久しぶりです、ですといっても、この見た目では久しぶりという、という感覚はないでしょうが」

「お知り合いですカ? ──だとしたら、気を付けてくださイ。人間じゃないでス。何かされている可能性が高イ!」

 

 何かされている。

 それは、そうだろう。レムノスと共にカリステムの解剖を行った時、それは判明した。

 彼は改造人間と呼ばれる類のものだ。あるいは合成人間か。キメラの技術を用いて作られた人間らしい肉体と、誰かの脳。錬金術を使える誰かの脳を移植されたヒトガタキメラ。それがカリステムだった。

 なれば同系個体がいるのはおかしなことではない。

 おかしいのは。

 

「何故、私を知っているの?」

「おかしなことを、おかしなことをいいますね。同僚だったじゃないですか、か。共に苦楽を分かち合った仲です。そうでしょう?」

「共に苦楽を分かち合ったカリステムなら、絶対に私達の前に現れたりはしない。所長は裏切り者を許さないから」

「ええ、ですから貴女が一人の時を狙ったんですよ。邪魔者がいない時を」

 

 乾いた音だった。

 それが銃声だと気付くまでに数秒を要した。

 

 ──眼前で銃弾が止められたことにも。

 

「お、おや、おや。そういえば見覚えのない少女が、が。その腕は機械鎧? いえ、どうみても人間の……キメラ? キメラだとしても、銃弾を受け止めるなんて」

「敵対者と判断しまス! 違ってたらあとで治しまス!」

 

 結構な暴論を展開しながらクナイを投げるメイ。異国の装飾の施されたそれが、五本。

 茂みの中へ入ったと思えば──「ぎゃぁ!?」という短い悲鳴と共に、青い錬成反応が木々の間を駆け巡る。

 アンファミーユは見逃さない。茂みの中の方は見えなかったが、メイの手元にあった錬成陣はレムノスが良く使うものと酷似していた。

 だからやはり、彼の技術は錬丹術なのだ。錬丹術を汲んでいる、というべきか。

 

「レティ、麻酔針」

「申し訳ございません、ミユ。もう撃ちました」

「……よくやった、と言いたいところだけど、許可なしでの戦闘行為はやめておきなさい。所長に見られたら調整されるから」

「はい」

 

 レムノスは嫌うはずだ。

 どれほどの利益を齎すとしても、命令外の行為を行うリビンゴイドというものを。それが裏切りに繋がるから、と言って。

 

「……お二人とも、お気をつけテ。今喋っていた一人だけじゃありませン。五……いえ、十はいまス」

「そんなに? ……マンテイク家に何かある、というより、私を狙って来た、と見た方がよさそうね」

「献花も許されないとハ、非道な」

 

 そう。

 アンファミーユがマンテイク家に来たのは、調査だとか忘れ物だとか、そういう理由ではない。

 ただ花を捧げに来たのだ。顔も名前も覚えていない両親や親類に。そして兄であるオズワルドに。

 

 それだけだったのに──どうして、こう。

 

「──なんだ、それならそうと言ってくれたまえ。要らん勘繰りをしただろう。……ハボック! ブレダ! 林の中にいる何者かを無力化しろ! いいか、殺すなよ!」

 

 声は背後から聞こえた。

 

 

 

 イーストシティは東方司令部。

 そこに三人はいた。メイは緊張、アンファミーユは憮然とした態度で、レティパーユはきょろきょろ周囲を見ている。

 

「改めて。私はロイ・マスタング」

「知っています。元所長の部下で、所長に反旗を翻した人」

「い、いや、確かに決別はしたと自負しているが、別に反旗を翻したわけでは」

「助けてくださってありがとうございます。それで、何故連れてこられたのか教えていただけますか」

 

 暗に「話を早く進めろ、余計な社交辞令は省け」と圧をかけるアンファミーユに、やれやれと肩を竦めるマスタング。

 

「数日前から、イーストシティで」

「正体不明の人物たちの動きがあったと。その数日前とは所長が国を出たあたりで、そこの時点から彼らを見張っていた。あとは私達が郊外へ行くのを見て、落ちあうのかどうかを見ていた──とかそんなあたりですか?」

「う、ぐ」

「大佐ぁ、この嬢ちゃんキレ者って奴だ。もう全部ぶちまけちまったらどうですかい」

 

 どうやらそのようだ、とマスタングは居住まいを正す。

 そしてアンファミーユ、メイ、レティパーユを見回して。

 

「──レムノス・クラクトハイトが行っている所業を」

「ああ、そういう話なら帰ります。レティ、メイ。宗教勧誘ですよ、これ」

「なんト!? これだけ正式な場感を出しておいて、卑怯ナ!」

 

 そういう話であれば、受ける理由がない。

 というより何を今更、と。冷たい流し目でマスタングを見る。

 

「所長が裏切り者や内通者を許さないのは知っているはず。私達にそれになれと言うのは、つまり死ねと言っているようなものだと理解していますか?」

「だから、こちらで保護を」

「結構です。私は好きで所長の妻でいますから」

「ア、私も遠慮しまス。その所長さんの知識に用があるのデ……」

「元より私は主の所有物。主と決別したというのなら、私と決別したに同じ」

 

 取り付く島もない。

 アンファミーユからしてみればそんな恐ろしい誘いはないし、メイ、レティパーユもわざわざそちら側につくメリットがない。

 あるとすれば。

 

「わかった、わかった。もう彼の話はしない。それより、先ほど捕らえた者達について話そう。──カリステムと名乗る錬金術師集団についての情報交換を」

 

 情報──三人が知らない、この国で起きているもう一つの怪事件について、である。

 

 

 

 カリステム。

 数年前頃から現れた錬金術師の犯罪者グループ。

 初めは個人名だと思われていたそれも、組織名なのではないかと疑われているのが昨今だ。

 

「第五研究所に名が連ねられていたからね、カリステムの親玉がクラクトハイト少将なのではないかと恐れ戦いたものだよ。どうやら違ったらしいが」

「ああはい、特に何の感情もなく殺してましたから」

「想像に難くないよ。……それで、君が狙われる理由については、何も心当たりが無いんだな?」

「はい。強いて言えば所長の妻である、ということくらいでしょうか。彼の弱点としては妥当な立ち位置かと」

 

 先ほどはプライベートだったけど、今は正式な場だからちゃんと敬語を使う。

 アンファミーユは分別のつく大人である。軍属じゃない二人が隅で縮こまっているのはおいといて。

 

「そもそもの話をするなら、所長は私設部隊など持たないですよ。あの人、組織というものを信頼していないので」

「ま、そうだろうな。私もそこは疑っていない。ただ彼の()にいる人はそうではないだろう?」

「否定も肯定もしません。私は知りませんので」

「……そういうことにしておくか」

 

 レムノスの上にいる者。

 ──大総統、キング・ブラッドレイ。

 だが、国家元首が犯罪者部隊を運営しているなど笑い話にもならない。ましてや非人道的な錬金術で作られた部隊など、そんなそんな。

 

「……あの、少しいいですカ? 完全な部外者なのですけド」

「む? あぁ、構わない。どうした?」

「先ほどの敵対者……その全員から、同じ流れ、エエト、同じ匂いを感じましタ」

「同じ匂い?」

「そうですネ……あまり想像はしたくないのですけど、同じ人間から作っているというカ、ある人間のパーツを千切って分け与えているというカ……あ、ごめんなさイ、要領を得ない話デ」

 

 ふむ、と。

 アンファミーユ、マスタングは共に一瞬の思案をする。

 そして。

 

「どうせ捕らえたカリステムは全員死んだのでは? 首を捻り千切っての自死。第五研究所のカリステムもそうでした」

「……ああ、言う通りだ。先ほど拘置所から連絡が来た」

「ならば解剖を手伝わせてください。私、一応キメラの研究者なので、彼女の言うことが正しければ」

「同一人物の細胞とでもいうべきものが組み込まれている可能性が高い、か」

「はい。サンプルは多ければ多いほど助かりますね。上手く行けば、遺伝情報からそれが誰なのかを割り出すことも……まぁ、難しいですが、軍に登録された人物や元犯罪者とかならわかるかもしれません」

 

 錬金術師集団カリステム。

 今アメストリスを揺るがさんとしている組織に──ひょんなところから、牙が突き立てられようとしていた──。

 

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