竜頭の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
「行方不明?」
それはマルコーさんを中央司令部に返し、第五研究所へ久方ぶりの帰還を果たした僕に入って来た情報の一つ。
カリステム事件をはじめとしたこまごまとしたなんやかんやがあったらしいけど、なんかアメストリスって感じ。非人道的な事件には事欠かない。錬金術がある分どこぞの犯罪都市より大規模に人が死んでいくアメストリスにおける、日常茶飯事のようなもの。
それを経て、レティパーユの情緒が急激に成長しただとか、メイ・チャンとの邂逅とか、僕的には面白いニュースがたくさんあった。
けれどこれは格別に──面白い、というより理解不能な事件。
「ヒューズ君、もといヒューズ中佐とアームストロング中佐が、ねぇ」
「面識があったんですか?」
「アエルゴ侵略の時にね。彼、まだ士官学生だったから、あっちがこっちを覚えてるとは限らないけど」
軍法会議所で起きた爆発事件以来、マース・ヒューズ中佐とアレックス・ルイ・アームストロング中佐が行方不明である、と。
会議所内部に遺体はなく、その後の足取りは全くの不明。爆発事件自体は「何者かが爆発物を放り込んだ」で終わり。その何者かも不明。ただ二人の人柄の良さを軍内部の誰もが知っていたから容疑者候補には上がっていない。
爆発物といえばキンブリーだけど、彼は僕と一緒にいたというあまりにも完璧なアリバイがあるし、彼別に爆発が最も良い
ふむ。
既に原作というものは崩壊しているに等しいけれど、まぁ時期的には……いやまだ1913年だから一年早いけど、月日で見れば大体この辺な気がしないでもない。
……そこの整合性とか、別に要らないか。イシュヴァール戦役が一年で終わってる時点で全部おじゃんだろうし。
さてこの情報を聞いて気になるのはマスタング大佐の精神面と……アームストロング中佐の安否かな。
アームストロング中佐は精神的支柱としてとても役に立つ存在だ。彼自身が折れやすい点が玉に瑕だけど、理性的で理知的で善良で強い。作中で何度エド達を助けた事か。
その彼が行方不明となると、流石の僕も暇な時間を割こうという気にはなれる。クラクトハイト隊の仲間だしね。
「それで、アンファミーユ。『第二号』と『第三号』の様子は?」
「二号は順調、三号は微妙。レティパーユのように私が直々に見ているわけじゃないから、というのもあるとは思いますけど……」
「これは……取り出した魂に恵まれた、と考えるのが妥当かなぁ」
原作終盤の白人形もそうだけど、一人分の賢者の石で生まれた赤子が如き彼らにも個というものがあり、それらは基本食欲という形で表されたけれど、食べ方自体にも個性が見え隠れしていた。
リビンゴイドに宿る魂というのはその核となった賢者の石に宿っていた誰かである、と僕は考えていて、けれどその誰かを狙って抽出するというのは至難、というか多分無理であるとも考えている。
レティパーユは運良く理性的で苦痛をあまり苦痛と思わない魂の抽出ができただけで、『第二号』、『第三号』……とりわけ『第三号』は下振れた、ってわけだね。
よし、そんなものにリソースを割いている暇はない。
「破棄しよう。『第三号』」
「作り直し、ですか?」
「それも良いんだけど、ちょっと実験してみたいことがあってね。核となるユニットは僕が作るから、アンファミーユは生体パーツ一式をお願い。男性型で、近接戦闘……それも殴る蹴るを多用するタイプ」
「もう構想はできてるってことですか。わかりました。他に何かご要望は?」
「無いけど、できればあんまり目立たない顔にしてほしいかな。ほら、レティパーユの顔換装パーツはどれもこれも、"お人形さんみたい"な顔じゃん? 生体人形だから正しくお人形さんなんだけど、もう少し目立たない普通めのやつにしてほしい」
「……趣味全開に過ぎましたか」
「ああやっぱり君の趣味だったんだ」
アンファミーユは意外と凝り性だ。意外とというか、キメラの研究者のくせしてネイルしてたりそのネイルもめちゃくちゃ細かくやってたり、化粧だの御洒落だのに凄まじく気を遣う……ま、所謂年頃の女の子をしている。
そんな彼女だから、レティパーユの頭部パーツはどれもこれも美少女や美女ばかり。西洋人形系でありながらアメストリスの多民族性に合わせたものを各種取り揃えているらしく、僕が旅行に出た時は十に満たなかった換装パーツが五十を超えていた。怖いよちょっと。
実験体にそこまでの情を注いでどうするんだって気持ちもあるけれど、それが彼女の娯楽であるというのなら止めはしない。ただ整い過ぎているのは目立つからやめてってそれだけの話。
「『第三号』がいるのは」
「B-407です」
「あれ、移したの?」
「400から406は壁を取り払ってスライサー兄弟の稽古場にしてあります」
「あ、第三研究所が無くなって修行相手がいなくなったからか」
「はい。毎日飛んだり跳ねたりしてるみたいで」
スライサー兄弟ね。
アレ以上強くなることは無いと思って送り出した彼だけど、フツーにアレ以上強くなってたのにはびっくりした。カリステム事件で金歯医者と成り損ないたちが死んだ、ってことも。彼人柱として使えると思ってたんだけどなぁ。
「んじゃパーツ、お願いね」
「はい」
それじゃ、お久しぶりの実験タイムだ。
……お父様の所へ行こうとしたら、まだプライドの膜が張られていた。そんでもって近づいたらギロリと目と口が来て、「まだ父は実験中です。父の集中を乱すというつもりなら、食べますよ」とか言われたので行けていない。
まぁ、まぁまぁ。
僕もちょっとお父様とベタベタし過ぎたから、久方ぶりの家族団欒を楽しむと良いよ、って感じで。
ピリオドを鼻歌で歌いながら地下へ降りる。
外部の者を入れることのないこの区画は、降りれば降りるほど血の臭いが濃くなる。実験動物や実験体が自死したか、共食いでもしたか、掃除役とかそれこそリビンゴイドにやらせたいんだけどなぁ、とか。
そんなことを考えながら廊下を進む。
殺気。ま、殺気だ。
僕に向かう殺気──。
「そんなに早く使って欲しいなら、言えばいいのに、口でさ」
も、すぐに止む。
実験動物である程度知性があればそりゃ研究者に殺意を持つよ。お世話をしてくれている存在、じゃなく、これから自身を酷い目に遭わせる悪魔、なんだからさ。
アンファミーユの言う通り400から406はぶち抜かれているらしく、中から激しい戦闘音が聞こえる。誰と、というか何と戦っているんだろう。廃棄予定のキメラとかなのかな。その辺の管理全部アンファミーユに投げてるから知らないんだよね。
「っと」
辿り着く。
B-407。地下牢獄の七番目、別名『イリスのお仕置き部屋』。名前の通り、かつてイリスが実験体にナニカをするときに使っていた部屋。容易に想像できるナニカではなくもっともっと凄惨なナニカであることは言うまでもない。
重厚な扉を開けて入ると、そこにはガッチガチに拘束された生体人形が一つ。まだ一人、と呼べるほどの知性を持っていないから、まぁ譲歩するにしても一匹だ。
「やぁ、『第三号』。今日は君にプレゼントを持ってきたよ」
話しかけると、金切り声を上げる『第三号』。白人形にも似たその声は、けれど核である賢者の石から発されている。
ちなみにレティパーユも同じなんだけど、伝声管の要領で頭部パーツから声が出るような仕組みになっているとかどうでもいい話。
「ほら、君より強い意識の塊だ。これを君に埋め込むとしよう。──君の意識が残るかどうかは君次第だから、頑張って」
そのバッテリーユニットに、そのまま持ってきた賢者の石を突っ込む。
「……!? ──、──!!」
「どうかな。抑え込めそう?」
「──!!」
「無理か、やっぱ」
一歩、離れる。
直後斬撃が来た。鎖も手錠も引き千切り、唸り声を産声とする。
そして。
「──あのよぉ、お前さん、賢者の石を扱い慣れ過ぎてねぇ?」
「これと一緒に成長してきたようなものだからね」
「ケッ、そりゃ大層な添え木なこって」
そこにいたのは、生体パーツを
残念ながら『第三号』クンはあまりにもあっさり食べられてしまったようだ。リン・ヤオみたいな共存は無理だったと。
「気分はどうかな、グリード」
「ウゼぇ……が、ずっと動けねえよりマシだ」
「それは良かった。それで、どうかな。──再生できないでしょ」
「だからウゼェつってんだよ。動けるのに再生できねぇ。自由自在に操れる、硬化もできる……だがこれは俺様の身体じゃねえ」
「
賢石剣鎧で彼の右腕をもぎ取る。
「何すんだテメ……あん?」
「痛くない。そうでしょ」
「ああ……片腕もぎ取られたところでのたうち回る程痛みに慣れちゃいねえってワケじゃねえが、一切感じないってことはなかったはずだ」
「その身体は君の意のままに動く。硬化も使える。だけど、決して君の賢者の石によって作り出された肉体ではない。だからダメージを負っても再生しない代わりに賢者の石を消費しない。そして君は最強の盾を持っているから」
「ダメージも負わない上に何されたって消耗しないと。……がっはっは、なんだ、俺様に永遠の命でも与えたかったのか?」
「デメリットは勿論ある。今みたいに腕をもがれたら、そのままだ。換装パーツがないと再生できないわけだから、片腕のままになる。ホムンクルスの時のようには行かない」
「もがれなきゃいい話じゃねぇか」
「そう、それだけの話。どうかな、グリード。──僕の部下になってほしいんだけど」
「やなこっ……」
そのお願いに、グリードは拒絶を返そうとして。
がくんと、あるいはバタンと倒れる。
「当然だけど、君の賢者の石と生体パーツの間には僕の思念エネルギーという隔たりが存在する。消費を考えて普段は最低限にしているから君も自由自在に動けるけど、こうやって思念エネルギーを強く詰め込めば隔たりは大きくなって君の核と生体パーツとの繋がりも途切れる」
「テ、メェ……脅し、じゃねぇ、か……!」
「勿論そうだよ。強欲相手に取引とか、全部断られるに決まってるじゃん。だって君は世界の全てが欲しいわけだし。だからほら、交換条件だよ。そうやってバッテリーユニットの中で何もできずに世界の変容を見届けるか、僕の下について世界の変貌を目の当たりにするか。どっちがいい?」
「……世界の、変貌ってのはなんだ」
「文字通り、言葉通りさ。僕とお父様が協力開発で進めているビッグイベント。そうだな、他人の言葉を借りるのは心苦しいんだけど、つまりは"チェス盤をひっくり返す"って奴だ」
沈黙が降りる。
ま、一朝一夕に決め切れることじゃないのは知っている。グリードはホムンクルス達の中でも最も人間に近い感情の持ち主だし。
僕とキンブリーがクセルクセスに行って帰ってくるまでに決めておいてくれたらそれでいい。
「じゃ、考えておいて。──楽しい結果を望んでいるけどね」
「待てよ」
おや。
「いいぜ、アンタの下についてやる。だがその前に一個聞かせな」
「デビルズネストのこと?」
「ああ、そうだ。俺の仲間はどうした。返答によっちゃあ」
「別に。あの辺ぶっ壊しちゃったから修繕費を南部に投げて、それきりかな。僕が欲しかったのは君だけなんだよ。デビルズネストのキメラとか心の底からどうでもいい。ああ、アレだよ? 僕がやりたいことやるまで全然暇だから、全然全然、デビルズネストに帰って仲間とがっはっは、も別にいいよ?」
「……顔が違ぇだろ、もう」
「作れる作れる。誰の顔だって簡単だよ。そろそろ造形師とでも名乗っていいくらいの生体錬成に長けた錬金術師がいるからさ。その子が生体パーツ各種を作っているんだけど。写真とかあったらさらに作りやすいよ」
作れる作れるとは言ったけど、作れるかどうかは知らない。
初期グリードの顔立ちがアンファミーユの趣味に合えば綺麗に作ってくれるんじゃない?
「じゃ、契約成立だ。アンタは俺を自由にする。俺はアンタからの命令があるまで自由にする。命令にゃちゃんと従う。これでいいな?」
「うん。あと部下になって、っていったけど真実部下ってわけじゃなくていいよ。同盟結んで、の方が君的には頷きやすかったかな」
「その辺はもうどうでもいい。今更だろ」
「そうだね。じゃあ」
背を向けて。
思念エネルギーを減らし、動けるようになったグリードの斬撃を賢者の石でガードして、手を振る。
うん。
やっぱり裏切り者の極致だよね、彼。