竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第六十八話 錬金術の応用「残留増殖合成獣弾」

 解剖室でアンファミーユがまず疑ったもの。

 それはナノキメラだった。己が被検体とされていたものであり、あるいは肉体をも操り得ると机上の空論ながら囁かれていたもの。

 果たしてそれは、正解だった。

 捕縛され、自決したカリステム三十余名。その全員の身体に崩壊しかけたナノキメラの痕跡。自壊機能を追加されたのか、時間を空ければ空けるほど証拠が残りにくくなる仕組みだ。

 となれば、親機たるキメラがどこか近くにいるはず。アンファミーユの殺害や誘拐が目的であれば、未だ遠くには行っていない。そう考え──メイを思い出す。

 

 流れ。

 生憎と全く分かっていない龍脈とやらの方はおいておいて、キメラ・トランジスタを始めとしたキメラパーツ群は全て思念エネルギーの繋がりで動いている。

 彼女なら辿れる可能性がある、ということだ。

 

「……こんな死んでいるものじゃなく、もっと新鮮な……」

 

 ナノキメラは受信専用。自ら思念エネルギーを発せるほどの機能はない。

 これを逆探知するとしたら、「今まさに思念エネルギーを受信している状態」でなければならないだろう。となれば。

 

 

 

「ダメだ。危険すぎる」

「そうでス! 囮なんテ……」

「若いのだから、身体は大事にしなさい」

 

 レムノスに話せば一発でOKが貰えただろう話も、この過保護集団は受け入れられなかったらしい。

 簡単な話。アンファミーユが一人で出歩いて、寄って来るだろうカリステムを捕縛。自決の際に受信する思念エネルギーをメイが辿る、という最も単純で的確であると思われるもの。

 

「ミユがダメなら、私が行いましょうか?」

「待て待て待て! どうしてそう容易く命を擲つ! 他に安全な策くらいあるだろう!」

「いえ、ですから」

 

 確かにレティパーユがアンファミーユの姿となって囮になる、というのもいい。レティパーユはどの部位を破損しても関係ない──換装すればいいから──ため、もしカリステムが自爆や暴行をしてきても危険度は減る。

 ただしその場合、レティパーユがどんな存在であるかがマスタングらに割れることとなるが。

 

「なら、守ってください。マスタング隊というのは市民の女性一人守れないような存在なんですか?」

「……挑発してもムダだ。そういうのはクラクトハイト少将で慣れている」

「倫理観が効率を邪魔するのなら、そんなもの捨ててください。私達錬金術師は真っ当な倫理観と真逆を行く者。そんなものは真っ当な人間たちに任せておけばいい。違いますか?」

 

 竜頭の錬金術。焔の錬金術。紅蓮の錬金術。

 前者は使い手の問題だが、後者二つは紛う方なき倫理観をぶっ飛ばした錬金術だ。それを使っておいて、何を今更。

 

 各国で何千と殺したくせに。

 

「……まぁ、いいです。貴方達の許可を取る意味はありません。メイ、助力を願いたいです」

「え、いや、ウ……そのですね……危険すぎませんカ、流石に」

「損なくして得た成果にそれほど意味があるとは思えない。私達は犠牲の上に立っている。であれば、自身が犠牲になる可能性も考えておかなければならない」

「所長の言葉ですね。実際にはそんなこと言っていないと言われている至言十選です」

 

 似たようなことは言っていた。

 得るのだから何か損が発生する。それが周囲の誰かになるか、自身になるか、大切な人になるか。ランダムは困るからね、選ばせてもらうよ──だったか。

 だからアンファミーユも、選ぶ立場に回るのだ。

 

「メイ、安心してください。ミユは所長の作った錬成兵器を所持していますし、私は先ほど銃弾を受け止めてみせたように、特別な体を持っています。脆弱で日和見主義な人間たちよりは役に立つ自負があります」

「ですガ……。……、いいエ、わかりましタ! 私も一回目で辿れるよう神経を研ぎ澄ませまス!」

「ありがとう。レティ、貴女にはこれを」

「……承知」

 

 目の前で決まっていく作戦。

 

 それを見たマスタング達は、大きく溜息を吐いた。

 

「……わかった。だが、最大限のサポートはさせてもらうぞ。中尉、フュリー」

「はい」

「了解しました!」

 

 狙撃手と通信手を先に出す。

 焔の錬金術は良くも悪くも火力が高い。体内に仕込まれたキメラとやらをも焼き尽くしてしまいかねないため、マスタングの出番はない。代わりにハボックとブレダがアンファミーユと一定の距離を保って護衛をする。

 ファルマンは遠方から「カリステムであろう」人間──怪しい人間をピックアップしてマスタング達へ伝える係だ。

 

「作戦開始だ。アンファミーユさん、一応これを」

「無線機。いいんですか?」

「ああ。これはイーストシティの問題だからな。たとえ狙いが初めから君だったとしても、私達はこれを巻き込んでしまったものと認識する。すまない、一時私達に命を預けてくれ」

 

 アンファミーユは思う。

 成程、と。

 

 これはレムノスとソリが合わないだろうな、と。

 

「……なんだか昔を思い出すわ」

「昔?」

「ええ。私が士官学生だった頃……クラクトハイト少将を狙撃で援護したことがあったのよ。まさかその次が、少将のお嫁さんになるとは思わなかった。絶対守ってみせるから」

「はぁ。ありがとうございます?」

 

 第五研究所に来る前までのレムノスをアンファミーユは知らない。無論噂は大体知っているが、実際に見たことは無い。

 彼女──リザ・ホークアイ中尉の士官学生時代というと、時期的にドラクマだ。

 ドラクマでの戦いが最も熾烈であったと聞く。その援護射撃を担当したのなら、成程信頼は置ける。

 

「じゃあ、これを渡しておきます」

「これは?」

「残留増殖合成獣弾……対象の体内に入った後、弾丸内のキメラが活性化を始め、瞬時に、且つ爆発的に増殖します。私がカリステムの捕縛に失敗した場合にお使いください」

「……流石はクラクトハイト少将と結婚するだけはある、とだけ言っておくわ」

「はい?」

 

 さて、とにもかくにも配役はきまった。

 あとは釣り出すだけだ。

 

 

 

*

 

 

 

 マンテイク家。

 献花の為されたそこに、アンファミーユはいた。隣にレティパーユを侍らせ、家の跡地に対して黙禱する。

 

 ごそり、と茂みが動く。

 

「罠、罠、罠ですね。どう考えても、ても」

「そうね。あり得ないものね」

「ですが、がぁ、──関係がない!」

 

 問答は一瞬。

 茂みから飛び出したカリステムは、その両手に持ったサーベルでアンファミーユを害さんと。

 

 して、蜂の巣になった。

 

「──失礼。やり過ぎました」

「まだいるから平気でしょ」

 

 先ほどアンファミーユがレティパーユに渡したもの。

 それはキメラ・バッテリーで動作する小型機関銃である。反動の問題でアンファミーユには使えない代物だけど、そこはリビンゴイドの出番だ。生体パーツを使っているものの特に骨とか関係ないレティパーユなら、どんなに反動のある武器でも使い得る。

 

 ドン、と爆ぜる音。マンテイク家の裏手から響いたそれは、錬成地雷がカリステムを吹っ飛ばした音だろう。

 通常、レムノスの錬成兵器は彼自身が遅延錬成陣に込めた思念エネルギーの都合上三日しか保たない。

 そこを解決するのがキメラ・バッテリーだ。一つ一つのコストパフォーマンスが最悪な事に目を瞑れば、非常に有用なコレ。

 今回アンファミーユは、マンテイク家の至る所にそれを配置している。

 

「……威力が高すぎる。死んでないと良いけど」

「イシュヴァール戦役時のものと聞いています。捕縛ではなく殺害を目的とした地雷ですから、威力は仕方のないものかと」

「そう考えると、少しピーキーな武器ばかりを選んでしまったかも」

 

 また爆発。

 レムノスの錬成地雷は撒けば勝手に地面に潜る。初見だろうが慣れていようが、中々見つけられるものではない。

 

「捕縛どころか全員殺してしまうかも」

「そうなった場合、メイさんは流れというものを辿れるのでしょうか」

「無理、じゃない? ……仕方がないか」

 

 言って。

 アンファミーユは、ポケットから拳銃を取り出す。

 銃撃に関して彼女の腕は普通である。可もなく不可もなく。込めたるは彼女が普段「キメラ弾」と呼んでいるもの。リザに渡したものとはまた違う、キメラを用いた武器。

 

 そしてそれを、茂み──カリステムが潜伏していると思われる方へ向け。

 

「当たらない方が身のためよ」

 

 乱射、し始めた。二点バースト式の拳銃が、ダダン、ダダンと音を発して暗闇を打ち鳴らす。

 敵の数が多いのだから、こっちも数うちゃ当たる。

 それでも今の今までこの手法を取らなかったのはデメリットがあるからだ。

 

 デメリット。それは。

 

「ア──」

「グ、ガ、ギャ」

「オオオオオオ」

 

 キメラ弾。

 もう少し詳細な名前を出すなら、「簡易合成獣作成弾」と名付けられるもの。

 二点バースト式なのはペアリングだから。それぞれに刻まれた錬成陣は互いに互いを錬成し合うキメラの錬成陣。キメラの錬金術師にとっては見慣れたそれを弾丸という形にしたアンファミーユオリジナルの銃弾だ。

 残念ながらアンファミーユでは遅延錬成の仕組みを理解できていない。再現できない。

 だからこの至近距離で、これだけの数を撃ち切った。一度の発動ですべてを終わらせるために。

 

「──ミユ様、小型機関銃を掃射いたします」

「構わないけれど、それくらいじゃもう死なないと思う。──聞こえますか、大佐」

 

 無線機越しに指示を飛ばす。

 階級で見れば天と地ほどの差のあるマスタングに、アンファミーユが。

 

「今から巨大な化け物が出てくると思います。ので、手足だけ焼き払ってください」

『いいだろう。だが少しでも距離を取っておけ。万が一がある』

「はい」

 

 言われた通り距離を取る。勿論レティパーユの腕を引いて。

 

 距離を取った、その先に。

 

「つ、捕まえましたよぶぐ!?」

 

 バックステップ気味だったのが良くなかった。背後から近づいてきたカリステムに捕まってしまったのだ。捕まってしまった瞬間カリステムの頭蓋が狙撃され、吹っ飛び、解放されるに至るのだが。

 

 リザ・ホークアイ中尉。

 通称「鷹の眼」。叶うことなら、敵に回したくない相手の一人だ。

 

『申し訳ありません。一体殺しました』

『構わん。二人の命がかかっていた』

「いちゃついてないで、来ますよデカブツが」

 

 キメラ。二種類のキメラをさらにキメラにし、四種類キメラをさらに合成し……を繰り返した、肥大化した巨大キメラ。ドン、ドンという爆発音は、命からがら逃れたカリステムが地雷を踏んだ音か。

 そして──出てくる。

 木々を掻き分け、超巨大な、そしてとてもグロテスクなキメラの巨人が。

 

 出てきて、出てきた瞬間焼き焦がされた。

 焔の錬金術。最高最強の錬金術。

 

「捕縛します。レティ」

「はい」

 

 マンテイク家の水道。そこに先ほど描いた錬成陣を発動し、水道管をワイヤーに錬成する。

 それで巻く。シンプルに、アナログに。巨人の身体をぐるぐる巻いて──。

 

「捉えましタ!」

 

 というメイの声と共に、巨人キメラの頭部が爆散した。

 

 アンファミーユとレティパーユが血の海を被る──。

 

 

 *

 

 

 さて、メイの逆探知から、親機のある場所は割り出せた。

 地図を開いて見せれば、メイはそこを指さす。

 

「一般邸宅……いや、確かここは、綴命の錬金術師の家じゃなかったか?」

「あぁ、そういや最近国家錬金術師になったっていう」

「ていめい?」

「人語を話すキメラで国家資格を取った、ショウ・タッカー氏が住んでいますね」

 

 そんなことで国家資格が取れるのか。

 アンファミーユにしてみれば、人語を話すキメラなどいくらでも作れるものだから、逆に気になる。どこにそんな特異性を見出されたのか、と。

 

「なんにせよ、親玉のいるらしい場所だ。──心してかかれよ」

 

 もし。

 もしも、動物と動物の掛け合わせで人語を話すキメラを作ったというのなら、それはフェイクだ。キメラ化したところで知能が下がることはあっても上がることは無い。況してや元より人語を知らぬ動物同士を掛け合わせたところで、いきなり人語を覚えるはずもない。

 つまるところ、材料は人間だろう。

 そのことに憤りを覚えるほどアンファミーユは自身の棚上げを行っていないし、そもそもその程度に怒るような神経は持ち合わせていない。

 

「問題は、私に何の用なのか」

「そうだな。だから件のショウ・タッカーは決して殺すな。いいな?」

「ハッ!」

 

 さて、今アメストリスを揺るがしつつあるカリステムなる錬金術師集団。

 その親玉は、果たして本当にショウ・タッカーなのか、それとも──?

 

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