竜頭の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第七十二話 錬金術の小技「地蛛巣錬成陣」

 ところで、僕は以前綺麗な円を描けなくて苦戦していたことがあると思う。ちなみに今でも三つ指か足で描くかでないと綺麗な円は描けない。

 だから、一応今でも色々な代替案を練っていたりする。

 その成果の一つがコレ。

 

「筒……ですか」

「筒、か」

「うん。筒」

 

 大きさはトイレットペーパーの芯の四倍くらいかな。金属製で、中には。

 

「ふむ。何か糸状のものが張り巡らされていますね。工芸品の類、万華鏡……のようなものを少将が作るとは思えませんので、答えを」

「まさかこれは、地面に差し込んで使うものか?」

「む」

「おお、マルコーさん大正解」

 

 この金属筒は、外側に描かれた目盛りに従って地面に突きさすことで、その目盛りと同じ深度に錬成陣が描かれる。いわばプリセット錬成陣みたいなものだ。

 円は当然筒がその役割を果たし、複雑な陣はあらかじめ描かれているから、長さを変えれば疑似サンチェゴにだってできる。まぁ長大も長大になるけど。

 

 弱点は巨大な記号を置けない、ということ。

 巨大な記号があると、その上の段に土が浸透しなくなる。それだと錬成エネルギーの伝達が遅くなってしまう。

 逆に言えば線のみで構成されたシンプルな陣の寄せ集めであれば、この水筒くらいのサイズ感で三十個ほどの錬成陣を組み込めるわけだ。

 

「これは……しかし、地面が柔らかい土や雪でないと使えないんじゃないか?」

「それも正解。硬い地面に潜らせるくらいなら描いた方が早い。だから普段は使ってない感じかな。初心者用、みたいな」

「……だが、膨大な数の初心者を用いる作戦であれば」

「そう、とっても有効になる。特にこの辺……舗装されていない地面を担当するリビンゴイド達にはね」

 

 マルコーさん。

 もうキョドったような、おどおどした口調は抜けている。それでいて柔軟な頭脳と想像以上の知識量に、戦闘面では全く役に立たないにもかかわらず僕と話が盛り上がるものだから、キンブリーの視線が強い。いやぁ、モテモテだね僕。

 無論全く役に立たないとは言ったけど、僕とキンブリーに比べたら、の話であって、錬成陣を描く速度も意味の持たせ方も人並み以上だ。ちゃんと天才だよ、この人も。

 

「それで、今ここでそんなものを持ち出した意味はなんです?」

「マルコーさんには知っておいて欲しかったんだよ。ほら、注射針ってあるでしょ? もしあの針に錬成陣を仕込めたら」

「……錬成陣の大きさ的に大規模なことはできないが、だからこそ……ドーピングや毒薬、その他血液や筋肉に関する病、怪我へのアプローチが可能となる!」

「ドーピング。成程」

 

 ただキンブリーもキンブリーで勤勉な上に頭が良いので、僕の話を聞いての連想ゲームがコントラストになっている。つまり、キンブリーはワルイコトを、マルコーさんはイイコトを考えてくれるわけだ。

 

「筒を円に見立てる、というのは中々優れた発想だ。……クラクトハイト少将、アメストリスに帰ったらすぐにこれを発表した方が良い。どうして今までの錬金術師が思いつかなかったのか……こんな簡単で、誰にでもできることを」

「発表はしないよ。今の一瞬で可能性はいくらでも見えたでしょ。キンブリーは、悪用も。査定に出すのは悪用されない程度の発想でなければいけない。だから多分、今までの錬金術史の中でも思いついた錬金術師はいるんだろうけど、悪用を考えて自らの内に潜めたんじゃないかな」

「……ふぅ。まったく、少将はやっていることと言っていることがちぐはぐ過ぎて疲れる……。今こうして各国に悪魔の錬成陣を刻んでいるというのに、口では犯罪者を生まないための言葉を吐く。どっちが本当の少将なのかね?」

「アメストリスから犯罪者が出たら、僕はそのアメストリス人を殺さないといけなくなるからね。人口は減らない方がいいでしょ?」

「……キンブリー大佐。これは私がおかしいのだろうか」

「いえいえ、マルコー大佐が今抱いた気持ちは間違っていませんよ」

「そうか……君も大変だな」

「そういうものである、と思って付き合えば、これほど面白い方もいませんから」

 

 悪口を言われている気がする。

 この二人もよくわからないんだよね。仲が良いんだか悪いんだか。

 一応ヒーラー……キンブリーや僕が戦闘で怪我をした時は真っ先に治してくれるから、キンブリーも彼への悪感情は持っていないと思うんだけど、彼の信念である「医者は医者の仕事を、戦士は戦士の仕事をしているだけ」みたいなのに当てはめられていたら良感情もなさそうだし。

 僕としてはこの二人にギスってほしくない。面倒だから。

 だって今、三人でこんな危ない国外をほっつき歩いてるんだよ? 結束力合った方がいいじゃん。

 

「えい」

「っ!?」

「あ、片足しか持っていけなかった」

「だから、何度も言っていますが、あなたは精度が悪いのですから、見つけたら私に教えてくださいと……」

「ギャァ!?」

 

 こうして雑談をしている最中にも敵は来る。

 遮蔽物に隠れていようが関係ない。一向に体感できない龍脈に対し、ヤオ家の言っていた「氣」というものはもうほとんどモノにできた。人体には人体の流れがあり、それがその辺を移動しているから、一度気付けば違和感MAXだった。

 というわけでこのパーティにおける感知タイプとなった僕だけど、僕ほら、ちょっとせっかち気味だから、自分で対処しようとするんだよね。具体的には遠隔錬成で。

 でも僕の遠隔錬成ってサンチェゴ四基を使わない限りは鉛玉五つを投げる必要があって、当然そんなことされたら相手は気付いちゃって、僕が分解だのスパイクだのの錬成をしている間に逃げられちゃって──反撃に出てこようとするやつをキンブリーが爆破する、ってことがもう何度も何度もあった。

 

 いやぁ、さ。

 監視対象がいきなり仲間に耳打ちしたら、自分がバレてるって思うでしょ。そうなったら殺し難いんだよ。大抵脱兎の如く逃げるから。

 マスタング大佐やアームストロング中佐と違って僕らには長距離射程が無い。賢者の石使えばキンブリーがそれを行えるんだけど、流石にこうも何百と襲い掛かってくる敵に使ってたら勿体ない。プラスして、「賢者の石ばかり使っていると基礎力が落ちそうですし」とはキンブリー談。

 

 そんなわけで相手が射程圏内に入ったら一気に仕留める、が僕ら流なんだけど、当然キンブリーに流れとか氣とかわかんないわけで。

 

「何か符牒でも作りますか」

「ハンドサインとか?」

「監視対象が突然変な手の動きをしたら何かの符牒だとわかると思うんだが……」

「……そういうのであれば、マルコー大佐。アナタが何か考えてください」

「ふむ……歩幅などはどうだろうか。どうせ殺すのであれば共有はされないという前提を置いて、歩幅を変える、あるいは少し突っかかる……伸びをする、というような大きな動作まで行くとわかりやすすぎるから、普通にしていてもおかしくないものを符牒とするべきだろう」

 

 有能。

 これにはキンブリーも肩をすくめざるを得ない。この人基本的には善人だから賢石錬成とかに対しては酷く怯えた態度を取るんだけど、僕らの命がかかっていることに対しては親身且つ理想的な答えをくれる。いやホント、性格矯正とか受けたら? 勇猛果敢になれば英雄もメじゃないよ?

 

「まぁでも、そういうのが要らない場合もあるよね」

 

 ダン、と踏みつけるのは一枚の布。

 せり上がる円形の壁。周囲からわらわらと慌てて出てくる何者か達に。

 

「そろそろ諦めたらいいのに、とは思うけど、情報持ち帰れないからね。そりゃ来るよね」

 

 全てが赤い石となり果てた。

 

 

 

 こんな感じでアエルゴ、そしてクレタも終わらせた。一個の国につき一か月かかる予定だったんだけど、思いのほか順調に事が進んだのが大きい。あと良い車GETしたのも大きい。相変わらず僕の運転だけど、子供のころと違ってちゃんと身長のある僕だ。二人は嫌がらなかった。

 ……諦めていた、という風にも見えたけど。

 

 で、問題は。

 

「ふぅ……もうそろ、寒くなって来たな」

「どうしようかなぁとは思ってるんだよね。こっちからドラクマに入るのはいいとして、刻んだあと引き返してブリッグズから入った方が移動が楽でさ」

「その場合あの少将と顔を合わせることになりますが」

「そうなんだよねぇ……」

 

 ドラクマ。

 人がいなくなろうが関係なく極寒のドラクマ。なんなら雪をどうにかする人間がいなくなっちゃったから、もう積もりに積もって大変だ。まぁキンブリーが爆破するんだけど。

 

 ドラクマには二つ錬成陣を刻む予定がある。国土が広いからね。

 だから、クレタから入って一つを、一旦クレタに帰り、アメストリス西部、北部と通ってブリッグズからもう一つを、というルートを辿った方が色々面倒が少ない。歩きやすさと、敵の少なさで。

 ただしそのルートを取る場合、どーやってもアームストロング少将と会わなきゃいけない。

 彼女は僕がやっていることの大体を理解している……気がする。幸いなのは彼女に錬金術の知識がないことだけど、非道をやっているのはわかっているだろう。

 

 最悪、今度こそ全面衝突もあり得る。

 大総統令の紙持ってきてるけど目の前で破られたりしかねないし。それで命令違反ダー! ってなったとして、じゃあブリッグズ全員がアメストリスの敵に回ったら、とか考えたらそれこそ恐ろしい。ブリッグズはブリッグズでほとんど独立しているから、本当に一国家として立ち回れちゃうんだよね。

 国家錬金術師を投入した……として、ホントのホントにあり得ない話なんだけど、三分の一くらいが持っていかれる可能性がある。それくらいの戦力が揃っている。

 

 そこにもし他国が目をつけたら。

 

 ……リスクヘッジリスクヘッジ。

 だけどなぁ、クレタから入ってそのまま二個刻んだとして、じゃあ帰りどうするかって話で。

 ブリッグズが嫌なら、他の場所からアメストリスに帰らないといけない。あの山脈を錬金術なんなりで越えて……ってそれこそ賢者の石の無駄遣いが目に見える。

 

 うーん。

 

「案なら、あるが……それが良いことであるかはわからない」

「え、なになに。大体採用するよ僕頭の柔らかい上司だから」

「……べ……別に、ドラクマの脅威はなくなったのだから、この山脈に穴を穿ってしまっても問題はないのではないか? いずれアメストリスの領土として使うことを考えれば、交通の便は多い方が良い……」

 

 ふむ。

 ふむ。

 

「まぁ、いいんじゃないですか。山を破壊してはいけない、とは言われていませんし」

「いいね! ブリッグズ砦から凄まじい反感を買いそうだけど、直で顔を突き合わせるよりよっぽどいい案に聞こえる」

「……あまり思いついたことを簡単に口走らない方がいい気がしてきたぞ……」

 

 マルコーさん。 

 それ正解。

 

 

*

 

 

 カリステムの事件収束の報せを受けて、ようやく、と一息を吐いていたマスタングのもとに訪客があった。ある二人――以前、とあることをきっかけに仲良くなった錬金術師兄弟である。

 

「ひっさしぶりだなぁ大佐!」

「お久しぶりです、マスタング大佐」

「ああ、よく来たな二人とも」

 

 聞けば国家資格を取ったらしい二人。二人が二人とも国家錬金術師になったとはにかんで銀時計を見せてきた。

 ただ、推薦者が。

 

「……クラクトハイト少将か」

「あぁまぁそうだけどさ、あの人大佐が言ってたようなヤベー奴って感じじゃなかったぜ? 確かにどっかズレてる感はあったけどさ」

「戦争経験者、という雰囲気もありませんでした。どちらかというと研究メインのような」

「だから、なのだよエルリック兄弟。あの人は、戦争経験者なら誰しもがなる"人殺しの目つき"をしていない。あれだけ多くを殺したにも拘わらず、だ」

 

 少しだけ静かになる東方司令部。

 それを断ち切ったのは、エドワードだった。

 

「あ、それよりさ。大佐。聞きてえことがあってここまで来たんだ」

「む、なんだ。私に答えられることならば答えるが」

「ボクたち、クラクトハイト少将に招かれて、第五研究所に行ったんです。CCMはご存知ですか?」

「無論だ。あの人にしては珍しくまともな博物館。犯罪博物館だったか。アレは愛国心を煽るにはちょうどい……いや、なんでもない。それで、第五研究所は、確かCCMの地下にあるのだったか」

「おう。そこで、クラクトハイト少将の研究成果を見せてもらった」

 

 クラクトハイトの研究成果。

 マスタングの脳裏に浮かぶのは、あの巨大な機械時計と──ワームの口と揶揄されていた、赤い紅い錬金術。

 まさかそれか、と。

 

「そこで、生体人形(リビンゴイド)というものを見せてもらったんです」

「リビンゴイド?」

「ああ。ほら、おとぎ話でホムンクルスっつーのがあるだろ? まだ実現出来てねぇ錬金術の一つ」

「人造人間か。まぁ確かにおとぎ話だな。現実味が無さすぎる」

「それの未完成品を見せてもらいました。触った感じも喋ってみた感じも人間そっくりで」

「……一応言っておくが、ヒトを作るのは国が禁じている。それは理解しているな、二人とも」

「そりゃ勿論わかってるよ。オレ達が大佐に聞きたいのはその作り方じゃなくて」

 

 ――動力がなんなのか、だ。

 

「動力……心臓、ではないのか」

「心臓部分も換装可能だったのに動いてた。出来る限り観察したんだけど、どーにもわかんねぇ。そんで、あの人の研究日誌も見せてもらったんだけど」

「大盤振る舞いだな」

「こりゃダミーだってわかったよ。普通の事しか書いてない。いや、実際すげぇ発見がいっぱいあったんだけどさ、大佐が言うヤベー奴の書く研究日誌じゃない。絶対本物がどっかにある。だから」

「聞きに来たんです。大佐が見たクラクトハイト少将の錬金術について。そして──恐らくそこに隠された"真実"を」

 

 明るく、軽く話している。

 話そうと努めている。

 けれど、何かに気付いている。この兄弟は。

 

「教えてくれよ大佐。──アンタら、隣国で何やって来たんだ?」

 

 ただ父親を探すだけの兄弟ではないのだと、マスタングは、今になってようやく気付いたのだった。

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